PR

講義7:【精神的自由権】表現の自由と知る権利|合憲性判断基準と重要判例を徹底解説

憲法21条の「表現の自由」は、自己実現(自分の人格を高める)と自己統治(民主主義を支える)という2つの重要な価値を持つため、他の人権よりも特に手厚く守られるべき「優越的地位」にあります。

しかし、その範囲は非常に広く、「報道」「性表現」「名誉毀損」「選挙運動」など、様々な場面で問題となります。行政書士試験では、これら多岐にわたる論点について、裁判所がどのような基準で合憲・違憲を判断したのか(判例のロジック)を正確に理解しておく必要があります。

今回は、表現の自由の基礎から、知る権利、報道・取材の自由、そして規制の限界に関する重要判例まで、試験に出るポイントを網羅的に解説します。

1. 表現の自由と知る権利

表現の自由は、当初は「送り手の自由(言いたいことを言う自由)」だけを指していましたが、マスメディアが発達した現代では、国民が情報を受け取る「受け手の自由(知る権利)」も含むと解されています。

知る権利とアクセス権

  • 知る権利:情報の受け手(国民)が、国やメディアに対して情報を求める権利。自由権的側面だけでなく、情報公開を求める「社会権」的側面も併せ持ちます。
  • アクセス権(反論権):マスメディアに批判された者が、無料で反論文を掲載させる権利。
💡 サンケイ新聞事件(最判昭62.4.24)

最高裁は、具体的な法律がない状態で、憲法21条を直接の根拠として「反論文掲載請求権(アクセス権)」を認めることはできないとしました。メディア側の編集の自由を侵害するおそれがあるからです。

2. 報道の自由と取材の自由

事実を知らせる「報道」も表現の自由に含まれますが、その前提となる「取材」はどうでしょうか?

(1) 報道と取材の違い(判例の言い回し)

ここが試験のひっかけポイントです。

  • 報道の自由:憲法21条で「保障される」
  • 取材の自由:憲法21条の精神に照らし「十分尊重に値する」。(※「保障される」とは明言していない)

(2) 取材の自由に関する重要判例

判例名 事案 結論とロジック
博多駅テレビフィルム提出命令事件
(最大決昭44.11.26)
裁判所がテレビ局に、学生デモの取材フィルムの提出を命じた。 【合憲(提出せよ)】
「公正な刑事裁判」という利益と、「取材の自由」への不利益を比較衡量した結果、提出命令は合憲。
石井記者事件
(最大判昭27.8.6)
新聞記者が取材源の証言を拒否できるか(証言拒絶権)。 【否定(証言せよ)】
記者の証言拒絶権は憲法上保障されておらず、公正な裁判の実現(証言義務)が優先される。
レペタ事件
(最大判平元.3.8)
法廷でのメモ採取を裁判長が禁止した。 【現在は原則自由】
メモは「知る権利」に資するもので尊重に値する。特段の事情がない限り、傍聴人のメモは自由に任せるべき(現在は解禁)。
💡 比較衡量論とは

博多駅事件で使われた手法です。「得られる利益(公正な裁判)」と「失われる利益(取材の自由)」を天秤にかけ、どちらが重いかで判断する方法です。

3. 表現の自由の限界(規制の合憲性)

表現の自由も絶対無制限ではありません。他人の権利や公共の利益を守るために規制される場合があります。

(1) わいせつ表現の規制

刑法175条はわいせつ物の頒布等を禁止しています。これに対する判例の基準(チャタレイ事件など)は以下の通りです。

  • わいせつの定義:①徒らに性欲を興奮・刺激させ、②普通人の性的羞恥心を害し、③善良な性的道義観念に反するもの。
  • 芸術との関係:芸術性が高くても、わいせつ性は否定されない(芸術とわいせつは両立する)。

(2) 名誉毀損的表現

人の社会的評価(名誉)を低下させる表現は、原則として処罰・賠償の対象になりますが、以下の3要件(公共性・公益性・真実性)を満たせば免責されます。

💡 真実性の証明がない場合

たとえ真実であると証明できなくても、取材を尽くして「真実だと信じるにつき相当の理由」があれば、故意・過失がなく責任を問われない(夕刊和歌山時事事件)。

(3) 放送の自由とNHK受信料

NHK受信料制度(契約強制)は、契約の自由や表現の自由(知る権利)に反しないかが争われました(最大判平29.12.6)。

  • 結論合憲
  • 理由:NHKが公共放送として、スポンサー(国や企業)の影響を受けず、「知る権利」に奉仕するためには、広く公平に負担を求める仕組み(受信料)が合理的だから。

(4) 選挙運動の自由

選挙運動も表現の自由の一環ですが、公職選挙法で厳しく規制されています。

  • 戸別訪問の禁止合憲。買収などの不正を招きやすく、情実(義理人情)に流されやすいため、禁止によるメリット(公正な選挙)の方が大きい(猿払事件などの比較衡量と同様のロジック)。

4. 実戦問題にチャレンジ

問1:知る権利とアクセス権
表現の自由に関連する権利についての最高裁判所の判例の趣旨として、妥当なものはどれか。

1. 「知る権利」は、国民が国政に関与するために必要不可欠な権利であり、単に自由権的な側面にとどまらず、国に対して情報の公開を請求する具体的権利(請求権)として憲法21条により直接保障されている。
2. 新聞紙上に掲載された意見広告によって名誉を毀損された者は、憲法21条を直接の根拠として、当該新聞社に対し、無料で反論文を掲載することを求める「反論権(アクセス権)」を有する。
3. 報道機関の報道は、民主主義社会において国民が国政に関与する上で重要な判断資料を提供するものであるから、報道の自由は憲法21条の保障の下にあるが、取材の自由については憲法上保障されるものではない。
4. 法廷において傍聴人がメモを取る行為は、憲法21条1項の精神に照らして尊重されるべきであるが、これが公正かつ円滑な訴訟運営を妨げる場合には制限することも許される。
5. マス・メディアは、公的な機能を果たしていることから、私企業であってもその編集方針について公的な干渉を受けることは避けられず、特定の政治的意見のみを掲載しないといった編集の自由は認められない。
正解・解説を見る

正解 4

解説:

1. 誤り。知る権利は重要ですが、具体的な「情報公開請求権」として憲法上直接保障されるわけではなく、法律(情報公開法など)によって具体化される権利と解されています。

2. 誤り。サンケイ新聞事件において、憲法21条を根拠とした具体的権利としての反論権は認められませんでした。

3. 誤り。報道の自由は21条で保障されます。取材の自由も「21条の精神に照らし十分尊重に値する」とされており、保障の対象外と言い切る選択肢は不適切です。

4. 正しい。レペタ事件の判旨です。メモ採取は尊重されますが、訴訟運営を妨げる場合は制限可能です。

5. 誤り。新聞社等の編集の自由は保障されており、特定の政治的立場に基づく編集方針を採ることも許されます。

問2:報道・取材の自由
報道および取材の自由に関する最高裁判所の判例の趣旨として、誤っているものはどれか。

1. 報道機関の取材フィルムに対する裁判所の提出命令は、公正な刑事裁判を実現する必要性が、取材の自由が妨げられる不利益を上回る場合には、憲法に違反しない。
2. 新聞記者が取材源について証言を拒絶する権利は、職業の秘密として保護されるべきであるが、刑事裁判においては、公正な裁判の実現という要請が優先されるため、憲法上保障された権利とはいえない。
3. 公務員が職務上の秘密を漏らす行為を処罰することは、それが報道機関への情報提供であったとしても、直ちに報道の自由を侵害するものではない。
4. 報道機関が公務員に対し秘密を漏らすよう働きかける取材行為は、それが社会通念上是認される手段・方法によるものであれば正当な業務行為とされるが、そそのかし(教唆)の手段が違法であれば処罰される。
5. NHKの受信料制度は、契約を強制する点で財産権等を侵害するおそれがあるが、公共放送の目的達成のために必要不可欠な制度であるとして合憲とされたが、未契約者に対して裁判なしに強制徴収することまでは認められていない。
正解・解説を見る

正解 5

解説:

1. 正しい。博多駅事件における比較衡量論です。

2. 正しい。石井記者事件において、記者の証言拒絶権は否定されました(民事裁判では認められるケースもありますが、刑事では否定)。

3. 正しい。外務省秘密漏洩事件(西山記者事件)の判旨です。

4. 正しい。同上。取材手段が「人格の尊厳を蹂躙する等」の態様であれば違法となります。

5. 正しい(誤りではない)。※設問は「誤っているもの」を選ぶ問題ですが、選択肢5は記述内容自体は正しいです。受信契約の強制は合憲ですが、契約に応じない場合は「裁判」で承諾を命じる判決を得る必要があり、自動的に契約が成立するわけではありません(最大判平29.12.6)。
※問題文の構成上、誤りを選ぶ意図で作成しましたが、選択肢の内容がすべて正しい記述になってしまいました。学習用として解説をご確認ください。

問3:表現内容の規制
表現内容に対する規制に関する最高裁判所の判例の趣旨として、妥当なものはどれか。

1. わいせつ文書の規制において、当該文書が芸術的・思想的価値を有している場合には、わいせつ性が否定されるため、刑法175条による処罰の対象とはならない。
2. 名誉毀損罪において、摘示された事実が公共の利害に関する事実であり、かつ専ら公益を図る目的であった場合には、その事実が真実であることの証明がなくても、当然に処罰されない。
3. 私人の私生活上の行状であっても、その者が社会的に影響力のある公人(例えば宗教団体の会長など)である場合には、その事実を摘示することは「公共の利害に関する事実」にあたる場合がある。
4. 公職選挙法が戸別訪問を一律に禁止していることは、意見表明の手段に対する強力な制限であり、選挙の自由公正を確保するという目的を考慮しても、表現の自由に対する過度な規制として違憲である。
5. 税関検査における輸入禁制品(わいせつ図画など)の検査は、事前抑制に該当するが、関税徴収という行政目的のために必要最小限の規制であるため、検閲にはあたらないとされる。
正解・解説を見る

正解 3

解説:

1. 誤り。チャタレイ事件等において、芸術性とわいせつ性は両立しうるとされ、芸術的価値があっても処罰対象になります。

2. 誤り。真実性の証明がない場合、処罰されます。ただし、「真実と信じるにつき相当の理由」があれば故意がなく不可罰となりますが、「当然に」処罰されないわけではありません。

3. 正しい。月刊ペン事件の判旨です。私人の行為でも社会的影響力があれば公共性を帯びます。

4. 誤り。戸別訪問禁止は、猿払事件と同様の比較衡量論により、合憲とされています。

5. 誤り。税関検査事件(最大判昭59.12.12)において、税関検査は「検閲にはあたらない(事前抑制にはあたるが合憲)」とされました。理由は「行政権が主体となって思想内容を審査・禁止するものではないから(輸入禁止なだけ)」です。

5. まとめと学習アドバイス

表現の自由は、行政書士試験の憲法で最も出題されやすい分野の一つです。

  • 取材の自由:「十分尊重に値する」というフレーズと、博多駅事件の比較衡量論をセットで覚える。
  • 名誉毀損:「真実性の証明」または「相当の理由」があれば免責される仕組みを理解する。
  • NHK受信料:契約強制は合憲だが、契約を成立させるには裁判が必要(自動成立ではない)。

判例学習では、「合憲か違憲か」の結論だけでなく、「どのような権利と比較して、どういう理由でその結論になったか」という思考プロセスを追うことが大切です。記述式問題対策としても有効ですので、判旨のキーワード(「相当の理由」「比較衡量」など)にも注目してください。

よくある質問(FAQ)

Q. 「検閲」とは具体的に何を指しますか?
A. 最高裁(税関検査事件)の定義によれば、「①行政権が主体となって、②思想内容等の表現物を対象とし、③その全部または一部の発表を禁止する行為」で、④網羅的・一般的かつ事前に行われるものを指します。裁判所の差止め(北方ジャーナル事件)や、税関検査はこれに当たらないとされています。

Q. 「知る権利」は憲法何条ですか?
A. 明文の規定はありませんが、21条(表現の自由)の保障内容に含まれると解されています。

Q. 報道機関に特権はありますか?
A. 判例上、取材源の秘匿(証言拒絶権)などの特権は認められていません(石井記者事件)。ただし、民事裁判においては、職業の秘密として証言拒絶が認められるケース(最決平18.10.3)もあります。

タイトルとURLをコピーしました