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講義2:【民法総則】権利能力・意思能力・行為能力の違いとは?未成年者の法律行為を完全攻略

民法の学習は「人(権利の主体)」に関するルールから始まります。契約を結んだり、土地を持ったりするためには、法律上どのような能力が必要なのでしょうか?

「赤ちゃんに遺産を相続させることはできる?」「泥酔して契約したらどうなる?」「高校生が勝手に高額なバイクを買ったら?」

こうした疑問を解決するのが、「権利能力」「意思能力」「行為能力」という3つの能力の概念です。これらは言葉が似ているため、初学者が最初につまずきやすいポイントでもあります。

今回は、この3つの能力の違いを明確にし、特に出題頻度の高い「胎児の権利能力」「未成年者の法律行為」について徹底解説します。

1. 権利能力(権利義務の帰属主体)

権利能力とは、権利を持ったり義務を負ったりすることができる資格(権利義務の帰属主体となる地位)のことです。

民法3条1項は「私権の享有は、出生に始まる」と規定しています。つまり、生まれたときから人としての権利能力を持ち、死亡時に失います。

胎児の権利能力(例外)

原則として、まだ生まれていない胎児に権利能力はありません。しかし、これでは、父親が死亡した直後に生まれた子が相続できないなど不公平が生じます。

そこで民法は、以下の3つの場合に限り、胎児を「既に生まれたものとみなす」という例外を設けています。

例外となる場面 条文 内容
①不法行為による損害賠償請求 721条 父親が交通事故で死亡した場合など、加害者に損害賠償を請求できる。
②相続 886条 親が死亡した場合、相続人となれる。
③遺贈 965条 遺言によって財産を受け取ることができる。
💡 「生まれたものとみなす」の意味(停止条件説)

判例(阪神電鉄事件)は、「停止条件説」をとっています。
これは、「胎児の間は権利能力がないが、生きて生まれた瞬間に、遡って権利能力を取得する」という考え方です。
したがって、胎児の間に母親が法定代理人として示談したり、相続放棄したりすることはできません(生まれるまでは権利者ではないため)。

2. 意思能力(判断能力)

意思能力とは、自分の行為の結果を弁識する(判断できる)精神的な能力のことです。おおむね7歳〜10歳程度で備わるとされています。

重度の認知症の方や泥酔者、幼児など、意思能力を有しない者(意思無能力者)が行った法律行為は「無効」となります(3条の2)。

「無効」とは、初めから契約がなかったことになる、という強力な効果です。

3. 制限行為能力(未成年者など)

意思能力の有無は、個別のケースごとに判断しなければならず、取引の相手方にとっては不安定です。そこで、画一的に「この人は一人で契約させては危ない」と決めて保護する制度が「制限行為能力者制度」です。

行為能力と制限行為能力者

  • 行為能力:単独で、確定的に有効な法律行為を行うことができる能力。
  • 制限行為能力者:行為能力が制限されている人。以下の4類型があります。
    1. 未成年者
    2. 成年被後見人
    3. 被保佐人
    4. 被補助人

制限行為能力者が保護者(法定代理人など)の同意なく行った行為は、「取り消す」ことができます。

💡 「無効」と「取消し」の違い

無効:最初から効力がない。意思無能力者の行為など。
取消し:取り消すまでは「一応有効」。取り消されると「初めから無効」だったことになる(遡及効)。制限行為能力者の行為など。

4. 未成年者の法律行為

未成年者(18歳未満)の法律行為について、原則と例外を整理しましょう。

(1) 原則:法定代理人の同意が必要

未成年者が法律行為(契約など)をするには、原則として法定代理人(親権者など)の同意を得なければなりません。
同意を得ないで行った行為は、取り消すことができます(5条2項)。

※取消権者は、未成年者本人と法定代理人の両方です。未成年者が自分で取り消す際に、親の同意は不要です(単独で取り消せます)。

(2) 例外:単独で有効にできる行為

未成年者であっても、以下の行為は単独で行うことができ、後から取り消すことはできません。

① 単に権利を得、又は義務を免れる法律行為

未成年者に不利益がない行為です。
(例)負担のない贈与を受ける、借金の免除を受ける。

※注意:「売買代金を受け取る」「借金を返済する(弁済)」などは、反対債務(物を渡す義務)が生じたり、債権が消滅したりするため、これには当たらず、同意が必要です。

② 法定代理人が処分を許した財産(5条3項)

いわゆる「お小遣い」などです。

  • 目的を定めて許された財産:その目的の範囲内(例:学費、旅費)。
  • 目的を定めないで許された財産:自由に処分可能。

③ 営業の許可を受けた場合(6条1項)

法定代理人から特定の営業(例:古着屋の経営)を許可された場合、その営業に関しては成年者と同一の行為能力を有します。
※営業に関することであれば、仕入れや店舗の改装契約なども単独で可能です。

💡 婚姻による成年擬制(廃止)

以前は未成年者が結婚すると成年に達したとみなされる制度がありましたが、成年年齢が18歳に引き下げられたことに伴い、この制度は削除(廃止)されました。古い知識に注意してください。

(3) 法定代理人の権限

未成年者の保護者である法定代理人(親権者・未成年後見人)は、以下の3つの権限を持っています。

  • 同意権:事前にOKを出す権限。
  • 代理権:本人に代わって契約する権限。
  • 取消権:同意のない行為を取り消す権限。

5. 実戦問題にチャレンジ

問1:胎児の権利能力
胎児の権利能力に関する次の記述のうち、判例の趣旨に照らして妥当なものはどれか。

1. 胎児は、不法行為による損害賠償請求権については既に生まれたものとみなされるため、胎児の間に母親が法定代理人として加害者と和解契約を締結することができる。
2. 胎児は、相続については既に生まれたものとみなされるため、胎児が死体で生まれた場合であっても、代襲相続の原因となる。
3. 胎児に対する遺贈は、遺言者の死亡時に胎児が現に生存して生まれていることが確定していなければ効力を生じないため、胎児を受遺者とする遺言をすることはできない。
4. 胎児の権利能力について、民法の規定は「既に生まれたものとみなす」としているが、判例は、胎児が生きて生まれることを停止条件として権利能力を取得するという停止条件説を採用している。
5. 胎児が父親の不法行為による死亡により損害賠償請求権を取得する場合、その権利は相続によって取得するものであり、胎児自身に固有の慰謝料請求権が発生するわけではない。
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正解 4

解説:

1. 誤り。停止条件説(判例)によれば、胎児の間は権利能力がなく、法定代理人も存在しません。したがって、母親が代理して和解することはできません。

2. 誤り。死体で生まれた場合(死産)は、初めから権利能力を取得しなかったことになり、相続も発生しません。

3. 誤り。胎児を受遺者とする遺言は有効であり、生きて生まれれば遺贈の効力を受けます。

4. 正しい。判例(阪神電鉄事件)は停止条件説を採っており、生きて生まれた時に遡って権利能力を取得すると解しています。

5. 誤り。胎児は被害者として、加害者に対して「固有の」損害賠償請求権(慰謝料等)を取得します(721条)。

問2:未成年者の法律行為
未成年者の法律行為に関する次の記述のうち、民法の規定に照らして正しいものはどれか。

1. 未成年者が法定代理人の同意を得ずにした売買契約は無効であり、追認によっても有効とすることはできない。
2. 未成年者が単に権利を得る行為として、負担付贈与を受ける契約を法定代理人の同意なく締結した場合、この契約を取り消すことはできない。
3. 未成年者が法定代理人から目的を定めずに処分を許された財産(小遣い)を使って高額な商品を購入した場合、法定代理人はその契約を取り消すことができる。
4. 営業の許可を受けた未成年者が、その営業の範囲外で行った法律行為についても、成年者と同一の行為能力を有するとみなされるため、取り消すことはできない。
5. 未成年者が法定代理人の同意を得ずにした契約を取り消す場合、未成年者本人が単独で取り消しの意思表示を行うことができ、その際に改めて法定代理人の同意を得る必要はない。
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正解 5

解説:

1. 誤り。無効ではなく「取消しができる」行為です。追認すれば確定的に有効になります。

2. 誤り。「負担付贈与」は義務も負うため、「単に権利を得る行為」には当たらず、同意が必要です。同意がなければ取り消せます。

3. 誤り。処分を許された財産(目的を定めない場合含む)の処分行為は、単独で有効に行うことができ、取り消すことはできません(5条3項)。

4. 誤り。成年者と同一の行為能力を有するのは「その営業に関し」てのみです(6条1項)。営業に関係ない行為は原則通り制限行為能力者として扱われます。

5. 正しい。取消権の行使(取消すこと)自体は、未成年者にとって義務を免れる等の有利な行為であるため、単独で行うことができます(同意不要)。

問3:意思能力と行為能力
意思能力および行為能力に関する次の記述のうち、妥当なものはどれか。

1. 意思能力を有しない者がした法律行為は、取り消すことができる行為となるが、制限行為能力制度における取消しとは異なり、善意の第三者に対抗することはできない。
2. 成年後見制度を利用していない高齢者が、認知症により意思能力を喪失している状態で不動産の売買契約を締結した場合、その契約は無効である。
3. 制限行為能力者が、詐術を用いて自己を行為能力者であると信じさせた場合であっても、その行為を取り消すことができる権利は失われない。
4. 未成年者が法定代理人の同意を得て行った法律行為であっても、その行為の結果、未成年者に著しい不利益が生じた場合には、法定代理人は当該行為を取り消すことができる。
5. 意思能力の有無は画一的に年齢で決まるものであり、判例上、15歳未満の者は一律に意思能力を有しないものとして扱われる。
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正解 2

解説:

1. 誤り。意思無能力者の行為は「無効」です(3条の2)。

2. 正しい。後見開始の審判を受けていなくても、行為の時点で意思能力がなければ、その契約は無効となります。

3. 誤り。詐術を用いた場合(能力者だと嘘をついた場合など)、取消権は排除され、行為は確定的に有効となります(21条)。

4. 誤り。適法に同意を得て行った行為は確定的に有効であり、結果が不利益でも取り消すことはできません。

5. 誤り。意思能力は個別具体的な事案ごとに判断されます。一般的には7〜10歳程度と言われていますが、一律の基準はありません。

5. まとめ

今回は、民法総則の「人(権利能力・意思能力・行為能力)」について解説しました。

  • 権利能力:生まれたら持つ。胎児は例外(損害賠償・相続・遺贈)のみ「生まれたとみなす(停止条件説)」。
  • 意思能力:判断能力がない人の行為は「無効」。
  • 行為能力:制限行為能力者(未成年者など)の行為は「取消し」ができる。

特に「胎児の停止条件説」「未成年者が単独でできる行為」は、試験で繰り返し問われる頻出ポイントです。正確に暗記しておきましょう。

よくある質問(FAQ)

Q. 停止条件説と解除条件説の違いは何ですか?
A. 「いつ権利能力を取得するか」の違いです。
停止条件説(判例):生きて生まれるまでは権利能力なし。生まれた瞬間に、過去に遡って取得する。
解除条件説:胎児の間も権利能力あり。ただし、死産だった場合は遡って失う。
実務上、代理ができるかどうかに影響します(停止条件説では代理不可)。
Q. 未成年者が「単に義務を免れる行為」とは具体的に何ですか?
A. 借金をチャラにしてもらう(債務免除)などが該当します。これは未成年者にメリットしかないため、親の同意は不要です。逆に「借金を返す(弁済)」のは、自分の財産が減る行為なので、単に義務を免れる行為には当たらず、同意が必要とする説が有力です。
Q. 意思無能力の「無効」と制限行為能力の「取消し」はどちらが優先しますか?
A. 両方の要件を満たす場合(例:泥酔した未成年者)、無効と取消しのどちらも主張できる「二重効」の状態になります。立証しやすい方(通常は取消し)を主張するのが一般的です。

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