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講義17:【会社法】資金調達を完全攻略!募集株式・新株予約権・社債の発行手続

これまでの講義で、会社の設立から機関設計まで、組織の骨組みについて学んできました。
今回からは、会社がビジネスを行うための血液とも言える「資金調達」の分野に入ります。

「新株発行と社債発行、どっちが株主総会で決めるんだっけ?」
「有利発行には特別決議が必要なのはわかるけど、公開会社でも必要なの?」

資金調達の方法には、「募集株式の発行(増資)」「新株予約権の発行」「社債の発行」の3つが主にありますが、それぞれ決定機関や手続きが異なります。
特に「公開会社」と「非公開会社(譲渡制限会社)」の違いは、この分野でも最大の出題ポイントです。

今回は、これら3つの資金調達方法を横断的に整理し、比較表を使って効率よくマスターする方法を伝授します。2026年度試験合格に向けて、資金調達のルールを完璧にしましょう!

1. 資金調達の全体像

会社がお金を集める方法には、大きく分けて2種類あります。

  • デット・ファイナンス(借金):銀行借入や社債の発行。返済義務があります。
  • エクイティ・ファイナンス(増資):募集株式や新株予約権の発行。返済義務はありませんが、株主構成が変化します。

試験対策としては、特に後者の「株式発行」に関する手続きが重要です。

2. 募集株式の発行(新株発行)

会社設立後の増資のことを「募集株式の発行」といいます。
新株を発行すると、会社の資金は増えますが、既存の株主にとっては「持ち株比率が下がる(希薄化)」というデメリットがあります。
そのため、会社法では既存株主の利益を守るためのルールが設けられています。

(1) 募集事項の決定(誰が決める?)

「誰に、いくらで、何株発行するか」を決める手続きです。
ここが試験の最重要ポイントです。「公開会社か非公開会社か」「有利発行かどうか」で結論が変わります。

会社の種類 原則(通常の発行) 例外(有利発行)
非公開会社
(譲渡制限会社)
株主総会の特別決議 株主総会の特別決議
公開会社 取締役会の決議 株主総会の特別決議

① 非公開会社の場合

株主の顔ぶれや持株比率が重要なため、原則として株主総会の特別決議が必要です。
経営陣が勝手に「知らない人」に株を配ることを防ぐためです。

② 公開会社の場合

資金調達の機動性を重視するため、原則として取締役会決議で決定できます。
(※授権資本の範囲内であれば、株主総会を開く必要はありません)。

③ 【重要】有利発行の場合

市場価格より著しく安い価格(例えば半額など)で特定の第三者に発行することを「有利発行」といいます。
これは既存株主の利益を害する(株価が下がる)おそれが強いため、公開会社であっても株主総会の特別決議が必要です。

(2) 割当方法(株主割当てと第三者割当て)

募集株式の発行には、大きく分けて2つの方法があります。

  • 株主割当て:既存の株主に、持株数に応じて割り当てる方法。持株比率が維持されるため、既存株主の不利益は少ないです。
  • 第三者割当て(公募含む):特定の第三者や一般投資家に割り当てる方法。既存株主の比率が下がるため、手続きが厳格です。
💡 決定機関の違い

株主割当ての場合、非公開会社でも定款で定めれば「取締役(会)決議」で募集事項を決めることができます(202条3項)。既存株主の権利が守られるからです。

(3) 申込み・割当て・出資の履行

  • 申込み:引受人が申込書を提出します。
  • 割当て:会社(取締役会など)が「誰に何株」割り当てるかを自由に決めます(割当自由の原則)。
    ※ただし、譲渡制限株式の場合は、割当てにも総会(取締役会)の決議が必要です。
  • 出資の履行:払込期日までに全額を払い込みます。現物出資も可能です(検査役調査が必要)。
💡 株主になる時期

払込期日(または期間内)に出資を履行した者は、「払込期日(期間内に履行した日)」に株主になります(209条)。
設立時とは違い、登記の時ではありません。

(4) 差止請求と無効の訴え

もし違法な新株発行が行われそうな場合、株主はどう対抗できるでしょうか?

① 差止請求(発行前)

法令・定款違反や著しく不公正な方法による発行に対し、株主が不利益を受けるおそれがある場合、会社に「やめろ」と請求できます(210条)。

【公開会社の事前開示】
公開会社が取締役会決議で発行する場合、株主に差止めのチャンスを与えるため、払込期日の2週間前までに募集事項を公告または通知しなければなりません(201条3項)。

② 新株発行無効の訴え(発行後)

発行されてしまった後は、訴え(裁判)で無効を主張するしかありません。
提訴期間は、効力発生日から6ヶ月以内(非公開会社は1年以内)です。

💡 無効原因の限定

発行後の無効原因は狭く解釈されています。例えば「有利発行なのに総会決議を経ていない」場合、公開会社では無効原因にはならない(判例)とされています。取引の安全を重視するためです。

3. 新株予約権の発行(将来の株主)

新株予約権とは、「あらかじめ決められた価格(行使価額)で、会社の株を買える権利」のことです。
ストック・オプションや買収防衛策として使われます。

(1) 発行手続き

基本的には「募集株式の発行」と同じと考えてOKです。

会社の種類 原則 有利発行
非公開会社 株主総会 特別決議 株主総会 特別決議
公開会社 取締役会 決議 株主総会 特別決議

※有利発行とは、「権利行使価額+権利自体の価格」が著しく安い場合(例:タダ同然で渡すストックオプションなど)を指します。

(2) 行使と株主になる時期

新株予約権者が権利を行使し、お金を払い込んだ時に株主になります。
この場合、資本金の額は増加します。

4. 社債の発行(借金)

社債は、会社が行う借金の一種です。株式とは異なり、経営権(議決権)はなく、返済義務があります。

(1) 決定機関(取締役会)

社債の発行は、単なる「借金(業務執行)」に過ぎません。
したがって、公開・非公開を問わず、取締役会(取締役)で決定できます。

【重要】
取締役会設置会社では、「多額の社債募集」は重要な業務執行の決定にあたるため、代表取締役に委任することはできず、必ず取締役会で決議しなければなりません(362条4項5号)。

(2) 社債管理者と社債権者集会

多数の社債権者を保護するため、銀行などが「社債管理者」として管理を行います。
また、重要事項を決めるために「社債権者集会」を開くこともあります(株主総会に似た仕組み)。

(3) 新株予約権付社債(ワラント債)

「社債」と「新株予約権」がセットになったものです。
投資家は、社債としての利息を受け取りつつ、株価が上がれば新株予約権を行使して株主になることができます(転換社債など)。
手続きは、新株予約権の発行手続きに従います(株式の要素があるため、社債単体より厳格です)。

5. 3つの資金調達方法の比較まとめ表

試験直前にはこの表を見直してください。

項目 募集株式の発行 新株予約権の発行 社債の発行
性質 自己資本(返済不要) 潜在的自己資本 他人資本(返済必要)
決定機関
(非公開会社)
株主総会 特別決議 株主総会 特別決議 取締役会
(または取締役)
決定機関
(公開会社)
取締役会
(有利発行は総会)
取締役会
(有利発行は総会)
取締役会
(多額なら委任不可)
資本金の増加 あり あり(行使時) なし

6. 実戦問題で理解度チェック!

ここまでの知識を使って、本試験レベルの問題に挑戦しましょう。

問1:募集株式の発行手続き
株式会社の募集株式の発行に関する次の記述のうち、会社法の規定に照らし、誤っているものはどれか。

1. 公開会社でない株式会社においては、募集事項の決定は、原則として株主総会の特別決議によらなければならない。
2. 公開会社においては、募集事項の決定は、原則として取締役会の決議によることができるが、有利発行に該当する場合は株主総会の特別決議が必要である。
3. 公開会社が取締役会決議により募集株式を発行する場合、払込期日の2週間前までに、株主に対して募集事項を通知または公告しなければならない。
4. 募集株式の引受人は、金銭の払込みに代えて、会社に対する貸付金債権と相殺すること(出資の相殺)をもって出資の履行とすることができる。
5. 募集株式の引受人は、払込期日または払込期間内に出資の履行をしないときは、当然に株主となる権利を失う。
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正解 4

解説:

1. 正しい。非公開会社は持株比率維持のため総会決議が原則です。

2. 正しい。公開会社は機動性重視ですが、有利発行は総会決議が必要です。

3. 正しい。差止請求の機会を保障するための手続きです(201条3項)。

4. 誤り。募集株式の発行(増資)においては、設立時とは異なり、会社の承諾があれば相殺による出資が認められています(208条3項)。ただし、「引受人が一方的に相殺できる」わけではありません。本肢は「できる」と言い切っている点で微妙ですが、会社法上は「株式会社の承諾を得て」という要件が必要なため、単独ではできません。より明確な誤りとして判断します。

5. 正しい。増資の場合は失権手続き(通知)は不要で、払わないと自動的に失権します(208条5項)。

問2:社債の発行
株式会社の社債発行に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。

1. 社債を発行するには、定款に別段の定めがない限り、株主総会の普通決議が必要である。
2. 取締役会設置会社においては、重要な社債の募集事項の決定を代表取締役に委任することはできず、必ず取締役会で決議しなければならない。
3. 社債を発行した場合、会社は直ちに社債券を発行しなければならない。
4. 社債管理者は、社債権者のために弁済の受領や債権の保全行為をする権限を持つが、訴訟行為を行うには社債権者集会の決議が必要である。
5. 新株予約権付社債の発行手続きは、通常の社債発行と同様であり、有利発行であっても取締役会決議のみで行うことができる。
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正解 2

解説:

1. 誤り。社債発行は業務執行であり、取締役(会)決定事項です。

2. 正しい。社債の募集は「重要な業務執行」として、委任不可の専決事項です(362条4項5号)。

3. 誤り。社債券不発行が原則であり、発行する旨の定めがある場合に限り発行します。

4. 誤り。社債管理者は、集会の決議がなくても訴訟行為などを行う包括的権限を持っています(705条)。

5. 誤り。新株予約権付社債は、株式的要素があるため、新株予約権の発行規制(有利発行なら総会決議など)が適用されます。

問3:有利発行
募集株式の有利発行に関する次の記述のうち、会社法の規定に照らし、妥当でないものはどれか。

1. 有利発行とは、公正な価格に比べて特に低い払込金額で株式を発行することをいい、一般的には市場価格の90%程度であれば有利発行には当たらないとされる。
2. 公開会社において有利発行を行う場合、取締役会決議に加えて株主総会の特別決議が必要であるが、これは既存株主の経済的利益を保護するためである。
3. 株主割当ての方法により募集株式を発行する場合、払込金額が公正な価格より著しく低くても、有利発行の規制(総会決議)は適用されない。
4. 有利発行規制に違反して、株主総会の決議を経ずに募集株式が発行された場合、その発行は無効となる。
5. 有利発行について株主総会の決議を経ずに株式を発行した取締役は、会社に対して任務懈怠責任を負うほか、公正な価格との差額について支払義務を負う場合がある。
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正解 4

解説:

1. 妥当。日本証券業協会の自主規制などでは10%ディスカウントまでは通常発行とされます。

2. 妥当。理由付けとして正しいです。

3. 妥当。株主割当てなら、全株主が平等に安く買える権利を持つため、不利益が生じず、有利発行規制は適用されません(202条)。

4. 妥当でない(誤り)。公開会社においては、有利発行規制違反(総会決議欠缺)は無効原因にならないというのが判例・通説です。取引の安全を優先するためです。

5. 妥当。取締役は、法令違反(手続き違反)として任務懈怠責任を負うほか、差額填補責任(212条)を負います。

7. まとめ

今回は、会社の資金調達について解説しました。
ポイントを整理します。

  • 募集株式の発行:
    • 非公開会社:原則株主総会(特別)。
    • 公開会社:原則取締役会
    • 有利発行:どちらも株主総会(特別)。
  • 新株予約権:株式の発行とほぼ同じ手続き。
  • 社債:原則取締役会(多額なら委任不可)。株主総会は不要。

「誰が決めるか」という権限の分配は、会社法の基本思想(所有と経営の分離、株主保護)を理解する上で非常に重要です。

次回は、「持分会社」について解説します。

よくある質問(FAQ)

Q1. なぜ有利発行には株主総会の決議が必要なのですか?
特定の第三者だけに市場価格より安く株を売ると、会社に入る資金が減るだけでなく、既存株主の持株価値が希薄化(薄まる)して損をするからです。既存株主の経済的利益を守るために、株主自身の同意(総会決議)を求めています。
Q2. 社債と借入金の違いは何ですか?
どちらも「借金」ですが、社債は多数の投資家から画一的な条件で資金を集めるために「有価証券(債券)」を発行する点が異なります。社債は市場で売買可能であり、流動性が高いのが特徴です。
Q3. 増資の際の「現物出資」は、設立時と何か違いますか?
基本的には同じ(検査役の調査が必要)ですが、募集株式の発行(増資)の場合、検査役の調査を省略できる要件が緩和されています。例えば、設立時は「発起人のみ」でしたが、増資時は誰でも現物出資可能です。

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