「商法のメインは商行為だけど、運送とか匿名組合って勉強する必要あるの?」
「名板貸しとか営業譲渡って、似たような言葉が多くて混乱する…」
こんなふうに思っていませんか?
実は、今回解説する「その他の商法規定(運送・場屋・匿名組合・商号)」は、行政書士試験において「知っていれば即答できるが得点源」になる超重要エリアです。
民法の知識だけでは解けない「商法独自のルール(高価品の特則など)」が多く、ここをおろそかにすると、本試験で易しい問題を落としてしまうことになります。
今回は、これら少しマイナーだけれど重要なテーマを、ストーリー仕立ての具体例で一気に攻略します。
2026年度試験合格に向けて、商法の死角をなくしていきましょう!
1. 物品運送(運送人の責任と高価品)
まずは、ネットショッピング全盛の現代において欠かせない「運送」のルールです。
ここでは、荷物を送る「荷送人(におくりにん)」、運ぶ「運送人」、受け取る「荷受人」の3者が登場します。
(1) 運送人の損害賠償責任(商法575条)
運送人は、荷物を預かってから引き渡すまでの間、荷物が壊れたり無くなったり(滅失・損傷)、届くのが遅れたり(延着)した場合、損害賠償責任を負います。
通常、損害賠償を請求する側(荷送人)が相手の過失を証明しなければなりませんが、運送に関しては逆です。
運送人が「自分たちは注意を怠らなかった(過失はなかった)」ことを証明しない限り、責任を免れません。
これは、輸送中の事故原因なんて、荷送人には知りようがないからです。
(2) 【最重要】高価品の特則(商法577条)
ここが試験で最も狙われるポイントです。
貨幣、有価証券、宝石などの「高価品」については、特別なルールがあります。
原則:通知がなければ免責
荷送人が、運送委託時に「種類および価額」を通知しなかった場合、運送人はその損害(滅失・損傷・延着)について責任を負いません。
【理由】
「ただの古着です」と言われて預かったダンボールの中に、実は1000万円の壺が入っていたらどうでしょう?運送人は通常の扱いで運びますから、壊れてしまった場合に1000万円も請求されたらたまりません。だから、「高いものなら先に言え、言わなきゃ責任取らんぞ」というルールになっています。
例外:悪意・重過失なら責任あり
ただし、通知がなくても、以下の場合は運送人は責任を負います。
- 運送契約締結時に、中身が高価品であることを知っていた(悪意)とき。
- 運送人の故意または重大な過失によって損害が生じたとき。
「中身を知っていた」あるいは「荷物を放り投げた(重過失)」ような場合まで、免責する必要はないからです。
(3) 荷受人の権利義務(引渡し後)
荷物が目的地に到着し、荷受人が荷物の引渡しを請求した後は、荷受人が荷送人と同一の権利を取得します(商法581条)。
また、荷受人が荷物を受け取って運賃を支払った場合、運送人の責任は原則として消滅します(商法584条)。「受け取って金も払った=問題なしと認めた」とされるからです。
受け取ったときは気づかなかったけれど、箱を開けたら壊れていた場合はどうなるでしょう?
この場合、荷受人は引渡しの日から2週間以内に通知を発すれば、責任を追及できます(売買の「6ヶ月」と混同しないように!)。
2. 場屋営業(ホテル・飲食店の責任)
「場屋(じょうおく)営業」とは、人が集まる施設(旅館、ホテル、飲食店、浴場など)のことです。
ここでも、客の荷物がなくなった場合の責任が問われます。
(1) 寄託物(預かった物)の責任
フロントやクロークで荷物を預かった場合、不可抗力(地震や火事など)であることを証明しない限り、責任を負います(商法596条1項)。
これは非常に重い責任(無過失責任に近い)です。
(2) 携帯品(持ち込んだ物)の責任
客席に持ち込んだバッグや、傘立ての傘など、店側に預けていない物については、場屋営業者に過失(注意を怠ったこと)があった場合に限り責任を負います。
(3) 【重要】責任の告示(張り紙)の効果
よく飲食店に「貴重品の紛失・盗難等については、当店は一切責任を負いません」という張り紙がありますよね。
あれは法律上、無効です(商法596条3項)。
場屋営業者は、こうした告知をしたことを理由に、責任を免れることはできません。これを認めると、客にとって不利すぎるからです。
(4) 高価品の特則(商法597条)
運送と同じく、客が高価品(宝石や多額の現金)の「種類と価額」を通知して預けない限り、場屋営業者は責任を負いません。
ただし、店側が「特にこれ(高価品)を預かったとき」や、店側の「故意・重過失」があるときは責任を負います。
3. 匿名組合(サイレント・パートナー)
「匿名組合」という名前は怪しげですが、ベンチャー投資などで使われる一般的な契約形態です。
「お金だけ出す人(A)」と「事業をやる人(B)」のペアだと考えてください。
(1) 匿名組合の仕組み(商法535条)
- 匿名組合員(A):営業者(B)のために出資し、利益の分配を受けることを約束する。
- 営業者(B):Aから出資を受けて、自分の名でビジネスを行う。
【具体例:ラーメン屋ファンド】
サラリーマンAさんは、ラーメン職人Bさんの腕に惚れ込み、「開店資金500万円を出すから、利益が出たら半分わけてくれ」と契約しました。Aさんは店には出ず、口も出しません。
(2) 民法の組合との違い(比較表)
ここが試験の急所です。「民法上の組合(パートナーシップ)」との違いを明確にしましょう。
| 項目 | 民法の組合 | 商法の匿名組合 |
|---|---|---|
| 出資の目的物 | 金銭、物、労務、信用もOK | 財産(金銭等)に限る (労務や信用はダメ) |
| 財産の帰属 | 組合員全員の共有(合有) | 営業者(B)の単独所有 |
| 業務執行 | 原則として全員(または選任者) | 営業者(B)のみが行う (Aは業務執行できない) |
| 対外関係 | 組合員全員が権利義務の主体 | 営業者(B)のみが主体 (Aは第三者に対して権利義務を持たない) |
| 顕名 | 氏名を出すと連帯責任 | 氏名を出してはいけない (出すと連帯責任) |
匿名組合員Aは、世間(第三者)に対して名前が出ません。だから「匿名」なのです。
もし、Aが自分の名前を商号に使わせたり(名板貸し)、業務執行に参加したりすると、第三者は「Aも経営者なんだな」と誤信します。その場合、Aは営業者Bと連帯して責任を負わされます(商法537条)。
4. 商号(ビジネスネームのルール)
商人が営業上使用する名称を「商号」といいます。
会社の場合は「〇〇株式会社」などが商号です。個人商人の場合は「〇〇屋」「〇〇商店」などです。
(1) 商号選定のルール
- 商号自由の原則:基本的には自由に決められます。ひらがな、カタカナ、ローマ字、アラビア数字もOKです。
- 商号単一の原則:1つの営業(会社なら1つの会社)につき、商号は1つに限られます。
- 不正目的の商号使用禁止:「不正の目的」をもって、他人の商号と誤認させるような商号を使用してはいけません(商法12条)。侵害された人は、使用の差止めや損害賠償を請求できます。
(2) 名板貸し(ないたがし)の責任(商法14条)
これが商号分野の最重要論点です。
「自分の名前(商号)を使って商売していいよ」と他人に許諾することを「名板貸し」といいます。
【事例】
有名な運送業者A社が、個人業者Bに対し、「A運送 ○○支店」というトラックや看板を使って営業することを許可しました。
何も知らない客Cは、「大手のA社なら安心だ」と思ってBに運送を依頼しましたが、Bが荷物を壊してしまいました。
【結論】
A社(名板貸人)は、B(名板借人)と連帯して、Cに対して損害賠償責任を負います。
【理由(外観法理)】
A社を信頼して取引したCを保護するためです。自分の名前を使わせたA社にも責任がある、ということです。
※ただし、Cが「BはA社とは別人だ」と知っていた場合(悪意)は、A社は責任を負いません。
(3) 商号の譲渡
商号には「のれん(顧客吸引力)」という財産的価値があるため、譲渡することができます(商法15条)。
- 譲渡の要件:「営業とともにする場合」または「営業を廃止する場合」に限られます。(名前だけ売って営業を続けることは、顧客を混乱させるため禁止)。
- 対抗要件:登記をしなければ、第三者に対抗できません。
5. 営業譲渡(事業譲渡)と債務の引受け
ある商人が、そのビジネス(営業)を丸ごと他人に売ることを「営業譲渡(会社法では事業譲渡)」といいます。
このとき、「元のオーナー(譲渡人)の借金はどうなるの?」というのが最大の問題です。
ここには、買った人(譲受人)が「商号を引き継ぐかどうか」で結論が変わるという、超重要ルールがあります。
(1) 商号を続用する場合(名前を引き継ぐ)
原則:譲受人も責任を負う(連帯責任)
譲受人Bが、譲渡人Aの商号(屋号)をそのまま使い続ける場合、BもAの債務を弁済する責任を負います(商法17条1項)。
【理由】
債権者から見れば、看板(商号)が同じなら経営者が変わったことに気づきません。「あの店ならツケで売っても大丈夫」という信用は商号にあるからです。
例外:責任を負わない方法
以下のいずれかを行えば、Bは責任を負いません。
- 営業譲渡後、遅滞なく「責任を負わない旨」を登記する。
- 譲渡人と譲受人の双方から、第三者(債権者)に対して「責任を負わない旨」を通知する。
(2) 商号を続用しない場合(名前を変える)
原則:譲受人は責任を負わない
譲受人Bが、全く別の商号で営業を始めたなら、債権者が誤認することはないため、原則としてBはAの借金を背負いません。
例外:広告をした場合
ただし、Bが「Aの債務を引き受けます」という旨の広告をした場合は、責任を負います(商法18条)。
6. 実戦問題で理解度チェック!
ここまでの解説をもとに、行政書士試験レベルのオリジナル問題に挑戦しましょう。
1. 運送人は、運送品の滅失、損傷または延着について、自己またはその使用人が注意を怠らなかったことを証明した場合であっても、不可抗力であることを証明しない限り、損害賠償責任を免れることはできない。
2. 運送品が宝石などの高価品である場合、荷送人が運送を委託するに当たりその種類および価額を通知しなかったときは、運送人がそのことについて悪意または重大な過失があったとしても、運送人は損害賠償責任を負わない。
3. 場屋営業者は、客から寄託を受けた物品については、不可抗力による損害であることを証明しない限り、損害賠償責任を負うが、客が携帯した(寄託していない)物品については、場屋営業者に過失がない限り責任を負わない。
4. 場屋営業者が、休憩所等の見えやすい場所に「携帯品の盗難・紛失については一切責任を負いません」という掲示をしていた場合、客の携帯品が紛失したとしても、場屋営業者はその掲示を理由に責任を免れることができる。
5. 高価品に関する特則は、物品運送においては規定されているが、場屋営業においては規定されておらず、場屋営業者は客が高価品であることを告げずに寄託した物品についても、原則として責任を負わなければならない。
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正解 3
解説:
1. 誤り。運送人の責任は「過失責任(立証責任の転換)」です。注意を怠らなかったことを証明すれば免責されます(商法575条)。不可抗力の証明までは求められていません(場屋営業の寄託物責任との違い)。
2. 誤り。高価品の通知がなくても、運送人が悪意または重大な過失がある場合は、責任を負います(商法577条2項)。
3. 正しい。寄託物は「不可抗力証明責任(ほぼ無過失責任)」、携帯品は「過失責任」です(商法596条)。この区別は非常に重要です。
4. 誤り。場屋営業者は、責任を負わない旨の告示(掲示)をしたことを理由として、責任を免れることはできません(商法596条3項)。
5. 誤り。場屋営業においても高価品の特則(商法597条)があり、種類・価額の通知がなければ原則として責任を負いません。
1. 匿名組合契約において、匿名組合員が出資できるのは金銭その他の財産に限られ、労務や信用を出資の目的とすることはできない。
2. 匿名組合員が出資した財産は、営業者の財産に帰属し、匿名組合員は営業者の業務を執行することはできない。
3. 匿名組合員は、営業者の行為について、第三者に対して権利および義務を有しないのが原則である。
4. 匿名組合員が自己の氏名を営業者の商号中に用いることを許諾したときは、その使用以後に生じた債務については、営業者と連帯して弁済する責任を負う。
5. 匿名組合契約が終了した場合、営業者の事業が失敗して損失が生じていたとしても、営業者は匿名組合員に対して出資額の全額を返還しなければならない。
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正解 5
解説:
1. 正しい。匿名組合の出資は財産に限られます(商法536条)。民法上の組合との違いです。
2. 正しい。出資財産は営業者の単独所有となり、業務執行権も営業者のみにあります。
3. 正しい。対外的には営業者のみが権利義務の主体となります。
4. 正しい。名板貸しと同様の理屈で、名前を出せば連帯責任を負います(商法537条)。
5. 誤り。出資が損失によって減少したときは、その残額を返還すれば足ります(商法542条)。全額返還義務があるなら、それはただの「貸金」になってしまいます。
1. 譲受人Bが譲渡人Aの商号を続用する場合、Bは、原則としてAの営業によって生じた債務を弁済する責任を負う。
2. 譲受人BがAの商号を続用する場合であっても、営業譲渡後遅滞なく、BがAの債務を弁済する責任を負わない旨を登記したときは、Bはその責任を負わない。
3. 譲受人BがAの商号を続用しない場合であっても、Aの営業によって生じた債務を引き受ける旨の広告をしたときは、Bは債権者に対して弁済の責任を負う。
4. 譲受人BがAの商号を続用することによりAの債務を弁済する責任を負う場合、譲渡人Aの債務はBに移転して消滅するため、Aは債権者に対する弁済責任を免れる。
5. 譲受人BがAの商号を続用する場合におけるAの債務者に対する責任は、譲渡後2年以内に請求または請求の予告がなされないときは、時効により消滅するのではなく、除籍期間の経過により消滅する。
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正解 4
解説:
1. 妥当。商号続用の原則的効果です(商法17条1項)。
2. 妥当。免責登記があれば責任を負いません(商法17条2項)。
3. 妥当。商号を続用しなくても、広告をすれば責任を負います(商法18条1項)。
4. 妥当でない(誤り)。商号続用によりBが責任を負う場合でも、Aの責任が当然に消滅するわけではありません。AとBは連帯債務者となります。Aが責任を免れるわけではない点に注意が必要です。
5. 妥当。厳密には「期間を経過した時に消滅する」という表現ですが(商法17条2項等)、民法のような時効の中断(更新)がない除籍期間としての性質を持ちます。
7. まとめ
今回は、商法の「その他」の規定について解説しました。
範囲は広いですが、覚えるべきポイントは明確です。
- 物品運送:運送人の過失立証責任の転換、高価品の通知義務(原則免責、悪意重過失は有責)。
- 場屋営業:寄託物は不可抗力証明、携帯品は過失責任。「責任負いません」の張り紙は無効。
- 匿名組合:金銭出資のみ。業務執行しない。名前を出したら連帯責任。
- 商号・営業譲渡:名板貸しは連帯責任。商号を続用する譲受人は原則として前主の借金を負う(登記で免責可)。
これらの知識は、一度理解してしまえば忘れにくいものです。試験直前期に見直すだけでも効果があります。
これで、商法総則・商行為法の主要な論点はカバーできました。自信を持って過去問演習に進んでください!
よくある質問(FAQ)
- Q1. 「高価品」とは具体的にいくら以上のものですか?
- 法律上、具体的な金額基準はありません。「貨幣、有価証券その他の高価品」と規定されており、容積・重量に比して著しく高価なものを指します。常識的に考えて、運送人が「そんな高いものが入っているとは思わない」レベルのものが該当します。
- Q2. 匿名組合と民法上の組合の最大の違いは何ですか?
- 「法人格がない」点は共通ですが、最大の違いは「対外的な責任」です。民法上の組合は組合員全員が対外的に権利義務を持ちますが、匿名組合員はあくまで営業者にお金を出しているだけで、第三者に対しては権利も義務も持ちません(名前が出ない限り)。
- Q3. 営業譲渡で商号を変えたのに借金を負うことはありますか?
- 原則としてありません。商号(屋号)が変われば、債権者が誤認することはないからです。ただし、例外として「借金を引き受けます」という広告を出した場合などは責任を負うことになります。
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