会社法もいよいよ終盤戦、最大の難所である「組織再編」に入ります。
多くの受験生が「合併?分割?株式交換?言葉が似すぎてて無理!」とアレルギー反応を起こす分野です。
しかし、組織再編は出題パターンが決まっています。
「どの手続きが必要か(総会決議、債権者保護、買取請求など)」をパターン化して覚えてしまえば、実は安定した得点源になるのです。
今回は、組織再編の中でも特に重要な「合併」と「会社分割」について解説します。
「吸収」と「新設」の違いや、「簡易・略式手続き」の要件など、試験で問われるポイントを絞って整理しました。
2026年度試験合格に向けて、組織再編の複雑なパズルを解き明かしましょう!
1. 組織再編の全体像
組織再編とは、会社の形を変えたり、他の会社とくっついたりすることです。
会社法では、以下の4つの手法が用意されています。
| 手法 | イメージ | 効果 |
|---|---|---|
| 合併 (がっぺい) |
「合体」 | 会社が消滅し、権利義務が包括的に別の会社へ移る。 |
| 会社分割 (かいしゃぶんかつ) |
「切り出し」 | 事業の一部(または全部)を切り取って、別の会社に移す。 |
| 株式交換・移転 | 「親子関係」 | 完全親会社・完全子会社の関係を作る(会社は消滅しない)。 |
| 事業譲渡 | 「売買」 | 事業(資産)を個別に売却する(※厳密には組織再編行為ではないが、似ているため比較される)。 |
今回は、このうち「合併」と「会社分割」に絞って見ていきます。
2. 合併(会社が消えて一つになる)
合併は、2つ以上の会社が1つになることです。
必ず「消滅する会社」が出てくるのが特徴です。
(1) 吸収合併と新設合併
① 吸収合併
A社がB社を飲み込む形です。
B社(消滅会社)は解散し、その権利義務(資産も借金も全部)はA社(存続会社)に引き継がれます。
② 新設合併
A社とB社が合体して、新しくC社を作る形です。
A社とB社(消滅会社)は共に解散し、権利義務はC社(新設会社)に引き継がれます。
実務では圧倒的に「吸収合併」が多いです。新設合併は許認可の取り直しなど手続きが煩雑だからです。
試験対策としても、まずは吸収合併の流れを完璧にしましょう。
(2) 合併の手続き(4ステップ)
合併は会社の運命を左右する重大事なので、慎重な手続きが必要です。
- 契約締結:トップ同士で合併契約を結ぶ。
- 事前開示:契約書などを本店に備え置く(株主・債権者への情報提供)。
- 承認決議:原則として、当事会社双方の株主総会の特別決議が必要。
- 債権者保護手続・反対株主の買取請求:利害関係者の保護。
- 効力発生・登記:
- 吸収合併:契約で定めた「効力発生日」に効力発生。
- 新設合併:新設会社の「設立登記の日」に効力発生。
(3) 簡易合併と略式合併(総会決議の省略)
合併には株主総会の特別決議が必要ですが、影響が小さい場合には省略できる制度があります。
ここが試験の頻出ポイントです!
① 簡易合併(存続会社のみ)
A社(大企業)がB社(小企業)を吸収する場合、A社にとっては些細な出来事かもしれません。
要件:A社が交付する対価(株式や金銭)の額が、A社の純資産額の5分の1(20%)以下である場合。
効果:存続会社(A社)の株主総会決議を省略できます(取締役会決議でOK)。
※消滅会社(B社)にとっては会社が無くなる重大事なので、簡易手続きはありません。
② 略式合併(支配関係がある場合)
A社がB社の議決権の10分の9(90%)以上を持っている場合(特別支配会社)。
要件:90%以上の支配関係がある場合。
効果:被支配会社(B社)の株主総会決議を省略できます。
※9割持っている親会社が賛成なら、総会を開いても結果は見えているからです。
※存続会社(A社)側の略式合併という概念はありません(A社の株主総会は必要)。
(4) 債権者保護手続(必須!)
合併すると、借金も引き継がれます。「金持ちのA社にお金を貸していたのに、貧乏なB社と合併して返済能力が下がった!」となると債権者が困ります。
そのため、合併では原則として必ず「債権者保護手続」が必要です。
- 手続き:官報公告 + 知れている債権者への個別催告。
- 効果:異議を述べた債権者には、弁済や担保提供を行わなければなりません。
3. 会社分割(事業の切り出し)
ある事業部門(例:不動産事業部)だけを切り取って、別の会社に移すことです。
「事業譲渡」と似ていますが、契約関係や免許などが包括的に承継される点が異なります。
(1) 吸収分割と新設分割
① 吸収分割
A社(分割会社)の事業を、既存のB社(承継会社)に移すこと。
② 新設分割
A社(分割会社)の事業を、新しく作るC社(新設会社)に移すこと。
(2) 手続きの流れ(合併とほぼ同じ)
契約(計画)作成 → 事前開示 → 株主総会特別決議 → 債権者保護・買取請求 → 効力発生。
基本的な流れは合併と同じですが、細かい違いがあります。
(3) 会社分割特有の論点
① 労働契約承継法
会社分割は、事業と一緒に「従業員」もセットで移転することがあります。
勝手に転籍させられる従業員を守るため、事前の通知や協議が必要です(労働契約承継法という別法律)。
② 債権者保護手続の要否(要注意!)
合併では「必ず必要」でしたが、会社分割では「分割後も請求できる債権者には不要」という例外があります。
- 原則:必要(債務が移転するから)。
- 例外:分割後も元の会社(分割会社)に請求でき、かつ分割会社に十分な財産が残る場合(重畳的債務引受など)は、その債権者を害しないため手続き不要です。
4. 合併と会社分割の比較まとめ表
試験では、この違いを問う問題が出ます。
| 項目 | 合併(吸収) | 会社分割(吸収) |
|---|---|---|
| 権利義務の移転 | 全部(包括承継) | 一部または全部(包括承継) |
| 対価の交付先 | 消滅会社の株主 | 原則:分割会社自体 (分社型分割) |
| 株主総会決議 | 双方で必要(特別決議) | 双方で必要(特別決議) |
| 簡易手続 | 存続会社のみあり | 承継会社・分割会社ともにあり (資産要件など) |
| 略式手続 | 被支配会社のみあり | 被支配会社のみあり |
| 債権者保護 | 必須 | 原則必要 (例外あり) |
合併の場合、消滅会社はなくなるので、対価(新株など)は「消滅会社の株主」に行きます。
会社分割の場合、分割会社は存続するので、対価は原則として「分割会社そのもの」に入ります(会社が子会社株を持つ形になります)。
※ただし、その対価をそのまま株主に配ることも可能で、これを「人的分割」といいます(現在では剰余金の配当として整理されています)。
5. 実戦問題で理解度チェック!
ここまでの知識を使って、本試験レベルの問題に挑戦しましょう。
1. 吸収合併契約を承認する株主総会の決議は、原則として特別決議によって行わなければならない。
2. 吸収合併存続株式会社は、効力発生日において、吸収合併消滅株式会社の権利義務を承継する。
3. 吸収合併存続株式会社が交付する対価の帳簿価額の合計額が、存続株式会社の純資産額の5分の1を超えない場合には、存続株式会社において株主総会の承認決議を省略することができる(簡易合併)。
4. 吸収合併消滅株式会社において、総株主の議決権の10分の9以上を存続株式会社が保有している場合には、消滅株式会社において株主総会の承認決議を省略することができる(略式合併)。
5. 吸収合併を行う場合、存続株式会社および消滅株式会社の債権者は、いかなる場合であっても異議を述べることができない。
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正解 5
解説:
1. 正しい。組織再編は特別決議が原則です。
2. 正しい。効力発生日に包括承継します(750条1項)。
3. 正しい。簡易合併の要件(5分の1以下)です(796条2項)。
4. 正しい。略式合併の要件(90%以上)です(784条1項)。
5. 誤り。合併においては、債権者の利益に重大な影響があるため、原則として債権者保護手続(異議申立て)が必須です(789条、799条)。「いかなる場合もできない」は誤りです。
1. 吸収分割において、承継会社が分割会社に交付する対価は、承継会社の株式に限られ、金銭を対価とすることはできない。
2. 分割会社が承継会社から受け取った対価(株式等)は、必ず分割会社の株主に分配しなければならず、分割会社が保有し続けることはできない。
3. 新設分割において、新設会社が発行する株式は、分割会社に割り当てられるのが原則であるが、定款の定めにより分割会社の株主に直接割り当てることもできる。
4. 吸収分割において、分割会社の株主に対して対価として株式を交付する場合、その株式は承継会社の株式でなければならず、親会社の株式を交付することはできない。
5. 簡易分割の要件を満たす場合であっても、分割会社において反対株主の株式買取請求権は認められる。
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正解 4
解説:
1. 誤り。対価は株式に限らず、金銭や社債などでもOKです(対価の柔軟化)。
2. 誤り。原則として分割会社が保有します(分社型分割)。株主に配る(人的分割=剰余金の配当)かどうかは自由です。
3. 誤り。会社法の原則では、対価は「分割会社」に交付されます。株主に直接割り当てる制度はありません(一旦会社に入ってから配当する形になります)。
4. 正しい(三角分割の制限)。合併や株式交換では親会社株を使えますが(三角合併)、会社分割では制度上、承継会社の株(または金銭等)が原則です。※ただし、法改正等の解釈が複雑な部分ですが、基本知識としては「対価の柔軟化により金銭等はOKだが、親会社株の直接交付(三角分割)は明文規定がない」と理解しておけば試験対策上は足ります。
5. 誤り。簡易手続(株主総会不要)の場合、原則として反対株主の買取請求権も認められません(785条1項2号)。総会がない=株主に大きな影響がないとみなされるからです。
1. 吸収合併において、消滅会社の債権者は常に異議を述べることができるが、存続会社の債権者は、合併により債務の履行見込みが悪化しない限り異議を述べることはできない。
2. 吸収分割において、分割後に分割会社に対して債務の履行を請求することができる債権者は、分割会社に対して異議を述べることはできない。
3. 株式交換において、完全子会社となる会社の債権者は、株主が変動するだけであるため、いかなる場合も異議を述べることはできない。
4. 新設合併において、消滅会社の債務はすべて新設会社に承継されるため、消滅会社の債権者は異議を述べる必要がない。
5. 債権者が異議を述べた場合、会社は直ちに合併等を中止しなければならない。
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正解 2
解説:
1. 誤り。存続会社の債権者も原則として異議を述べることができます(799条)。財務状況が悪化するリスクがあるからです。
2. 正しい。分割後も元の会社(分割会社)に請求できるなら、債権者は不利益を受けないため、異議を述べる権利はありません(789条1項2号)。これを「不害要件」といいます。
3. 誤り。原則は不要ですが、新株予約権付社債を承継する場合など、例外的に必要なケースがあります(789条1項3号)。
4. 誤り。新設合併でも債権者保護手続は必須です(810条)。
5. 誤り。異議があった場合、会社は弁済したり担保を提供したりすれば、手続きを進めることができます(中止義務はありません)。
6. まとめ
今回は、組織再編の「合併」と「会社分割」について解説しました。
ポイントを整理します。
- 合併:消滅会社がある。権利義務は包括承継。債権者保護は必須。
- 会社分割:事業の切り出し。対価は分割会社へ。債権者保護は原則必要(例外あり)。
- 簡易手続:規模が小さい場合(1/5以下)。存続・承継会社側で使える。総会不要。
- 略式手続:支配関係がある場合(90%以上)。被支配会社側で使える。総会不要。
組織再編は「誰を守る必要があるか?」を考えると、手続きの要否が見えてきます。
株主を守るなら「総会決議・買取請求」、債権者を守るなら「債権者保護手続」です。
次回は、残りの組織再編である「株式交換・移転」と「事業譲渡(厳密には取引行為)」について解説します。これで会社法は完結です!
よくある質問(FAQ)
- Q1. 「包括承継」とはどういう意味ですか?
- 個別の移転手続き(不動産の登記や契約の名義変更など)をしなくても、法律上当然に一切の権利義務が移転することを指します。合併や会社分割は包括承継ですが、事業譲渡は「特定承継」なので、個別に契約や登記を移転させる必要があります。
- Q2. なぜ簡易合併では反対株主の買取請求権が認められないのですか?(※補足)
- 実は、簡易合併(存続会社側)であっても、反対株主の買取請求権は原則として認められます(797条1項)。総会決議は省略できても、反対する人が出ていく権利までは奪わない、という考え方です。ただし、例外的に認められないケースもあるため、試験対策としては「簡易手続でも買取請求はありうる」と覚えておきましょう。(※先の解説の問題2解説5で「認められない」としたのは分割会社のケースです。存続会社側とは扱いが異なりますので注意が必要です)。
- Q3. 吸収合併の効力発生日はいつですか?
- 吸収合併契約で定めた「効力発生日」です。登記の日ではありません(登記は対抗要件または事後的な手続きとなります)。一方、新設合併は新しい会社ができるので、「設立登記の日」に効力が発生します。
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