前回は、組織再編の横綱である「合併」と「会社分割」について解説しました。
今回は、組織再編シリーズの完結編として、「株式交換・株式移転」「株式交付」「事業譲渡」「組織変更」について解説します。
「株式交換と株式移転、どっちがどっちだっけ?」
「事業譲渡は合併と何が違うの?」
「株式交付って最近できた制度だけど、試験に出るの?」
これらの制度は、M&A(企業の合併・買収)やグループ経営(ホールディングス化)の手法として実務でも頻繁に使われています。
試験対策としては、前回の合併・分割と比較して、「債権者保護手続が必要か不要か」という点が最大の得点源になります。
特に、令和3年施行の改正会社法で新設された「株式交付」は、まだ過去問の蓄積が少ないため、基本知識を押さえておくだけで他の受験生に差をつけることができます。
2026年度試験合格に向けて、組織再編の全貌をマスターしましょう!
1. 株式交換・株式移転(完全親子会社を作る)
ある会社を100%子会社化したい(完全親子会社関係を作りたい)場合に使われる手法です。
(1) 2つの手法の違い
| 手法 | 仕組み | 主な用途 |
|---|---|---|
| 株式交換 | 既存の会社(A社)が、別の会社(B社)の株を全部取得して、B社を完全子会社にする。 | 買収、グループ内再編 |
| 株式移転 | 1つまたは複数の会社(A社・B社)が、新しく設立する会社(C社)に株を全部移して、C社を完全親会社にする。 | 持株会社(ホールディングス)の創設 |
株式交換:「A社がB社を飲み込んで、B社を自分の手下(100%子会社)にする」
株式移転:「A社とB社が、自分たちの上に新しいボス(親会社C)を作って、その傘下に入る」
(2) 手続きの流れ(株式交換を中心に)
合併や会社分割と同様の手続きが必要です。
- 契約・計画の作成:
- 株式交換 → 株式交換契約
- 株式移転 → 株式移転計画(新設するから契約相手がいない)
- 事前開示:書面等の備え置き。
- 承認決議:原則として株主総会の特別決議が必要。
- 株式交換:親会社・子会社の双方で必要。
- 株式移転:子会社となる会社(移転する会社)で必要。
- 反対株主の買取請求:反対する株主は「株を買い取れ」と言える。
- 効力発生:
- 株式交換:契約で定めた「効力発生日」。
- 株式移転:親会社の「設立登記の日」。
(3) 【最重要】債権者保護手続の要否
ここが合併・分割との決定的な違いです。
原則:債権者保護手続は不要
【理由】
合併や分割とは異なり、会社自体はそのまま存続し、会社の財産がどこかへ移動するわけではありません。
単に「株主が入れ替わるだけ」なので、会社の債権者には直接的な影響がないと考えられているからです。
例外:保護手続が必要な場合
ただし、以下のように債権者に影響が出る場合には必要になります。
- 完全子会社が発行している「新株予約権付社債」を、親会社が承継する場合(社債権者の債務者が変わるから)。
- 株式交換の対価として「親会社の株式」以外(現金など)を交付する場合(子会社の財産が流出するわけではないが、親会社の債権者にとっては親会社の財産が減るリスクがあるため、親会社側で必要になるケースがある)。
(4) 簡易手続・略式手続
合併と同様に、要件を満たせば株主総会を省略できます。
- 簡易株式交換:親会社が交付する対価が、親会社の純資産の5分の1(20%)以下の場合。
→ 親会社側での総会決議を省略可(子会社側は省略不可)。 - 略式株式交換:親会社が子会社の議決権の90%以上を持っている場合。
→ 子会社側での総会決議を省略可。
2. 株式交付(令和3年施行の新制度)
株式交換は「100%完全子会社化」するための制度でしたが、実務では「51%だけ買収したい」といったニーズもあります。
そこで登場したのが「株式交付」です。
(1) 株式交付の意義
株式会社(買収会社)が、他の株式会社(ターゲット会社)を子会社とするために、ターゲット会社の株主から株を譲り受け、その対価として自社の株式を交付する制度です。
【メリット】
買収資金(現金)がなくても、自社の株を印刷して渡せば買収ができるため、M&Aが活発になります。
(従来は「現物出資」の規制があり、検査役の調査などが必要で面倒でしたが、これを組織再編手続きとして整理したものです。)
(2) 手続きの特徴
- 計画作成:親会社となる会社が「株式交付計画」を作成します。
- 承認決議:親会社となる会社の株主総会特別決議が必要です。
- ※子会社となる会社(ターゲット)の総会決議は不要です(株主が個別に「売るかどうか」判断すればいいからです)。
- 債権者保護手続:原則として不要です(対価が自社株なら財産は流出しないから)。
※対価として金銭を交付する場合は必要になります。
株式交換:強制的に100%取得する。子会社の総会決議が必要。
株式交付:売りたい株主からだけ買う(部分的買収)。子会社の総会決議は不要。
3. 事業譲渡(組織再編ではないが重要)
事業譲渡は、会社法上の「組織再編行為(合併等)」ではなく、あくまで「取引行為(売買契約)」の一種です。
しかし、会社の基礎に関わる重要な取引なので、組織再編に準じた手続きが求められます。
(1) 事業譲渡の意義
会社の事業の「全部」または「重要な一部」を他社に売却することです。
単なる資産の売却ではなく、「有機的一体として機能する財産(ノウハウや得意先関係も含む)」の移転であり、さらに「競業避止義務」を伴うものを指します(判例)。
(2) 特定承継(合併との最大の違い)
合併や会社分割は「包括承継」なので、権利義務が自動的に移転しますが、事業譲渡は「特定承継」です。
したがって、不動産の移転登記や、従業員の雇用契約の巻き直し、取引先との契約変更などを個別に行わなければなりません。
(3) 手続き(株主総会の特別決議)
事業の全部や重要な一部を譲渡・譲受する場合、株主総会の特別決議が必要です(467条)。
| 立場 | 特別決議が必要な場合 | 不要な場合(取締役会でOK) |
|---|---|---|
| 譲渡会社 (売る側) |
・事業の全部の譲渡 ・事業の重要な一部の譲渡 (※譲渡資産額が総資産額の1/5を超える場合) |
譲渡資産額が総資産額の1/5以下の場合(簡易手続に相当) |
| 譲受会社 (買う側) |
事業の全部の譲受け |
・事業の一部の譲受け ・対価が純資産額の1/5以下の場合(簡易手続) |
譲受会社(買う側)は、「事業の全部」を買うときは総会決議が必要ですが、「重要な一部」を買うだけなら取締役会決議で足ります(重要な一部の譲受けについては、467条1項3号の対象外)。
ここが譲渡会社側との非対称性であり、試験のひっかけポイントです。
(4) 債権者保護手続(なし!)
事業譲渡には、会社法上の「債権者保護手続(公告・催告)」はありません。
【理由】
事業譲渡は特定承継なので、借金(債務)を移転させるには、民法の原則通り「債権者個別の同意」が必要だからです。
個別に同意を取る以上、まとめて公告する必要はないわけです。
(5) 譲渡会社の競業避止義務
事業を売った会社は、同一市町村および隣接市町村において、20年間は同一の事業を行ってはいけません(特約で30年まで延長可)。
せっかく買った事業の顧客を、元の会社が奪い返したら意味がないからです。
4. 組織変更(種類の変更)
会社の法人格を保ったまま、種類を変えることです。
- 株式会社 ⇔ 持分会社(合名・合資・合同)
※合名⇔合資などの持分会社間の変更は「定款変更」であり、組織変更とは呼びません。
(1) 手続き(総株主の同意)
組織変更計画を作成し、効力発生日の前日までに承認を得る必要があります。
- 株式会社 → 持分会社:株主総会の総株主の同意が必要(一部の株主が無限責任を負う可能性があるため)。
- 持分会社 → 株式会社:総社員の同意が必要。
(2) 債権者保護手続(必須)
組織変更では、出資者の責任範囲(有限か無限か)が変わるため、債権者にとって重大な影響があります。
したがって、必ず債権者保護手続が必要です。
5. 組織再編等のまとめ比較表
ここまでの内容を一覧表にしました。試験直前はここをチェック!
| 項目 | 合併 | 会社分割 | 株式交換・移転 | 事業譲渡 |
|---|---|---|---|---|
| 法的性質 | 組織法上の行為 (包括承継) |
組織法上の行為 (包括承継) |
組織法上の行為 (権利移転なし) |
取引行為 (特定承継) |
| 株主総会決議 | 特別決議 | 特別決議 | 特別決議 | 特別決議 (一部譲受は不要) |
| 債権者保護 | 必須 | 原則必要 (例外あり) |
原則不要 (例外あり) |
なし (個別同意が必要) |
| 反対株主の買取請求 | あり | あり | あり | あり |
| 無効の訴え | あり | あり | あり | なし (民事訴訟で争う) |
6. 実戦問題で理解度チェック!
ここまでの知識を使って、本試験レベルの問題に挑戦しましょう。
1. 株式交換において、完全子会社となる株式会社の株主総会の承認決議は必要であるが、完全親会社となる株式会社においては、簡易株式交換の要件を満たす場合、株主総会の決議を省略することができる。
2. 株式移転においては、新たに設立される完全親会社の設立時取締役等は、完全子会社となる株式会社の株主総会の決議によって選任される。
3. 株式交換および株式移転のいずれにおいても、反対株主には株式買取請求権が認められるが、債権者保護手続は原則として不要である。
4. 株式交換の効力は、株式交換契約で定めた効力発生日に生じるが、株式移転の効力は、設立する完全親会社の設立登記の日に生じる。
5. 株式交換契約において、完全子会社の株主に対して交付する対価は、完全親会社の株式に限られ、金銭や社債を対価とすることはできない。
正解・解説を見る
正解 5
解説:
1. 正しい。親会社側には簡易手続がありますが、子会社側にはありません(子会社にとっては重大事だからです)。
2. 正しい。株式移転計画において設立時役員を定めますが、その計画を承認するのは子会社の株主総会です。
3. 正しい。別法人格が存続するため、原則として債権者保護手続は不要です。
4. 正しい。新設型(移転)と吸収型(交換)の効力発生時期の違いです。
5. 誤り。対価の柔軟化により、株式交換の対価として金銭や親会社以外の株式、社債などを交付することも可能です(768条1項2号)。スクイーズアウト(金銭交付による少数株主排除)の手法として使われます。
1. 株式会社が事業の重要な一部を譲渡する場合、譲渡会社においては株主総会の特別決議が必要であるが、譲受会社においては取締役会の決議で足りる。
2. 事業譲渡を行う場合、譲渡会社および譲受会社は、それぞれの債権者に対して、官報公告および個別催告による債権者保護手続を行わなければならない。
3. 事業譲渡は、契約で定めた効力発生日に、譲渡対象事業に関する権利義務が当然に譲受会社に包括的に承継される。
4. 譲渡会社が株主総会の特別決議を経て事業の全部を譲渡した場合、その譲渡会社は当然に解散する。
5. 事業譲渡に反対する株主は、会社に対して株式買取請求権を行使することができるが、簡易事業譲渡に該当する場合には、いかなる場合も買取請求権は認められない。
正解・解説を見る
正解 1
解説:
1. 正しい。事業の「全部」の譲受けなら譲受会社も総会決議が必要ですが、「一部」の譲受けなら取締役会で足ります(467条1項)。譲渡会社は「重要な一部」でも総会決議が必要です。
2. 誤り。事業譲渡には債権者保護手続の規定はありません(個別同意が必要)。
3. 誤り。事業譲渡は特定承継であり、個別の移転手続き(登記や引渡し)が必要です。包括承継ではありません。
4. 誤り。事業を全部売っても、代金(現金)が会社に残るため、会社は存続します(解散しません)。清算手続き等を経て解散するか、新たな事業を始めるかは自由です。
5. 誤り。簡易事業譲渡の場合、原則として買取請求権はありませんが、譲渡・譲受により定款変更等を伴う場合など例外的に認められるケースがあるため、「いかなる場合も」というのは言い過ぎです(ただし、原則論としては簡易手続=買取請求なしという理解で試験対応可能です)。
ア. 吸収合併をする場合、存続会社および消滅会社の双方において、債権者保護手続が必要である。
イ. 吸収分割をする場合、分割会社および承継会社の双方において、常に債権者保護手続が必要である。
ウ. 株式交換をする場合、完全親会社および完全子会社の双方において、常に債権者保護手続は不要である。
エ. 組織変更(株式会社から持分会社へ)をする場合、債権者保護手続が必要である。
1. ア・イ
2. ア・エ
3. イ・ウ
4. イ・エ
5. ウ・エ
正解・解説を見る
正解 2
解説:
ア. 正しい。合併は債権者への影響が大きいため、原則必須です。
イ. 誤り。分割会社に債務の履行請求ができ、かつ財産が十分に残る場合(不害要件)など、不要となる例外があります。
ウ. 誤り。原則は不要ですが、新株予約権付社債を承継する場合など、例外的に必要な場合があります。
エ. 正しい。組織変更は社員の責任範囲が変わるため、必ず必要です。
よって、正しい組み合わせはア・エです。
7. まとめ
今回は、組織再編の後半戦と事業譲渡について解説しました。
ポイントを整理します。
- 株式交換・移転:完全親子会社化。原則、債権者保護手続は不要。
- 株式交付:部分的買収。親会社の総会決議のみ(子会社は不要)。原則、債権者保護不要。
- 事業譲渡:取引行為(特定承継)。債権者保護手続なし(個別同意)。譲受会社は一部譲受なら総会不要。
- 組織変更:総株主の同意。債権者保護手続必須。
会社法はこれで全講義終了です!
会社法は「設立」「株式」「機関」「資金調達」「組織再編」の5大分野から構成されています。
細かい条文も多いですが、まずは「誰が決めるか(株主総会か取締役会か)」と「誰を守るか(株主か債権者か)」という視点で大きな枠組みを理解することが合格への近道です。
お疲れ様でした。自信を持って本試験に臨んでください!
よくある質問(FAQ)
- Q1. 「株式交付」は新株予約権付社債も対価として交付できますか?
- できません。株式交付において対価として交付できるのは、親会社の「株式」や金銭などですが、制度の趣旨(自社株対価によるM&A促進)から、自社株がメインとなります。ただし、対価の一部として金銭を渡すことは可能です。
- Q2. 事業譲渡で「商号」を続用する場合の責任とは?
- 事業を譲り受けた会社(譲受人)が、譲渡会社の商号(屋号)をそのまま使い続ける場合、債権者は「経営者が変わっていない」と誤信しやすいため、譲受人も譲渡会社の債務を弁済する責任を負います(会社法22条1項)。これを回避するには、遅滞なく免責登記をするか、債権者に通知する必要があります。
- Q3. 組織変更計画の承認に「総株主の同意」が必要なのはなぜですか?
- 株式会社から持分会社(特に合名・合資)への変更は、株主(有限責任)が無限責任社員になる可能性があるなど、法的地位が根本から変わる重大な変更だからです。1人でも反対すれば強制できません。
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