行政書士試験の憲法「統治」分野において、裁判所(司法権)は頻出テーマの一つです。
「どんな争いでも裁判所は判断してくれるの?」
「政治的な問題に裁判所は口を出せない?」
こうした「司法権の限界」に関する問題は、判例の知識がそのまま得点に直結します。
今回は、司法権の定義から、宗教や政党内部の紛争への介入可否(部分社会の法理)、そして高度な政治的行為に対する司法の抑制(統治行為論)まで、試験で問われる重要ポイントを整理して解説します。
1. 司法権の意義と限界
司法権とは、具体的な争訟に対して法を適用し、宣言することで解決する作用です。裁判所が動くためには、単に「法的な疑問がある」だけでは足りず、以下の要件を満たす「法律上の争訟」である必要があります。
- 当事者間の具体的な権利義務・法律関係の存否に関する紛争であること。
- 法令の適用により終局的に解決できるものであること。
「警察予備隊(現在の自衛隊)は違憲だ」という抽象的な訴えに対し、最高裁は「具体的な権利侵害を受けていない者の訴えは裁判の対象にならない」として却下しました(付随的違憲審査制)。
司法権の限界(裁判できないケース)
「法律上の争訟」に当たっても、性質上あるいは政策上の理由から、裁判所が審査を控える場合があります。
① 宗教上の教義に関する争い
板まんだら事件(最判昭56.4.7):
寄付の返還請求訴訟において、前提として「本尊(板まんだら)が偽物か本物か」という宗教上の教義判断が必要となった場合、裁判所は法令を適用して解決できないため、訴えを却下しました。
② 部分社会の法理(団体内部の自律)
政党や大学、地方議会などの自律的な団体内部のことは、原則としてその団体の自治に任せ、裁判所は介入すべきでないという考え方です。
| 判例名 | 事案 | 司法審査の可否 |
|---|---|---|
| 富山大学事件 | 単位認定 | 及ばない (特段の事情がない限り) |
| 共産党除名処分 | 政党員の除名 | 及ばない (内部的自律権を尊重) |
| 地方議員の懲罰 | 出席停止処分 | 及ぶ(判例変更!) |
| 地方議員の除名 | 議員の除名処分 | 及ぶ(身分喪失は重大だから) |
地方議会議員の「出席停止処分」について、かつては「内部規律の問題」として司法審査が及ばないとされていましたが、令和2年の大法廷判決により、「司法審査の対象となる」へと変更されました。最新の知識として必ず押さえておきましょう。
③ 統治行為論(高度な政治性)
高度に政治的な国家行為については、法律判断が可能でも、司法審査を控えるべきとする理論です。
- 苫米地事件(衆議院の解散):衆議院の解散は高度の政治性を有する統治行為であり、司法審査の対象外。
- 砂川事件(日米安保条約):安保条約のような高度な政治的条約は、原則として司法審査になじまない。ただし、「一見極めて明白に違憲無効」である場合に限り、司法審査の対象となる。
2. 裁判所の組織と権能
(1) 裁判官の身分保障
裁判官は、その良心に従い独立して職権を行使します。行政機関による懲戒処分は禁止されています。
- 罷免される場合:①心身の故障、②公の弾劾(弾劾裁判所)、③国民審査(最高裁のみ)。
- 国民審査の性質:判例は「解職制(リコール)」と解しています。
(2) 下級裁判所の裁判官の任命
最高裁の指名した名簿に基づき、内閣が任命します。
3. 違憲審査権と裁判の公開
(1) 違憲審査権の性格
憲法81条は、最高裁判所を「終審裁判所」と定めています。日本の違憲審査制は、具体的な事件を解決するために必要な限度で憲法判断を行う「付随的違憲審査制」です(ドイツのような抽象的違憲審査制ではありません)。
(2) 裁判の公開(憲法82条)
対審(審理)と判決は原則として公開されます。
- 対審の非公開:裁判官の全員一致で「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」があると決した場合は非公開にできます。
- 例外の例外(絶対公開):政治犯罪、出版に関する犯罪、国民の権利(基本的人権)が問題となっている事件は、常に公開しなければなりません。
傍聴人がメモを取る自由は「21条の精神に照らし尊重される」とされましたが、法廷での写真撮影については、許可制にすることも「法廷の秩序維持のため」として合憲とされています。
4. 裁判員制度の合憲性
一般市民が裁判官と一緒に刑事裁判を行う「裁判員制度」は、以下の理由で合憲とされています(最大判平23.11.16)。
- 憲法は国民の司法参加を禁止していない。
- 裁判員が関与するのは事実認定や量刑などであり、憲法違反にはならない。
- 公平な裁判所(37条)の保障も侵害しない。
5. 実戦問題にチャレンジ
1. 宗教団体内部における懲戒処分などの紛争については、それが一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り、裁判所の審判権は及ばない。
2. 地方議会議員に対する出席停止の懲罰は、議員の身分そのものを失わせる除名とは異なり、議会の内部規律の問題にすぎないため、司法審査の対象とはならない。
3. 大学による学生の単位認定行為は、一般市民法秩序と直接の関係を有するものであるから、特段の事情がない限り、当然に司法審査の対象となる。
4. 衆議院の解散は、高度の政治性を有する国家行為であるが、その有効性は憲法適合性の問題として純粋に法的な判断が可能であるため、司法審査の対象となる。
5. 条約の締結は、内閣と国会の政治的判断に基づくものであるが、憲法優位の原則から、いかなる条約であってもその違憲性については、通常の法令と同様に司法審査の対象となる。
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正解 1
解説:
1. 正しい。板まんだら事件や共産党袴田事件などの「部分社会の法理」に関する記述です。
2. 誤り。判例変更(最大判令2.11.25)により、出席停止処分も司法審査の対象となるとされました。
3. 誤り。富山大学事件において、単位認定は原則として大学の自律的判断に委ねられ、司法審査の対象外とされました。
4. 誤り。苫米地事件において、衆議院の解散は統治行為として司法審査の対象外とされました。
5. 誤り。砂川事件において、高度な政治性を持つ条約(安保条約など)は原則として司法審査の対象外とされ、「一見極めて明白に違憲無効」な場合に限られるとされました。
1. 下級裁判所の裁判官は、最高裁判所の指名した者の名簿によって、内閣が任命する。
2. 裁判官は、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除き、公の弾劾によらなければ罷免されない。
3. 最高裁判所の裁判官は、任命後初めて行われる衆議院議員総選挙の際に国民審査を受け、その後も10年を経過した後の衆議院議員総選挙の際に再審査を受ける。
4. 行政機関は、終審として裁判を行うことができないとされているが、前審として裁判(裁決など)を行うことまでは禁止されていない。
5. 特別裁判所の設置は憲法により禁止されているが、家庭裁判所は、家庭事件審判法という特別法に基づいて設置されたものであるため、憲法上禁止される特別裁判所に該当する。
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正解 5
解説:
1. 正しい。憲法80条1項の通りです。
2. 正しい。憲法78条前段の通りです。行政機関による懲戒免職は禁止されています。
3. 正しい。憲法79条2項の通りです。
4. 正しい。行政不服審査法に基づく審査請求などがこれに当たります(76条2項)。
5. 誤り。家庭裁判所は、最高裁判所の下に属する通常裁判所の一種であり、憲法が禁止する「特別裁判所(軍法会議など)」には当たりません。
1. 裁判の対審および判決は、いかなる場合であっても公開法廷で行わなければならず、非公開とすることは一切認められていない。
2. 裁判所が、公の秩序または善良の風俗を害するおそれがあると決した場合には、対審を公開しないで行うことができるが、その決定は裁判官の過半数の意見によるもので足りる。
3. 政治犯罪、出版に関する犯罪、または憲法第3章で保障する国民の権利が問題となっている事件については、公の秩序等を害するおそれがある場合であっても、対審を常に公開しなければならない。
4. 証人が公判廷において、被告人や傍聴人の面前で十分な供述をすることができないおそれがある場合に、遮へい措置(つい立て)を講じて証人尋問を行うことは、裁判の公開の原則に反し違憲である。
5. 裁判の公開原則は、傍聴人が法廷で見聞した内容を記録する権利まで保障するものではないため、法廷でのメモ採取を制限することは、特段の事情がない限り裁判長の自由な裁量に委ねられている。
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正解 3
解説:
1. 誤り。対審については、公序良俗を害するおそれがある場合に非公開とできる例外があります(判決は常に公開)。
2. 誤り。非公開の決定には、裁判官の「全員一致」が必要です(82条2項)。
3. 正しい。憲法82条2項ただし書の規定通りです。この3類型は絶対公開です。
4. 誤り。ビデオリンク方式や遮へい措置による証人尋問も、傍聴人が手続きを認識できる状態であれば、公開原則に反しない(合憲)とされています(最判平17.4.14)。
5. 誤り。レペタ事件判決において、メモ採取は「尊重されるべき」とされ、特段の事情がない限り自由に認めるべきとされました(現在は原則自由)。
6. まとめと学習アドバイス
今回は、司法権と裁判所について解説しました。
- 司法権の限界:「部分社会の法理」と「統治行為論」の判例を区別する。特に出席停止処分の判例変更は要注意。
- 裁判官:罷免事由(心身故障、弾劾)と国民審査の仕組みを押さえる。
- 裁判の公開:対審の非公開要件(全員一致)と、絶対公開の3類型を暗記する。
統治分野は条文知識そのものが問われることが多いですが、司法権の分野に関しては「判例のロジック(なぜ裁判できないのか)」が重要になります。各判例のキーワード(「高度の政治性」「内部規律」など)と結論をセットで覚えておきましょう。
よくある質問(FAQ)
- Q. 「法律上の争訟」とは具体的に何ですか?
- A. 「具体的な権利義務の争い」であり、かつ「法律を適用して解決できるもの」です。単なる宗教上の教義論争や、抽象的な法令の違憲確認などは、これに当たらないため裁判できません。
- Q. 弾劾裁判所と国民審査の違いは何ですか?
- A. 弾劾裁判所は「国会」が設置し、非行のあった裁判官を辞めさせる制度です。国民審査は「国民」が投票で最高裁判所の裁判官を辞めさせる制度です。
- Q. 判決を非公開にすることはできますか?
- A. できません。憲法82条1項により、判決は常に公開法廷で行わなければなりません。非公開にできるのは「対審(審理のプロセス)」の一部だけです。