前回は、株主総会を開くための準備である「招集手続き」について解説しました。
今回は、いよいよ総会当日のメインイベント、「議決権の行使」と「決議の方法」、そしてもし手続きにミスがあった場合の「事後処理(訴え)」について解説します。
「特別決議と特殊決議、名前が似てて覚えられない…」
「決議の取消しと無効、どっちがどっちだっけ?」
この分野は、「数字(定足数や賛成率)」と「訴えの要件(期間や提訴権者)」を正確に暗記しているかが勝負の分かれ目になります。
特に、記述式問題で「どのような決議が必要か?」と問われたときに、正確に答えられるようにしておかなければなりません。
今回は、ややこしい決議パターンを表で整理し、試験で頻出の「決議の瑕疵(かし)」の論点もスッキリ解説します。2026年度合格に向けて、会社法の得点源を盤石にしましょう!
1. 議決権の行使方法(1株1票の原則と例外)
株主総会での投票権である「議決権」には、いくつかのルールがあります。
(1) 1株1議決権の原則
原則として、株主は「有する株式1株(単元株制度採用会社では1単元)につき1個」の議決権を持ちます(会社法308条1項)。
「1人1票」ではなく「1株1票」である点が、株式会社(資本多数決)の特徴です。
議決権がない場合(重要!)
以下の株式には、議決権がありません。
- 議決権制限株式:定款で「この事項には投票できない」と決められた株。
- 自己株式:会社が自分で持っている自社の株(会社が自分に投票するのは変だから)。
- 相互保有株式(25%ルール):
A社がB社の株式の4分の1(25%)以上を持っている場合、B社が持っているA社株には議決権がありません(会社法308条1項括弧書)。
※お互いに馴れ合いで経営陣を保身するのを防ぐためです。
(2) 代理人による行使
株主は、総会に行けない場合、代理人に投票してもらうことができます(会社法310条)。
会社は「代理人は株主に限る」といった定款の定めを置くことで、無関係な第三者が総会に入り込んで攪乱することを防ぐことができます(判例でも有効とされています)。
(3) 議決権の不統一行使(票を分ける)
「私は100株持っているけど、50票は賛成、50票は反対にする」という使い方ができるでしょうか?
これを「不統一行使」といいます。
- 原則:可能です(3日前までに通知が必要)。
- 例外:会社は拒否できます。ただし、株主が「他人のために株を持っている場合(信託銀行など)」は拒否できません。
(4) 書面・電磁的方法による行使
総会に行かずに、郵送(書面)やネット(電磁的方法)で投票する制度です。
- 株主が1,000人以上の会社 → 書面投票の採用が義務。
- その他の会社 → 任意で採用可能。
※この方法で投票された票は、当日の出席数(定足数)にカウントされます。
2. 決議の方法(普通・特別・特殊)
ここが今回の最重要ポイントです。
株主総会の決議には、議題の重要度に応じて3つのレベルがあります。
定足数(ていそくすう):会議を開くために最低限必要な出席数。
決議要件:出席した中で、どれだけの賛成が必要か。
(1) 決議要件の比較表(完全暗記!)
| 種類 | ① 定足数(出席率) (原則) |
② 決議要件(賛成率) (原則) |
定款による変更の限界 |
|---|---|---|---|
| 普通決議 | 議決権の過半数 | 出席者の過半数 | 定足数は排除(0)まで可能。 (役員選任等は1/3まで) |
| 特別決議 | 議決権の過半数 | 出席者の3分の2以上 | 定足数は3分の1まで緩和可能。 賛成率は緩和不可(加重は可)。 |
| 特殊決議① (309条3項) |
なし (全員対象) |
A. 頭数(人数)の半数以上 B. 議決権の3分の2以上 |
緩和不可。 |
| 特殊決議② (309条4項) |
なし (全員対象) |
A. 頭数(人数)の半数以上 B. 議決権の4分の3以上 |
緩和不可。 |
(2) 各決議の対象事項(具体例)
① 普通決議(日常的なこと)
役員の選任・解任、配当の決定、計算書類の承認など。
※ただし、役員の選任・解任については、定足数を完全に排除することはできず、「3分の1」までしか下げられません(組織の根幹だからです)。
② 特別決議(重要なこと)
会社の基礎に関わる変更事項です。
定款変更、合併・分割・事業譲渡、資本金の減少、監査役の解任など。
取締役の解任は「普通決議」ですが、監査役の解任は「特別決議」です。監査役は経営陣を監視する立場なので、社長派の株主によって簡単にクビにされないよう、身分保障が厚くなっています。
③ 特殊決議(超重要なこと)
株主にとって極めて不利益になる可能性がある事項です。
- 特殊決議①(頭数半数+議決権2/3):
株式の譲渡制限を新設する定款変更(公開会社→非公開会社へ)、全部取得条項付株式の新設など。
※「頭数」の要件があることで、大株主1人のわがままで強行することを防いでいます。 - 特殊決議②(頭数半数+議決権3/4):
非公開会社における「属人的定め(配当や議決権の差別)」の定款変更。
※特定の株主だけ優遇または冷遇する強力な定めなので、最も厳しい要件になっています。
(3) 決議の省略(みなし決議)
株主総会を実際に開かなくても、以下の要件を満たせば「決議があった」とみなされます(会社法319条)。
- 取締役または株主が提案し、
- 議決権を行使できる株主の「全員」が、
- 書面または電磁的記録で「同意」したとき。
※中小企業などでよく使われる「持ち回り決議」です。
3. 決議にミスがあったら?(決議の瑕疵)
「招集通知を出し忘れた」「定足数が足りないのに可決した」といったミスがあった場合、その決議の効力をどう争うかが問題になります。
会社法では、瑕疵(かし)の程度に応じて4つの訴えを用意していますが、試験で重要なのは以下の2つです。
(1) 決議取消しの訴え(会社法831条)
「手続きにちょっとしたミスがあった」場合など、放置すれば有効だけど、訴えれば取り消せるというものです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 取消事由 (原因) |
1. 招集手続・決議方法が法令・定款に違反する場合 (例:通知漏れ、定足数不足) 2. 招集手続・決議方法が著しく不公正な場合 3. 決議の内容が定款に違反する場合 4. 特別利害関係人が議決権を行使し、著しく不当な決議がされた場合 |
| 提訴期間 | 決議の日から3ヶ月以内 |
| 提訴権者 | 株主、取締役、監査役など |
| 裁量棄却 | あり(違反が重大でなく、結果に影響がない場合、裁判所は請求を棄却できる) |
「決議の内容」が違反している場合、それが「法令違反」なら無効(後述)ですが、「定款違反」なら取消事由にとどまります。
定款は会社内部のルールに過ぎないので、3ヶ月経てば確定させてしまおう(法的安定性)という趣旨です。
(2) 決議無効確認の訴え(会社法830条2項)
「内容が法令違反」など、誰が見てもダメな場合です。
- 無効事由:決議の内容が法令に違反する場合。
(例:株主平等原則に反する配当決議など) - 提訴期間:いつでも(制限なし)。
- 提訴権者:誰でも(確認の利益がある者)。
(3) 決議不存在確認の訴え(会社法830条1項)
「そもそも総会が開かれていない」など、物理的にあり得ない場合です。
- 不存在事由:手続きが実質的に行われていない場合。
(例:取締役が勝手に議事録を捏造した、一部の株主にしか通知せず開催したなど) - 提訴期間・権者:いつでも、誰でも。
4. 実戦問題で理解度チェック!
ここまでの知識を使って、本試験レベルの問題に挑戦しましょう。
1. 株式会社は、自己株式については議決権を有しない。
2. A株式会社がB株式会社の発行済株式総数の4分の1以上を有する場合、B社は、その有するA社株式について議決権を行使することができない。
3. 株主は、代理人によって議決権を行使することができるが、株式会社は定款をもって、代理人を株主に限る旨の制限を設けることができる。
4. 株主が2以上の議決権を有する場合において、その議決権を統一しないで行使しようとするときは、取締役会設置会社においては、会日の3日前までにその旨を通知しなければならないが、会社はこれを拒むことはできない。
5. 議決権を行使することができる株主の数が1,000人以上の株式会社においては、書面による議決権行使を認めなければならない。
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正解 4
解説:
1. 正しい。自己株式に議決権はありません(308条2項)。
2. 正しい。相互保有株式(25%ルール)による議決権制限です(308条1項)。
3. 正しい。代理人の資格制限(株主に限る)は判例上も有効です。
4. 誤り。不統一行使に対し、会社は原則として拒むことができます。拒めないのは、株主が「他人のために株式を有する者(信託銀行等)」である場合に限られます(313条3項)。一般の個人株主の気まぐれな不統一行使には付き合う必要はありません。
5. 正しい。大規模会社における書面投票の義務化です(298条2項)。
1. 監査役の解任決議は、株主総会の普通決議によって行うことができる。
2. 取締役の選任決議(普通決議)について、定款で定足数を完全に排除する(定足数を設けない)旨を定めることができる。
3. 特別決議の定足数は、定款で定めても、議決権を行使することができる株主の議決権の3分の1未満に引き下げることはできない。
4. 譲渡制限株式の定めを設ける定款変更の決議(特殊決議)は、総株主の半数以上が出席し、総株主の議決権の3分の2以上の賛成によって行わなければならない。
5. 株主総会の決議を省略するためには、提案された事項について、議決権を行使することができる株主の過半数の同意があれば足りる。
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正解 3
解説:
1. 誤り。監査役の解任は特別決議が必要です(309条2項7号)。取締役の解任(普通決議)と異なります。
2. 誤り。役員選任・解任の普通決議については、定足数を3分の1未満にすることはできません(341条)。完全排除は不可です。
3. 正しい。特別決議の定足数は、定款で緩和できますが、3分の1が下限です(309条2項)。
4. 誤り。特殊決議(309条3項)の要件は、「総株主の半数以上(定足数ではなく頭数要件)」かつ「総株主の議決権の3分の2以上」です。「出席し」ではありません。
5. 誤り。書面決議(決議省略)には、株主全員の同意が必要です(319条1項)。
1. 株主総会の招集手続が法令に違反する場合、株主は、決議の日から3ヶ月以内に、決議取消しの訴えを提起することができる。
2. 株主総会の決議内容が定款に違反する場合、その決議は無効であり、いつでも決議無効確認の訴えを提起することができる。
3. 決議取消しの訴えが提起された場合であっても、裁判所は、招集手続等の違反事実が重大でなく、かつ決議に影響を及ぼさないものと認めるときは、その請求を棄却することができる(裁量棄却)。
4. 決議取消しの判決が確定した場合、その効力は第三者に対しても及ぶ(対世効)。
5. 本来株主総会が開催されていないにもかかわらず、虚偽の議事録が作成されたような場合、株主は期間の制限なく決議不存在確認の訴えを提起することができる。
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正解 2
解説:
1. 正しい。招集手続の法令違反は、取消事由です(831条1項1号)。
2. 誤り。決議内容の定款違反は、無効事由ではなく取消事由です(831条1項2号)。したがって、3ヶ月以内に取消しの訴えを提起する必要があります。内容の法令違反が無効事由です。
3. 正しい。裁量棄却の規定です(831条2項)。
4. 正しい。会社法上の訴えの判決効は対世効を持ちます(838条)。
5. 正しい。実体がない場合は不存在確認の訴え(830条1項)の対象となり、提訴期間の制限はありません。
5. まとめ
今回は、株主総会の決議と事後処理について解説しました。
ポイントを整理します。
- 議決権:原則1株1票。相互保有(25%)や自己株式にはない。不統一行使は会社が拒否できる(信託等は除く)。
- 決議要件:
- 普通決議:過半数出席・過半数賛成(定足数排除可、役員選任は1/3まで)。
- 特別決議:過半数出席・2/3賛成(定足数1/3まで緩和可)。
- 特殊決議:頭数要件あり。
- 決議の瑕疵:
- 取消し(3ヶ月):手続の法令・定款違反、内容の定款違反。裁量棄却あり。
- 無効(いつでも):内容の法令違反。
特に「内容の定款違反=取消し」「内容の法令違反=無効」の区別は、試験でのひっかけ常套句です。反射的に答えられるようにしておきましょう。
次回は、会社の業務執行機関である「取締役」について解説します。ここも出題の宝庫ですので、しっかりついてきてください!
よくある質問(FAQ)
- Q1. なぜ「監査役の解任」だけ特別決議なのですか?
- 監査役は取締役の不正をチェックする役割です。もし普通決議(過半数)で簡単に解任できるとすると、不正を行っている取締役が、自分たちの支配下にある株主(過半数)を使って、うるさい監査役をすぐにクビにしてしまう恐れがあります。監査役の独立性を守るために、解任のハードルを高くしています。
- Q2. 「裁量棄却」は決議無効確認の訴えでも認められますか?
- 認められません。裁量棄却(831条2項)は「決議取消しの訴え」特有の制度です。無効事由(内容の法令違反など)がある場合、それは重大な違反であり、裁判所の裁量で有効にしてよいものではないからです。
- Q3. 定足数を完全に排除できる「普通決議」とはどのような場合ですか?
- 定款で「定足数を設けない」と定めた場合です。この場合、極端な話、株主が1人でも出席すれば、その株主の賛成のみで決議が成立します。ただし、役員選任などの重要事項については、最低でも1/3の定足数が必要です。
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