前回は、取締役個人の義務と責任について解説しました。
今回は、取締役たちが集まって構成する会議体「取締役会」と、実際に会社を代表して動く「代表取締役」について解説します。
「取締役会の決議事項と、代表取締役に任せられることの違いは?」
「特別利害関係人がいるときの定足数はどうなるの?」
「平取締役の名刺に『社長』と書いてあったら、会社は責任を負うの?」
これらの論点は、会社法の実務でも非常に重要であり、試験でも繰り返し問われるポイントです。
特に「重要な業務執行の決定」の判断基準や、「表見代表取締役」の要件などは、記述式問題でも狙われやすいテーマです。
2026年度試験合格に向けて、取締役会の仕組みと代表取締役の権限を完璧にマスターしましょう!
1. 取締役会とは?(業務執行の決定機関)
取締役会は、3人以上の取締役全員で構成される、会社の業務執行を決定する会議体です(会社法362条)。
(1) 設置義務がある会社
原則として、会社は定款で「置くかどうか」を自由に決められますが、以下の会社は設置が義務付けられています(327条)。
- 公開会社(株主が多く、迅速な意思決定が必要だから)
- 監査役会設置会社
- 監査等委員会設置会社
- 指名委員会等設置会社
(2) 取締役会の3つの役割
- 業務執行の決定:会社の運営方針を決める。
- 監査・監督:取締役同士で、お互いの職務執行を監督する。
- 代表取締役の選定・解職:会社の顔を決める。
2. 取締役会の決議事項(専決事項)
取締役会は、業務執行に関するあらゆることを決定できますが、何でもかんでも会議を開いて決めるのは非効率です。
そこで、日常的な業務執行は、代表取締役などに委任(任せる)ことができます。
しかし、以下の「重要な事項(専決事項)」については、委任することができず、必ず取締役会自身で決議しなければなりません(362条4項)。ここが試験の最重要ポイントです。
委任できない「重要な業務執行の決定」
- 重要な財産の処分および譲受け:(例:工場の売却、高額な不動産の購入)
- 多額の借財:(例:銀行からの巨額融資)
- 支配人その他の重要な使用人の選任・解任:(例:支店長や部長の任命)
- 支店その他の重要な組織の設置・変更・廃止
- 社債の募集に関する事項
- 内部統制システムの整備(コンプライアンス体制の構築)
- 定款の定めに基づく役員等の責任免除(一部免除)
何をもって「重要」や「多額」とするかは、会社の規模(総資産の何%か)、経緯、目的などを総合的に考慮して判断されます(判例)。一律に「1億円以上」と決まっているわけではありません。
3. 取締役会の運営(招集と決議)
取締役会を有効に開催するための手続きを見ていきましょう。
(1) 招集権者と招集手続
- 招集権者:原則として「各取締役」が招集できます。
ただし、定款や取締役会で「特定の取締役(社長など)を招集権者」と定めた場合は、その人が招集します。 - 招集請求権:招集権者以外の取締役や監査役、株主(※一定の要件あり)も、招集権者に「会議を開いてくれ」と請求できます。
- 招集通知:会日の1週間前までに各取締役(および監査役)に発します(定款で短縮可能)。
- 省略:取締役(および監査役)全員の同意があれば、招集手続きを省略して開催できます。
(2) 決議要件(定足数と過半数)
原則として、以下の要件で決議します(369条1項)。
- 定足数:議決に加わることができる取締役の過半数が出席。
- 決議:出席取締役の過半数の賛成。
※定款でこれを「上回る」割合を定めることはできますが、「下回る(緩和する)」ことはできません(株主総会との違いに注意!)。
(3) 特別利害関係人の排除
決議事項について「特別の利害関係」を有する取締役は、公正な判断ができないため、議決権を行使することができません(369条2項)。
【特別利害関係人の例】
・自分の持っている土地を会社に売る場合の、売主である取締役(利益相反取引)。
・代表取締役を解職される決議における、当該代表取締役。
※ただし、「選定(選ばれる)」決議の場合は、利害関係はないとされます(自分に投票してもOK)。
特別利害関係人は、「定足数(出席数)」にも「決議数(母数)」にも算入されません。
(例)取締役5人のうち、1人が特別利害関係人の場合。
→ 議決に加われるのは残りの4人。定足数は4人の過半数(3人以上)。決議は出席者の過半数。
(4) 決議の省略(書面決議)
取締役全員が書面または電磁的記録で「同意」し、かつ、監査役が異議を述べないときは、決議があったものとみなすことができます(370条)。
※ただし、定款の定めが必要です(株主総会のみなし決議とは異なり、定款がないとできません)。
4. 議事録の作成と閲覧
取締役会の内容は議事録に残さなければなりません。
- 署名義務:出席した取締役および監査役は、議事録に署名または記名押印しなければなりません。
(反対した取締役は、議事録に異議をとどめないと「賛成」したと推定され、責任を負わされる可能性があります)。 - 備置期間:本店に10年間。
- 閲覧権:
- 株主:必要があれば、裁判所の許可なしで閲覧できます(監査役設置会社などは裁判所の許可が必要)。
- 債権者:役員の責任を追及するため必要な場合に限り、裁判所の許可を得て閲覧できます。
5. 特別取締役による取締役会(機動的な決定)
大規模な会社では、取締役の数が多く、緊急時に全員を集めるのが大変です。
そこで、特定の重要事項(重要な財産の処分、多額の借財)に限り、あらかじめ選定された「特別取締役(3人以上)」だけで決議できる制度があります(373条)。
- 対象会社:取締役が6人以上かつ社外取締役が1人以上いる取締役会設置会社。
- 手続き:定款の定めは不要だが、取締役会での選定決議が必要。
6. 代表取締役(会社の顔)
取締役会で決まったことを実行し、対外的に会社を代表するのが「代表取締役」です。
(1) 選定と権限
- 選定:取締役会設置会社では、取締役会が取締役の中から選定します(362条3項)。
※定款で「株主総会で決める」とすることも可能です(選択的権限事項)。 - 権限:業務に関する一切の裁判上・裁判外の行為をする権限を持ちます(包括的代表権)。
※内部的に「100万円以上の契約は取締役会の承認が必要」と制限していても、それを破って契約した場合、善意の第三者には対抗できません(有効になります)。
(2) 表見(ひょうけん)代表取締役(名板貸しに近い責任)
代表権を持たない平取締役に、「社長」「副社長」「専務取締役」などの、いかにも代表権がありそうな肩書き(名称)を付与した場合、会社は責任を負わされます。
【要件】(354条)
- 会社が、取締役に代表権があると認める名称を付したこと(許諾)。
- 相手方(第三者)が、その取締役に代表権があると信じたこと(善意)。
※無過失までは要求されませんが、重過失がある場合は保護されないとするのが判例です。
【効果】
会社は、その取締役がした行為について、善意の第三者に対して責任を負います(取引は有効になります)。
「社長」という名刺を持った人と取引したら、普通はその人に契約権限があると思いますよね。その信頼(外観)を保護し、紛らわしい名称を与えた会社の責任を問う制度です。
7. 実戦問題で理解度チェック!
ここまでの知識を使って、本試験レベルの問題に挑戦しましょう。
1. 重要な財産の処分および譲受け。
2. 多額の借財。
3. 支配人その他の重要な使用人の選任および解任。
4. 支店その他の重要な組織の設置、変更および廃止。
5. 上記1から4のすべて。
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正解 5
解説:
1〜4のすべてが、会社法362条4項に列挙された「重要な業務執行の決定」であり、取締役会の専決事項です。これらを代表取締役に包括的に委任することはできません。個別の案件ごとに取締役会で決議する必要があります。
1. 取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数が出席し、その出席取締役の過半数をもって行うが、定款でこれを下回る割合を定めることができる。
2. 取締役会の決議について特別の利害関係を有する取締役は、議決に加わることができないが、定足数の算定においては、その取締役も数に含まれる。
3. 取締役会設置会社においては、取締役全員が書面または電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、定款の定めがなくても、当該提案を可決する旨の取締役会の決議があったものとみなされる。
4. 代表取締役の解職決議において、当該代表取締役は特別利害関係人に該当するため、議決権を行使することができない。
5. 取締役会の議事録が書面で作成されている場合、出席した取締役および監査役は、これに署名または記名押印しなければならないが、決議に反対した取締役については署名義務はない。
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正解 4
解説:
1. 誤り。定足数や決議要件を定款で「上回る」ことはできますが、「下回る(緩和)」ことはできません(369条1項)。
2. 誤り。特別利害関係人は、議決権を行使できないだけでなく、定足数にも算入されません(369条2項)。
3. 誤り。書面決議(みなし決議)を行うには、定款の定めが必須です(370条)。
4. 正しい。解職される代表取締役は、個人の地位に関わるため特別利害関係人に該当し、議決に参加できません(最判昭44.3.28)。
5. 誤り。反対した取締役も含め、出席した取締役・監査役全員に署名義務があります。反対の場合は、異議をとどめて署名することで、後の責任を免れることができます。
1. 会社が取締役に「社長」「副社長」等の名称を付与した場合はもちろん、「専務取締役」という名称を付与した場合であっても、表見代表取締役の規定が適用される余地がある。
2. 表見代表取締役の責任を会社に問うためには、相手方(第三者)が善意であれば足り、無過失であることまでは要求されない。
3. 会社が名称の使用を明示的に許諾していなくても、取締役が名称を使用している事実を知りながら放置していた場合(黙示の許諾)には、規定が適用される。
4. 表見代表取締役の規定は、取引行為(契約など)だけでなく、手形行為や訴訟行為についても適用される。
5. 表見代表取締役がした行為の効果は会社に帰属するため、会社は善意の第三者に対して履行責任を負う。
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正解 4
解説:
1. 正しい。専務取締役や常務取締役も、会社によっては代表権を持つ場合があるため、適用対象となり得ます。
2. 正しい。相手方の過失の有無については、重過失がある場合は保護されないとするのが判例ですが、単なる過失(軽過失)であれば保護されます。
3. 正しい。黙示の許諾でも適用されます(最判昭35.10.14)。
4. 誤り。取引行為には適用されますが、「裁判上の行為(訴訟行為)」には適用されません(最判昭45.12.15)。訴訟手続きは画一・明確であるべきだからです。
5. 正しい。規定の効果として、会社は責任を負います。
8. まとめ
今回は、取締役会と代表取締役について解説しました。
ポイントを整理します。
- 取締役会の専決事項:多額の借財、重要財産の処分、人事、組織、社債、内部統制、責任免除。これらは社長に丸投げできない。
- 決議要件:過半数出席・過半数賛成。緩和は不可。特別利害関係人はカウントしない。
- 招集:1週間前通知。全員同意で省略可。
- 代表取締役:取締役会が選ぶ(定款で総会選定も可)。包括的代表権を持つ。
- 表見代表取締役:名称使用許諾+第三者善意=会社責任。訴訟行為には適用なし。
特に「取締役会の決議事項」と「株主総会の権限」の違いは、横断的に整理しておくと試験で強くなります。
次回は、会社の監査機関である「会計参与・監査役・監査役会・会計監査人」について、それぞれの権限の違いや設置義務などを詳しく解説します。
よくある質問(FAQ)
- Q1. 「特別利害関係人」の範囲はどこまでですか?
- 具体的状況によりますが、判例上認められているのは「取締役と会社の利益相反取引の当事者」「解職される代表取締役」などです。単に「選任される予定の代表取締役」や「報酬が決まる取締役」などは、全員に関わることなので特別利害関係には当たらないとされています。
- Q2. 取締役会設置会社で、株主総会が「多額の借財」を決めることはできますか?
- 原則はできません(取締役会の権限)。ただし、定款で「多額の借財も株主総会の決議を要する」と定めておけば可能です。逆に、取締役会が決められることを株主総会の権限から排除することはできません(株主総会は万能ではないが、定款で権限を拡張することは自由です)。
- Q3. 表見代表取締役と表見支配人の違いは?
- 表見代表取締役(354条)は「会社法上の代表者(社長等)」になりすますケースで、裁判上の行為には適用されません。一方、表見支配人(商法24条)は「営業所の責任者(支店長等)」になりすますケースで、こちらも裁判外の行為に限られます。構造は似ていますが、対象となる役職のレベルが違います。
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