民法の学習が一通り終わった方が商法に入ると、最初に感じる違和感があります。
「あれ?民法と言っていることが違うぞ?」
例えば、民法では「保証人は原則として分別の利益(分割払い)がある」はずなのに、商法では「当然に連帯保証(全額払い)」になります。
民法では「契約の申込みを無視したら不成立」ですが、商法では「無視したら契約成立」になる場合があります。
こうした「民法と商法のルールの違い(特則)」こそが、行政書士試験における商法の最大出題ポイントです。なぜなら、試験委員は受験生が「民法の知識と混同していないか」を試したいからです。
今回は、商法ならではのルールである「商行為の特則」について、特に重要な「商事留置権」や「商事売買(検査通知義務)」を中心に解説します。
民法の原則と比較しながら、「なぜビジネスではそのような特別ルールが必要なのか?」という法の趣旨を理解して、効率よく暗記していきましょう!
1. 商行為の特則とは?(民法の修正)
商法は「民法の特別法」です。民法が一般市民間の対等な関係を規律するのに対し、商法は「プロ(商人)同士」または「プロと企業」のビジネスを規律します。
ビジネスの世界で重視されるのは、以下の2点です。
- 営利性:儲けを確保すること(利息や報酬の請求)。
- 迅速性・確実性:取引をスピーディーに進め、確実に決済すること。
この目的のために、民法のルールを修正したものが「商行為の特則」です。
一方的商行為と双方的商行為
まず、これらの特則が「誰に」適用されるかを確認しましょう。
原則:当事者の一方にとって商行為であれば、双方に商法が適用されます(一方的商行為)。
例外:「商事留置権」や「商事売買」など一部の規定は、当事者双方が商人である場合に限り適用されます(双方的商行為)。
具体例:コンビニでの買い物
学生A(非商人)が、コンビニ(商人)でおにぎりを買う場合。
コンビニ側にとっては「営業的商行為」ですが、学生Aにとってはただの買い物です。
これが「一方的商行為」です。この場合でも、原則として商法が適用されます(例えば、債権の消滅時効など)。
2. 代理と契約成立の特則(スピード重視)
ビジネスの現場では、いちいち形式にこだわっていてはチャンスを逃します。そこで、契約手続きを簡素化するルールがあります。
(1) 非顕名主義(商法504条)
民法の代理では、代理人が「私は本人の代理人です」と示さなければ(顕名)、効果は本人に帰属しません(顕名主義)。
しかし、商法では「本人のためにすることを示さないで」契約をしても、本人に対して効力が生じます(非顕名主義)。
【理由】
商売の現場(例えば店舗の仕入れ担当者)で、いちいち「社長の代理です」と言わなくても、従業員が取引しているなら会社の取引であることは明白だからです。
ただし、相手方が「代理人が本人のためにすること」を知らなかったときは、相手方は代理人に対しても履行の請求ができます(相手方保護のため)。
(2) 代理権の不消滅(商法506条)
民法では「本人の死亡」は代理権の消滅事由です。
しかし、商法では、本人が死亡しても代理権は消滅しません。
【理由】
個人商店の店主が急死しても、店(事業)は続きます。支配人などの代理権がいきなり消滅すると、店の営業がストップしてしまい困るからです。
(3) 契約成立の特則(沈黙は承諾?)
ここが民法との大きな違いです。
① 諾否通知義務と承諾擬制(商法509条)
商人が、「平常取引をする者」から、その営業の部類に属する契約の申込みを受けたときは、遅滞なく諾否の通知を発しなければなりません。
もし、通知を怠った(無視した)場合は、承諾したものとみなされます。
【具体例:酒屋と居酒屋】
居酒屋Aは、いつも酒屋Bからビールを仕入れています(平常取引)。
ある日、居酒屋AがFAXで「いつものビール10ケースお願い」と注文しました。
酒屋Bが忙しくてこれを放置していた場合、契約は成立します。
② 物品保管義務(商法510条)
商人が、申込みとともに物品を受け取った場合、もし契約を拒絶(断る)としても、その物品を保管する義務があります(費用は申込者負担)。
「注文は断るけど、送ってきた商品はそのへんに捨てておこう」とはできません。
3. 多数当事者と金銭の特則(債権回収の強化)
ビジネスでは「確実にお金を回収すること」が最優先です。
(1) 当然の連帯債務・連帯保証(商法511条)
民法では、数人が債務を負う場合、原則は「分割債務(割り勘)」です。また、保証人は特約がなければ「普通の保証(催告・検索の抗弁権あり)」です。
しかし、商法では以下のように厳しくなります。
| 項目 | 民法の原則 | 商法の特則 |
|---|---|---|
| 数人の債務者 | 分割債務 | 連帯債務 (誰か一人のために商行為なら全員連帯) |
| 保証人 | 単なる保証 | 連帯保証 (主債務が商行為、または保証が商行為なら) |
【理由】
債権者は、誰か一人でも資力のある人に全額請求できたほうが、回収が確実で早いからです。
(2) 報酬請求権・利息請求権
民法の委任や消費貸借は、原則「無償(タダ)」です。
しかし、商人は営利目的で動いているので、特約がなくても当然に「報酬」と「法定利息(年6%)」を請求できます。
※ただし、利息請求権は「商人間」の金銭消費貸借に限られる点に注意してください(商法513条1項)。
4. 担保に関する特則(流質と留置権)
ここからが試験の頻出エリアです。特に「商事留置権」は記述式でも要注意です。
(1) 流質(りゅうしち)契約の許容(商法515条)
「借金が返せなかったら、質に入れた高級時計はそのままあげる(所有権を移転する)」という契約を流質契約といいます。
民法では、債務者が安く買い叩かれるのを防ぐために禁止されています。
しかし、商法(商行為によって生じた債権)では有効です。商人は物の相場を知っており、資金調達のニーズが高いからです。
(2) 商事留置権(商法521条)
留置権とは、「お金を払ってくれるまで、預かった物は返さない!」と主張できる権利です。
民法上の留置権と商事留置権には、決定的な違いがあります。
【民法と商法の比較表(超重要)】
| 項目 | 民事留置権 | 商事留置権 |
|---|---|---|
| 当事者 | 誰でもOK | 双方商人に限る |
| 被担保債権 | その物に関して生じた債権 (牽連性必要) |
商行為によって生じた債権 (牽連性不要) |
| 目的物 | 他人の物 (債務者以外でもOK) |
債務者の所有物に限る |
| 特約による排除 | できない | できる |
具体例で理解する「牽連性(けんれんせい)不要」
【民事の場合】
時計屋さんが修理代をもらうまで、その「修理した時計」を留置できます。これが牽連性(債権と物とのつながり)です。
【商事の場合】
メーカーAと運送会社Bが取引をしています。
今回、BはAの荷物(パソコン)を運びましたが、まだ先月分の運賃(今回のパソコンとは関係ない債権)をもらっていません。
この場合、Bは先月分の運賃を確保するために、「今回のパソコン」を留置することができます。
これが「牽連性不要」です。
【理由】
商人間では継続的に取引が行われているため、どの債権のためにどの商品を担保にするかという細かい結びつきよりも、「とりあえず相手の財産を押さえて回収を図る」ことを認めるのが合理的だからです。
商事留置権の対象は「債務者の所有物」に限られます。もし、運送会社Bが預かった荷物が、Aの所有物ではなく第三者Cの物だった場合、商事留置権は成立しません(民事留置権なら成立する可能性があります)。
5. 売買の特則(商事売買)
「商人間」の売買契約においては、民法の担保責任(契約不適合責任)のルールが修正され、買主に厳しい義務が課されます。
これを「商事売買」といいます。
(1) 供託・競売権(受領拒否への対応)
買主が商品の受け取りを拒否した場合、売主は商品を供託したり、競売(オークション)にかけてお金に変えて供託したりすることができます。
生鮮食品など腐りやすいものは、すぐに競売にかけて現金化しないと損をするからです。
(2) 定期売買の解除(履行遅滞)
「クリスマスケーキ」や「お中元」のように、特定の日時に届かなければ意味がない売買を「定期売買」といいます。
商人間の定期売買で遅刻(履行遅滞)があった場合、相手方が直ちに履行請求をしない限り、契約は解除されたものとみなされます(商法525条)。
民法のように「解除の通知」をする必要すらありません。
(3) 【最重要】買主の検査・通知義務(商法526条)
ここが一番出ます。民法の契約不適合責任と比較して覚えましょう。
商人間の売買で、買主が商品を受け取ったときは、以下の義務を負います。
- 検査義務:遅滞なく、その物を検査しなければならない。
- 通知義務:
- 欠陥(瑕疵)を発見したら、直ちに売主に通知する。
- 直ちに発見できない欠陥でも、受領から6ヶ月以内に発見して通知する。
もし、この検査・通知を怠るとどうなるか?
→ 売主に対して、契約不適合責任(解除、減額請求、損害賠償など)を一切追及できなくなります。
【理由】
商売の商品は大量かつ流通スピードが速いです。半年も1年も経ってから「あの商品、傷がついてたぞ!」と言われても、売主は困ります(転売されて原因が不明になるなど)。
だから、「プロなら届いてすぐチェックしろ。文句があるならすぐ言え。言わなきゃ文句なしとみなす」という厳しいルールになっているのです。
売主が「欠陥があることを知っていて発送した(悪意)」場合は、さすがに売主を保護する必要はないため、この特則は適用されません(民法の原則通り、知ってから1年以内の通知などでOKとなります)。
(4) 買主の保管・供託義務(商法527条)
買主が「商品が違うから返品する(解除する)」となった場合でも、その商品を勝手に投げ捨ててはいけません。
売主の費用で、その商品を一時的に保管・供託する義務があります。
遠隔地取引で商品が往復すると痛むため、とりあえず手元にある買主が管理するのが経済的だからです。
※ただし、売主と買主が同一の市町村内にいる場合は、すぐに返せるのでこの義務はありません。
6. 実戦問題で理解度チェック!
ここまでの解説をもとに、行政書士試験レベルのオリジナル問題に挑戦しましょう。
1. 商人が平常取引をする者からその営業の部類に属する契約の申込みを受けたときは、遅滞なく承諾の通知を発しなければならず、これを怠ったときは、当該申込みを拒絶したものとみなされる。
2. 商行為の代理人が、本人のためにすることを示さないでこれをした場合であっても、その行為は本人に対してその効力を生ずるが、相手方が代理人が本人のためにすることを知らなかったときは、相手方は、代理人に対して履行の請求をすることができる。
3. 数人の者がその全員のために商行為となる行為によって債務を負担したときは、その債務は分割債務となり、各自が平等の割合で負担する。
4. 商人間において金銭の消費貸借がなされた場合であっても、利息を支払う旨の特約がなければ、貸主は借主に対して利息を請求することはできない。
5. 商行為によって生じた債権を担保するために質権を設定する場合であっても、質権設定者が弁済期前に質契約によって質物の所有権を質権者に取得させることは禁止されている。
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正解 2
解説:
1. 誤り。「拒絶」ではなく「承諾」したものとみなされます(商法509条)。いわゆる承諾擬制です。
2. 正しい。非顕名主義の原則と、相手方保護のための例外規定です(商法504条)。
3. 誤り。商行為による債務は、原則として「連帯債務」となります(商法511条1項)。債権回収の確実性を図るためです。
4. 誤り。商人間の金銭消費貸借では、特約がなくても法定利息を請求できます(商法513条1項)。
5. 誤り。商行為による債権を担保するための質権設定では、流質契約(所有権移転の予約)は有効です(商法515条)。民法の流質禁止規定は適用されません。
1. 民法上の留置権は当事者間の特約によって排除することができるが、商事留置権は強行規定であるため、特約によって排除することはできない。
2. 民法上の留置権が成立するためには、債権と留置物との間に牽連性が必要であるが、商事留置権においては、債権と留置物との間の牽連性は不要である。
3. 民法上の留置権は、留置物が債務者の所有物である場合に限られるが、商事留置権は、留置物が債務者の所有物でなくても成立する。
4. 民法上の留置権は不動産にも成立するが、商事留置権は迅速な換価を目的とするため、動産に限られ、不動産には成立しない。
5. 商事留置権は、当事者の一方が商人であれば成立するが、民法上の留置権は当事者の身分を問わない。
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正解 2
解説:
1. 誤り。商事留置権も任意規定であり、特約で排除することができます(商法521条ただし書)。
2. 正しい。商事留置権の最大の特徴です。商行為によって生じた債権であれば、個別の牽連性は不要です。
3. 誤り。逆です。民事留置権は他人の物であれば成立しますが、商事留置権は「債務者の所有物」に限られます。
4. 誤り。商事留置権の対象は「物または有価証券」であり、不動産も含まれます。
5. 誤り。商事留置権は「双方商人」の間でなければ成立しません(商法521条)。
1. 買主は、目的物を受領したときは、遅滞なく、その物を検査しなければならない。
2. 買主が検査により、売買の目的物に瑕疵があることを発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ、その瑕疵を理由として契約の解除や損害賠償の請求をすることができない。
3. 売買の目的物の瑕疵が直ちに発見することのできないものであった場合、買主が受領後6ヶ月以内にその瑕疵を発見して通知すれば、売主の責任を追及することができる。
4. 売主が目的物を引き渡す際、その目的物に瑕疵があることを知っていた場合であっても、買主が検査・通知義務を怠れば、売主は責任を免れる。
5. この検査・通知義務に関する規定は、商人間における売買契約にのみ適用され、商人から非商人が購入するような一方的商行為には適用されない。
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正解 4
解説:
1. 正しい。商法526条1項の規定通りです。
2. 正しい。瑕疵を発見した場合は「直ちに」通知が必要です。
3. 正しい。隠れた瑕疵の場合の期間制限は「受領後6ヶ月」です。
4. 誤り。売主が悪意(瑕疵を知っていた)の場合には、買主を保護する必要性が上回るため、検査・通知義務を怠っても売主は免責されません(商法526条3項)。
5. 正しい。商事売買の特則は「商人間」の双方的商行為に限定されます。
7. まとめ
今回は、民法とは異なる商法独特のルール「商行為の特則」について解説しました。
ポイントを整理します。
- 代理・成立:非顕名主義、死亡しても代理権不消滅、無視したら承諾(平常取引)。
- 債務・担保:当然に連帯債務・連帯保証。流質OK。
- 商事留置権:双方商人、牽連性不要、債務者の所有物限定。
- 商事売買:検査通知義務(遅滞なく検査、直ちに通知、隠れた瑕疵は6ヶ月)。
試験対策としては、「民法との比較表」が頭に入っているかが勝負です。
特に商事留置権と商事売買は、事例問題での出題頻度が高いので、問題演習を通じて「あ、これは商法の話だ!」と即座に反応できるようにしておきましょう。
次回は、その他の商法規定として「匿名組合」や「運送営業」など、少しマイナーですが知っていると得点できる分野をカバーします。
よくある質問(FAQ)
- Q1. 商行為の特則は、片方が商人の場合でも適用されますか?
- 規定によります。契約の成立(承諾擬制)や連帯債務などの規定は「一方的商行為(片方が商人)」でも適用されますが、商事留置権と商事売買の特則は「双方的商行為(両方が商人)」の場合にしか適用されません。この区別は超重要です。
- Q2. 商事留置権で「牽連性不要」とはどういう意味ですか?
- 留置する物と、担保したい債権との間に直接的な関係がなくてもよいという意味です。例えば、今回の取引の商品を留置して、前回の取引の未払い金を請求することができます。
- Q3. 商事売買の検査通知義務を怠るとどうなりますか?
- 売主に対して、契約不適合責任(契約解除、代金減額請求、損害賠償請求、完全物給付請求)を一切追求できなくなります。つまり、欠陥商品をつかまされても文句が言えなくなります。
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