前回は、会社の業務執行を行う「取締役」と「取締役会」について解説しました。
今回は、彼らが暴走しないように見張る「監査機関」についてです。
「監査役と会計監査人、名前が似てて区別がつかない…」
「会計参与って、監査する人じゃないの?」
「監査役会を置かなきゃいけない会社はどこ?」
会社法には「会計」や「監査」とつく役職が多く登場するため、初心者はここで大混乱します。
しかし、試験対策としては「誰が(資格)」「何を(職務範囲)」「どこに(設置義務)」置かれるかを整理すれば、得点源に変わります。
特に、日本の大企業のほとんどが採用している「監査役会設置会社」の仕組みは、出題頻度が非常に高い分野です。
2026年度試験合格に向けて、監査のプロフェッショナルたちをマスターしましょう!
1. 監査役(会社の番人)
監査役は、株主総会で選ばれ、取締役の職務執行をチェックする重要な機関です。
(1) 監査役の権限(業務監査と会計監査)
監査役の仕事は大きく2つに分かれます。
- 業務監査:取締役が法令・定款を守って仕事をしているかチェックする(違法性の監査)。
- 会計監査:計算書類(決算書)の数字が合っているかチェックする。
公開会社でない株式会社(非公開会社)では、定款で定めることにより、監査役の権限を「会計監査のみ」に限定することができます(会社法389条1項)。
この場合、その監査役は業務監査権を持たないので、取締役会への出席義務などもありません。
(2) 設置義務がある会社
以下の会社は、監査役を必ず置かなければなりません(327条)。
- 取締役会設置会社(取締役会の暴走を防ぐため)。
※ただし、非公開会社であれば、代わりに会計参与を置けば監査役は不要です(中小企業への配慮)。 - 会計監査人設置会社(会計監査人を監督するため)。
※なお、監査等委員会設置会社や指名委員会等設置会社には、監査役を置くことはできません(別の監査システムがあるからです)。
(3) 独任制(一人一人が独立)
取締役は「取締役会」として合議体で動くのが基本ですが、監査役は「独任制(どくにんせい)」です。
監査役が複数いても、それぞれが単独で調査し、単独で権限を行使できます(390条2項ただし書)。多数決で監査結果を決めるわけではありません。
(4) 選任と任期(身分保障が厚い!)
- 選任:株主総会の普通決議(定足数は1/3までしか緩和不可)。
- 解任:株主総会の特別決議(取締役の解任より厳しい)。
- 任期:原則4年(取締役の2年より長い)。
※非公開会社では定款で10年まで伸長可能。 - 同意権:取締役が「監査役の選任議案」を出すには、監査役(会)の同意が必要。
監査役は取締役の不正を暴くのが仕事です。もし取締役が気に入らない監査役を簡単にクビにできたら、監査が機能しません。だから解任のハードルを上げ、任期を長くして独立性を守っているのです。
2. 監査役会(組織的な監査)
大会社かつ公開会社では、監査役個人の力だけでは限界があるため、組織的な監査を行う「監査役会」の設置が義務付けられます。
(1) 構成メンバー
- 人数:監査役は3人以上。
- 社外要件:そのうち半数以上は社外監査役でなければなりません(335条3項)。
- 常勤:互選で常勤監査役を1人以上選定しなければなりません。
(2) 監査役会の権限
監査役会は、監査の方針を決めたり、監査報告を作成したりします。
しかし、あくまで実地調査を行うのは「各監査役」です。監査役会が「A監査役、あなたは調査に行くな」と命令することはできません(独任制の維持)。
3. 会計監査人(計算のプロ)
大会社などでは、膨大な計算書類をチェックするために、公認会計士や監査法人といったプロフェッショナルである「会計監査人」の設置が義務付けられます。
(1) 役割と権限
- 職務:計算書類等の監査(会計監査)のみを行います。業務監査権はありません。
- 権限:帳簿閲覧権、実地調査権など。
- 報告:不正を発見したら、株主ではなく監査役に報告します。
(2) 選任と解任
- 選任:株主総会の普通決議。
- 任期:1年(ただし、別段の決議がなければ自動再任されます)。
- 解任:株主総会決議のほか、監査役(会)の全員の同意でも解任できます(職務怠慢などの場合)。
4. 会計参与(決算書の共同作成者)
監査役や会計監査人は「チェックする人」ですが、会計参与は「作る人」です。
取締役と共同して計算書類を作成します(374条)。
- 資格:公認会計士または税理士(法人含む)。
- 役割:中小企業などで、経理のプロがいない場合に、正確な決算書を作るサポートをします。
- 設置:任意です(必須ではありません)。
- 権限:計算書類の作成、保存(5年間)、株主への開示など。
- 責任:役員として、任務懈怠責任などを負います。
5. 各機関の比較まとめ表(試験直前チェック用)
似たような名前の機関が多いので、以下の表で違いを明確にしましょう。
| 機関名 | 資格 | 主な職務 | 権限の範囲 | 任期(原則) |
|---|---|---|---|---|
| 監査役 | 特になし | 取締役の職務執行の監査 | 業務監査 + 会計監査 (非公開は会計限定可) |
4年 |
| 会計監査人 | 公認会計士 監査法人 |
計算書類の監査 | 会計監査のみ | 1年 (自動再任あり) |
| 会計参与 | 公認会計士 税理士 |
計算書類の作成 | 取締役と共同作成 | 2年 |
「監査」とつく人はチェック係。「参与」とつく人はプレイヤー(作成係)。
「税理士」がなれるのは会計参与だけ(会計監査人はなれない)。
6. 実戦問題で理解度チェック!
ここまでの知識を使って、本試験レベルの問題に挑戦しましょう。
※すべて委員会設置会社ではないものとする。
1. 取締役会を置くすべての株式会社。
2. 会計監査人を置くすべての株式会社。
3. 公開会社である取締役会設置会社。
4. 公開会社ではないが、資本金5億円以上の大会社である取締役会設置会社。
5. 上記2、3、4のすべて。
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正解 5
解説:
1. 誤り。取締役会設置会社であっても、非公開会社で会計参与を置けば、監査役は不要です(327条2項ただし書)。
2. 正しい。会計監査人を置く会社は、監査役を置かなければなりません(327条3項)。プロの会計監査人をチェックできるのは監査役だからです。
3. 正しい。公開会社かつ取締役会設置会社には、監査役設置義務があります(例外の適用なし)。
4. 正しい。大会社は会計監査人を置く義務があり(328条)、その結果として監査役も必要になります。
したがって、2、3、4が正解(選択肢としては5)となります。
1. 監査役は、いつでも取締役および支配人その他の使用人に対して事業の報告を求め、会社の業務および財産の状況を調査することができる。
2. 公開会社でない株式会社の監査役は、定款の定めにより、その権限を会計監査に限定することができるが、その場合でも株主総会への出席・意見陳述義務は免れない。
3. 監査役は、取締役が不正の行為をするおそれがあると認めるときは、取締役会設置会社であっても、直接株主総会を招集することができる。
4. 監査役会設置会社における監査役は、監査役会の決議に基づかなければ、単独で取締役の職務執行を調査することはできない。
5. 監査役は、その職務を行うため必要があるときは、裁判所の許可を得て、子会社の業務および財産の状況を調査することができる。
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正解 1
解説:
1. 正しい。監査役の基本的な権限です(381条2項)。
2. 誤り。会計限定監査役には、株主総会への出席義務はありません(会計に関する議案がある場合を除く)。
3. 誤り。監査役はまず取締役に取締役会の招集を請求し、それでも招集されない場合に自ら「取締役会」を招集できます(383条)。株主総会の招集権はありません。
4. 誤り。監査役は独任制です。監査役会の方針にかかわらず、単独で調査権を行使できます(390条2項ただし書)。
5. 誤り。子会社の調査権はありますが、裁判所の許可は不要です(381条3項)。
1. 監査役会設置会社においては、監査役は3人以上でなければならず、そのうち半数以上は社外監査役でなければならない。
2. 監査役会は、監査役の中から常勤の監査役を選定しなければならない。
3. 社外監査役とは、過去に一度も当該株式会社またはその子会社の取締役、会計参与、執行役または支配人その他の使用人となったことがない者をいう。
4. 親会社の監査役であった者は、子会社の社外監査役になることができる。
5. 監査役会は、監査報告を作成し、監査の方針や監査役の職務執行に関する事項を決定するが、各監査役の権限の行使を妨げることはできない。
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正解 4
解説:
1. 正しい。3人以上、半数以上社外という構成要件です(335条3項)。
2. 正しい。常勤監査役の選定義務があります(390条3項)。
3. 正しい。社外要件の基本定義です(就任前10年間の要件など詳細もありますが、基本は「内部昇格者でないこと」です)。
4. 誤り。親会社の役員等は、子会社の社外監査役にはなれません(2条16号ハ)。グループ企業の支配関係にあるため、独立性が保てないからです。
5. 正しい。独任制の原則です。
7. まとめ
今回は、会社を監視する「監査機関」について解説しました。
ポイントを整理します。
- 監査役:業務監査+会計監査。独任制。任期4年。解任は特別決議。
- 監査役会:大会社かつ公開会社で必須。3人以上(半数以上社外)。常勤必須。
- 会計監査人:公認会計士・監査法人。会計監査のみ。大会社で必須。
- 会計参与:税理士もOK。計算書類の作成(監査ではない)。任意設置。
特に「監査役」は、取締役のブレーキ役として非常に強い権限(取締役会招集権や差止請求権)を持っています。
記述式問題で「監査役ができる手段は何か?」と問われたときに、これらの権限を思い出せるようにしておきましょう。
次回は、「監査等委員会設置会社」「指名委員会等設置会社」についての解説です。
よくある質問(FAQ)
- Q1. 監査役会で、多数決で「この不正は見逃そう」と決めることはできますか?
- できません。監査役は独任制の機関であり、各監査役が独立して権限を行使できます。監査役会で「不問にする」と決議されても、一人の監査役が「これは不正だ」と判断すれば、単独で差し止め請求や訴えの提起を行うことができます。
- Q2. 社外監査役の要件にある「就任前10年間」とはどういう意味ですか?
- 過去10年間に、その会社や子会社の業務執行者(取締役や従業員など)でなかったことが要件です。11年前に退職した人なら社外監査役になれます(「ほとぼりが冷めた」とみなされるため)。ただし、親会社の役員などは現在進行形で支配関係にあるため、過去に関係なく社外性なしとされます。
- Q3. 会計監査人は誰がクビにできるのですか?
- 原則は株主総会の決議ですが、職務怠慢や非行などの一定の事由がある場合は、緊急性を要するため、監査役(会)の全員の同意で解任することができます(340条)。この場合、監査役は次の株主総会でその旨と理由を報告しなければなりません。
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