憲法14条が定める「法の下の平等」は、人権分野の中でも特に判例が多い重要テーマです。
「どんな差別が許されなくて、どんな区別なら許されるのか?」
この基準(違憲審査基準)を理解することが、憲法を得点源にするための第一歩です。
今回は、平等権に関する基礎理論から、尊属殺重罰規定や非嫡出子相続分などの違憲判決、そして受験生を悩ませる「議員定数不均衡(一票の格差)」の判例まで、試験に出るポイントを網羅的に解説します。
1. 法の下の平等とは
憲法14条1項は「すべて国民は、法の下に平等であって…」と規定しています。この条文の解釈には、以下の2つのポイントがあります。
(1) 「法の下」の意味
通説(立法者拘束説)では、行政や司法が法を適用する際だけでなく、国会が法律を作る際(法の内容)も平等でなければならないと解されています。
(2) 「平等」の意味
憲法の平等は、すべての人を機械的に同じに扱う「絶対的平等」ではなく、事実上の違い(年齢や能力など)を考慮して等しく扱う「相対的平等」を意味します。
つまり、「合理的な根拠のある区別」であれば、憲法違反にはなりません。
「人種、信条、性別、社会的身分又は門地」という列挙は、これら以外での差別も許さないという意味の「例示列挙」です(限定列挙ではありません)。
2. 差別に関する重要判例
ここでは、法的な区別が「合理的かどうか」が争われた重要判例を整理します。特に「違憲」と判断されたものは最重要です。
(1) 違憲判決が出た事例
| 判例名 | 問題となった法律 | 判旨・理由 |
|---|---|---|
| 尊属殺重罰規定 (最大判昭48.4.4) |
刑法200条 (尊属殺は死刑または無期のみ) |
【違憲】 尊属殺を重く処罰する目的自体は合憲だが、刑罰が重すぎて(死刑か無期のみ)、手段として著しく不合理。 |
| 国籍法違憲判決 (最大判平20.6.4) |
国籍法3条1項 (準正がないと国籍取得不可) |
【違憲】 日本人の父から認知されていれば十分であり、父母の婚姻(準正)を要件とするのは不合理な差別。 |
| 非嫡出子相続分 (最大決平25.9.4) |
民法900条4号 (非嫡出子は嫡出子の半分) |
【違憲】 家族形態の多様化などにより、区別する合理的根拠は失われた。 |
| 再婚禁止期間 (最大判平27.12.16) |
民法733条 (女性のみ6ヶ月禁止) |
【一部違憲】 父性推定の重複を避けるための100日を超える部分は、過剰な制約であり違憲。 |
(2) 合憲とされた事例
| 判例名 | 問題となった法律 | 判旨・理由 |
|---|---|---|
| 夫婦同氏制 (最大判平27.12.16) |
民法750条 | 【合憲】 夫婦同氏は社会に定着しており合理的。夫か妻か選べるので形式的な不平等はない(結果的に妻が変えることが多いとしても)。 |
| 戸籍法の届出 (最判平25.9.26) |
戸籍法 (「嫡出でない子」の記載) |
【合憲】 事務処理上の便宜にすぎず、法的地位に差異をもたらすものではない。 |
最高裁は「親を大切にしよう(尊属殺を重く罰する)」という立法目的自体は認めています。しかし、その手段として「執行猶予の付かない重すぎる刑罰」しか選べないようにした点が不合理(違憲)だと判断しました。
3. 議員定数不均衡(一票の格差)
選挙区ごとの人口の違いにより、一票の価値に格差が生じる問題です。最高裁は、選挙の種類ごとに異なる基準で判断しています。
(1) 判断の枠組み
最高裁は、以下の2段階で違憲判決を出します。
- 「違憲状態」:投票価値の不平等が、国会の裁量権の限界を超えている状態。
- 「違憲」:違憲状態になった後、「合理的期間」内に是正されなかった場合。
※さらに、違憲であっても選挙自体は有効とする「事情判決の法理」を採用するのが通例です。
(2) 衆議院と参議院の違い
| 選挙の種類 | 求められる平等の程度 | 最近の傾向 |
|---|---|---|
| 衆議院 | 厳格 (1人別枠方式などは認めない) |
倍率が2倍を超えると「違憲状態」になりやすい。 (例:H23大法廷判決など) |
| 参議院 | やや緩やか (地域代表的な性格を考慮) |
かつては5倍以上でも合憲だったが、近年は厳格化し、5.00倍で「違憲状態」と判断(H24大法廷判決)。 |
| 地方議会 | 非常に厳格 | 国会のような広い裁量はない。人口比例が原則。 |
(3) 参議院選挙の判例変更(H24判決)
かつて最高裁は、参議院には「半数改選」や「都道府県単位の選挙区」という特殊性があるため、大きな格差も許容していました。
しかし、平成24年の判決で、「参議院だからといって投票価値の平等の要請が後退してよい理由はない」と判示し、都道府県単位の仕組み自体の見直しを迫りました(その後、合区などが導入されました)。
4. 実戦問題にチャレンジ
1. 尊属殺の法定刑を死刑または無期懲役刑のみに限る刑法200条の規定は、尊属に対する敬愛の念を保持するという立法目的自体が、現代の民主主義社会においては不合理であるとして、憲法14条1項に違反すると判断された。
2. 民法の非嫡出子相続分規定について、最高裁は、法律婚主義の下では嫡出子と非嫡出子を区別すること自体は許容されるものの、相続分を2分の1とする区別にはもはや合理的な根拠が失われているとして違憲と判断した。
3. 国籍法が、日本国民である父と日本国民でない母との間に出生した子について、父母が婚姻した場合(準正)に限り日本国籍の取得を認めるとした規定は、血統主義を採用する国籍法の基本原則に合致するため合憲と判断された。
4. 夫婦同氏制を定める民法の規定は、形式的には男女平等の形をとっているが、実質的には圧倒的多数の夫婦が夫の氏を選択している現状に鑑みると、女性に対する間接的な差別にあたり違憲であると判断された。
5. 女性のみに再婚禁止期間を設ける民法の規定は、父性の推定の重複を回避するという立法目的自体が、DNA鑑定技術の発達した現代においては合理性を欠くとして、全期間について違憲と判断された。
正解・解説を見る
正解 2
解説:
1. 誤り。尊属殺重罰規定判決では、立法目的(道義的非難)自体は合憲とされました。手段(刑罰の重さ)が違憲とされたのです。
2. 正しい。最大決平25.9.4の判旨です。区別自体は否定していませんが、相続分の格差(2分の1)は違憲としました。
3. 誤り。国籍法違憲判決において、準正要件による区別は「合理的な理由のない差別」として違憲と判断されました。
4. 誤り。夫婦同氏制判決は、氏の選択は協議に委ねられており、女性差別にはあたらないとして合憲と判断しました。
5. 誤り。再婚禁止期間違憲判決では、立法目的(父性推定の混乱防止)や100日間の禁止自体は合憲とし、100日を「超える部分」のみを違憲としました。
1. 衆議院議員選挙において、投票価値の平等は、選挙制度の仕組みを決定する唯一絶対の基準ではないが、国会の裁量権の限界を超えて著しい不平等状態が生じた場合には、合理的期間内に是正されない限り違憲となる。
2. 参議院議員選挙については、かつては地域代表的な性格などを理由に広い裁量が認められていたが、近年では、参議院議員の選挙であること自体から直ちに投票価値の平等の要請が後退してよい理由は見いだし難いとされている。
3. 衆議院議員選挙における「1人別枠方式」については、人口比例主義に反する要素を含むものではあるが、過疎地域の意見を反映させる政策的配慮として、現在でも合憲性が維持されている。
4. 地方議会議員の選挙においては、国会のような広い裁量権は認められず、人口比例の原則がより厳格に適用されるべきであるとされている。
5. 選挙区割りが憲法14条等に違反し違憲であると判断される場合であっても、選挙そのものを無効とすることは公共の利益に著しい支障を及ぼすとして、選挙自体は有効とする判決(事情判決)が定着している。
正解・解説を見る
正解 3
解説:
1. 正しい。衆議院選挙に関する基本的枠組みです(昭和51年判決等)。
2. 正しい。平成24年判決以降、参議院の格差是正も厳しく求められるようになりました。
3. 誤り。平成23年判決において、1人別枠方式(各県にまず1人を配分する仕組み)は、投票価値の不平等の主要な原因になっているとして、廃止を求める厳しい判断が示されました。
4. 正しい。昭和59年判決等により、地方議会には国政選挙ほどの政策的裁量はないとされています。
5. 正しい。違憲判決が出ても、選挙のやり直しによる混乱(法的な空白)を避けるため、事情判決の法理により選挙は有効とされます。
1. 憲法14条1項は「法の下の平等」を保障しているため、日本国内において適用される法規の内容は全国一律でなければならず、条例によって地域差が生じることは許されない。
2. 条例によって罰則に差が生じることは、憲法が地方自治を保障し条例制定権を認めている以上、当然に予期されることであり、地域差のゆえをもって直ちに違憲ということはできない。
3. 売春防止法のような国の法律がある事項について、特定の地方公共団体がより厳しい取締り規定を条例で定めることは、法の下の平等に反し違憲である。
4. 地方公務員の政治的行為の制限について、条例が国家公務員法よりも緩やかな規制を設けることは、憲法上の平等の観点から許されない。
5. 地方公共団体が住民の福祉のために独自の給付行政を行う場合であっても、他の自治体の住民との間に格差が生じることは、憲法14条1項により禁止されている。
正解・解説を見る
正解 2
解説:
1. 誤り。憲法自体が地方自治(条例制定権)を認めているため、地域差は許容されます。
2. 正しい。売春取締条例事件(最大判昭33.10.15)の判旨です。条例による地域差は、憲法が自ら容認するところであると判断されました。
3. 誤り。国の法律と条例の目的や趣旨を比較し、矛盾抵触しない限り、条例による上乗せ規制(横出し規制)も可能です(徳島市公安条例事件など)。
4. 誤り。地方公務員と国家公務員では職務の性質が異なるため、取り扱いに差があっても直ちに違憲とはなりません。
5. 誤り。地方自治の本旨に基づき、各自治体が独自の施策を行うことは当然に認められます。
5. まとめと学習アドバイス
今回は「法の下の平等」について解説しました。
- 違憲判決シリーズ:尊属殺、国籍法、非嫡出子相続分、再婚禁止期間の4つは、結論だけでなく「なぜ違憲か」の理由まで押さえる。
- 一票の格差:「違憲状態」と「違憲」の違い、衆院と参院の判断基準の厳しさの違い(参院も厳しくなった点)を整理する。
- 条例と地域差:日本国内でルールが違っても、地方自治に基づくものであれば合憲(売春条例事件)。
特に家族法関連の違憲判決は、民法改正にも直結しているため、民法の知識とリンクさせて学習すると効率的です。判例の「変遷(昔は合憲だったが違憲になった)」という流れも意識しておきましょう。
よくある質問(FAQ)
- Q. 「違憲」と「違憲状態」は何が違うのですか?
- A. 「違憲状態」は、憲法違反の状況にはなっているが、国会に是正のための時間(合理的期間)を与える必要がある段階です。「違憲」は、その時間を過ぎても直さなかったため、もはや許されないと判断された段階です。
- Q. 尊属殺の判決で、目的は合憲なのに違憲とされたのはなぜですか?
- A. 手段(刑罰)が重すぎたからです。「親を殺した子を重く罰する」こと自体は良いとしても、「どんな事情があっても死刑か無期懲役しか選べない(執行猶予も付けられない)」というのは厳しすぎて不合理だ、という判断です。
- Q. 条例で地域ごとに罰則が違うのは不平等ではないのですか?
- A. 最高裁は、憲法が「地方自治」を保障している以上、地域ごとの実情に合わせて条例を作ることは当然予定されており、それによる差は不平等には当たらない(合憲)としています。