会社法の学習が進むにつれて、「株式会社」の仕組みはなんとなく分かってきたけれど、「持分会社」については手付かず…ということはありませんか?
「合名会社とか合資会社とか、試験に出るの?」
「合同会社って最近よく聞くけど、株式会社と何が違うの?」
実は、持分会社は「コスパの良い」得点源です。条文数が株式会社に比べて圧倒的に少なく、出題されるポイント(社員の責任、業務執行、退社など)が限られているからです。
特に近年、AmazonやAppleの日本法人も採用している「合同会社」は、実務でも設立件数が急増しており、試験委員も注目している分野です。
今回は、株式会社とは異なる論理で動く「持分会社」の世界を、3つの形態(合名・合資・合同)を比較しながら徹底解説します。
2026年度試験合格に向けて、会社法の死角をなくしましょう!
1. 持分会社とは?(株式会社との違い)
会社法上の会社は、大きく「株式会社」と「持分会社」の2つに分類されます。
持分会社には、合名会社、合資会社、合同会社の3種類があります。
(1) 「所有と経営の一致」が最大の特徴
株式会社の特徴は「所有と経営の分離」でした。株主はお金を出すだけ、経営はプロ(取締役)に任せるのが原則です。
一方、持分会社は「所有と経営が一致」しています。
お金を出した人(社員)が、自ら経営も行うのが原則です。
そのため、人的な結びつきが強く、小規模な共同事業や家族経営に適しています。
持分会社では、出資者のことを「株主」ではなく「社員」と呼びます。
従業員(サラリーマン)のことではないので注意してください。「社員=出資者兼経営者」のイメージです。
(2) 「持分」という考え方
株式会社では、出資単位が均一化された「株式」として細分化されていますが、持分会社では「持分」という概念になります。
社員1人につき1個の持分を持ち、その大きさが出資額によって異なります。
2. 3つの持分会社と社員の責任(最重要!)
持分会社の3類型を区別する決定的な要素は、「社員がどこまで借金の責任を負うか」です。
ここが試験で最も問われるポイントですので、以下の定義を確実に覚えましょう。
(1) 責任の種類の定義
- 直接責任:会社が払えない時、債権者から「直接」請求されること。
- 間接責任:会社に対して出資義務を負うだけで、債権者から直接請求はされないこと。
- 無限責任:自分の全財産を投げ打ってでも、会社の借金を全額払わなければならないこと(天井知らず)。
- 有限責任:出資した額(または出資を約束した額)を限度として責任を負うこと。
(2) 3つの会社の分類表
| 会社の種類 | 構成員(社員) | 責任の性質 | イメージ |
|---|---|---|---|
| 合名会社 | 無限責任社員のみ | 直接・連帯・無限責任 | 個人事業主の集まり。 (例:親子で営む商店) |
| 合資会社 | 無限責任社員 + 有限責任社員 |
無限責任社員:直接・連帯・無限 有限責任社員:直接・連帯・有限 |
お金だけ出すスポンサー(有限)とお金も口も出す経営者(無限)のペア。 |
| 合同会社 (日本版LLC) |
有限責任社員のみ | 間接・有限責任 (株式会社の株主と同じ) |
出資者の責任を限定しつつ、内部ルールは自由に決めたいベンチャーなど。 |
合資会社の有限責任社員は、「直接責任」を負う点が、株式会社や合同会社の有限責任社員(間接責任)とは異なります。
つまり、会社が倒産したら、債権者が合資会社の有限責任社員の家にやってきて、「あなたが未払いにしている出資額(例:100万円)を私に払え」と直接請求できます(580条2項)。
(3) 責任の具体例
【事例】
会社が銀行から1,000万円借りましたが、返せなくなりました。会社の財産はゼロです。
このとき、各社員はどうなるでしょうか?
- 合名会社の社員A:銀行はAの個人資産(自宅や預金)を差し押さえて、1,000万円全額を回収できます。
- 合資会社の有限責任社員B(出資約束500万円、未払い):銀行はBに対して、未払い分の500万円を限度として「払え」と請求できます。
- 合同会社の社員C:銀行はCに請求できません。Cは会社設立時に出資したお金が返ってこないだけで済みます(ノーダメージ)。
3. 設立の手続き(シンプル・イズ・ベスト)
持分会社の設立は、株式会社に比べて非常に簡単です。
(1) 定款の作成
社員になろうとする人が定款を作成します。株式会社との大きな違いは以下の2点です。
- 公証人の認証が不要:自分たちで作ってそのまま使えます。
- 絶対的記載事項:「社員の氏名・住所」だけでなく、「社員の責任の有無(無限か有限か)」も書かなければなりません(576条)。
(2) 出資の履行
ここも会社形態によって異なります。
- 合名会社・合資会社:設立登記までに出資を履行する必要はありません。
(理由:無限責任社員や直接責任を負う社員がいるので、債権者保護の観点から急いで財産を確保する必要がないからです。信用や労務の出資もOKです。) - 合同会社:設立登記までに全額の払込み(または給付)が必要です。
(理由:社員全員が間接有限責任なので、会社財産だけが債権者の頼りです。だから最初にキッチリ財産を確保する必要があります。信用・労務出資はNGです。)
「責任が重い会社(合名・合資)は設立がゆるい。
責任が軽い会社(合同・株式)は設立が厳しい(金払え)。」
4. 会社の運営(業務執行と代表)
持分会社は「所有と経営の一致」が原則なので、社員全員が経営者です。
(1) 業務執行権
原則として、社員全員が業務執行権を持っています(590条1項)。
社員が2人以上いる場合は、原則として社員の過半数で決定します(取締役会のない株式会社と同じイメージです)。
※定款で「業務執行社員」を定めることもできます。その場合は、業務執行社員の過半数で決めます。
(2) 代表権
原則として、業務執行社員は各自が会社を代表します(各自代表の原則、599条1項)。
(例:社員Aも社員Bも、それぞれ単独で会社名義の契約ができる。)
ただし、定款や定款の定めに基づく互選で、特定の社員を「代表社員」と定めることも可能です。
(3) 競業避止義務と利益相反取引
業務執行社員は経営者なので、株式会社の取締役と同様に、忠実義務を負います。
したがって、「競業取引」や「利益相反取引」を行う場合は、承認が必要です。
- 承認機関:当該社員以外の社員の過半数(595条)。
(株式会社の「取締役会」や「株主総会」に相当する意思決定機関がないため、社員の過半数となります。)
5. 持分の譲渡と社員の入退社
持分会社は「人のつながり」が強いため、メンバーの入れ替わりについては厳しい制限があります。
(1) 持分の譲渡(原則全員の承諾)
社員が自分の持分を他人に譲渡して会社を辞めたい場合、原則として他の社員全員の承諾が必要です(585条1項)。
勝手に知らない人をメンバーに入れるな、ということです。
【例外:業務を執行しない有限責任社員】
合資会社の有限責任社員で、かつ業務執行権を持たない人(単なるスポンサー)の場合は、業務執行社員全員の承諾があれば譲渡できます(585条2項)。経営に関わらないので、少し要件が緩和されています。
(2) 社員の退社(いつ辞められる?)
株式会社の株主は、株を売ればいつでも抜けられますが、持分会社の社員は簡単には抜けられません。
① 任意退社(自分の意思で辞める)
定款で「存続期間」を定めていない場合、6ヶ月前に予告をすれば、事業年度の終了時に退社できます(606条1項)。
※ただし、やむを得ない事由があるときは、いつでも直ちに退社できます。
② 法定退社(強制的に辞めさせられる)
以下の事由が発生すると、本人の意思に関係なく退社となります(607条)。
- 死亡
- 総社員の同意
- 除名(正当な事由がある場合に裁判で決める)
- 破産手続開始の決定
- 後見開始の審判(※保佐・補助は含まれない!)
退社したからといって、すぐに責任が消えるわけではありません。
退社した社員は、退社の登記をする前に生じた債務について、登記後2年間は責任を負い続けます(612条)。
債権者は「あの人(資産家)がいるからお金を貸したのに!」と期待しているため、その保護のためです。
(3) 持分の払戻し
退社した社員は、自分の持分(出資した分+利益の蓄積)を金銭で払い戻してもらう権利があります(611条)。
※現物出資していても、原則として「金銭」で返ってきます。
【合同会社の特則(債権者保護手続)】
合同会社において、出資の払戻しを行うことで資本金の額が減少する場合、債権者保護手続(官報公告+個別催告)が必要です(627条)。
合同会社は有限責任なので、会社財産が減ることは債権者にとって死活問題だからです。
6. 定款変更(総社員の同意)
持分会社の定款を変更するには、原則として総社員の同意が必要です(637条)。
多数決ではありません。一人でも反対すれば変更できません。
(※ただし、定款で「過半数で変更できる」と定めることは可能です。定款自治が広く認められています。)
7. 各会社の比較まとめ表
試験直前には、この表で頭を整理しましょう。
| 項目 | 合名会社 | 合資会社 | 合同会社 |
|---|---|---|---|
| 社員の構成 | 無限責任のみ | 無限 + 有限 | 有限責任のみ |
| 社員の責任 | 直接・無限 | 無限:直接・無限 有限:直接・有限 |
間接・有限 |
| 出資の履行時期 | 設立後でもOK | 設立後でもOK | 設立登記まで(全額) |
| 出資の対象 | 金銭・現物・ 労務・信用も可 |
無限:全部OK 有限:金銭・現物のみ |
金銭・現物のみ |
| 業務執行者 | 原則全員 | 原則全員 | 原則全員 |
| 持分譲渡 | 全員の承諾 | 全員の承諾 (例外あり) |
全員の承諾 |
8. 実戦問題で理解度チェック!
ここまでの知識を使って、本試験レベルの問題に挑戦しましょう。
1. 合名会社の社員は、会社の財産をもって債務を完済することができないときは、連帯してその弁済の責任を負う。
2. 合資会社の有限責任社員は、その出資の価額を限度として会社の債務を弁済する責任を負うが、すでに履行した出資の価額を除く残額についてのみ責任を負う。
3. 合同会社の社員は、出資の全額を払い込んだ後は、会社債権者に対して何らの責任も負わない。
4. 持分会社を退社した社員は、退社の登記をする前に生じた会社の債務について、従前の責任の範囲内でこれを弁済する責任を負うが、この責任は退社の登記後5年を経過すれば消滅する。
5. 合名会社に新たに入社した社員は、その入社前に生じた会社の債務についても、他の社員と同一の責任を負う。
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正解 4
解説:
1. 正しい。合名会社社員の補充性(580条1項)に関する記述です。
2. 正しい。合資会社の有限責任社員は、未履行部分についてのみ直接責任を負います(580条2項)。全額払い込んでいれば、これ以上請求されません。
3. 正しい。合同会社社員は間接有限責任なので、履行後は債権者に対して無関係です(576条4項)。
4. 誤り。退社した社員の責任期間は、登記後「2年」です(612条)。「5年」ではありません(時効と混同しないように)。
5. 正しい。新入社員も、入社前の借金について責任を負います(605条)。無限責任の重いところです。
1. 持分会社の業務は、定款に別段の定めがない限り、社員の全員一致をもって決定する。
2. 業務を執行する社員は、法令および定款を遵守し、会社のため忠実にその職務を行わなければならない(忠実義務)。
3. 業務を執行する社員が自己のために当該持分会社と取引(利益相反取引)をしようとするときは、株主総会に相当する機関がないため、承認を得る必要はない。
4. 合資会社の有限責任社員は、業務執行権限を有しないため、会社の業務執行に参加することはできない。
5. 持分会社において代表社員を定める場合、必ずしも業務執行社員の中から選定する必要はなく、業務を執行しない社員を代表社員とすることもできる。
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正解 2
解説:
1. 誤り。原則は「社員の過半数」で決定します(590条2項)。全員一致ではありません。
2. 正しい。持分会社の業務執行社員にも、善管注意義務および忠実義務があります(593条)。
3. 誤り。当該社員以外の「社員の過半数」の承認が必要です(595条1項)。
4. 誤り。合資会社の有限責任社員も、定款に別段の定めがない限り、当然に業務執行権限(および代表権)を有します(590条1項)。「責任が有限であること」と「業務ができるか」は別問題です。
5. 誤り。代表社員は、「業務執行社員」の中から定めなければなりません(599条3項)。業務を執行しない人が代表になるのは矛盾するからです。
1. 合同会社の定款は、公証人の認証を受けなければ効力を生じない。
2. 合同会社の社員になろうとする者は、定款作成後、設立の登記をする時までに、その出資に係る金銭の全額を払い込み、または金銭以外の財産の全部を給付しなければならない。
3. 合同会社の社員は、信用または労務を出資の目的とすることができる。
4. 合同会社の社員は、やむを得ない事由がある場合であっても、他の社員全員の承諾がなければ退社することができない。
5. 合同会社の社員が退社し、持分の払戻しを受ける場合において、これにより資本金の額が減少するときであっても、会社債権者を害するおそれがないときは、債権者保護手続を経る必要はない。
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正解 2
解説:
1. 誤り。持分会社の定款に公証人の認証は不要です(575条)。認証が必要なのは株式会社のみです。
2. 正しい。合同会社は全額払込が必要です(578条)。
3. 誤り。合同会社(有限責任)では、信用出資や労務出資は認められません(576条1項6号)。これらが認められるのは無限責任社員のみです。
4. 誤り。やむを得ない事由があるときは、いつでも退社できます(606条3項)。
5. 誤り。資本金の額が減少する場合は、債権者保護手続が必須です(627条)。
9. まとめ
今回は、持分会社(合名・合資・合同)について解説しました。
ポイントを整理します。
- 社員の責任:合名(無限)、合資(無限+直接有限)、合同(間接有限=株主と同じ)。
- 設立:定款認証不要。合同会社のみ全額払込必須。
- 業務執行:原則全員。決定は過半数。
- 持分譲渡:原則全員承諾。
- 退社:6ヶ月前予告。退社後2年間は責任を負う。
試験対策としては、「株式会社との違い」と「合同会社の特徴」を意識して覚えるのがコツです。
特に「合資会社の有限責任社員は直接責任を負う」という点は、盲点になりやすいので注意してください。
次回は、「組織再編」について解説します。
よくある質問(FAQ)
- Q1. なぜ合同会社が増えているのですか?
- 株式会社に比べて「設立費用が安い(認証不要、登録免許税が安い)」「決算公告義務がない」「役員の任期がない(更新の手間がない)」「利益配分を自由に決められる」といったメリットがあるためです。特に小規模なスタートアップや、親会社が100%出資する子会社として利用されるケースが多いです。
- Q2. 「社員」と「従業員」の違いは何ですか?
- 会社法上の「社員」とは、会社の構成員(出資者)のことです。株式会社でいう「株主」にあたります。一方、会社に雇用されて働く人は「使用人(従業員)」です。日常用語の「社員(サラリーマン)」とは意味が全く異なるので注意しましょう。
- Q3. 持分会社に「取締役」はいますか?
- いません。持分会社には「取締役」や「監査役」という法定の機関はありません。あるのは「業務執行社員」や「代表社員」です。ただし、名刺に「社長」や「取締役」という肩書きを刷ることは自由ですが、法律上の権限とは関係ありません。
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