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講義16:【財政・地方自治・憲法改正】完全攻略|旭川市国保事件などの重要判例

行政書士試験の憲法において、「人権」や「統治の三権(立法・行政・司法)」に隠れがちですが、「財政」「地方自治」「憲法改正」の分野も侮れません。

特に「財政」分野における租税法律主義の適用範囲や、「地方自治」における条例制定権の限界などは、行政法の知識ともリンクする重要テーマです。また、「天皇の国事行為」は細かい条文知識が問われる定番ポイントです。

今回は、これらの分野の重要条文と判例(旭川市国保事件など)を整理し、知識の抜け漏れを防ぐためのポイントを解説します。

1. 財政(憲法83条~91条)

国家の財政権限は、国民の代表である国会の議決に基づかなければなりません(財政民主主義:83条)。この原則から、歳入(入り)と歳出(出)に関する詳細なルールが定められています。

(1) 租税法律主義(84条)

税金を課すには「法律」の根拠が必要です。これを租税法律主義といいます。

  • 課税要件法定主義:課税の条件(誰に、いくら、どうやって)を法律で定めること。
  • 課税要件明確主義:その条件が一義的で明確であること。
💡 国民健康保険料は「税金」か?

旭川市国民健康保険条例事件(最大判平18.3.1)
国民健康保険料は形式的には「税」ではありませんが、強制加入・強制徴収される点において実質的に租税に類似するため、憲法84条の趣旨が及ぶとされました。
ただし、条例で料率を定めていれば、具体的な金額算定を告示に委任しても直ちに違憲ではないと判断されています。

(2) 予算と予備費

  • 予算:内閣が作成し、国会に提出・議決します(衆議院の優越あり)。
  • 予備費:予見し難い予算不足に備えて設けることができます(必須ではない)。支出には事後の国会承諾が必要です(承諾が得られなくても支出自体は有効)。

(3) 公金支出の制限(89条)

宗教上の組織や、公の支配に属しない慈善・教育・博愛事業に対し、公金を支出することは禁止されています(私学助成は「公の支配」に属すると解釈され合憲です)。

2. 地方自治(憲法92条~95条)

地方公共団体の組織・運営は、「地方自治の本旨」に基づいて法律で定められます(92条)。

(1) 地方自治の本旨とは

以下の2つの要素から成り立っています。

  • 住民自治:地域の政治を住民の意思で行うこと(例:首長・議員の直接選挙、住民投票)。
  • 団体自治:国から独立して、団体自らの責任で処理すること(例:条例制定権)。

(2) 条例制定権(94条)

地方公共団体は「法律の範囲内」で条例を制定できます。法律より厳しい規制(上乗せ条例)ができるかが問題となりますが、判例は、地域の実情に応じた別段の規制を容認する趣旨であれば合憲としています(徳島市公安条例事件など)。

(3) 地方自治特別法(95条)

特定の地方公共団体のみに適用される法律(例:広島平和記念都市建設法)を作るには、その地方の住民投票で過半数の同意が必要です(国会の議決だけでは成立しません)。

3. 天皇(憲法1条~8条)

天皇は日本国の象徴であり、国政に関する権能を持たず、「国事行為」のみを行います(4条)。すべての国事行為には内閣の助言と承認が必要で、内閣が責任を負います(3条)。

主な国事行為(7条など)の整理

試験では「任命」と「認証」の区別が頻出です。

行為の種類 対象
任命 ・内閣総理大臣(国会の指名)
・最高裁判所長官(内閣の指名)
認証 ・国務大臣、その他の官吏(裁判官など)の任免
・大使・公使の信任状
・大赦・特赦などの恩赦
・条約の批准書など
公布 ・憲法改正、法律、政令、条約
その他 ・国会の召集、衆議院の解散、総選挙の公示
・栄典の授与
💡 皇室財産(8条・88条)

皇室に財産を譲り渡し、または皇室が財産を譲り受け・賜与(プレゼント)するには、国会の議決が必要です。皇室の費用はすべて予算に計上されます。

4. 憲法改正(憲法96条)と最高法規性

(1) 憲法改正の手続

日本国憲法は改正要件が厳しい硬性憲法です。

  1. 発議:各議院の総議員(出席議員ではない!)の3分の2以上の賛成により、国会が発議。
  2. 国民投票:特別の国民投票(または国政選挙の際)で、過半数(有効投票の過半数)の賛成。
  3. 公布:天皇が、国民の名で公布。

(2) 憲法改正の限界

通説(限界説)は、憲法の基本原理(国民主権、基本的人権の尊重、平和主義)を覆すような改正は許されないとしています。

(3) 最高法規性(98条)と条約の関係

憲法に反する法律等は効力を持ちません(98条1項)。
では、条約と憲法はどちらが上でしょうか? 通説・判例(砂川事件)は憲法優位説を採っています。ただし、条約の高度な政治性を考慮し、司法審査は抑制的です。


5. 実戦問題にチャレンジ

問1:財政と租税法律主義
財政および租税法律主義に関する最高裁判所の判例の趣旨として、妥当なものはどれか。

1. 憲法84条は「租税」について法律または法律の定める条件によることを求めているが、国民健康保険料のような保険料は、反対給付としての性質を持つため、いかなる場合も同条の趣旨は及ばない。
2. 旭川市国民健康保険条例事件において、最高裁は、国民健康保険料が強制徴収される公課であることを重視し、賦課徴収の強制の度合いにおいては租税に類似する性質を有するため、憲法84条の趣旨が及ぶと判断した。
3. 地方公共団体が条例によって課税する場合、法律による授権が必要であるが、その条例の内容が法律の定める準則と異なっているときは、たとえ住民の負担を軽減するものであっても直ちに違法となる。
4. 予備費の支出は、事後に国会の承諾を得る必要があるが、もし国会が承諾しなかった場合、その支出行為は遡って無効となり、内閣は法的責任を負う。
5. 決算の承認は、国会の権限であるが、国会が承認しなかったとしても、すでに行われた支出の効力には影響せず、内閣の政治的責任が問われるにとどまることはない。
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正解 2

解説:

1. 誤り。判例は、強制徴収される場合には租税に類似するとして84条の趣旨が及ぶとしています。

2. 正しい。旭川市国保条例事件の判旨そのものです。

3. 誤り。条例による課税(法定外税など)も認められており、法律と異なるからといって直ちに違法とはなりません。

4. 誤り。予備費の承諾が得られなくても、支出行為は有効であり、内閣は「政治的責任」を負うにとどまります。

5. 誤り(文末の記述)。「政治的責任が問われるにとどまる」というのが正しい解釈ですが、選択肢は「とどまることはない」と否定しているため誤りです。

問2:天皇の国事行為
天皇の国事行為に関する次の記述のうち、憲法の規定に照らして正しいものはどれか。

1. 天皇は、国会の指名に基づいて内閣総理大臣を任命し、内閣の指名に基づいて最高裁判所の裁判官全員を任命する。
2. 憲法改正、法律、政令及び条約を公布することは、天皇の国事行為であるが、これらを決定する権限は内閣または国会にある。
3. 衆議院の解散は、内閣の助言と承認に基づいて天皇が行う国事行為であるが、内閣不信任案可決(69条)以外の理由による解散(7条解散)は憲法上認められていない。
4. 栄典の授与は天皇の国事行為であるが、誰に栄典を授与するかを決定する実質的な権限も天皇に属する。
5. 外国の大使及び公使を接受することは天皇の国事行為であるが、全権委任状および大使・公使の信任状を認証することは、内閣総理大臣の権限とされている。
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正解 2

解説:

1. 誤り。最高裁判所の「長たる裁判官」は天皇が任命しますが、その他の裁判官は「内閣」が任命し、天皇が「認証」します。

2. 正しい。公布は天皇が行いますが、決定権はありません。

3. 誤り。7条解散は通説・判例(苫米地事件)により認められています。

4. 誤り。栄典授与の決定権は内閣にあります(7条7号)。

5. 誤り。信任状等の認証も天皇の国事行為です(7条5号)。

問3:憲法改正
憲法改正の手続に関する次の記述のうち、憲法96条の規定に照らして妥当なものはどれか。

1. 憲法改正の発議は、衆議院または参議院のいずれか一方の議院において総議員の3分の2以上の賛成があれば行うことができる。
2. 憲法改正案が国会で発議された場合、国民投票に付されるが、その承認には有権者総数の過半数の賛成が必要である。
3. 国民投票において承認された憲法改正は、直ちに公布されなければならないが、公布を行うのは内閣総理大臣である。
4. 憲法改正の発議における「総議員」とは、法定議員数(定数)を指し、欠員がある場合でも現在議員数ではないと解されている。
5. 天皇は、国民の承認を経た憲法改正について、これを公布する権限を有するが、その公布は「天皇の名」で行われる。
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正解 4

解説:

1. 誤り。「各議院」の総議員の3分の2以上が必要です。

2. 誤り。国民投票の承認要件は「投票総数(有効投票)」の過半数です(有権者総数ではありません)。

3. 誤り。公布は「天皇」が行います(国事行為)。

4. 正しい。96条の「総議員」は法定定数を指します。

5. 誤り。公布は「国民の名で」行われます(96条2項)。

6. まとめと学習アドバイス

今回は、財政・地方自治・天皇・憲法改正について解説しました。

  • 財政:「国保料にも租税法律主義の趣旨が及ぶ」という判例知識が重要。
  • 天皇:国事行為の「認証」と「任命」の対象を正確に区別する。
  • 憲法改正:発議は「総議員の3分の2」、承認は「有効投票の過半数」、公布は「国民の名で」。

これらの分野は、条文の文言(「認証する」「決定する」など)を正確に覚えているかが勝負です。曖昧な記憶は本番で命取りになりますので、試験直前にもう一度条文を確認しておきましょう。

よくある質問(FAQ)

Q. 「認証」とはどういう意味ですか?
A. ある行為が正当な手続きで行われたことを、天皇が公に証明することです。天皇が決定するわけではなく、決定済みの事項について「確認印」を押すようなイメージです。
Q. 憲法改正の「総議員」は、欠席者を含みますか?
A. はい、含みます。さらに言えば「現在議員数(現に在職している人数)」ではなく、「法定議員数(定数)」を指すと解されています。欠員がいても定数を基準に3分の2が必要です。非常にハードルが高い要件です。
Q. 予備費の事後承諾が得られなかったらどうなりますか?
A. 支出行為自体は有効のままです(返金させるわけにはいかないため)。ただし、内閣の政治的責任(問責決議など)が問われることになります。
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