会社法の中でも、「株式」の分野は専門用語が多く、受験生を悩ませるポイントです。
「自益権とか共益権とか、言葉が難しくてイメージが湧かない…」
「種類株式が9種類もあるなんて、全部覚えられるわけがない!」
そんなふうに感じていませんか?
しかし、株式の知識は、後の「機関(株主総会や取締役会)」や「組織再編」を理解するための土台となる超重要分野です。ここを曖昧にしておくと、会社法全体が砂上の楼閣になってしまいます。
今回は、株主が持つ権利の基本構造から、実務でも頻繁に使われる「種類株式(優先株や黄金株など)」までを、具体例を交えて整理します。
「なぜそのような株式が必要なのか?」という目的(制度趣旨)を知れば、9種類全部を丸暗記しなくても、自然と頭に入ってきますよ!
1. 株主の権利(自益権と共益権)
株主とは、株式会社に出資をしたオーナーのことです。
オーナーである株主には、大きく分けて2つの権利が与えられます。
(1) 自益権と共益権の違い
まずはこの2つの分類をしっかり区別しましょう。
| 分類 | 意味 | 具体例 |
|---|---|---|
| 自益権 (じえきけん) |
会社から経済的な利益を受ける権利 (自分の財布が潤う権利) |
|
| 共益権 (きょうえきけん) |
会社の経営に参加・監督する権利 (会社全体の利益に関わる権利) |
|
株式会社は営利社団法人ですから、究極の目的は「金儲け(自益権)」です。そのために経営を監督する権利として「共益権」が与えられています。
なお、「剰余金配当請求権」と「残余財産分配請求権」の全部を与えないとする定款の定めは無効です(会社法105条2項)。投資したのに1円も返ってこないなら、それは寄付と同じになってしまうからです。
(2) 単独株主権と少数株主権
株主の権利には、1株持っているだけで行使できるものと、ある程度の株数(または議決権)を持っていないと行使できないものがあります。
① 単独株主権(1株でもOK)
株主にとって基本的かつ重要な権利です。
- 議決権(総会に出席して投票する)
- 自益権全般(配当請求など)
- 各種の訴え提起権(株主総会決議取消しの訴え、設立無効の訴え、代表訴訟など)
② 少数株主権(一定のパワーが必要)
会社経営に混乱を招くおそれがある権利は、乱用を防ぐために一定の持株要件(要件)が課されています。
- 株主総会招集請求権:議決権の3%(100分の3)以上
- 会計帳簿閲覧請求権:議決権の3%(100分の3)以上
- 解散請求権:議決権の10%(10分の1)以上
- 議題提案権:議決権の1%または300個以上(※総会権限に関わる重要権限)
「会社の帳簿を見せろ(閲覧権)」や「総会を開け(招集権)」といった、経営陣に負担をかける行為は3%が基準です。
「会社を解散させろ」という最強の権利はさらに重く10%。
「次の総会でこれを議論しよう」という提案(議題提案権)は比較的軽く1%(または300個)です。
(3) 株主平等の原則とその例外
会社法109条1項は、「株式会社は、株主を、その有する株式の内容および数に応じて、平等に取り扱わなければならない」と定めています(株主平等の原則)。
つまり、「Aさんは社長の友達だから配当2倍」みたいなエコひいきは禁止です。
【例外】非公開会社の属人的定め(会社法109条2項)
ただし、公開会社でない株式会社(非公開会社)においては、定款で定めることにより、以下の3つの権利について「株主ごとに(属人的に)」異なる取り扱いをすることが認められています。
- 剰余金の配当を受ける権利
- 残余財産の分配を受ける権利
- 株主総会における議決権
【具体例】
「創業者である株主Aさんは、1株につき10個の議決権を持つ」とか「株主Bさんは配当を優先する」といった定めが可能です。
これは後述する「種類株式」とは異なり、「株式の種類」ではなく「人」に着目した差別化です。
2. 株式の内容についての特別の定め(全株式対象)
会社法107条では、その会社が発行する「すべての株式」について、以下の3つの内容を設定できるとしています。
(1) 3つの特別の定め
- 譲渡制限株式:株式を譲渡するのに会社の承認が必要とする。
- 取得請求権付株式:「株を買い取ってくれ」と株主が会社に請求できる。
- 取得条項付株式:「一定の事由が生じたら、会社が強制的に株主から株を取り上げる」ことができる。
(2) 全株式を譲渡制限株式にする手続き
もともと自由に譲渡できた株式を、定款変更によって「譲渡制限株式」に変える場合、株主にとっては「売りたくても自由に売れない」という不利益が生じます。
そのため、株主総会の特殊決議(定足数:議決権行使可能株主の半数以上、賛成:その議決権の3分の2以上)という、非常に厳しい決議が必要です(会社法309条3項1号)。
3. 種類株式(9つのバリエーション)
ここが本丸です。会社は、権利内容の異なる2種類以上の株式を発行することができます(会社法108条)。これを種類株式といいます。
「普通株式(Class A)」と「優先株式(Class B)」のように使い分けます。
種類株式として設定できる内容は、以下の9つに限定されています。
| No. | 名称 | 内容・特徴 |
|---|---|---|
| 1 | 剰余金配当優先株 | 他の株より配当を多くもらえる(または少なくなる)。 出資を募りやすくするために使われる。 |
| 2 | 残余財産分配優先株 | 会社解散時の取り分を優先する。 |
| 3 | 議決権制限株式 | 総会で議決権を行使できない。 ※公開会社では発行済株式総数の1/2を超えてはならない(支配権の歪みを防ぐため)。 |
| 4 | 譲渡制限株式 | この種類株だけ譲渡に会社の承認が必要。 ※ある種類だけ制限する場合は、全株式の時とは違い「特殊決議」までは不要(特別決議でOK)。 |
| 5 | 取得請求権付株式 | 株主が「買い取れ」と言える(プット・オプション)。 |
| 6 | 取得条項付株式 | 会社が一定事由で強制的に回収できる(コール・オプション)。 (例:上場したら回収して普通株に換える) |
| 7 | 全部取得条項付株式 | 株主総会の特別決議で、そのクラスの株を全部回収できる。 ※少数株主を排除する(スクイーズアウト)際によく使われる強力なツール。 |
| 8 | 拒否権付株式 (黄金株) |
株主総会の決議事項について、さらにこの種類株主総会の決議も必要とする。 ※1株でも持っていれば合併などを否決できるため「黄金株」と呼ばれる。 |
| 9 | 役員選任権付株式 | この種類株主総会だけで取締役・監査役を選べる。 ※公開会社および指名委員会等設置会社では発行できない。 |
全部覚えるのは大変ですが、以下の「規制」に注目すると試験対策になります。
- 公開会社で発行数に制限があるもの:議決権制限株式(1/2以下)。
- 公開会社・指名委員会等設置会社で発行できないもの:役員選任権付株式(これを認めると、一部の株主が会社を私物化したり、委員会の権限を無力化できてしまうから)。
4. 種類株式の発行と定款変更(種類株主総会)
種類株式を発行するには、定款でその内容と発行可能数を定めなければなりません。
(1) ある株式の内容を変更する場合
既存の普通株式の一部を、定款変更によって「種類株式(例:譲渡制限株式)」に変更する場合、以下の手続きが必要です。
- 原則:株主総会の特別決議。
- 例外(譲渡制限や全部取得条項を付ける場合):株主全員の同意、または当該種類株主全員の同意(不利益が大きいから)。
(2) 種類株主総会の決議が必要な場合(会社法322条)
会社が合併や新株発行などの行為をする際、ある種類の株主に損害を及ぼすおそれがある場合は、全体の株主総会決議に加えて、その損をする種類の株主たちによる「種類株主総会」の特別決議が必要です。
これを経ないと、その行為は無効になる可能性があります。
5. 実戦問題で理解度チェック!
ここまでの知識を使って、本試験レベルの問題に挑戦しましょう。
1. 株式会社は、株主をその有する株式の内容および数に応じて平等に取り扱わなければならないが、公開会社でない株式会社においては、剰余金の配当、残余財産の分配、株主総会における議決権の3つについて、定款で株主ごとに異なる取り扱いを定めることができる。
2. 自益権とは、株主が会社から経済的な利益を受ける権利をいい、共益権とは、株主が会社の管理運営に参加する権利をいう。単独株主権には自益権だけでなく共益権も含まれる。
3. 株主総会の招集請求権や会計帳簿閲覧請求権は、総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主でなければ行使できない少数株主権である。
4. 株式会社は、定款の定めによっても、剰余金の配当を受ける権利および残余財産の分配を受ける権利の全部を与えない株式を発行することはできない。
5. 株主の権利のうち、取締役の違法行為差止請求権や代表訴訟提起権は、会社の経営監督に関する重要な権利であるため、6ヶ月前から引き続き株式を保有する株主でなければ行使できない(公開会社でない場合を除く)。
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正解 5
解説:
1. 正しい。株主平等原則の例外として、非公開会社における「属人的定め(109条2項)」が認められています。
2. 正しい。単独株主権(1株でできる権利)には、配当請求権(自益権)だけでなく、議決権や提訴権(共益権)も含まれます。
3. 正しい。これらの少数株主権の要件は3%です。
4. 正しい。自益権の全部を否定する株式の発行は無効です(105条2項)。
5. 誤り。違法行為差止請求権(360条)や代表訴訟提起権(847条)は、「単独株主権(1株でOK)」です。公開会社の場合に保有期間要件(6ヶ月)があるのは正しいですが、少数株主権(持株割合要件)ではありません。
1. 株式会社は、その発行する全部の株式の内容として、株主総会において議決権を行使することができる事項を制限する旨を定款で定めることができる。
2. 株式会社は、その発行する全部の株式の内容として、株主が会社に対して当該株式の取得を請求することができる旨(取得請求権付株式)を定めることができる。
3. 株式会社は、その発行する全部の株式の内容として、会社が株主総会の決議によって当該株式の全部を取得する旨(全部取得条項付株式)を定めることができる。
4. 譲渡制限株式を発行していない株式会社が、定款を変更してその発行する全部の株式の内容として譲渡による株式の取得について会社の承認を要する旨を定める場合、株主総会の特別決議によらなければならない。
5. 株式会社は、その発行する全部の株式の内容として、取締役および監査役の選任について、種類株主総会の決議を必要とする旨を定めることができる。
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正解 2
解説:
1. 誤り。「議決権制限」は全株式の内容(107条)としては定められません(全株主の議決権をなくすと誰も決められなくなるため)。種類株式(108条)としてのみ可能です。
2. 正しい。取得請求権付株式は、全株式の内容として設定可能です。
3. 誤り。「全部取得条項付株式」は、種類株式(108条)の一種であり、全株式の内容(107条)としては定められません。これに似た「取得条項付株式」なら全株式でも可能ですが、「総会決議で全部取得」という性質は種類株式特有です。
4. 誤り。全株式を譲渡制限にする場合は、株主への影響が極めて大きいため、特別決議よりも重い「特殊決議(定足数:半数以上、賛成:3分の2以上)」が必要です(309条3項1号)。
5. 誤り。役員選任権付株式も種類株式(108条)の一種であり、全株式の内容としては設定できません。
1. 公開会社は、議決権制限株式を発行することができるが、その発行済株式数が発行済株式総数の2分の1を超えるに至ったときは、直ちに、2分の1以下にするための措置をとらなければならない。
2. 指名委員会等設置会社および公開会社は、取締役または監査役の選任を種類株主総会の決議によって行う旨の種類の株式(役員選任権付種類株式)を発行することができない。
3. ある種類の株式について、譲渡による取得について会社の承認を要する旨を定款で定める場合(譲渡制限種類株式)、当該種類の株式を有する株主に損害を及ぼすおそれがあるときは、当該種類株主総会の決議が必要であるが、定款でその決議を不要とする定めを置くこともできる。
4. 株式会社は、株主総会において決議すべき事項の全部または一部について、その決議のほか、ある種類の株式を有する株主で構成する種類株主総会の決議を必要とする旨(拒否権付種類株式)を定款で定めることができる。
5. 全部取得条項付種類株式は、株主総会の特別決議によって、会社がその種類の株式の全部を取得することができる株式であり、少数株主を排除する手段(スクイーズアウト)として利用されることがある。
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正解 3
解説:
1. 妥当。公開会社における議決権制限株式の「2分の1ルール」です(会社法115条)。
2. 妥当。公開会社と指名委員会等設置会社では発行できません。
3. 妥当でない(誤り)。ある種類株式の内容を変更して「譲渡制限」を付す場合、その種類株主総会の決議(特別決議)が必要です(324条2項)。この決議は、株主の利益保護のため必須であり、定款で排除することはできません(会社法322条2項の対象外)。排除できるのは、株式併合など一般的な行為による不利益の場合です。
4. 妥当。いわゆる黄金株(拒否権付株式)の定義です。
5. 妥当。全部取得条項付種類株式の特徴です。
6. まとめ
今回は、複雑な「株式」の仕組みについて解説しました。
ポイントを整理しましょう。
- 株主の権利:1株でも持っていれば「単独株主権」。帳簿閲覧や解散請求など、会社を揺るがす権利は「少数株主権(3%や10%)」。
- 非公開会社の特例:「人」に着目した属人的定め(議決権・配当・残余財産)が可能。
- 全株式の譲渡制限化:特殊決議が必要(超重要!)。
- 種類株式:9種類あるが、試験対策としては「議決権制限株式(1/2規制)」と「役員選任権付株式(公開会社NG)」の規制が最重要。
種類株式は、後の「組織再編」や「敵対的買収防衛策」の話でも登場します。「ああ、あの黄金株のことね」と思い出せるように、表を何度も見返しておいてください。
次回は、実際に株式が売買される場面、「株主名簿」「株式譲渡」「譲渡制限株式」の手続きについて解説します。
よくある質問(FAQ)
- Q1. 「属人的定め」と「種類株式」の違いは何ですか?
- 「種類株式」は、A種株、B種株というように「株式そのもの」に色がついています。誰が持ってもその権利です。一方、「属人的定め」は「山田さんは議決権10個」というように「人」に紐付いています。山田さんが株を他人に譲渡しても、その特典は引き継がれません。属人的定めは非公開会社でしか認められません。
- Q2. 全株式を譲渡制限にするのに、なぜ「特殊決議」が必要なのですか?
- これまで自由に売買できていた株が、急に「会社の許可がないと売れない」となると、株主にとっては「換金できない塩漬け株」になるリスクがあり、極めて不利益だからです。そのため、通常の特別決議(2/3賛成)よりもさらに厳しい、定足数(半数以上)の要件を加えた特殊決議が求められます。
- Q3. 全部取得条項付株式はどんな時に使われますか?
- 主に、少数株主を強制的に排除(スクイーズアウト)して、100%完全子会社化したい場合などに使われます。株主総会の決議で「全部回収する」と決め、対価として現金を渡すことで、少数株主から株式を取り上げることができます。
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