「一般知識(基礎知識)」の法令科目では、個人情報保護法や情報公開法といったメジャーな法律以外にも、情報通信技術(IT)に関連する細かい法律が出題されることがあります。
「公職選挙法なんて出るの?」「電子署名法って技術の話?」と敬遠したくなる気持ちはよく分かります。しかし、これらの分野は「知っているだけで即答できる」という特徴があり、深入りせずに要点だけを押さえておけば、コストパフォーマンスの良い得点源になります。
特に、選挙のたびに話題になる「インターネット選挙運動」のルールや、実務でも頻繁に関わる「電子契約」に関する法律は、行政書士としても知っておくべき常識的な知識です。
この記事では、試験に出る可能性が高い4つの法律(公職選挙法、e-文書通則法、電子消費者契約法、電子署名法)について、具体的な事例を交えながら徹底解説します。難しそうな法律用語も、ストーリー仕立てでイメージすれば簡単に頭に入りますよ!
1. 公職選挙法(インターネット選挙運動の解禁)
かつては禁止されていたインターネットを使った選挙運動ですが、平成25年の法改正により解禁されました。ただし、「何でもあり」になったわけではなく、「誰が」「何を」して良いのかについて、細かいルールが定められています。
(1) 「選挙運動」と「政治活動」の違い
まず前提として、言葉の定義を確認しましょう。
- 政治活動:政治上の主義施策を推進・支持する活動(日常的に行われるもの)。
- 選挙運動:特定の選挙について、特定の候補者の当選を得るために投票を働きかける行為(公示・告示日から投票日前日までに行われるもの)。
今回解説するのは、選挙期間中に行われる「選挙運動」のネット利用ルールです。
(2) 誰が何を使ってできるのか?(最重要)
試験で問われるのは、「候補者・政党等」と「一般有権者」でできることの範囲が異なる点です。特に「電子メール」の扱いに注意が必要です。
| ツール | 候補者・政党等 | 一般有権者 | 備考 |
|---|---|---|---|
| Webサイト (ホームページ、ブログ) |
○ 可能 | ○ 可能 | 誰でも自由に開設・更新して投票を呼びかけられます。 |
| SNS (X, Facebook, LINE等) |
○ 可能 | ○ 可能 | メッセージ機能等は「ウェブサイト等」とみなされ、メール規制の対象外となることが多いです。 |
| 電子メール (SMTP方式など) |
○ 可能 (制限あり) |
× 禁止 | ここが最大のひっかけポイントです。有権者はメールで投票依頼をしてはいけません。 |
具体例で考える:有権者Aさんの勘違い
【事例】
選挙期間中、熱心な有権者であるAさんは、応援しているB候補を当選させるため、以下の行動をとりました。
① 自分のブログに「B候補に投票しよう!」と書いた。
② 友人知人100人に「B候補をお願いします」と電子メールを一斉送信した。
③ LINEのグループトークで「B候補が良いよ」と送信した。
【解説】
①と③は適法ですが、②は公職選挙法違反となります。
一般有権者は、選挙運動のために電子メールを利用することが禁止されています。これは、密室性の高いメールでのなりすましや誹謗中傷、ウイルスメールの拡散などを防ぐためです。
LINEやFacebook、X(旧Twitter)のダイレクトメッセージなどは、技術的には「電子メール(SMTP方式等)」とは異なり、「ウェブサイト等」の一部と解釈されています。
そのため、これらを使って有権者が特定の友人に投票依頼をすることは「適法」です。
「メールはダメだけど、LINEはOK」という結論を覚えておきましょう。
(3) その他の禁止事項とルール
未成年者の選挙運動の禁止
年齢満18歳未満の者は、インターネットを含め、一切の選挙運動ができません。SNSで特定の候補者への投票を呼びかけるリポスト(リツイート)などをすることも禁止されています。
HPやメールへの表示義務
なりすましを防ぐため、候補者等がネット選挙運動を行う場合は、Webサイトやメールに「電子メール送信者名」「連絡先(メールアドレス等)」を表示する義務があります。
落選運動について
「〇〇候補を落選させよう」という活動(落選運動)についても、Webサイト等を利用して行うことが可能です。ただし、虚偽事項の公表や誹謗中傷は名誉毀損罪等で処罰されます。
なお、落選運動のための電子メール送信は、有権者であっても禁止されています(送信者名等の表示義務がある候補者・政党等は除く)。
2. e-文書通則法(紙の書類をデジタルで保存)
IT化が進む中、法律で「紙で保存しなさい」と義務付けられている書類が山のようにあると、企業の保管コストが膨大になります。
そこで、「紙での保存義務がある書類を、デジタルデータ(電磁的記録)で保存しても良いよ」と認めるために作られたのが、通称「e-文書法」です。
(1) 「通則法」と「整備法」のセット
実は「e-文書法」という名前の単一の法律はありません。以下の2つの法律の総称です。
- e-文書通則法:個別の法律を一括して読み替えるための共通ルールを定めたもの。
- e-文書整備法:商法や税法など、関連する個別の法律を具体的に改正したもの。
(2) 保存の4要件(見読性が最重要)
紙の代わりにデータで保存する場合、紙と同じように扱えなければ意味がありません。そこで、各省庁のガイドライン等で以下の要件が求められます。
- 見読性(けんどくせい):ディスプレイや書面で、明瞭に読める状態で表示できること。これが最も基本的かつ重要な要件です。
- 完全性:改ざんや消去がされていないこと(電子署名やタイムスタンプで担保)。
- 機密性:許可された人だけがアクセスできること。
- 検索性:必要なデータをすぐに探し出せること。
すべての文書が電子化できるわけではありません。
「現物性が極めて高いもの」や「緊急時に即座に見る必要があるもの」などは、対象外とされています。
- 運転免許証、許可証など(常時携帯義務があるもの)
- 条約で紙保存が義務付けられているもの
- 公正証書遺言など
※ただし、デジタル社会の進展により、これらも徐々にデジタル化(マイナンバーカードへの統合など)が進んでいますが、e-文書法上の原則としては「対象外がある」と覚えておきましょう。
3. 電子消費者契約法(操作ミスの救済)
ネットショッピングで、「1個」買うつもりが間違って「11個」と入力して注文してしまった…。
このような、電子商取引特有の「操作ミス(錯誤)」を救済するための法律が、「電子消費者契約法」です。
正式名称は「電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律」と非常に長いです。
(1) 操作ミスによる錯誤の特例(民法95条の修正)
民法95条(錯誤)では、表意者(注文した人)に「重大な過失」があった場合、原則として契約を取り消すことができません。
ネット注文で数量を間違えるのは、不注意という意味で「重過失」にあたる可能性が高いです。これでは消費者が泣き寝入りすることになります。
そこで、この法律(第3条)では、以下のいずれかの措置が講じられていなければ、消費者に重過失があっても契約を取り消せる(無効/取消しを主張できる)としました。
- 事業者が、消費者の申し込み内容を確認する措置(確認画面など)を設けていること。
- 事業者が、消費者から「確認措置は不要です」という意思表明を受けていること。
具体例:確認画面がないサイト
【事例】
Cさんはある通販サイトで商品を購入しようとし、数量を誤入力して「注文ボタン」を押しました。しかし、そのサイトには「注文内容の確認画面」が表示されず、いきなり「注文確定」となりました。
【解説】
この場合、事業者側が確認措置を講じていないため、Cさんは自分の操作ミス(重過失)を理由に、契約の錯誤取消し(無効主張)が可能です。
逆に言えば、きちんと「以下の内容でよろしいですか?」という確認画面が出たのに、それを見落として注文確定した場合は、救済されません。
(2) 契約成立時期(到達主義の確認)
かつて民法は、隔地者間(離れた人同士)の契約成立時期について「発信主義(承諾通知を出した時)」をとっていましたが、電子契約においてはトラブルの元となるため、この法律の第4条で「到達主義(相手にメール等が届いた時)」とする特例を設けていました。
2020年の民法改正により、民法本体の大原則が「発信主義」から「到達主義」に変更・統一されました。
そのため、現在ではこの法律の第4条(到達主義の特則)は、実質的に「民法と同じことを言っているだけ」の状態になりました。
しかし試験対策としては、「電子承諾通知は到達した時に効力を生じる」という結論を確実に押さえておく必要があります。
4. 電子署名法(デジタルのハンコ)
紙の契約書には「ハンコ(実印)」を押しますが、PDFファイルにハンコは押せません。
そこで、電子データに対して、ハンコと同じ法的効力を持たせる技術的仕組みが「電子署名」であり、それを規定するのが「電子署名法」です。
(1) 電子署名の定義(2条)
単にPDFに画像を貼り付けただけの「電子印鑑」ではありません。以下の要件を満たす高度なものを指します。
- 当該情報が当該作成者に作成されたものであることを示すものであること(本人性の確認)。
- 当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること(非改ざん性の確認)。
(2) 推定効(第3条)~これが最重要~
民事訴訟法には、「文書に本人のハンコ(押印)があれば、その文書は本人の意思で真正に成立したと推定する」というルールがあります(二段の推定)。
これと同じ効果を電子データにも与えるのが、電子署名法3条です。
電子署名法 第3条(抜粋・要約)
電磁的記録であって、本人による電子署名が行われているものは、真正に成立したものと推定する。
具体例:D社長の契約否認
【事例】
D社とE社の間で、1億円の取引に関する電子契約が結ばれました。しかし後になって、D社の社長が「私はそんな契約書に署名していない!誰かが勝手にやったんだ!」と言い出しました。
E社は困ってしまいます。
【解説】
もし、その契約データに、D社社長名義の正規の電子署名が付与されていたらどうなるでしょうか?
法3条により、「この契約データはD社長本人が作成した(真正に成立した)ものである」と推定されます。
これにより、E社はいちいち「D社長がパソコンを操作したこと」を証明する必要がなくなり、逆にD社長側が「秘密鍵が盗まれた」等の反証をしない限り、契約は有効と扱われます。
これが電子署名の強力な法的効果です。
(3) 認証業務(認定制度)
電子署名が本物かどうかを証明する第三者機関を「認証局」といいます。
政府は、一定の基準を満たす認証業務を「特定認証業務」として認定する制度を設けています。
5. 【実戦演習】本試験レベル問題に挑戦
ここまでの知識を整理するために、各法律の重要論点を確認する問題に挑戦しましょう。
1. 候補者や政党等に限らず、一般有権者であっても、選挙運動期間中に特定の候補者への投票を呼びかける電子メールを送信することができる。
2. 未成年者であっても、インターネットを利用した選挙運動であれば、SNS等を用いて特定の候補者を応援するメッセージを発信することが認められている。
3. 候補者や政党等は、自らのウェブサイトや電子メール等を用いて選挙運動を行う場合、そこに電子メール送信者名や連絡先等の情報を表示する義務を負う。
4. 選挙運動期間中、特定の候補者を落選させる目的で行う「落選運動」については、候補者のみならず一般有権者であっても、電子メールを利用して行うことができる。
5. Twitter(現X)やLINEなどのSNSのメッセージ機能を利用して選挙運動を行うことは、一般有権者については、電子メールに類似する性質を有するため禁止されている。
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正解 3
解説:
1. 妥当でない。一般有権者は、選挙運動のために電子メールを利用することが禁止されています。
2. 妥当でない。年齢満18歳未満の者は、インターネットを利用した方法であっても、一切の選挙運動が禁止されています。
3. 妥当である。なりすまし防止等のため、候補者・政党等には表示義務が課されています。
4. 妥当でない。落選運動であっても、一般有権者が電子メールを利用することは禁止されています(電子メール送信者名等の表示義務がある候補者・政党等は除く)。
5. 妥当でない。SNSのメッセージ機能やLINE等は「ウェブサイト等」に含まれると解釈されており、一般有権者でも利用可能です。
1. この法律は、事業者が消費者の申込み内容を確認する措置を講じていなかった場合、消費者に重大な過失があったとしても、操作ミスによる錯誤を理由として契約の無効(取消し)を主張できるとする特例を定めている。
2. 消費者が事業者に対して「確認措置は不要である」旨の意思を明示していた場合には、事業者が確認措置を講じていなくても、消費者は自らの重過失を理由とする錯誤無効(取消し)の主張はできない。
3. この法律の「電子承諾通知」に関する規定は、隔地者間の契約成立時期について到達主義を採用しているが、これは現在の民法の原則と同じルールを確認するものである。
4. この法律は、BtoC(事業者対消費者)の電子契約だけでなく、BtoB(事業者間)の電子取引においても、操作ミスによる錯誤に関する規定が適用される。
5. 事業者が、申込みボタンを押す前に「注文内容の確認画面」を表示させていた場合、消費者がその画面を見落として誤った数量を注文したとしても、原則として錯誤による取消しは認められない。
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正解 4
解説:
1. 妥当である。これがこの法律の主たる目的(民法95条の特例)です。
2. 妥当である。消費者が自ら「確認不要」と言った場合は保護されません。
3. 妥当である。民法改正により到達主義が原則となったため、この特例法の規定と一致しています。
4. 妥当でない。電子消費者契約法の錯誤に関する特例(第3条)は、あくまで「消費者」と「事業者」の間の契約(BtoC)に適用されるものであり、事業者間(BtoB)や消費者間(CtoC)には適用されません。
5. 妥当である。確認措置が講じられている以上、特例の適用はなく、民法の原則通り重過失があれば取り消せません。
1. 電子署名法における「電子署名」とは、電磁的記録に付与される措置であって、当該情報が作成者の作成に係るものであることを示す機能を有していれば足り、改変が行われていないことを確認できる機能までは求められない。
2. 本人による電子署名が行われている電磁的記録は、真正に成立したものとみなされるため、相手方がその成立を争う場合には、相手方において反証を挙げる必要がある。
3. 電子署名法第3条に基づく真正成立の推定を受けるためには、当該電子署名が、認証業務を行う者によって発行された電子証明書に基づくものであることが必須要件とされている。
4. 電子署名法は、電磁的記録に本人による電子署名が行われているときは、その電磁的記録は真正に成立したものと推定すると規定しており、これは民事訴訟法における文書の成立の推定と同様の効力を認めるものである。
5. 指定認証業務とは、電子署名が利用者本人に行われたものであることを確認するために用いられる事項が当該利用者に係るものであることを証明する業務であり、内閣総理大臣の認定を受けたものをいう。
正解・解説を見る
正解 4
解説:
1. 妥当でない。電子署名の定義には「本人性の確認」だけでなく「非改ざん性の確認」も必要です(2条)。
2. 妥当でない。「みなされる」ではなく「推定する」です。反証があれば覆ります。
3. 妥当でない。第3条の要件は「本人による電子署名が行われていること」であり、特定の認証局の証明書が必須という条文構造にはなっていません(実務上は証明書で本人性を立証しますが、条文上の推定要件としては「本人による署名」が核です)。
4. 妥当である。これがいわゆる「推定効」に関する正しい記述です。
5. 妥当でない。認定を受ける業務の名称は「特定認証業務」です。「指定認証業務」という用語は使われていません。
6. まとめ:4つの法律の「これだけ」リスト
情報通信に関する諸法令は、深入りしすぎるとキリがありません。以下のポイントだけは確実に暗記しておきましょう。
- 公職選挙法:有権者はWebサイト・SNSはOK、メールはNG(LINEはOK)。
- e-文書通則法:紙の代わりにデータ保存を認める法律。最重要要件は「見読性」。
- 電子消費者契約法:ネット通販の操作ミス(重過失)でも、確認画面がなければ取り消せる。
- 電子署名法:本人の電子署名があれば、文書が本物だと「推定」される(みなされる、ではない)。
これらを押さえておけば、試験本番で知らない法律が出たとしても、消去法で正解にたどり着ける確率がグッと上がります。基礎知識科目での失点を防ぐため、ぜひ隙間時間に見直してください。
よくある質問(FAQ)
- Q1. 選挙運動のリツイート(リポスト)も禁止されるのですか?
- いいえ、一般有権者がSNSで選挙運動のメッセージをリポストやシェアすることは適法です。ただし、18歳未満の未成年者がこれを行うことは禁止されています。
- Q2. 電子署名法の「認証局」は官公庁がやるのですか?
- いいえ、民間企業(セキュリティ会社など)が認証局の運営を行っていることが多いです。国は、それらの民間企業が一定の基準を満たしているかを審査し、認定を与える役割(認定認証業務)を担っています。
- Q3. 電子消費者契約法はスマホアプリでの購入にも適用されますか?
- はい、適用されます。パソコン、スマホ、タブレットなど端末を問わず、インターネットを通じた電子商取引であれば適用対象となります。アプリの購入画面で「確認画面」が出ない場合などは、救済の対象となり得ます。
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