前回の講義では、株式会社設立の「前半戦(定款作成~出資の履行)」を解説しました。
今回は、いよいよ会社を誕生させる「後半戦(役員選任~設立登記)」と、試験対策上もっとも重要な「設立に関わる責任」について解説します。
「手続きの流れはなんとなくわかったけど、誰がどんな責任を負うのかがごちゃごちゃ…」
「発起設立と募集設立で、役員の決め方が違うの?」
「設立無効の訴えって、何が無効になるの?」
こんな疑問を持っていませんか?
特に「発起人等の責任」は、多肢選択式や記述式で問われやすい要注意ポイントです。「過失がなくても責任を負うケース」や「総株主の同意があっても免除できない責任」など、ひっかけ問題の宝庫です。
今回は、複雑な責任関係を表でスッキリ整理し、難解な募集設立の手続きもストーリーで攻略します。2026年度合格に向けて、設立分野を完璧に仕上げましょう!
1. 役員選任と調査(発起設立と募集設立の違い)
出資の払い込みが終わったら、次は会社を運営するリーダー(役員)を選びます。
ここで、「発起設立」(身内だけで作る)か「募集設立」(スポンサーを募る)かで、手続きが大きく分かれます。
(1) 発起設立の場合(シンプル)
発起設立では、出資者=発起人だけなので、手続きは簡単です。
- 役員の選任:出資履行後、遅滞なく、発起人の議決権の過半数で決定します(会社法40条)。
- 調査:選ばれた「設立時取締役・監査役」が、出資がちゃんとされたか、法令違反がないか等を調査します。
現物出資など(変態設立事項)について、すでに裁判所選任の「検査役」が調査していた場合、設立時取締役による再調査は省略できます。「プロが調べたなら、身内の取締役がまた調べる必要はない」という合理的な理由です。
(2) 募集設立の場合(厳格・創立総会)
募集設立では、発起人以外の「他人(引受人)」からお金を集めています。
そのため、会社設立の最終決定権は、発起人だけでなく、これら引受人も含めた全員で話し合う「創立総会」に委ねられます。
① 募集から割当てまでの流れ
- 募集事項の決定:「1株いくらで、何株募集するか」を発起人全員で決めます。
- 申込み:出資したい人(引受人)が申込書を出します。
- 割当て:発起人が「誰に何株割り当てるか」を決めます(割当自由の原則)。
※「先着順」や「平等」にする必要はなく、発起人の気に入った人(縁故者など)に多く割り当ててもOKです。 - 払込み:銀行などの「払込取扱機関」に全額を払い込みます。
② 【重要】創立総会の開催
払込みが終わったら、会社成立前の株主総会にあたる「創立総会」を開催します。
| 項目 | 創立総会の特徴 |
|---|---|
| 役割 | 設立時役員の選任、設立廃止の決議、定款の変更など、設立に関する意思決定を行う。 |
| 決議要件 | 「議決権を行使できる設立時株主の議決権の過半数」かつ「出席者の議決権の3分の2以上」 |
この決議要件は非常に重いです。通常の株主総会の特別決議よりも定足数(集まらなければならない人数)が厳しいイメージを持ってください。
他人のお金を預かる以上、しっかりとした合意が必要だからです。
2. 株式会社の成立(いつ生まれる?)
全ての手続きが終わったら、最後に登記です。
(1) 設立登記=成立日
株式会社は、本店の所在地において「設立登記」をすることによって成立します(会社法49条)。
「出資を払い込んだ日」でも「創立総会の日」でもありません。登記所が受け付けた日が誕生日です。
(2) 成立の効果
- 権利能力の取得:法人格を取得し、自分(会社)の名義で契約や財産保有ができるようになります。
- 株主の確定:出資した人は「設立時株主」から正式な「株主」になります。
- 引受無効・取消しの制限:会社成立後は、「詐欺だった!」「勘違いだった!」と言って株式引受けを取り消すことはできません(会社法51条)。
※会社が成立してしまうと、多数の利害関係者が生まれるため、後から「やっぱりナシ」とは言わせない(法的安定性)ためです。
3. 設立に関する発起人等の責任(ここが試験の山場!)
会社法では、「適当な計画で会社を作って債権者に迷惑をかけた」ような場合に備えて、発起人や役員に重い責任を課しています。
ここからは、以下の4つの責任を整理します。
(1) 不足額填補責任(現物出資が足りない!)
【事例】
発起人Aが「500万円の価値がある」として自分の車を現物出資しました。
しかし、会社成立後に調べたら、実は100万円の価値しかありませんでした(400万円不足)。
【責任の内容】
この場合、発起人と設立時取締役は、連帯して不足額(400万円)を会社に支払わなければなりません(会社法52条)。
| 対象者 | 過失の要否(責任の重さ) | 免責の可否 |
|---|---|---|
| 現物出資した発起人 | 無過失責任(絶対に払う) | 免除不可(総株主が同意してもダメ) |
| その他の発起人 設立時取締役 |
過失責任(注意を怠らなければ免責) ※検査役の調査を経ていれば免責 |
総株主の同意で免除可能 |
現物出資をした本人は、「自分の持ち物の価値」を一番よく知っているはずです。だから言い逃れできない「無過失責任」です。
一方、チェックする立場の他の発起人や取締役は、「ちゃんと調査したなら許してあげる(過失責任)」となります。
(2) 仮装払込み責任(見せ金・預合い)
【事例】
発起人Bは、お金がないのに銀行から一時的に500万円を借りて、それを「出資金」として払い込みました。会社成立後、すぐにその500万円を引き出して借金返済に充てました。
これを「預合い(あずけあい)」や「見せ金」といいます。
【責任の内容】
これは資本充実の原則に対する重大な裏切り行為です。
行った発起人Bはもちろん、関与した発起人・取締役も連帯して、全額を支払う義務を負います(会社法52条の2)。
※かつては「仮装払込みは無効」とされていましたが、現在の会社法では「払込みとしては有効だが、後で全額補填しろ」という扱いになっています。
(3) 任務懈怠(にんむけたい)責任
これは一般的な「仕事のサボり(ミス)」に対する責任です。
発起人や設立時役員が、任務を怠って会社に損害を与えた場合、損害賠償責任を負います(会社法53条1項)。
- 過失の要否:過失責任(無過失なら免責)。
- 免除:総株主の同意があれば免除可能。
(4) 第三者に対する責任
設立手続き中のミスで、会社だけでなく「第三者(債権者など)」に損害を与えた場合です。
- 要件:職務を行うについて悪意または重大な過失があったとき(会社法53条2項)。
※単なる軽過失では、第三者への責任までは負いません(会社への責任は負います)。
(5) 会社不成立の場合の責任
頑張ったけれど、結局会社ができなかった(登記まで行かなかった)場合。
発起人は、設立に関して支出した費用を負担し、払込みを受けたお金を全額返還しなければなりません(無過失責任)。
「会社ができなかったから、経費分を引いて返します」は通用しません。
4. 発起人以外の責任(脇役たちの責任)
発起人や役員以外にも、責任を負わされる人たちがいます。
(1) 疑似発起人(ぎじほっきにん)
定款に署名していないので正式な発起人ではないけれど、募集広告などに「私もこの会社作りを応援しています!」と名前を出して、設立を賛助する旨を記載することを承諾した者のことです。
この人は、実質的には発起人と同じ影響力を持っています。そのため、発起人とみなされ、発起人と同様の責任(不足額填補責任など)を負います(会社法103条4項)。
(2) 払込取扱機関(銀行)の責任
出資金の払込みを受けた銀行が、「払込金保管証明書」を発行した場合。
もし、実際にはお金が入っていなかったり、返済約束付き(預合い)だったとしても、銀行は「お金はちゃんとあります」と証明した責任を取らなければなりません。
銀行は、会社に対して「実は金がなかった」と対抗できず、記載された金額を会社に支払う義務を負います(会社法64条)。
5. 設立無効の訴え(最後のちゃぶ台返し)
会社が成立してしまった後に、「実は設立手続きに重大な欠陥があった!」という場合、どうすればよいでしょうか?
設立登記が完了している以上、単に「無効だ」と主張するだけではダメで、裁判によって解決する必要があります。
(1) 訴えの概要(会社法828条)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 提訴期間 | 会社成立の日から2年以内 |
| 提訴権者 | 株主、取締役、監査役、清算人 (※債権者は訴えることができない!) |
| 被告 | 会社 |
| 訴えの方法 | 訴え(裁判)によってのみ主張可能 |
(2) 無効判決の効果(将来効)
裁判で「設立無効」の判決が出た場合、その効果は「将来に向かってのみ」生じます(将来効)。
つまり、「最初から会社が存在しなかったこと(遡及効)」にはなりません。
もし「最初から会社がなかった」ことにしてしまうと、その会社がこれまでに行った契約や商売がすべて無効になり、取引相手が大混乱に陥るからです(取引の安全)。
そのため、判決が出るまでは「有効な会社」として扱い、判決後は「清算手続き(解散)」に入ることになります。
6. 実戦問題で理解度チェック!
ここまでの知識を使って、本試験レベルの問題に挑戦しましょう。
1. 募集設立における設立時発行株式の引受人の募集に際しては、発起人は申込者に対して公平に株式を割り当てなければならず、特定の者に優先的に割り当てることはできない。
2. 設立時募集株式の引受人は、金銭の払込みに代えて、その有する金銭債権をもって出資の払込みに充てることができる(相殺による払込みが可能)。
3. 創立総会の決議は、議決権を行使することができる設立時株主の議決権の過半数であって、出席した設立時株主の議決権の3分の2以上に当たる多数をもって行う。
4. 創立総会においては、設立時取締役等の選任や定款の変更を決議することができるが、設立の廃止については、これまで積み上げてきた手続きを無にするため決議することができない。
5. 募集設立における設立登記は、創立総会の終結の日から2週間以内に、発起人の申請により行わなければならない。
正解・解説を見る
正解 3
解説:
1. 誤り。株式の割当ては「割当自由の原則」により、発起人が自由に決定できます(会社法60条1項)。公平である必要はありません。
2. 誤り。設立時の出資において、相殺による払込みは認められていません(会社法63条1項)。全額を現実に払い込む必要があります。
3. 正しい。創立総会の特殊な決議要件です(会社法73条1項)。通常の特別決議よりも定足数の要件が厳しい点に注意しましょう。
4. 誤り。創立総会では、設立の廃止を含む、設立に関するあらゆる事項を決議できます(会社法特有の強い権限)。
5. 誤り。設立登記の申請は、会社を代表すべき者(設立時代表取締役)が行います。発起人が行うわけではありません。
1. 現物出資財産の価額が定款に記載された価額に著しく不足する場合、当該現物出資を行った発起人は、その不足額について無過失責任を負い、総株主の同意があっても免除されない。
2. 設立時取締役が、現物出資財産の価額不足について責任を負う場合、その責任は過失責任であるが、検査役の調査を経ていないときは、自ら職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明しても免責されない。
3. 発起人が仮装払込み(見せ金)を行った場合、当該発起人は払込みを仮装した出資に係る金額を支払う義務を負うが、この義務は総株主の同意があれば免除することができる。
4. 発起人および設立時取締役は、その職務を行うについて過失があったときは、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。
5. 会社が不成立となった場合、発起人は連帯して、設立に関して支出した費用を負担するが、その責任は過失責任であり、無過失であることを証明すれば免れる。
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正解 1
解説:
1. 正しい。現物出資者本人は、不足額填補について絶対的な無過失責任を負い、免除もできません(会社法52条)。
2. 誤り。設立時取締役は過失責任であり、注意を怠らなかったことを証明すれば免責されます。検査役の調査を経ていない場合でも同様です(立証責任が転換されているだけです)。
3. 誤り。仮装払込みによる支払義務は、総株主の同意があっても免除できません(会社法52条の2第6項)。資本充実の原則に関わる重大な責任だからです。
4. 誤り。第三者に対する責任を負うのは「悪意または重大な過失」があった場合です(会社法53条2項)。軽過失では第三者責任は負いません。
5. 誤り。会社不成立の場合の発起人の責任は無過失責任です(会社法56条)。
1. 設立無効の訴えは、株主、取締役、監査役、執行役または清算人に限り提起することができ、会社債権者は原告適格を有しない。
2. 設立無効の訴えは、会社成立の日から2年以内に提起しなければならない。
3. 設立無効の判決が確定した場合、会社は設立の時に遡って消滅し、最初から存在しなかったものとして扱われる。
4. 設立無効の判決が確定した場合、会社は解散したものと同様の扱いとなり、清算手続きが行われる。
5. 設立無効の訴えに係る請求を認容する判決が確定したときは、第三者に対してもその効力を生ずる(対世効)。
正解・解説を見る
正解 3
解説:
1. 正しい。債権者には設立を無効にする利益よりも取引の安全が優先されるため、提訴権者には含まれません(会社法828条2項1号)。
2. 正しい。提訴期間は2年です。
3. 誤り。設立無効判決には「遡及効」はありません(将来効)。将来に向かってのみ効力を生じます(会社法839条)。
4. 正しい。遡及しないため、事実上は解散と同様に清算手続きに入ります。
5. 正しい。会社関係訴訟の判決は、原告・被告間だけでなく、世間一般(第三者)に対しても効力を持ちます(会社法838条)。
7. まとめ
今回は、株式会社設立の後半戦として、以下のポイントを解説しました。
- 募集設立:割当自由の原則、払込金保管証明書が必要、創立総会(重い決議要件)が必要。
- 成立時期:設立登記の日に成立する。引受の無効主張等が制限される。
- 発起人等の責任:
- 不足額填補:現物出資者本人は無過失責任(免除不可)。他は過失責任。
- 仮装払込み:関与者は全額支払義務(免除不可)。
- 第三者責任:悪意・重過失が必要。
- 設立無効:成立後2年以内、訴えのみ、将来効(遡及しない)。
会社法の設立分野は、「誰が」「いつ」「どんな責任を負うか」という細かい知識が問われます。
特に「免除できるかできないか」の表は、試験直前まで何度も見返して定着させてください。
これで設立の手続きは完了です。次回は、設立後の会社の株式(株主、種類株式の発行など)について解説します。
よくある質問(FAQ)
- Q1. 発起設立と募集設立、試験ではどちらが重要ですか?
- どちらも重要ですが、違いを問う比較問題が多く出ます。「募集設立には創立総会がある」「募集設立では銀行の保管証明が必要」といった相違点を重点的に押さえてください。
- Q2. 「擬似発起人」とはどんな人ですか?
- 定款に名前はないけれど、募集広告などで「私も設立を支持しています」と名前を出した人です。有名人の名前を使って信用させるケースなどが想定されており、責任は発起人と同様に重くなります。
- Q3. 設立無効の訴えはなぜ債権者ができないのですか?
- 会社がなくなると、債権者は取引相手を失い、債権回収が困難になる恐れがあります。債権者にとっては「会社が無効になる」ことよりも「会社が存続して借金を返してくれる」ほうが利益になるため、わざわざ無効を訴える権利は与えられていません。
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