表現の自由は、民主主義を支える重要な権利であるため、それを規制する法律が合憲かどうかは、特に厳しく審査されなければなりません。
しかし、一言で「規制」といっても、その方法は様々です。出版される前に差し止めるのか? 曖昧な基準で処罰するのか? 中身を理由に規制するのか?
行政書士試験では、こうした「規制の態様(やり方)」に応じた違憲審査基準(事前抑制禁止、検閲、明確性の原則など)を正確に理解しているかが問われます。
今回は、表現の自由の規制に関する理論的枠組みと、検閲や通信の秘密に関する重要判例を整理して解説します。
1. 表現の自由を規制する立法の違憲審査基準
表現の自由(精神的自由)に対する規制は、経済的自由への規制よりも厳格な基準で審査されるべきという「二重の基準論」を前提として、さらに具体的な審査基準があります。
(1) 事前抑制禁止の理論
表現行為がなされる前に、公権力がそれを抑制すること(差止めなど)は、原則として許されません。表現が市場に出る機会を奪い、萎縮効果が大きいためです。
裁判所による出版物の事前差止めは、原則として許されませんが、「検閲」には当たりません(司法権による処分だから)。
ただし、例外的に以下の厳格な要件を満たす場合に限り、事前差止めが許容されます。
①表現内容が真実でなく、もっぱら公益目的でないことが明白であって、
②被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被るおそれがあるとき。
(2) 検閲の禁止(憲法21条2項)
「検閲」は、事前抑制の中でも特に悪質なものとして、絶対的に禁止されます(公共の福祉による例外も認められません)。
【検閲の定義(税関検査事件)】
以下の性質を備えるものをいいます。
①行政権が主体となって、
②思想内容等の表現物を対象とし、
③その全部または一部の発表の禁止を目的として、
④対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に、
⑤発表前にその内容を審査したうえ、不適当と認めるものの発表を禁止すること。
| 制度 | 検閲に当たるか? | 理由 |
|---|---|---|
| 裁判所の事前差止め | 当たらない | 主体が「行政権」ではなく司法権だから。 |
| 税関検査 | 当たらない | 輸入禁止の対象は既に海外で発表済みであり、思想内容の規制自体が目的ではないから。 |
| 教科書検定 | 当たらない | 検定に落ちても「一般図書」として出版することは可能であり、発表禁止ではないから。 |
2. その他の審査基準(明確性・内容規制)
(1) 明確性の原則
「精神的自由を規制する法律は、あいまいで不明確であってはならない」というルールです。何が処罰されるかわからないと、国民が表現をためらってしまう(萎縮的効果)からです。
「交通秩序を維持すること」という条文が不明確かが争われましたが、最高裁は「通常の判断能力を有する一般人の理解において、基準を読み取れる」として、明確性の原則に反しない(合憲)と判断しました。
(2) 内容規制と内容中立規制
規制が「表現の中身」に着目しているかどうかで、審査の厳しさが変わります。
- 表現内容規制:メッセージの中身を理由とする規制(例:政府批判の禁止)。
→ 非常に厳しい基準で審査される(原則違憲)。 - 表現内容中立規制:中身に関わらず、手段や方法(時・所・方法)を規制するもの(例:選挙カーの騒音規制)。
→ 比較的緩やかな基準(LRAの基準など)で審査される。
3. 通信の秘密(憲法21条2項後段)
特定の人と人との間のコミュニケーション(信書や電話、メールなど)の内容や、通信の存在自体を公権力が侵してはならないという権利です。
(1) 通信の秘密の制約
通信の秘密も絶対無制約ではありません。正当な理由があれば制約されます。
- 郵便物の押収(令状が必要)
- 税関検査(禁制品発見のため)
- 受刑者の信書検査(規律維持のため)
(2) 電話傍受事件(最決平11.12.16)
捜査機関による電話傍受(盗聴)が許されるかが争われた重要判例です。
- 判旨:電話傍受は通信の秘密やプライバシーを侵害する強制処分であるが、以下の厳格な要件を満たせば、令状に基づいて行うことは憲法上許される(合憲)。
- 重大な犯罪の疑いがある。
- 被疑事実に関連する通話の蓋然性がある。
- 他の方法では証拠収集が著しく困難である(補充性)。
4. 実戦問題にチャレンジ
1. 検閲とは、行政権が主体となって、思想内容等の表現物を対象とし、その発表前に網羅的一般的に内容を審査して発表を禁止することをいい、公共の福祉を理由とする例外も一切認められない絶対的な禁止である。
2. 税関検査は、輸入される表現物を対象として発表前に審査し、輸入禁止に当たる場合は輸入を許可しないものであるから、実質的には検閲に該当するが、関税徴収等の行政目的のために必要やむを得ない規制として合憲である。
3. 教科書検定制度は、検定に不合格となった図書の出版そのものを禁止するものではないが、学校教育での使用を事実上制限する効果を持つため、検閲に該当する疑いが強いが、教育の中立性確保の観点から合憲とされている。
4. 裁判所による出版物の事前差止めは、公的機関が表現物の発表を事前に禁止するものである以上、憲法21条2項の禁止する検閲に該当するが、名誉毀損による被害の救済という観点から例外的に許容される場合がある。
5. 北方ジャーナル事件において、最高裁は、公職選挙の候補者に対する批判的記事の事前差止めについて、表現の自由の重要性に鑑み、いかなる場合であっても裁判所による事前差止めは許されないと判示した。
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正解 1
解説:
1. 正しい。税関検査事件における検閲の定義と、絶対的禁止(例外なし)という性質を正しく記述しています。
2. 誤り。判例は、税関検査は「検閲に当たらない(そもそも該当しない)」としています。「検閲に当たるが合憲」という論理ではありません。
3. 誤り。判例は、教科書検定は一般図書としての発行を妨げないため、「検閲には当たらない」としています。
4. 誤り。裁判所の事前差止めは、司法権によるものであり「検閲(主体が行政権)」には当たりません。検閲には当たらないが、事前抑制として原則禁止される、という整理です。
5. 誤り。原則として許されないとしつつも、「内容が真実でなく…被害が重大で回復困難な場合」には例外的に許されるとしました。
1. 刑罰法規の規定が明確であるか否かは、法律の専門家である裁判官の判断能力を基準として、解釈により一義的な意味を確定できるかどうかによって決せられるべきである。
2. 条例中の「交通秩序を維持すること」という文言は、あまりに抽象的で広範な解釈を許すものであり、通常の判断能力を有する一般人の理解によっても基準を読み取ることができないため、明確性の原則に反し違憲である。
3. 刑罰法規があいまい不明確な場合に憲法31条(適正手続)に違反して無効となるのは、その規定が適用される国民に対し、禁止される行為を告知して行動の予測可能性を与えることができないからである。
4. 表現の自由を規制する法令については、通常の経済的自由を規制する法令よりも緩やかな基準で明確性が判断されるべきであり、多少の不明確さがあっても合憲と解すべきである。
5. 徳島市公安条例事件において、最高裁は、問題となった条例の規定が不明確であることは認めたが、デモ行進による混乱を防止するという立法目的の重要性を考慮して、合憲であると判断した。
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正解 3
解説:
1. 誤り。基準となるのは「通常の判断能力を有する一般人の理解」です。
2. 誤り。「交通秩序を維持すること」という文言は、抽象的とのそしりは免れないが、一般人の理解において基準を読み取ることは可能であり、明確性を欠くとはいえない(合憲)とされました。
3. 正しい。明確性の原則の根拠(告知機能と恣意的運用の防止)に関する記述です。
4. 誤り。表現の自由の規制については、萎縮効果を防ぐため、より厳格な明確性が求められます(明確性の理論)。
5. 誤り。最高裁は規定自体が「明確性を欠くものではない」と判断しました。
1. 憲法21条2項後段が保障する通信の秘密は、通信の内容のみならず、通信当事者の住所・氏名、通信日時、通話回数などの形式的な事項(構成要素)も含まれる。
2. 犯罪捜査のための電話傍受は、通信の秘密を侵害する強制処分に該当するが、重大な犯罪の捜査において真にやむを得ないと認められる場合であっても、裁判官の令状なしに行うことが許容される。
3. 郵便物の税関検査は、関税法上の行政処分の一環として行われるものであり、信書の開封を伴う場合であっても、裁判官の令状を必要とせず、通信の秘密を侵害するものではない。
4. 刑務所長が受刑者の発受する信書を検閲することは、受刑者の通信の秘密を制約するものであるが、監獄内の規律保持のために必要かつ合理的な範囲内であれば、法律の根拠がなくても認められる。
5. 通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、公権力との関係でのみ保障されるものであり、私人が他人の通信を故なく傍受したり漏洩したりする行為は、憲法21条の問題とはならない。
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正解 1
解説:
1. 正しい。通信の秘密は、内容だけでなく、誰といつ通信したかという外形的事項も保護対象とします。
2. 誤り。電話傍受は「令状(検証許可状など)」に基づいて行わなければなりません。
3. 誤り。輸入禁制品発見のための税関検査自体は許されますが、信書の開封については、令状主義との関係で議論があります(判例は、第三者の立会いなど適切な手続きがあれば許容される傾向ですが、選択肢の「侵害するものではない」という断定は微妙)。※最も適切な肢は1となります。
4. 誤り。人権制約には「法律の根拠」が必要です。受刑者の通信制限も法律(刑事収容施設法等)に基づいています。
5. 誤り。電気通信事業法などにより私人(事業者等)にも守秘義務が課されますが、憲法上の権利としては、間接適用説等の議論があるものの、全く問題とならないわけではありません。
5. まとめと学習アドバイス
今回は、表現の自由を規制する際の「ルール(基準)」について解説しました。
- 検閲:「行政権・網羅的一般的・事前・発表禁止」の4要素を満たすもの。税関や教科書検定は「当たらない」。
- 事前抑制:裁判所の差止めは検閲ではないが、事前抑制として原則禁止。「真実でなく、被害重大」な時だけ例外OK。
- 明確性:「一般人」が理解できるかが基準。徳島市条例は「明確(合憲)」。
この分野は、「〇〇は検閲に当たるか?」という○×問題や、「どのような理由で合憲とされたか」を問う問題が頻出です。税関検査や教科書検定の判旨(ロジック)を、キーワードを中心に記憶しておきましょう。
よくある質問(FAQ)
- Q. 検閲と事前抑制の違いがわかりにくいです。
- A. 「検閲」は行政機関が組織的に目を光らせて、世に出る前にブロックする最強の規制です(絶対禁止)。「事前抑制」はそれより広い概念で、裁判所の差止めなども含みます。検閲以外の事前抑制は「原則禁止(例外あり)」という違いがあります。
- Q. なぜ税関検査は検閲じゃないのですか?
- A. 最高裁の理屈は「輸入禁止の対象(ポルノなど)は、海外ですでに発表されているから、発表そのものを禁止するわけではない」というものです。また、司法審査の機会がある点も理由としています。
- Q. 萎縮的効果とは何ですか?
- A. 「これを言ったら捕まるかも…」と不安になって、発言自体を控えてしまうことです。表現の自由にとって一番恐ろしいのは、処罰そのものよりも、この「空気を読んで黙ってしまうこと」だと考えられているため、規制する法律は明確でなければならないのです。