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講義9:【会社法】株式の変動・単元株・スクイーズアウトを完全攻略

前回は、株式の「譲渡」や「譲渡制限」といった基本ルールを解説しました。
今回は、さらに一歩進んで、「会社が株式をいじる場合(分割・併合)」「大株主が少数株主を追い出す場合(売渡請求)」といった、株式の実務的・応用的な論点を扱います。

「株式分割と併合、どっちが総会決議だっけ?」
「単元未満株主って、何ができるの?」
「相続人への売渡請求と、特別支配株主の売渡請求、名前が似てて混乱する…」

これらは、一見地味な論点に見えますが、「株主の権利に重大な影響を与えるかどうか」という視点を持つと、手続きの重さ(取締役会だけでいいのか、株主総会の特別決議が必要か)が明確に見えてきます。

特に、近年の法改正で整備された「キャッシュアウト(少数株主の排除)」に関する規定は、本試験でも狙われやすいホットな分野です。
2026年度合格に向けて、知識の穴を埋めていきましょう!

1. 相続人等に対する売渡請求(クーデター防止策)

前回解説した譲渡制限株式であっても、「相続(一般承継)」の場合は会社の承認なく移転してしまいます。
しかし、中小企業にとって、見知らぬ相続人(経営者と仲の悪い息子など)が株主になることは、経営のリスク要因(クーデターの種)になりかねません。

そこで、会社法は特定の会社に対し、相続人から強制的に株式を回収する手段を認めています。

(1) 制度の概要(会社法174条)

  • 対象会社:相続その他の一般承継により、譲渡制限株式を取得した者に対し、その株式を会社に売り渡すことを請求できる旨を定款で定めた会社。
  • 目的:会社にとって好ましくない者が、相続等により分散して株主になることを防ぐ(経営権の安定)。
💡 注意点

この制度は「譲渡制限株式」を発行している会社(主に非公開会社)だけの特権です。
公開会社(譲渡自由な会社)では、誰が株主になろうと自由なので、この定款を定めることはできません。

(2) 請求の手続き(要件厳格!)

会社が「お父さんの株を会社に売ってください」と相続人に請求するには、以下の厳格な手続きが必要です。

  1. 定款の定め:あらかじめ定款に記載が必要(新設には株主総会の特殊決議が必要)。
  2. 個別の決定:実際に相続が起きた際、売渡請求をするかどうか、その数、相手方を「株主総会の特別決議」で決める。
  3. 期間制限:会社が相続があったことを知った日から1年以内に行わなければならない。

【なぜ特別決議なのか?】
相続人といえども、法律上は正当な株主です。その株主から意に反して財産(株)を取り上げる行為なので、取締役会任せにはできず、株主総会の重い決議(特別決議)を要求しています。
※なお、売渡請求の対象となる相続人は、この決議において議決権を行使できません(会社法175条2項)。自分が追い出される決議に参加させるのは不合理だからです。

2. 子会社による親会社株式取得の禁止

親会社A社と、その子会社B社(Aが過半数の株を持っている)の関係についてです。

(1) 原則禁止(会社法135条1項)

「子会社は、親会社の株式を取得してはならない」

【理由(弊害)】
資本の空洞化: 親会社が出資したお金が、子会社を通じて親会社(株主)に戻ってしまうと、実質的な「出資の払い戻し(タコ足食い)」と同じになります。
支配の歪み: 親会社の経営陣が、子会社に命じて親会社の株を買わせ、その議決権を自分たちに有利に行使させる(親不孝な議決権行使)恐れがあります。

(2) 例外と処分義務

以下の場合などは、例外的に取得が認められますが、取得後は相当の時期に処分しなければなりません。

  • 合併や事業譲渡により、やむを得ず取得する場合(他社が持っていた親会社株を引き継いだ場合など)。
  • 権利の実行(担保権の実行など)による場合。
💡 親会社株を持っていたら議決権は?

子会社が親会社の株を持っていても、その株に議決権はありません(会社法308条1項)。
親会社の経営陣による支配権の濫用を防ぐためです。

3. 特別支配株主の株式等売渡請求(強制スクイーズアウト)

これは平成26年改正で導入された、M&Aや事業承継をスムーズにするための強力な制度です。
「圧倒的大株主(9割以上)」が、残りの少数株主に対し、「俺が全部買い取るから出て行ってくれ」と命令できる制度です。

(1) 制度の仕組み(会社法179条)

  • 主体(誰が):特別支配株主(総株主の議決権の90%以上を持っている者)。
  • 対象(誰に):売渡株主(残りの全株主)。
  • 内容:対象会社の承認を得て、全株式を強制的に買い取る。

(2) 手続きの流れ(スピード重視)

最大の特徴は、「株主総会の決議が不要」という点です。

  1. 通知:特別支配株主が、対象会社に対して「条件(価格など)」を通知する。
  2. 承認:対象会社の取締役会決議(非設置会社なら取締役の過半数)で承認する。
    ※「株主総会」は不要です。なぜなら9割持っている人が賛成しているなら、総会を開いても結果は同じだからです。コスト削減のため省略されています。
  3. 通知・公告:会社から売渡株主へ「取得日の20日前まで」に通知する。
  4. 取得:取得日に、株は自動的に特別支配株主へ移転する(対価は後払いでもOK)。

少数株主は拒否できませんが、価格に不満がある場合は裁判所に「価格決定の申立て」ができます。

4. 株式の分割と併合(株数の調整)

会社は、株価の調整や株主管理コストの削減などのために、株式の数を増減させることがあります。
「分割」と「併合」は対照的な手続きなので、比較して覚えましょう。

(1) 株式の分割(1株→10株に!)

株式を細分化して、株数を増やすことです。
(例:1株1万円の株を10分割して、1株1,000円にする)

  • 目的:株価を下げて買いやすくし、流動性を高める。
  • 株主への影響:持ち株数は増えますが、資産価値の総額は変わりません(プラスの影響)。
  • 決定機関:
    • 取締役会設置会社 → 取締役会決議
    • 取締役会非設置会社 → 株主総会普通決議
💡 4倍ルール廃止の影響

株式分割に伴い、発行可能株式総数(授権枠)を増やす定款変更が必要になることがありますが、これも取締役会決議で行うことができます(会社法184条2項)。
「分割割合の範囲内」であれば、株主総会を開かずにスピーディーに行えます。

(2) 株式の併合(10株→1株に!)

複数の株式を合わせて、株数を減らすことです。
(例:10株を1株にまとめる)

  • 目的:管理コストの削減、あるいは少数株主の排除(スクイーズアウト)。
  • 株主への影響:

    1株未満の端数(はすう)が生じることがあります。
    例えば「10株を1株にする」併合を行った場合、5株しか持っていない株主は「0.5株」になってしまいます。
    0.5株という株は存在しないため、この株主は株主の地位を失い、代わりに0.5株分の現金を貰ってサヨナラすることになります。
    このように、株主の地位を失うリスク(不利益)があるため、手続きは厳格です。

  • 決定機関:株主総会の特別決議(取締役会ではダメ!)。
💡 4倍ルール(公開会社のみ)

株式併合をする際、公開会社では「発行可能株式総数」を、併合後の発行済株式総数の4倍を超えないように減らさなければなりません(会社法113条3項)。
併合によって株数が減ると、相対的に「これから発行できる枠(授権枠)」が巨大化してしまい、取締役会による乱用的な新株発行のリスクが高まるからです。

(3) 比較まとめ表(試験頻出)

項目 株式の分割 株式の併合
効果 株数が増える 株数が減る
株主への影響 有利・中立 不利(端数切り捨てのリスク)
決定機関
(取締役会設置会社)
取締役会決議 株主総会 特別決議
反対株主の買取請求権 なし あり(端数が生じる場合など)
債権者保護手続 不要 不要

※どちらも「資本金の額」自体は変動しないため、債権者保護手続きは原則不要です。

5. 単元株制度(議決権のユニット)

多くの株主を管理するのは大変です。そこで、一定数の株式をまとめて「1単元(ユニット)」とし、議決権の単位とする制度が認められています。

(1) 単元株のルール(会社法188条)

  • 定義:一定の数の株式を「1単元」と定め、1単元につき1個の議決権を与える制度。
  • 制限:
    1. 1単元の数は1,000株を超えてはならない。
    2. 発行済株式総数の200分の1を超えてはならない(極端に議決権を持つ人を減らすのはNG)。
  • 導入・変更:定款変更が必要です。ただし、「単元株数を減らす」または「廃止する」変更は、株主に有利なので取締役会決議で可能です。

(2) 単元未満株主の権利

例えば「100株で1単元」の会社で、10株しか持っていない株主(単元未満株主)はどうなるでしょうか?

  • 議決権:ありません(会社法189条1項)。総会に参加もできません。
  • 自益権:配当を受ける権利などはあります。
  • 権利の制限:定款で定めれば、以下の権利以外の権利を行使できないように制限可能です。
    • 配当受領権、残余財産分配権
    • 株主名簿記載請求権
    • 単元未満株式買取請求権 など
      (※これらは最低限保障される権利です)

(3) 買取請求と売渡請求(出口戦略)

単元未満株主は議決権がない上、市場で売ることも困難です(市場は単元単位で動くため)。
そこで、以下の制度があります。

① 買取請求権(法192条)

株主が会社に「この半端な株を買い取ってください」と請求する権利。
これは法定の権利であり、定款で排除することはできません。すべての単元未満株主が持っています。

② 売渡請求権(法194条)

株主が会社に「あと90株売ってくれれば1単元(100株)になるので、売ってください」と請求する権利。
これは定款の定めがある場合のみ行使できます(会社に在庫があるとは限らないからです)。

💡 覚え方

「買い取れ(Exit)」は常にOK。「売り渡せ(More)」は定款次第。


6. 実戦問題で理解度チェック!

ここまでの知識を使って、本試験レベルの問題に挑戦しましょう。

問1:株式の分割と併合
株式の分割および併合に関する次の記述のうち、会社法の規定に照らし、誤っているものはどれか。

1. 取締役会設置会社が株式の分割を行う場合、その決定は取締役会の決議によって行うことができる。
2. 取締役会設置会社が株式の併合を行う場合、その決定は株主総会の特別決議によって行わなければならない。
3. 株式の分割を行う場合、会社は株主に対して、基準日を定めてその2週間前までに公告しなければならない。
4. 株式の併合を行う場合において、端数が生じるときは、反対株主は会社に対して公正な価格で株式を買い取ることを請求することができる。
5. 株式の分割および併合のいずれの場合も、効力発生日に資本金の額は当然に変動するため、債権者保護手続を経なければならない。
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正解 5

解説:

1. 正しい。株式分割は取締役会決議で可能です(183条2項)。

2. 正しい。株式併合は株主総会の特別決議が必要です(180条2項)。

3. 正しい。基準日公告が必要です(124条3項)。

4. 正しい。株式併合により端数が生じる場合、反対株主には買取請求権が認められます(182条の4)。

5. 誤り。株式の分割や併合を行っても、それだけで資本金の額は増減しません。したがって、原則として債権者保護手続は不要です。

問2:特別支配株主の売渡請求
特別支配株主による株式等売渡請求に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。

1. 特別支配株主とは、株式会社の総株主の議決権の3分の2以上を有する株主をいう。
2. 特別支配株主が売渡請求を行うには、対象会社における株主総会の特別決議による承認が必要である。
3. 売渡請求の通知を受けた対象会社は、取締役会設置会社であれば取締役会の決議により、非設置会社であれば取締役の過半数の決定により、その承認をするか否かを決定する。
4. 特別支配株主による売渡請求が承認された場合、売渡株主に対する対価の支払いが完了した時点で、株式は特別支配株主に移転する。
5. 売渡株主は、売渡請求の条件に不服がある場合でも、事後的に損害賠償を請求しうるのみで、売渡請求そのものの差止めを請求することはできない。
正解・解説を見る

正解 3

解説:

1. 誤り。特別支配株主の要件は「議決権の10分の9(90%)以上」です(179条1項)。

2. 誤り。株主総会決議は不要です。

3. 正しい。対象会社の執行機関(取締役会等)の承認で足ります(179条の3)。

4. 誤り。株式の移転時期は、通知された「取得日」です。対価の支払い時ではありません(179条の9)。未払いでも株は移転します(その代わり特別支配株主は債務不履行責任を負います)。

5. 誤り。法令・定款違反や対価が著しく不当な場合などには、売渡株主は差止請求ができます(179条の7)。

問3:単元株制度
単元株式に関する次の記述のうち、会社法の規定に照らし、妥当でないものはどれか。

1. 株式会社は、定款で単元株式数を定めることができるが、その数は1,000株および発行済株式総数の200分の1を超えることはできない。
2. 譲渡制限株式を発行している会社であっても、単元株制度を採用することができる。
3. 単元未満株主は、定款に定めがある場合に限り、株式会社に対して自己の有する単元未満株式を買い取るよう請求することができる。
4. 単元株式数を減少させる定款変更や、単元株制度を廃止する定款変更は、取締役会設置会社であれば取締役会の決議のみで行うことができる。
5. 単元未満株主は、株主総会において議決権を行使することはできないが、株式会社の解散時には残余財産の分配を受ける権利を有する。
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正解 3

解説:

1. 妥当。単元株数の上限規定です(188条2項、施行規則34条)。

2. 妥当。公開会社・非公開会社を問わず採用できます。

3. 妥当でない(誤り)。単元未満株式の買取請求権は法定の権利であり、定款の定めがなくても行使できます(192条1項)。定款の定めが必要なのは「売渡請求(買増請求)」です。

4. 妥当。単元株数を減らす(または廃止する)変更は、株主にとって議決権が増えるなどの利益になるため、特則として取締役会決議で可能です(195条1項)。

5. 妥当。単元未満株主でも自益権(配当や残余財産分配)は原則として有します。これを制限することはできません(189条2項)。

7. まとめ

今回は、株式の変動や整理に関する応用論点を解説しました。
ポイントを整理しましょう。

  • 株式分割と併合:分割は取締役会(簡単)、併合は株主総会特別決議(厳格)。これを逆に覚えないこと!
  • 相続人への売渡請求:譲渡制限会社のみ。株主総会特別決議が必要。
  • 特別支配株主の売渡請求:90%以上。総会不要(取締役会承認)。取得日に移転。
  • 単元株:買取請求(Exit)は絶対できる。売渡請求(More)は定款次第。単元を減らす定款変更は取締役会でOK。

これらの論点は、細かい数字や決議要件が問われますが、「株主にとって有利か不利か」を基準に考えると、手続きの重さが理解しやすくなります。

次回からは、いよいよ会社法のメインテーマである「機関」になります。株式会社の意思決定の仕組みを学んでいきましょう!

よくある質問(FAQ)

Q1. 株式併合の際に債権者保護手続が不要なのはなぜですか?
株式を併合して株数が減っても、会社の財産(資本金など)が減るわけではないからです。債権者にとっては、株主が何人いようが、株数が何株あろうが関係ありません。会社の財産が流出する場合(資本金の減少など)にのみ、債権者保護手続が必要になります。
Q2. 相続人に対する売渡請求の期間が「1年」と短いのはなぜですか?
相続人は、自分が株主として認められるのか、会社から追い出されるのか不安定な地位に置かれます。この不安定な状態を長く続けるのは酷なため、会社が相続を知ってから1年以内に請求しなければならないとされています。
Q3. 特別支配株主の売渡請求で、対象会社の取締役会が「承認しない」ことはありますか?
法的には可能ですが、実質的には稀です。なぜなら、特別支配株主は90%以上の議決権を持っているため、もし取締役会が反対すれば、株主総会を開いて取締役全員を解任し、賛成する取締役を選び直すことができるからです。取締役会は、条件が著しく不当でない限り承認せざるを得ないのが実情です。

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