会社法の中でも、「取締役」に関する規定は出題の宝庫です。
特に、「取締役が会社と取引をする場合(利益相反取引)」や、「失敗して会社に損害を与えた場合の責任」については、毎年必ずと言っていいほど問われます。
「社長が自分の会社の土地を買うには、誰の承認がいるの?」
「会社が倒産したとき、役員は取引先(第三者)にも責任を負うの?」
このような疑問を解消するために、今回は取締役の「義務(やってはいけないこと)」と「責任(失敗したときのペナルティ)」について、徹底的に解説します。
2026年度試験合格に向けて、事例問題にも対応できる「使える知識」を身につけましょう!
1. 取締役とは?(選任・任期・欠格事由)
まずは、取締役という「地位」に関する基本ルールを確認します。
(1) 選任と解任
- 選任:株主総会の普通決議(ただし、定足数は1/3までしか緩和できない)。
- 解任:いつでも、正当な理由がなくても、株主総会の普通決議で解任できます(会社法339条1項)。
※ただし、正当な理由がないのに解任された取締役は、会社に対して「解任によって生じた損害(残りの任期分の報酬など)」を請求できます。
(2) 任期(原則2年、例外10年)
ここが試験の狙い目です。
- 原則:選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで。
- 例外(非公開会社):定款で定めることにより、最長10年まで伸ばすことができます(会社法332条2項)。
公開会社は株主の変動が激しく、経営監視の必要性が高いため、こまめに(2年ごとに)信任を問う必要があります。
一方、非公開会社(家族経営など)は、メンバーが変わらないことが多いため、役員変更登記の手間やコストを省くために10年までOKとしています。
(3) 欠格事由(なれない人)
法人(会社など)は取締役になれません。必ず「自然人」でなければなりません。
また、会社法違反等で刑に処せられ、執行終了から2年を経過しない者などもなれません。
※意外なポイントですが、未成年者でも(法定代理人の同意があれば)取締役になれます。また、破産者も取締役になれます(復権を得ていなくても可)。
2. 取締役の義務(忠実義務と規制取引)
取締役は会社から経営を任された「受任者」です。そのため、民法の委任規定に基づく「善管注意義務」と、会社法独自の「忠実義務」を負います。
特に重要なのが、会社の利益を害するおそれがある取引への規制です。
(1) 競業避止義務(ライバル行為の禁止)
【定義】
取締役が、自己または第三者のために「会社の事業の部類に属する取引」をすること(会社法356条1項1号)。
(例:不動産会社の取締役が、個人で不動産の仲介業をする、ライバル会社の代表取締役になるなど)
【要件】
重要な事実を開示して、株主総会(取締役会設置会社では取締役会)の承認を受けなければなりません。
(2) 利益相反取引(会社との取引)
取締役と会社が取引をする場合、取締役がお手盛りで会社に損をさせる(自分だけ得をする)危険があります。
これには「直接取引」と「間接取引」の2種類があります。
① 直接取引(356条1項2号)
取締役が当事者として会社と取引すること。
(例:社長Aが、自分の持っている土地を会社に売る)
② 間接取引(356条1項3号)
取締役以外の者(第三者)と会社との取引だが、実質的に取締役の利益になるもの。
(例:社長A個人の借金を、会社が連帯保証する)
【承認機関】
競業取引と同様、株主総会(または取締役会)の承認が必要です。
(3) 比較まとめ表(試験頻出!)
| 項目 | 競業取引 | 利益相反取引 |
|---|---|---|
| 対象行為 | 市場の奪い合い (ライバル行為) |
会社との取引 (利益の衝突) |
| 承認機関 (設置会社) |
取締役会 | 取締役会 |
| 承認機関 (非設置会社) |
株主総会 | 株主総会 |
| 違反の効果 (損害額の推定) |
取締役が得た利益の額=会社の損害額と推定する | 任務懈怠と推定される(過失の立証責任転換) |
利益相反取引の中でも、取締役が「自己のために」行った直接取引(例:会社から土地を安く買う)については、責任が加重されます。
無過失責任となり、たとえ任務を怠っていなくても(承認を得ていても)、会社に損害が出れば賠償しなければなりません(会社法428条1項)。
3. 取締役の報酬(お手盛り防止)
取締役の報酬(給料や賞与)は、自分たちで勝手に決めてはいけません。
以下のいずれかで決める必要があります(会社法361条)。
- 定款の定め
- 株主総会の決議
実務上は、株主総会で「取締役全員で年額〇億円以内」という総額(枠)を決め、その範囲内での個別の配分は取締役会に一任する(一任決議)という方法がとられています。
4. 取締役の責任(対会社・対第三者)
取締役が仕事に失敗して損害を与えた場合、誰に対して、どのような責任を負うのでしょうか?
(1) 会社に対する損害賠償責任(423条)
取締役が「任務を怠った(任務懈怠)」ことによって会社に損害を与えた場合、会社に対して損害賠償責任を負います。
- 責任の性質:過失責任(無過失なら免責)。ただし、自己のための直接取引は無過失責任。
- 連帯責任:複数の役員が関わった場合は連帯して責任を負います。
責任の免除(全部免除と一部免除)
「失敗したら全額賠償」では、誰も取締役をやりたがりません。そこで、責任を軽くする仕組みがあります。
| 免除方法 | 要件 | 対象 |
|---|---|---|
| 全部免除 | 総株主の同意 | 制限なし(全額免除OK) |
| 一部免除 (株主総会) |
株主総会の特別決議 | 最低責任限度額※まで |
| 一部免除 (取締役会) |
定款の定め+取締役会決議 | 最低責任限度額まで |
※最低責任限度額=年間報酬の〇倍(代表取締役は6倍、平取締役は4倍など)。
※一部免除ができるのは、取締役が「善意かつ無重過失」の場合に限られます。
(2) 第三者に対する損害賠償責任(429条)
会社が倒産した場合など、取引先(債権者)や株主といった「第三者」に対して責任を負うケースです。
- 要件:職務を行うについて悪意または重大な過失があったこと。
- 理由:第三者は会社の内情を知り得ないため、会社法独自の重い責任(特別の法定責任)を課して保護しています。
会社に対する責任(423条)は「軽過失」でも負いますが、第三者に対する責任(429条)は「重過失」以上でないと負いません。
5. 株主による監督(差止請求と代表訴訟)
取締役が悪いことをしそうな時、あるいはしてしまった時、株主にはそれを止める権利や、代わりに訴える権利があります。
(1) 差止請求権(360条)
取締役が法令・定款違反行為をしそうな時に、「やめろ!」と言う権利です。
- 要件:
- 6ヶ月前から株式保有(公開会社)。
- 会社に「著しい損害」が生じるおそれがあること。
- 例外:監査役設置会社などでは、監査役が止めるべきなので、株主が出る幕は「回復することができない損害」がある場合に限定されます(要件加重)。
(2) 株主代表訴訟(847条)
会社が取締役を訴えようとしない(身内だから庇う)場合、株主が「会社に代わって」取締役を訴える制度です。
- 原告:株主(6ヶ月保有要件あり)。
- 被告:責任ある取締役(OBも含む)。
- 勝訴した場合:賠償金は「会社」に入ります(株主の懐には入りません)。株主は会社に対して弁護士費用などを請求できます。
6. 実戦問題で理解度チェック!
ここまでの知識を使って、本試験レベルの問題に挑戦しましょう。
1. 取締役の選任決議において、定足数を定款で緩和する場合でも、議決権を行使することができる株主の議決権の3分の1未満とすることはできない。
2. 取締役は、株主総会の決議によっていつでも解任することができるが、解任に正当な理由がない場合は、会社に対して解任によって生じた損害の賠償を請求することができる。
3. 公開会社でない株式会社においては、定款によって、取締役の任期を選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで伸長することができる。
4. 取締役会設置会社においては、取締役は3人以上でなければならないが、監査等委員会設置会社においては、監査等委員である取締役は3人以上でなければならない。
5. 成年被後見人または被保佐人は、法定代理人の同意を得たとしても、取締役となることはできない。
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正解 5
解説:
1. 正しい。役員選任の定足数は1/3が下限です(341条)。
2. 正しい。解任の自由と損害賠償請求権のセットです(339条)。
3. 正しい。非公開会社の任期特則(10年)です(332条2項)。
4. 正しい。通常の取締役会設置会社は取締役3人以上。監査等委員会設置会社も、監査等委員である取締役は3人以上必要です(331条6項)。
5. 誤り。成年被後見人や被保佐人も、法定代理人の同意等の要件を満たせば取締役になることができます(331条の2)。かつては欠格事由でしたが、改正により可能になりました。
※取締役会設置会社とする。
1. 取締役が自己のために競業取引をしようとするときは、株主総会の承認を受けなければならないが、取締役会の承認では足りない。
2. 取締役が利益相反取引(直接取引)をしようとする場合、取締役会の承認を受けたとしても、その取引によって会社に損害が生じたときは、任務懈怠がなかったことを証明しても損害賠償責任を免れることはできない。
3. 取締役が会社の承認を得ずに競業取引を行った場合、その取引自体は無効となる。
4. 取締役が第三者のために会社と取引(間接取引)をする場合、取締役会の承認は不要である。
5. 利益相反取引の承認決議において、取引をする取締役は「特別利害関係人」に該当しないため、議決権を行使することができる。
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正解 2
解説:
1. 誤り。取締役会設置会社では、承認機関は取締役会です(356条1項、365条1項)。
2. 正しい。自己のためにした直接取引の責任は無過失責任です(428条1項)。承認があっても、無過失でも、損害が出れば賠償責任を負います。
3. 誤り。競業取引の効力は有効です。会社は損害賠償請求や介入権(利益の奪取)で対応します。
4. 誤り。間接取引(保証など)も会社の利益を害するため、承認が必要です(356条1項3号)。
5. 誤り。取引当事者である取締役は特別利害関係人にあたるため、取締役会の決議に参加(議決権行使)できません(369条2項)。
1. 会社法429条1項の責任は、取締役が職務を行うについて悪意または重大な過失があったことによって第三者に損害を生じさせた場合に認められるものであり、軽過失の場合は責任を負わない。
2. ここでいう「第三者」には、会社の債権者だけでなく、当該会社の株主も含まれる場合がある。
3. 名目的取締役(名目だけの取締役で、実際には業務に関与していない者)であっても、他の取締役の業務執行を監視する義務を負っており、これを怠って第三者に損害を与えた場合は、悪意または重過失があるとして責任を負うことがある。
4. 取締役が会社の倒産を予期しながら、漫然と商品を掛けで仕入れた場合、当該取引の相手方に対して不法行為責任(民法709条)を負うことはあるが、会社法429条の責任を負うことはない。
5. この責任は、会社法が定めた法定責任であり、取締役の会社に対する任務懈怠責任とは別に、第三者に対して直接責任を負うものである。
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正解 4
解説:
1. 正しい。要件は悪意または重過失です。
2. 正しい。株主も間接損害(株価下落など)ではなく直接損害を被った場合は第三者に含まれます。
3. 正しい。名目取締役でも監視義務があり、放置したことに重過失があれば責任を負います(最判昭55.3.18)。
4. 誤り。倒産必至の状況で取引を行い、債権者に損害を与えた場合、任務懈怠(監視義務違反等)があり、かつ重過失があるとして、会社法429条の責任を負います(最判昭44.11.26)。不法行為責任だけでなく会社法上の責任も成立します。
5. 正しい。429条の法的性質について、判例は「特別の法定責任説」をとっています。
7. まとめ
今回は、取締役の義務と責任について解説しました。
ポイントを整理します。
- 競業・利益相反:取締役会(または総会)の承認が必要。自己のための直接取引は「無過失責任」。
- 報酬:定款または株主総会で決める。
- 会社への責任:原則は過失責任。総株主同意で全額免除、一部免除の規定あり。
- 第三者への責任:悪意または重過失が必要。名目取締役も責任あり。
- 株主の監督:差止請求(著しい損害)、代表訴訟(会社に代わって訴える)。
会社法は「誰を守るための規定か?」を考えると理解が早まります。
競業規制は「会社の利益」を守るため、第三者責任は「債権者」を守るためです。
次回は、「取締役会」について解説します。
よくある質問(FAQ)
- Q1. 社外取締役を置くことは義務ですか?
- 上場会社などの一定の大会社(監査役会設置会社で有価証券報告書提出会社)には、社外取締役の設置義務があります(平成31年改正、令和3年施行)。また、監査等委員会設置会社や指名委員会等設置会社では、委員の過半数が社外取締役でなければなりません。
- Q2. 代表取締役と平取締役で、第三者に対する責任に違いはありますか?
- 法律上の要件(悪意・重過失)は同じですが、実質的な「監視義務」の範囲が異なります。代表取締役は業務全般を統括するため責任範囲が広く、平取締役は担当外の業務については監視義務の程度が緩やかになる傾向があります。ただし、全く監視しなくて良いわけではありません。
- Q3. 利益相反取引の承認を得れば、損害が出ても責任を負いませんか?
- いいえ、責任を負う可能性があります。承認を得ることは「手続き上の義務」を果たしたに過ぎず、取引の内容自体が会社に不当な損害を与えるものであれば、任務懈怠責任を問われます。特に「自己のためにした直接取引」の場合は、無過失責任となります。
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