行政書士試験の憲法、最初の難関へようこそ。「人権」と聞くと、「人間なら誰でも持っているもの」と思いがちですが、憲法の条文には「国民は~」と書かれていることが多いのにお気づきでしょうか?
では、日本国籍を持たない「外国人」や、人間ではない「法人(会社など)」に人権は保障されるのでしょうか?
このテーマは、行政書士試験で非常に頻出の分野です。特に「外国人の人権」と「法人の人権」に関する最高裁判例は、結論だけでなくロジック(理由付け)まで問われます。今回は、これらの重要判例を整理し、試験で迷わない知識を身につけましょう。
1. 人権の享有主体とは
「人権の享有主体」とは、憲法が保障する人権を持つことができる資格のある者のことです。
日本国民(自然人)が主体であることは当然ですが、未成年者や天皇、そして外国人や法人については、その地位や性質に応じた議論があります。
日本国民(未成年者・天皇)
- 未成年者:当然に人権の享有主体です。ただし、心身の健全な育成という観点から、成人にはない制約(飲酒・喫煙の禁止など)を受けることがあります。これを「パターナリスティックな制約」と呼びます。
- 天皇:憲法上「日本国の象徴」という地位にありますが、「国民」としての要素も併せ持ちます。しかし、皇位の世襲や政治的中立性といった職務の特殊性から、人権には一定の制約があります(例:選挙権がない、民事裁判権が及ばない等)。
2. 外国人の人権【最重要】
憲法第3章のタイトルは「国民の権利及び義務」となっていますが、人権が「人間であることにより当然に有する権利」である以上、外国人にも保障されるのが原則です。
権利の性質上可能な限り、外国人にも人権保障が及ぶ(マクリーン事件)。
ただし、すべての権利が無条件に保障されるわけではありません。
外国人の人権保障・〇×チェック表
試験では、どの権利が保障され、どの権利が保障されない(または制限される)のかを区別することが求められます。
| 権利の種類 | 保障の有無 | 関連判例・理由 |
|---|---|---|
| 入国の自由 | × | 国際慣習法上、外国人の受入れは国家の自由裁量。 |
| 在留の自由 | × | 入国の自由がない以上、在留する権利も保障されない(マクリーン事件)。 |
| 再入国の自由 | × | 入国の自由の枠外に出るものではない(森川キャサリーン事件)。 |
| 出国の自由 | 〇 | 憲法22条2項により保障される(一時旅行も含む)。 |
| 政治活動の自由 | 〇(限定的) | わが国の政治的意思決定に影響を及ぼすものを除き保障される(マクリーン事件)。 |
| 国政選挙権 | × | 国民主権の原理から、国民に限られる。 |
| 地方選挙権 | ×(※) | 憲法上保障はされないが、法律で付与することは憲法上禁止されていない(定住外国人地方参政権事件)。 |
| 公務就任権 | ×(※) | 公権力を行使する公務員への就任は、原則として日本国籍が必要(東京都管理職選考試験事件)。 |
| 社会権 | ×(※) | 限られた財源で行うため、自国民を優先することは立法府の裁量の範囲内(塩見訴訟)。 |
マクリーン事件では、「外国人の政治活動の自由」自体は認められました。しかし、「在留期間の更新」は法務大臣の広範な裁量に委ねられており、政治活動を理由に更新を不許可にしても違法ではない、という結論になりました。
3. 法人の人権
会社などの法人も、社会において活動する実体があるため、「性質上可能な限り」人権規定が適用されます(八幡製鉄事件)。
自然人(人間)にしかできない「生存権」「身体の自由」「選挙権」などは適用されませんが、「経済的自由」や「表現の自由(政治活動)」などは保障されます。
政治献金と強制加入団体
法人の人権で頻出なのが、「会社や団体が政治献金(寄付)をすること」の可否です。
| 判例名 | 団体の性質 | 寄付の目的 | 結論 |
|---|---|---|---|
| 八幡製鉄事件 | 株式会社 (営利法人) |
政党への政治献金 | 有効 会社も政治的行為の自由を有し、目的の範囲内の行為といえる。 |
| 南九州税理士会事件 | 税理士会 (強制加入) |
政党などへの政治献金 | 無効 会員の思想・信条の自由を害するため、会の目的の範囲外。 |
| 群馬司法書士会事件 | 司法書士会 (強制加入) |
被災した他会への復興支援 | 有効 政治的なものではなく、相互扶助の観点から目的の範囲内。 |
「強制加入団体(税理士会・司法書士会)」の場合、会員は脱退できません。そのため、個人の思想信条に関わる「政治献金」を多数決で強制することは許されません。一方、「災害支援」のような協力行為であれば、強制加入団体であっても認められるという違いを押さえましょう。
4. 実戦問題にチャレンジ
1. 外国人には、憲法上、外国へ一時旅行する自由を含む再入国の自由が保障されているため、法務大臣が再入国の不許可処分を行うことは原則として許されない。
2. 外国人の政治活動の自由は、わが国の政治的意思決定またはその実施に影響を及ぼす活動等、外国人の地位にかんがみこれを認めることが相当でないと解されるものを除き、その保障が及ぶ。
3. 地方公共団体の長や議会の議員等の選挙において、定住外国人に選挙権を付与する法律を制定することは、国民主権の原理に反し、憲法上許されない。
4. 公権力の行使に当たる地方公務員の職に外国人を就任させることは、国民主権の原理に基づき当然に許容されるものであり、これを一律に禁止する措置は違憲である。
5. 社会保障上の施策において、限られた財源の下で自国民を在留外国人より優先的に扱うことは、いかなる場合であっても人種等を理由とする不当な差別に当たり、憲法14条に違反する。
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正解 2
解説:
1. 誤り。判例は、外国人には再入国の自由(一時旅行の自由)は保障されていないとしています(森川キャサリーン事件)。
2. 正しい。これがマクリーン事件判決の核心部分です。政治活動の自由は原則保障されますが、一定の限界があります。
3. 誤り。判例は、法律で定住外国人に地方選挙権を付与することは「憲法上禁止されていない」としています(許容説)。保障説(権利としてある)でも禁止説(ダメ)でもない点に注意。
4. 誤り。判例は、公権力を行使する公務員への就任は「日本国籍を有する者が想定されている」とし、外国人の就任を拒否する措置を合憲としています(東京都管理職選考試験事件)。
5. 誤り。塩見訴訟において、社会保障施策で自国民を優先することは、立法府の裁量の範囲内であり、直ちに違憲とはならないとされました。
1. 憲法第3章の諸規定による人権の保障は、性質上可能な限り、内国の法人にも適用される。
2. 株式会社は、営利法人ではあるが社会的存在でもあり、定款に明示がない場合であっても、社会的儀礼や社会的責任を果たすために、政党への政治資金の寄付を行う能力を有する。
3. 税理士会は強制加入団体であり、会員に脱退の自由がないことから、多数決によって会員に特定の政党への献金を強制することは、会員の政治的思想・信条の自由を侵害し、会の目的の範囲外の行為として無効である。
4. 司法書士会も税理士会と同様に強制加入団体であるが、大震災で被災した他の司法書士会に対する復興支援のための拠出金を会員から徴収することは、相互扶助の観点から会の目的の範囲内の行為として有効である。
5. 株式会社による政治献金は、それが客観的・抽象的に見て会社の目的の範囲内であったとしても、金額の多寡にかかわらず、自然人の参政権を侵害するおそれがあるため、憲法上許されない。
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正解 5
解説:
1. 正しい。八幡製鉄事件の基本準則です。
2. 正しい。八幡製鉄事件において、会社による政治献金は目的の範囲内とされました。
3. 正しい。南九州税理士会事件の判旨です。
4. 正しい。群馬司法書士会事件の判旨です。
5. 誤り。八幡製鉄事件において、会社による政治献金は「国民の参政権を侵害するものではない」として、憲法上許容されています。
1. 「法規範性」とは、その規定に基づいて裁判所に救済を求めることができる性質のことであり、「裁判規範性」とは、単に国に対して政治的・道義的義務を課すにとどまる性質のことである。
2. 憲法25条の生存権について、いわゆるプログラム規定説によれば、同条は個々の国民に対して直接具体的な権利を付与したものではなく、国の将来的な努力目標を宣言したものにすぎないと解される。
3. 未成年者の人権については、心身の発達の途中にあるという理由から、成人と異なり一切の基本的人権の享有主体とはならないと解されている。
4. 天皇は日本国の象徴であるが、日本国民としての地位も有するため、戸籍法の適用を受け、選挙権や被選挙権などの参政権も等しく保障されている。
5. 法人に人権が認められる根拠として、法人は自然人と全く同様の肉体的・精神的実体を有しているため、自然人と同等に扱うべきであるという考え方が採用されている。
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正解 2
解説:
1. 誤り。「法規範性」と「裁判規範性」の説明が逆、あるいは不正確です。裁判規範性こそが、裁判で訴えることができる性質を指します。
2. 正しい。これがプログラム規定説(朝日訴訟・第一審判決等で議論された説)の説明です。
3. 誤り。未成年者も当然に人権の享有主体です。パターナリスティックな制約があるだけです。
4. 誤り。天皇は戸籍法の適用を受けず(皇統譜)、参政権も有しません。
5. 誤り。法人は肉体的実体を持たないため、「性質上可能な限り」適用されるという理屈です。
5. まとめと学習アドバイス
今回は、憲法の人権総論「人権の享有主体」について解説しました。
- 外国人:「権利の性質上可能な限り」保障されるが、入国・在留の自由や国政参政権はない。
- 法人:「性質上可能な限り」保障される。株式会社の政治献金はOKだが、強制加入団体の政治献金はNG(災害支援はOK)。
この分野は判例の結論を知っているだけで解ける問題も多いですが、近年は「なぜその結論になるのか」という理由付けを問う問題も増えています。「強制加入だから思想の自由を守るべき」「国際法上、国家に裁量があるから」といったキーワードとセットで記憶しておきましょう。
よくある質問(FAQ)
- Q. 「性質上可能な限り」とはどういう意味ですか?
- A. 「その権利の性質を考えて、外国人や法人に当てはめても問題ないもの」という意味です。例えば、法人に「内心の自由」や「身体の自由(逮捕されない権利)」を認めるのは物理的に不可能ですが、「財産権」や「表現の自由(広告など)」は認めても問題ありません。
- Q. マクリーン事件で、政治活動の自由は認められたのですか?
- A. はい、「政治活動の自由」自体は外国人にも保障されると判断されました。ただし、在留期間の更新は法務大臣の広い裁量に任されているため、政治活動をしたことを理由に「更新しない」という判断をしても違法ではない、という結論です。
- Q. 地方参政権は外国人にもあるのですか?
- A. 最高裁は「憲法上の権利としては保障されていない」と言っています。しかし、「法律で定住外国人に選挙権を与えること」自体は憲法違反ではなく、国会の判断(立法政策)に任されている、という立場です(許容説)。