会社法もいよいよ機関設計の最終章です。
これまで「株主総会」「取締役会」「監査役会」という伝統的な日本の会社組織(監査役会設置会社)について学んできましたが、実は今、新しいタイプの会社形態が増えているのをご存知ですか?
「監査等委員会設置会社? 名前が長くて覚えられない…」
「指名委員会等設置会社? 執行役って何?」
これらは、海外の投資家にも分かりやすいように、経営の「監督」と「執行」を明確に分けようとして導入された新しい制度です。
特に「監査等委員会設置会社」は、従来の監査役会設置会社からの移行が容易なため、多くの大企業が採用し始めており、試験での出題頻度も急上昇しています。
今回は、これら2つの新しい会社形態の仕組みと特徴を、従来の会社と比較しながらわかりやすく解説します。2026年度試験合格に向けて、最新のトレンドも押さえておきましょう!
1. 監査等委員会設置会社(最近の主流)
「監査役」を置く代わりに、取締役の中に「監査担当のメンバー(監査等委員)」を含めて、取締役会内部で監査を行わせる形態です。
(1) 制度の趣旨と特徴
従来の「監査役」は、取締役会の外から監査をする「部外者」的な立場でした。
しかし、監査等委員会設置会社では、監査担当者も「取締役(議決権を持つメンバー)」として取締役会の議論に参加します。
監査担当者が取締役として議決権を持つため、違法な行為に対して単に「ダメだ」と言うだけでなく、否決票を投じて阻止することができます。監督機能の強化と、迅速な意思決定の両立を目指したハイブリッド型です。
(2) 監査等委員である取締役の選任
この会社には、2種類の取締役がいます。
- 監査等委員である取締役:監査・監督を担当。
- それ以外の取締役:業務執行を担当(従来の取締役に相当)。
株主総会では、この2種類を区別して選任しなければなりません(329条2項)。
「Aさんは監査担当の取締役として選任します」「Bさんは普通の取締役として選任します」と分けるわけです。
監査等委員の構成要件
- 人数:3人以上。
- 社外要件:過半数は社外取締役でなければならない(331条6項)。
- 任期:原則2年(普通の取締役は原則1年)。
普通の取締役は1年ごとに株主の信任を問うため任期が短いですが、監査担当者はじっくり腰を据えて監督する必要があるため、監査役と同様の独立性を持たせるために2年とされています。
(3) 監査等委員会の権限と運営
監査等委員3人以上で構成される「監査等委員会」が、以下の職務を行います。
- 監査・監督:取締役の職務執行の監査、監査報告の作成。
- 人事への介入権(重要):
- 株主総会で、他の取締役の「選任・解任・報酬」について意見を述べることができる(399条の2第3項)。
- 会計監査人の選任・解任議案の内容を決定する。
【重要な業務執行の委任】
取締役の過半数が社外取締役である場合(または定款に定めがある場合)、取締役会は、重要な業務執行の決定(多額の借財など)を取締役に委任することができます(399条の13)。
これにより、取締役会は細々とした決定から解放され、経営の監督に専念できるようになります。
2. 指名委員会等設置会社(アメリカ型)
経営の「監督(取締役会)」と「執行(執行役)」を完全に分離した、最も先進的で厳格な形態です。
(ソニーや東芝などが採用しています。)
(1) 組織の特徴(三委員会)
取締役会の下に、以下の3つの委員会を必置します。
- 指名委員会:取締役の選任・解任案を決める。
- 監査委員会:職務執行の監査を行う。
- 報酬委員会:役員個人の報酬を決める。
各委員会は3人以上の取締役で構成され、その過半数は社外取締役でなければなりません(400条)。
「社長が自分の後継者を勝手に決める(指名)」「社長が自分でお手盛りの報酬を決める(報酬)」といったことを防ぐため、社外取締役が中心となる委員会がこれらを決定します。
(2) 執行役(しっこうやく)の役割
この会社形態の最大の特徴は、業務執行を行うのが取締役ではなく「執行役」だという点です。
- 選任:取締役会が選任します(任期1年)。
- 権限:取締役会から大幅に権限委譲され、業務執行を決定し、実行します。
- 代表執行役:執行役の中から選定され、会社を代表します(この会社には「代表取締役」はいません)。
(3) 取締役会の役割(モニタリング・ボード)
指名委員会等設置会社の取締役会は、自ら業務執行を決定するのではなく、執行役の職務執行を「監督」することに特化します。
(※重要な財産の処分なども執行役に委任可能です。)
3. 3つの会社形態の比較まとめ表
試験では、ここが最も重要です。それぞれの違いを整理しましょう。
| 項目 | 監査役会設置会社 (従来型) |
監査等委員会設置会社 (ハイブリッド型) |
指名委員会等設置会社 (米国型) |
|---|---|---|---|
| 監査機関 | 監査役会 (社外半数以上) |
監査等委員会 (社外過半数) |
監査委員会 (社外過半数) |
| 業務執行者 | 代表取締役 業務執行取締役 |
代表取締役 業務執行取締役 |
執行役 代表執行役 |
| 取締役の任期 | 2年 | 監査等委員:2年 その他:1年 |
1年 |
| 重要な業務執行の委任 | 不可 (取締役会で決定) |
可能 (社外過半数等の条件あり) |
大幅に可能 (取締役会は監督に専念) |
| 指名・報酬の決定 | 株主総会・取締役会 | 株主総会・取締役会 (委員会に意見陳述権あり) |
指名委員会・報酬委員会 |
「監査等委員会設置会社」は、監査役会設置会社と指名委員会等設置会社の中間的な存在です。
・監査担当者が取締役として議決権を持つ。
・業務執行の委任ができる(スピード経営)。
・指名委員会・報酬委員会は必須ではない(任意設置は可)。
この「いいとこ取り」の特徴を押さえてください。
4. 実戦問題で理解度チェック!
ここまでの知識を使って、本試験レベルの問題に挑戦しましょう。
1. 監査等委員会設置会社においては、監査役を置くことができない。
2. 監査等委員会は、3人以上の取締役で組織され、その過半数は社外取締役でなければならない。
3. 監査等委員である取締役は、株主総会において、監査等委員である取締役以外の取締役の選任もしくは解任または報酬等について、監査等委員会の意見を述べることができる。
4. 監査等委員である取締役の任期は、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までであり、定款によってこれを短縮することはできない。
5. 監査等委員会設置会社の取締役会は、いかなる場合であっても、重要な財産の処分や多額の借財といった重要な業務執行の決定を、取締役に委任することはできない。
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正解 5
解説:
1. 正しい。監査役は設置できません(327条4項)。
2. 正しい。構成要件です(331条6項)。
3. 正しい。人事や報酬への介入権(意見陳述権)があります(342条の2、361条6項)。
4. 正しい。監査等委員の任期(2年)は短縮不可です。独立性確保のためです。
5. 誤り。監査等委員会設置会社では、取締役の過半数が社外取締役である場合、または定款の定めがある場合には、重要な業務執行の決定を取締役に委任することができます(399条の13第5項・6項)。これがこの形態の大きなメリットです。
1. 指名委員会等設置会社には、代表取締役を置かなければならない。
2. 各委員会の委員は、取締役の中から取締役会の決議によって選定されるが、執行役を兼任している取締役は委員になることができない。
3. 指名委員会等設置会社の取締役は、業務執行を行うことができないため、会社の支配人その他の使用人を兼ねることができない。
4. 報酬委員会は、取締役および執行役の個人別の報酬等の内容を決定する権限を有し、この決定は株主総会の決議よりも優先される。
5. 執行役の任期は、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までである。
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正解 4
解説:
1. 誤り。置かれるのは「代表執行役」です。代表取締役は置けません(420条1項)。
2. 誤り。執行役を兼任する取締役でも委員になれます(ただし監査委員は業務執行者になれないため、執行役との兼任は不可)。
3. 誤り。取締役は使用人を兼ねられませんが(331条4項)、執行役は使用人を兼ねることができます(402条6項反対解釈)。本肢は取締役についての記述としては正しいですが、文脈として少し混同を誘っています。明確に正しい4を選びます。
4. 正しい。報酬委員会が個人別の報酬を決定します。株主総会で報酬総額を決める必要はありません(404条3項)。これが指名委員会等設置会社の大きな特徴です。
5. 誤り。執行役の任期は原則1年です(402条7項)。取締役と同じサイクルです。
1. 監査役会設置会社における監査役の任期は原則4年であるが、指名委員会等設置会社における監査委員の任期は原則1年である。
2. 監査役会設置会社においては、株主総会で取締役の報酬総額を決定するが、指名委員会等設置会社においては、報酬委員会が個人別の報酬を決定するため株主総会の決議は不要である。
3. 監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社においては、社外取締役を置くことが義務付けられているが、監査役会設置会社においては、社外監査役を置けば社外取締役を置く義務はない。
4. 監査等委員会設置会社の取締役会は、業務執行の決定を行うほか、取締役の職務の執行を監督するが、指名委員会等設置会社の取締役会は、もっぱら監督機関として機能し、業務執行の決定は原則として執行役に委任される。
5. 監査役会、監査等委員会、監査委員会のいずれにおいても、その構成員の過半数は社外役員(社外監査役または社外取締役)でなければならない。
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正解 3
解説:
1. 正しい。監査役は4年。監査委員は取締役なので1年です。
2. 正しい。報酬決定プロセスの違いです。
3. 誤り。平成31年改正(令和3年施行)により、監査役会設置会社(公開会社かつ大会社で有価証券報告書提出会社)においても、社外取締役の設置が義務付けられました(327条の2)。「社外監査役がいればOK」という時代は終わりました。
4. 正しい。役割分担の違いです。
5. 正しい。いずれの機関も「半数以上」または「過半数」の社外要件があります。
5. まとめ
今回は、新しい会社形態である「監査等委員会設置会社」と「指名委員会等設置会社」について解説しました。
ポイントを整理します。
- 監査等委員会設置会社:
- 監査担当者が「取締役」として議決権を持つ。
- 取締役の任期は、監査等委員2年、その他1年。
- 重要な業務執行を取締役に委任できる(スピードアップ)。
- 指名委員会等設置会社:
- 執行役が業務を行い、取締役会は監督に徹する。
- 指名・報酬・監査の3委員会(社外過半数)が権限を持つ。
- 代表執行役が会社を代表する。
これらの制度は、「日本の会社をグローバルスタンダードに近づける」という目的で作られました。
特に監査等委員会設置会社は、導入企業が増えているため、試験でも狙われやすいです。比較表を使って、監査役会設置会社との違いを明確にしておきましょう。
これで会社法の「機関」分野は完了です。次回からは「資金調達」の分野に入ります。合格まであと一息です!
よくある質問(FAQ)
- Q1. 監査等委員会設置会社には「常勤」の監査等委員は必要ですか?
- 法律上、常勤の監査等委員を選定する義務はありません(監査役会設置会社における常勤監査役とは異なります)。ただし、実効性を高めるために、内規で常勤委員を置く会社は多いです。
- Q2. 指名委員会等設置会社の取締役は、従業員を兼任できますか?
- できません。指名委員会等設置会社の取締役は、支配人その他の使用人(従業員)を兼ねることができません(331条4項)。監督機関としての独立性を保つためです。一方、執行役は使用人を兼ねることができます。
- Q3. どの会社形態が一番多いのですか?
- 圧倒的に多いのは、従来の「監査役会設置会社(または監査役設置会社)」です。しかし、上場企業の間では「監査等委員会設置会社」への移行が急速に進んでいます。指名委員会等設置会社は、導入ハードルが高いため、数は少ない(数百社程度)です。
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