「株を買ったら、どうやって自分のものだと証明するの?」
「譲渡制限株式って、勝手に売ったらどうなるの?」
こんな疑問を持っていませんか?
会社法において、株式の「譲渡」と「管理(株主名簿)」は、実務でも試験でも非常に重要なテーマです。特に、「株券発行会社」と「株券不発行会社(原則)」でルールがまるで違うため、ここを整理できていないと問題文を読み違えて失点してしまいます。
今回は、株式の管理簿である「株主名簿」の役割から、株式を売買する際の「対抗要件(名義書換)」、そして中小企業のほとんどが採用している「譲渡制限株式」の手続きまでを、ストーリー仕立てで解説します。
2026年度試験合格に向けて、株式譲渡のルールを完璧にマスターしましょう!
1. 株主名簿(株主管理の基本)
会社には多数の株主がいますが、会社はいちいち「今の株主は誰ですか?」と探し回るわけにはいきません。
そこで、会社は「株主名簿」というリストを作成し、そこに載っている人を「株主」として扱います。
(1) 株主名簿の記載事項
会社法121条により、以下の事項を記載・記録しなければなりません。
- 株主の氏名(名称)および住所
- 持ち株数(種類株式発行会社なら種類ごとの数)
- 株式の取得日
- (株券発行会社の場合)株券番号
昔の商法では「株券発行」が原則でしたが、現在の会社法では「株券不発行」が原則です。
定款でわざわざ「株券を発行する」と定めない限り、株券という紙切れは存在せず、すべてデータ(株主名簿)のみで管理されます。
(2) 株主名簿の効力(ここが重要!)
株主名簿には、事務処理を円滑にするための強力な効力があります。
① 免責的効力(会社法126条)
会社が株主総会の招集通知などを送る際、株主名簿に記載された住所に送れば、たとえ引越し等で届かなくても「到達した」とみなされます。
「名簿の住所に送ったから、会社としての義務は果たしたよ」と言えるわけです。
② 対抗力(会社法130条1項)
後述しますが、株式を取得した人は、名簿を書き換えないと(名義書換)、会社に対して「私が株主だ!」と主張できません。
③ 推定力(事実上の効力)
名簿に載っている人は、実質的な権利者であると推定されます。
(3) 基準日(権利行使者の確定)
株主は日々入れ替わります。総会の当日に「昨日株を買ったので入れてくれ」と言われても混乱しますよね。
そこで会社は、「基準日(きじゅんび)」を定め、その日の終了時点での株主名簿上の株主を、権利行使者として固定することができます(会社法124条)。
- 有効期間:基準日から3ヶ月以内に行使する権利に限られます。
- 公告:基準日の2週間前までに公告が必要です(定款で定めている場合は不要)。
2. 株式の譲渡と対抗要件(最大の山場)
「株式譲渡自由の原則」により、株主は自由に株式を売ることができます。
しかし、その譲渡が有効かどうか、誰に対抗できるかは、「株券発行会社かどうか」で結論が全く異なります。
ここが試験の最頻出ポイントですので、以下の比較表を必ず頭に入れてください。
(1) 株式譲渡の効力発生要件と対抗要件の比較
| 区分 | ① 当事者間の効力発生要件 (いつ移転するか?) |
② 会社への対抗要件 (会社に主張するには?) |
③ 第三者への対抗要件 (二重譲渡で勝つには?) |
|---|---|---|---|
| 株券不発行会社 (原則) |
意思表示のみ (「売ります」「買います」の合意) |
名義書換 (株主名簿の記載) |
名義書換 (株主名簿の記載) |
| 株券発行会社 (例外) |
意思表示 + 株券の交付 (株券を渡さないと効力なし!) |
名義書換 (株主名簿の記載) |
株券の交付・占有 (持っている者が勝つ!) |
(2) ケーススタディで理解しよう
ケースA:株券不発行会社(普通の会社)の場合
株主Xが、Yに株式を売却しました。
- 移転時期:XとYが合意した瞬間に、株主権はYに移転します。
- 会社への主張:Yは会社に対し「名義書換(名簿の名前をXからYに変えて)」と請求し、書き換わって初めて、会社から配当をもらったり総会に出たりできます。
- 二重譲渡:もしXがZにも売却した場合、先に名義書換をした方が勝ちます(不動産の登記と同じ早い者勝ち)。
ケースB:株券発行会社の場合
株主Xが、Yに株式を売却しました。
- 移転時期:合意だけではダメです。XがYに「株券」を引き渡した瞬間に移転します(交付が効力要件)。
- 会社への主張:ここが重要! Yが株券を持っていても、会社に対しては「名義書換」をしないと株主として扱ってもらえません(130条2項)。
- 二重譲渡:XがZにも売って株券を渡してしまった場合、株券を持っているZが勝ちます(第三者対抗要件は株券の占有)。
「株券発行会社では、株券を提示すれば会社に対抗できる」→ × 誤りです。
会社に対する対抗要件は、発行・不発行にかかわらず「名義書換」で統一されています。
(※ただし、後述する譲渡制限株式の承認請求など、一部の手続きでは株券提示で足りる場合がありますが、原則は名義書換です。)
3. 譲渡制限株式(中小企業の必須知識)
日本の会社の9割以上は、定款で「株式を譲渡するには会社の承認が必要」と定めている「非公開会社(譲渡制限会社)」です。
見ず知らずの人が株主になって経営に口を出してくると困るからです。
(1) 譲渡制限株式の売買の効力
もし、会社の承認を得ずに勝手に売買したらどうなるでしょうか?
- 当事者間(売主・買主):有効です(判例)。
- 会社に対して:効力を主張できません(会社は「そんな人は株主じゃない」と無視できます)。
(2) 株式譲渡承認請求の流れ(会社法136条〜)
株主が「株を売りたいけど、承認が必要だ」という場合、以下のプロセスで承認を求めます。
① 誰が請求できる?
- 譲渡人(現株主):単独で請求できます。
- 譲受人(買いたい人):原則として譲渡人と共同で請求しなければなりません(本当に売買があったか会社が確認するため)。
※株券発行会社で株券を提示できる場合は、譲受人単独でも請求できます。
② 請求の内容
請求する際、セットで以下のことを言います。
「Aさんに譲渡することを認めてください。もしダメなら、会社(または指定買取人)が買い取ってください。」
(これを「買取請求」といいます。これがないと株主は一生株を売れず、投下資本を回収できないからです。)
③ 会社の対応(承認機関)
原則は「株主総会(普通決議)」で承認するか否かを決めます。
(取締役会設置会社なら「取締役会」です。)
ただし、定款で「代表取締役が決める」など別段の定めをすることも可能です。
(3) 承認しない場合(買取の手続き)
会社が「Aさんへの譲渡は認めない(否決)」とした場合、会社は自ら買い取るか、指定買取人(社長個人など)を指定して買い取らせなければなりません。
A. 会社が買い取る場合(自己株式取得)
会社のお金が流出するため、規制が厳しくなります。
- 決定機関:株主総会の特別決議が必要です(取締役会設置会社でも総会決議が必要!)。
- 財源規制:分配可能額(剰余金)の範囲内でしか買い取れません。
B. 指定買取人が買い取る場合
- 決定機関:取締役会設置会社なら取締役会決議、そうでなければ総会の特別決議。
(4) みなし承認(会社法145条)
会社がのらりくらりと返事をしないと、株主は困ります。そこで、以下の場合には「承認したものとみなす」というルールがあります。
- 請求の日から2週間以内に通知しなかった場合。
- 「承認しない」と通知してから40日以内に、「じゃあ誰が買い取るか」の通知をしなかった場合。
1. 株主「売りたい!ダメなら買い取れ!」
↓
2. 会社(取締役会など)「承認するか審議」
↓
3. 承認なら「どうぞ」/不承認なら「会社か指定人が買う」
↓
4. 不承認で会社が買うなら「総会特別決議」+「財源規制」
↓
5. 価格決定(協議または裁判所)
5. 実戦問題で理解度チェック!
ここまでの知識を使って、本試験レベルの問題に挑戦しましょう。
1. 株券発行会社における株式の譲渡は、当事者の意思表示のみでその効力を生じるが、会社に対抗するためには株券の交付が必要である。
2. 株券発行会社における株式の譲渡は、当該株式に係る株券を交付しなければその効力を生じないが、会社に対抗するためには、株主名簿への名義書換が必要である。
3. 株券不発行会社における株式の譲渡は、当事者の意思表示のみで効力を生じ、会社に対する対抗要件は株主名簿への名義書換であるが、第三者に対する対抗要件は確定日付ある証書による通知または承諾である。
4. 株券発行会社において、株券の所持人は適法な所持人と推定されるため、株券を提示して請求すれば、会社は名義書換を拒むことができない。
5. 会社が正当な理由なく名義書換を拒絶している場合、譲受人は会社に対して株主権を行使することができない。
正解・解説を見る
正解 2
解説:
1. 誤り。株券発行会社での譲渡効力発生要件は「株券の交付」です(128条1項)。意思表示だけでは移転しません。
2. 正しい。効力要件は「株券交付」、会社対抗要件は「名義書換」です(130条2項)。ここが基本かつ最重要です。
3. 誤り。株券不発行会社の第三者対抗要件も「株主名簿への名義書換」です。債権譲渡のような「確定日付ある通知」ではありません(130条1項)。
4. 誤り(細かい論点)。株券所持人は実質的権利者と推定されますが、名義書換請求には原則として譲渡人の協力(共同請求)が必要です。単に株券を見せるだけで名義書換ができるわけではありません(※譲受人単独請求ができる特則もありますが、原則論として「拒むことができない」と言い切る本肢は不適切)。
5. 誤り。判例(最判昭41.7.28)により、会社が不当に名義書換を拒絶した場合は、信義則上、会社は名義書換未了を理由に権利行使を拒否できないとされています(過失による遅滞も同様)。
1. 譲渡制限株式を取得した者は、譲渡人(株主)と共同でなければ、会社に対して譲渡承認請求をすることができない。
2. 取締役会設置会社において、譲渡承認請求に対する承認・不承認の決定は、定款に別段の定めがない限り、株主総会の決議によらなければならない。
3. 会社が譲渡を承認しない旨の決定をした場合、会社は必ず自ら当該株式を買い取らなければならず、指定買取人を指定することはできない。
4. 会社が自ら譲渡制限株式を買い取ることを決定する場合、その財源には制限がなく、資本金の額を超えて買い取ることも可能である。
5. 譲渡承認請求の日から2週間以内に、会社が承認するか否かの通知をしなかった場合、会社は譲渡を承認したものとみなされる。
正解・解説を見る
正解 5
解説:
1. 誤り。取得者からの請求は原則共同請求ですが、譲渡人(現株主)からの請求は単独でできます。
2. 誤り。取締役会設置会社では、承認機関は原則として取締役会です(139条1項)。
3. 誤り。会社が買い取るか、指定買取人を指定して買い取らせるかを選択できます(140条)。
4. 誤り。会社が自己株式として買い取る場合は、財源規制(分配可能額の範囲内)が適用されます(461条)。
5. 正しい。みなし承認の規定です(145条1号)。この「2週間」という数字は覚えましょう。
6. まとめ
今回は、株式の「管理」と「譲渡」について解説しました。
ポイントを整理します。
- 株主名簿:対抗要件の基本。免責的効力がある。
- 対抗要件:会社に対しては常に「名義書換」。第三者に対しては、株券不発行なら「名義書換」、発行会社なら「株券の交付・占有」。
- 譲渡制限株式:当事者間では有効だが会社に対抗できない。承認機関は取締役会(設置会社の場合)。否決されたら会社か指定買取人が買い取る。
- みなし承認:請求から2週間放置すると承認とみなされる。
特に「対抗要件」の表は、記述式問題で「誰に対してどうすれば対抗できるか」を書かせる問題が出ても対応できるようにしておきましょう。
次回は、株式会社の運営組織である「株式の変動」「単元株」について解説します。
よくある質問(FAQ)
- Q1. 株券不発行会社が原則とのことですが、株券発行会社かどうやって見分けるのですか?
- 登記簿(登記事項証明書)を見ればわかります。「株券を発行する旨の定め」という項目があれば発行会社、なければ不発行会社です。試験問題では必ず「A社(株券発行会社)は〜」のように前提条件が書かれていますので、見落とさないようにしましょう。
- Q2. 譲渡制限株式を相続した場合、会社の承認は必要ですか?
- 不要です。譲渡制限はあくまで「売買(特定承継)」を対象としており、相続(一般承継)には適用されません。ただし、定款に「相続人に対する売渡請求」の定めがある場合は、会社から「売ってくれ」と言われる可能性があります。
- Q3. 指定買取人とは誰のことですか?
- 会社が譲渡を承認しない場合に、会社の代わりに株を買い取ってくれる人のことです。実務上は、代表取締役個人や、友好的な他の株主が指定されることが多いです。
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