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講義4:【人権総論】幸福追求権と新しい人権|プライバシー権・肖像権の判例を完全解説

憲法には「表現の自由」や「信教の自由」など様々な権利が書かれていますが、社会の変化に伴い、憲法制定時には想定されていなかった新しい問題(プライバシー侵害や肖像権の問題など)が出てきました。

こうした憲法に明文の規定がない権利を保障する根拠となるのが、憲法13条の「幸福追求権」です。

行政書士試験では、この13条を根拠とする「新しい人権」に関する判例が非常によく出題されます。「警察に勝手に写真を撮られた」「前科をバラされた」「輸血を拒否した」といった具体的な事件を通じて、裁判所がどのような基準で人権侵害を判断したのかを学ぶことが重要です。

今回は、幸福追求権の意味と、そこから派生するプライバシー権、肖像権、自己決定権について、重要判例を整理して解説します。

1. 幸福追求権(憲法13条)の意味

憲法13条は、「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」は、国政の上で最大の尊重を必要とすると定めています。これを幸福追求権と呼びます。

この条文は、個別の条文(14条以下の人権カタログ)に書かれていない権利であっても、「新しい人権」として保障するための根拠条文として機能します(包括的基本権)。

💡 学説の対立(参考)

13条で保障される権利の範囲については、以下の2つの考え方があります。

  • 一般的行為自由説:あらゆる行為の自由を広く保障する。
  • 人格的利益説(通説):個人の人格的生存に不可欠な利益に限って保障する。

判例は、比較的広く自由を認める傾向にありますが、試験対策としては「13条を根拠に新しい人権が認められる」という結論を押さえておけば十分です。

2. プライバシー権と肖像権

(1) プライバシー権の定義と変遷

プライバシー権の意味は、時代とともに変化しています。

  • 伝統的定義:「私生活をみだりに公開されない権利」(一人にしておいてもらう権利)。
    ※著名な「宴のあと」事件(東京地判昭39.9.28)で示されました。
  • 現代的定義:「自己に関する情報をコントロールする権利」。
    ※高度情報化社会において、自分のデータがどう扱われるかを管理する側面が重視されています。

(2) 肖像権の重要判例(京都府学連事件)

警察官がデモ行進中の個人を無断で撮影することは許されるのでしょうか? 肖像権に関する最大判例です。

判例名 事案 判旨(ポイント)
京都府学連事件
(最大判昭44.12.24)
デモ行進中の学生を警察官が無断で写真撮影した。 【権利性】
何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由を有する(憲法13条)。

【合憲性の基準】
しかし、公共の福祉による制限を受ける。以下の3要件を満たす場合は、撮影も許容される(合憲)。
1. 現に犯罪が行われ、または行われた直後であること。
2. 証拠保全の必要性・緊急性があること。
3. 相当な方法(一般的許容限度を超えない)であること。
💡 関連判例:オービス(自動速度取締機)

速度違反車両を自動撮影するオービスについては、「現に犯罪が行われている場合」であり、「緊急性・必要性」もあり、「相当な方法」であるとして、運転手の容貌を撮影することも合憲とされています(最判昭61.2.14)。また、同乗者が写り込んでしまっても合憲です。

(3) 前科・指紋・住基ネットに関する判例

判例名 論点 結論
前科照会事件
(最判昭56.4.14)
市区町村長が弁護士会からの照会に対し、漫然と前科全科を報告した。 違法(損害賠償)
前科等をみだりに公開されない利益は法的保護に値する。公権力の違法な行使にあたる。
ノンフィクション「逆転」事件
(最判平6.2.8)
実名小説で前科を公表された。 違法(損害賠償)
公表されない利益が、公表する意義(表現の自由)を上回る場合はプライバシー侵害となる(比較衡量)。
指紋押捺拒否事件
(最判平7.12.15)
外国人が外国人登録法の指紋押捺を拒否。 合憲
「みだりに指紋を強制されない自由」は13条で保障され、外国人にも及ぶ。しかし、人物特定のための合理的・必要性がある制度なので合憲。
住基ネット訴訟
(最判平20.3.6)
住民基本台帳ネットワークはプライバシー侵害か。 合憲
氏名・住所・生年月日・性別の4情報は、秘匿性の高い情報とはいえず、システム上の保護措置もあるため、13条に違反しない。

3. 自己決定権

個人の人格的生存に関わる重要な私的事項については、公権力から干渉されず、自分で決定できるという権利です。

エホバの証人輸血拒否事件

自己決定権に関する最も重要な判例です。

  • 事案:宗教上の信念から輸血を拒否していた患者に対し、医師が「輸血しないと死ぬ」という状況で、無断で輸血をして手術を行った。
  • 判旨
    • 患者が宗教上の信念から輸血を拒否する意思決定をする権利は、「人格権」の一内容として尊重されなければならない。
    • 医師が輸血の可能性を説明せず手術を行ったことは、患者の「決定権」を奪ったものであり、人格権の侵害にあたる。
    • 結論:医師(病院側)に損害賠償責任あり
💡 注意点

この判決は「輸血拒否によって死ぬ権利」まで認めたわけではありません。「自分の生き方を自分で決めるプロセス(意思決定)」を医師が無視した手続き上の不備を違法としました。


4. 実戦問題にチャレンジ

問1:肖像権(京都府学連事件)
警察官による個人の容ぼう等の撮影に関する最高裁判所の判例の趣旨として、妥当なものはどれか。

1. 個人の容ぼう等をみだりに撮影されない自由は、憲法13条によって保障されるものであり、警察官が正当な理由なく個人を撮影することは許されないが、これは「肖像権」という法的権利として確立されたものではない。
2. 警察官による写真撮影が適法とされるためには、現に犯罪が行われている場合に限られず、犯罪が行われる蓋然性が高いと認められる場合であれば、証拠保全の必要性がなくても許容される。
3. 警察官が犯罪捜査の必要上写真撮影を行う場合、その対象は被疑者本人に限られるべきであり、第三者である個人の容ぼう等が含まれるような撮影は、いかなる事情があっても許されない。
4. 警察官による個人の容ぼう等の撮影が憲法13条に違反しないためには、現に犯罪が行われもしくは行われた直後であり、証拠保全の必要性・緊急性があり、かつ相当な方法で行われる必要がある。
5. 自動速度監視装置(オービス)による運転者の撮影は、現に犯罪が行われている場合になされるものであるが、同乗者の容ぼうまで撮影してしまうことは、同乗者のプライバシーを侵害し、憲法13条に違反する。
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正解 4

解説:

1. 誤り。最高裁は「これを肖像権と称するかどうかは別として」としつつ、憲法13条の保障が及ぶとしています。

2. 誤り。撮影が許容されるには「現に犯罪が行われ(または直後)」という要件が必要です。単なる蓋然性だけでは足りません。

3. 誤り。判例は、被写体の近くにいたために除外できない状況にある「第三者」が含まれても許容されるとしています。

4. 正しい。京都府学連事件が示した3要件(①現行犯性、②必要性・緊急性、③相当性)です。

5. 誤り。オービスによる撮影は、同乗者が写り込んだとしても、除外できない状況にある以上、憲法13条に違反しないとされています。

問2:プライバシー権と自己決定権
プライバシー権および自己決定権に関する最高裁判所の判例の趣旨として、誤っているものはどれか。

1. 前科および犯罪経歴は、人の名誉・信用に直接関わる事項であり、前科等のある者もこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有する。
2. 宗教上の教義に基づき輸血を拒否する意思を明確に持っている患者に対し、医師がその意思を無視して輸血を行うことは、患者が自らの人生のあり方を決定する権利(人格権)を侵害するものであり、不法行為となる。
3. 指紋押捺制度は、外国人の生活上の不利益を伴うものであるが、みだりに指紋を強制されない自由は、わが国に在留する外国人には保障されないため、憲法13条の問題とはならない。
4. 住民基本台帳ネットワークシステムにより、氏名・住所・性別・生年月日の4情報が行政機関の間で共有されることは、これらの情報が秘匿性の高い情報とはいえないことから、憲法13条に違反しない。
5. ノンフィクション作品において、実名を使用された者の「公表されない利益」と、著作物の「公表する利益」が衝突する場合、前者が優越するときはプライバシー侵害として損害賠償が認められる。
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正解 3

解説:

1. 正しい。前科照会事件の判旨です。

2. 正しい。エホバの証人輸血拒否事件の判旨です。

3. 誤り。最高裁は、「みだりに指紋の押捺を強制されない自由」は憲法13条で保障され、「我が国に在留する外国人にも等しく及ぶ」としています。その上で、制度の合理性・必要性から合憲と判断しました。

4. 正しい。住基ネット訴訟の判旨です。

5. 正しい。逆転事件における比較衡量の基準です。

問3:新しい人権の総論
憲法13条および新しい人権に関する次の記述のうち、通説的見解または判例として妥当なものはどれか。

1. 憲法13条の幸福追求権は、憲法に列挙されていない新しい人権を創設する根拠とはなり得ず、あくまで14条以下の人権を補完する解釈指針にすぎない。
2. 幸福追求権によって保障される「幸福」の内容について、人格的利益説によれば、個人の人格的生存に不可欠な利益に限定されず、あらゆる生活領域における行為の自由が含まれる。
3. プライバシー権は、かつては「私生活をみだりに公開されない権利」と定義されていたが、情報化社会の進展に伴い、今日では「自己に関する情報をコントロールする権利」としての側面が重視されている。
4. 肖像権は、明文の規定はないものの、憲法21条の表現の自由から派生する権利として位置づけられており、13条を根拠とするものではない。
5. 自己決定権は、個人の私的な事項について公権力の干渉を受けずに決定する権利であるが、最高裁はこれまで自己決定権を根拠として具体的な権利侵害を認めたことは一度もない。
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正解 3

解説:

1. 誤り。13条は新しい人権を根拠づける「包括的基本権」としての法的権利性を有すると解されています。

2. 誤り。「あらゆる行為の自由」を含むとするのは一般的行為自由説です。人格的利益説は「人格的生存に不可欠な利益」に限定します。

3. 正しい。プライバシー権の定義の変遷に関する正しい記述です。

4. 誤り。肖像権は憲法13条(幸福追求権)を根拠としています。

5. 誤り。エホバの証人輸血拒否事件において、自己決定権(人格権)の侵害を認めています。

5. まとめと学習アドバイス

今回は、憲法13条に基づく「新しい人権」について解説しました。

  • 肖像権:京都府学連事件の3要件(現行犯性・必要緊急性・相当性)を暗記しましょう。
  • プライバシー権:前科(みだりに公開されない)、指紋(外国人にも及ぶが合憲)、住基ネット(合憲)の結論を押さえましょう。
  • 自己決定権:輸血拒否事件では、「輸血されない権利」そのものではなく、「意思決定をする権利(人格権)」の侵害が認められた点を理解しましょう。

これらの判例は、記述式問題でも「どのような理由で合憲(または違法)とされたか」を問われる可能性があります。結論だけでなく、裁判所が示した「基準(~だから許される)」を意識して学習してください。

よくある質問(FAQ)

Q. 「みだりに」とはどういう意味ですか?
A. 法律用語で「正当な理由なく」「勝手に」という意味です。「みだりに撮影されない自由」とは、「正当な理由(犯罪捜査など)があれば撮影されても文句は言えない」ということを含んでいます。
Q. 肖像権は法律に書いてありますか?
A. 「肖像権」という言葉自体は憲法や法律の条文にはありません。裁判所も「肖像権と称するかどうかは別として」と言いつつ、憲法13条を根拠に「撮影されない自由」を保護しています。
Q. 一般的行為自由説と人格的利益説、どっちが正しいですか?
A. 学説としては「人格的利益説」が通説ですが、判例(最高裁)は明確にどちらの説に立つとは言っていません。ただ、オービスや指紋押捺などの判決を見ると、比較的広い自由を対象にしつつ、公共の福祉による制限を認める傾向があります。
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