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講義11:【経済的自由権】居住移転の自由と財産権|森林法違憲判決と重要判例を解説

行政書士試験の憲法において、「経済的自由権」は職業選択の自由だけでなく、「居住・移転の自由」「財産権」も重要な出題分野です。

特に財産権の分野には、戦後の憲法判例史に残る重要な違憲判決(森林法共有林分割制限規定違憲判決)が存在します。なぜ違憲と判断されたのか、そのロジックを理解することは、多肢選択式や記述式対策としても非常に有効です。

今回は、居住・移転の自由(海外渡航の自由)と、財産権の保障および規制の限界について、重要判例を中心に解説します。

1. 居住・移転の自由(憲法22条)

憲法22条1項は、「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する」と規定しています。

(1) 居住・移転の自由の内容

  • 住所・居所の選定・変更の自由:どこに住むか、どこへ引っ越すかを自分で決める自由。
  • 国内旅行の自由:一時的な移動の自由も含まれます。

この権利は、経済活動の基盤となるだけでなく、人身の自由や表現の自由とも関わる「複合的な性質」を持っています。

(2) 海外渡航の自由(重要論点)

では、外国へ旅行したり移住したりする自由は、憲法のどこで保障されるのでしょうか?

💡 帆足計(ほあしけい)事件(最大判昭33.9.10)

【論点】
海外渡航の自由(外国旅行の自由)は、憲法22条の何項で保障されるか?

【判旨】
海外渡航の自由は、憲法22条2項の「外国に移住する自由」に含まれる(2項説)。
しかし、無制限に許されるわけではなく、公共の福祉のために合理的な制限に服する。
→ 著しく国益を害するおそれがある者に旅券を発給しないことは合憲

学説には22条1項説や13条説もありますが、試験対策上は「22条2項説(判例・多数説)」で押さえておきましょう。

2. 財産権の保障(憲法29条)

憲法29条1項は「財産権は、これを侵してはならない」と定めています。

(1) 財産権保障の二重の意味

この規定には、以下の2つの意味があると解されています(制度的保障)。

  • 具体的な財産権の保障:個人が現に有している特定の財産権を保障する。
  • 私有財産制の保障:国民が財産を所有できるという「制度」そのものを保障する。

(2) 公共の福祉による制限

財産権も絶対無制約ではありません。29条2項は「財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める」としています。

この「公共の福祉」には、以下の2つの側面があります。

  1. 自由国家的公共の福祉:他人の権利を侵害しないための内在的な制約(騒音防止など)。
  2. 社会国家的公共の福祉:経済的弱者の保護や社会全体の利益のための政策的な制約。

3. 財産権に関する重要判例

財産権の規制が許されるかどうかは、規制の目的や手段の合理性を比較衡量して判断されます。ここでは、行政書士試験で絶対に落とせない2つの判例を解説します。

(1) 森林法共有林分割制限規定違憲判決(最大判昭62.4.22)

【超重要】財産権規制に関して、最高裁が違憲判断を下した数少ない事例です。

事案 森林法は、持ち分が半分以下の共有者からの「共有林の分割請求」を禁止していた。
(本来、民法ではいつでも分割請求ができるのが原則)
規制の目的 森林の細分化を防ぎ、森林経営の安定を図る(社会経済政策的な目的)。
裁判所の判断 規制の目的自体は一応理解できるが、分割を禁止しなくても、他の方法(経営の共同化など)で目的は達成できる。
また、分割期間の制限ではなく、永久に分割できないとするのは「必要な限度を超えている」
結論 規制手段が必要性・合理性を欠き、合理的裁量の範囲を超えているため、憲法29条2項に違反し違憲(無効)
💡 判例のロジック

この判決では、前回学習した「規制目的二分論」を形式的に適用せず、「目的・手段の比較衡量」を行いました。実質的には、消極目的規制に対する「厳格な合理性の基準」に近い厳しい審査を行い、違憲と判断しました。

(2) 奈良県ため池条例事件(最大判昭38.6.26)

「法律」ではなく「条例」で財産権を制限できるかが争われた事件です。

事案 奈良県が条例で、ため池の提とう(土手)での農作物栽培を禁止した。
従来から耕作していた農民が、財産権侵害などを理由に訴えた。
論点 憲法29条2項は「法律」で定めるとあるが、条例で制限できるか?
判旨 1. 条例による制限も可能:条例は民主的基盤のある地方議会で制定される法(実質的な意味の法律)であるため、法律の授権がなくても財産権を規制できる。
2. 受忍義務:ため池が決壊すれば甚大な被害が出る。堤防の使用禁止は、災害防止のために当然受忍しなければならない制約である。
3. 財産権の埒外(らちがい):危険な使用行為は、そもそも憲法が保障する財産権の行使の範囲外(埒外)である。
結論 合憲

4. 実戦問題にチャレンジ

問1:居住・移転の自由と海外渡航
居住・移転および海外渡航の自由に関する最高裁判所の判例の趣旨として、妥当なものはどれか。

1. 海外渡航の自由は、憲法22条1項の「居住、移転の自由」の一部として保障されるものであり、同条2項は国籍離脱の自由のみを規定していると解される。
2. 海外渡航の自由は、精神的自由権としての側面を有するため、公共の福祉による制限を受けることはなく、旅券法による発給制限は原則として違憲である。
3. 憲法22条2項の「外国に移住する自由」には、永住目的の移住だけでなく、一時的な外国旅行の自由も含まれると解され、公共の福祉のために合理的な制限に服する。
4. 帆足計事件において、最高裁は、著しくかつ直接に日本国の利益を害するおそれがある者に対して旅券の発給を拒否することは、海外渡航の自由に対する過度な制約であり、憲法に違反すると判断した。
5. 国内における居住・移転の自由は、経済的自由権としての側面が強いため、精神的自由権に比べて広範な規制が認められ、その制約が合理的なものであるかどうかの審査は緩やかな基準で行われる。
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正解 3

解説:

1. 誤り。判例(帆足計事件)は、海外渡航の自由は憲法22条2項で保障されるとしています。

2. 誤り。海外渡航の自由も公共の福祉による合理的な制限に服します。

3. 正しい。これが帆足計事件の判旨です。

4. 誤り。判例は、旅券発給拒否を合憲と判断しました。

5. 誤り。居住・移転の自由は、人身の自由や表現の自由とも関連する複合的な権利であるため、単なる経済的自由権として緩やかに審査されるわけではありません。

問2:財産権の規制と判例
財産権の規制に関する最高裁判所の判例の趣旨として、妥当なものはどれか。

1. 森林法が共有林の分割請求を制限していた規定について、最高裁は、森林の細分化防止という立法目的自体が不合理であるとして、憲法29条2項に違反すると判断した。
2. 森林法の共有林分割制限規定違憲判決において、最高裁は、財産権の規制が合憲とされるためには、規制目的が消極的な警察目的である場合に限り、厳格な合理性の基準が適用されるとの立場をとった。
3. 奈良県ため池条例事件において、最高裁は、憲法29条2項が財産権の内容を「法律」で定めると規定していることから、条例によって財産権を制限することは許されないと判断した。
4. 奈良県ため池条例事件において、最高裁は、ため池の堤とうを使用する権利を有する者が、災害防止のためにその使用を禁止されることは、公共の福祉のために当然受忍すべき責務であり、憲法が保障する財産権の行使の埒外にあるとした。
5. 証券取引法がインサイダー取引を禁止し、財産権の行使を制限していることについて、最高裁は、経済的自由に対する規制であるため明白の原則を適用し、著しく不合理でない限り合憲であると判断した。
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正解 4

解説:

1. 誤り。森林法違憲判決では、立法目的(細分化防止・経営安定)については「理解できる(肯定)」としました。違憲としたのは「手段」が必要不可欠でない点です。

2. 誤り。この判決では、厳密な規制目的二分論(消極なら厳格、積極なら緩やか)の枠組みには囚われず、目的・内容・制限の程度などを総合的に比較衡量して判断しました(結果的に厳格な審査を行っています)。

3. 誤り。ため池条例事件では、条例による財産権制限も可能(合憲)と判断されました。

4. 正しい。危険な行為は「財産権の行使の埒外(らちがい=範囲外)」とする論理が特徴的です。

5. 誤り。※本記事では扱っていませんが、証券取引法(インサイダー規制)の判例(最判平11.2.16)はありますが、財産権侵害として明白の原則を適用したという記述は一般的ではありません。選択肢4が明らかに正解です。

問3:財産権の保障内容
憲法29条の財産権保障に関する次の記述のうち、通説的見解として妥当なものはどれか。

1. 憲法29条1項の「財産権」には、所有権のような物権だけでなく、債権や知的財産権などの財産的価値のある権利も含まれる。
2. 財産権の保障は、国民が現在有している具体的な財産権を保障するものであり、私有財産制という制度そのものを保障する趣旨までは含まれていない。
3. 憲法29条2項は「財産権の内容は…法律でこれを定める」としているため、国会は法律によってどのような財産権規制も自由に行うことができ、司法審査の対象とはならない。
4. 財産権に対する規制は、社会政策的な積極目的によるものに限られ、公共の安全や秩序維持のための消極的な目的による規制は許されない。
5. 戦後の農地改革において、不在地主の農地を低廉な価格で強制的に買収した措置は、憲法29条3項の「正当な補償」を欠くものとして、最高裁により違憲と判断された。
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正解 1

解説:

1. 正しい。財産権は、金銭的価値のある権利全体を指します。

2. 誤り。財産権の保障は、個人の権利保障とともに、「私有財産制」という制度の保障も含むと解されています(制度的保障)。

3. 誤り。法律で定めるとしても「公共の福祉に適合」しなければならず、不合理な規制は違憲となり司法審査の対象になります(森林法判決など)。

4. 誤り。消極的目的による規制(例:危険物の所有制限)も当然に認められます。

5. 誤り。農地改革における買収対価は「正当な補償」に当たるとされ、合憲と判断されました(最大判昭28.12.23)。

5. まとめと学習アドバイス

今回は、居住・移転の自由と財産権について解説しました。

  • 海外渡航の自由:「憲法22条2項」で保障される(帆足計事件)。
  • 森林法違憲判決:「分割禁止」という手段が強力すぎて違憲。目的二分論を使わず比較衡量で厳しく判断した例として重要。
  • ため池条例事件:条例でも財産権規制は可能。危険な行為は「財産権の埒外」。

特に「森林法」と「ため池条例」は、結論(違憲か合憲か)だけでなく、判決文の言い回し(「埒外にある」「必要な限度を超え」など)が試験で問われやすいポイントです。キーワードに着目して記憶しておきましょう。

よくある質問(FAQ)

Q. なぜ海外旅行の自由は22条「2項」なのですか?
A. 22条2項には「外国に移住する自由」と書かれています。判例は、移住(永住)する自由が含まれるなら、それより程度の軽い「一時的な旅行」の自由も当然に含まれる、と解釈しているからです。
Q. 条例で財産権を制限できる根拠は何ですか?
A. 憲法29条2項は「法律」で定めると言っていますが、地方自治を保障した憲法94条は、条例制定権を認めています。ため池条例判決では、条例も民主的な手続きで作られる法(実質的な意味の法律)であることから、法律の授権がなくても、ある程度の財産権規制は可能だと判断しました。
Q. 森林法判決はなぜ目的二分論を使わなかったのですか?
A. 森林法の規制は「経営の安定(積極目的)」と「森林資源の保全(消極目的)」の両面があり、単純に分けられなかったためと考えられます。また、積極目的だからといって緩やかに審査すると、個人の財産権侵害を見逃してしまう恐れがあったため、実質的に厳しい審査を行いました。

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