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講義5:【民法総則】心裡留保と虚偽表示を完全解説|94条2項の「第三者」とは?

民法総則の中でも「意思表示」は、試験で頻出の超重要分野です。契約は「申込み」と「承諾」という意思表示の合致で成立しますが、もしその意思表示が嘘だったり、相手とグルだったりしたらどうなるでしょうか?

今回は、意思と表示が食い違っているケースである「心裡留保」「虚偽表示」について解説します。

特に「虚偽表示の第三者(94条2項)」は、民法全体を通じてもトップクラスに重要な論点です。判例が認める「第三者」の範囲を正確にマスターしましょう。

1. 法律行為の有効要件

契約などの法律行為が有効となるためには、以下の3つの要件を満たす必要があります。

  1. 内容の確定性:何についての契約かハッキリしていること。
  2. 適法性:強行法規に違反していないこと。
  3. 社会的妥当性:公序良俗(90条)に違反していないこと。

これらの要件を満たした上で、さらに「意思表示」が正常に行われている必要があります。

2. 心裡留保(冗談・嘘)

心裡留保(しんりりゅうほ)とは、「自分の言っていることが真意ではないと知りながらする意思表示」のことです。
(例)買う気がないのに「その時計100万円で買うよ」と言う。

(1) 原則と例外

  • 原則:有効
    相手方はその言葉を信じるのが通常なので、原則として有効です。つまり、冗談で言ったつもりでも契約は成立し、履行義務が生じます。
  • 例外:無効
    相手方が、その意思表示が真意でないことを「知り(悪意)」、又は「知ることができた(有過失)」ときは無効となります。

(2) 第三者との関係

心裡留保による無効は、「善意の第三者」に対抗することができません(93条2項)。

3. 虚偽表示(通謀虚偽表示)

虚偽表示とは、相手方と「通じて(グルになって)」する虚偽の意思表示のことです。
(例)借金の差押えを逃れるために、友人と相談して土地を売ったことにする(仮装売買)。

(1) 当事者間の効力

当事者間では、常に「無効」です(94条1項)。
心裡留保と違い、相手方も嘘だと知っているため、保護する必要がないからです。

(2) 第三者との関係(94条2項)

しかし、その無効な仮装売買を信じて、土地を買い取った第三者がいたらどうなるでしょうか?
民法94条2項は、「善意の第三者に対抗することができない」と定めています。

💡 「善意の第三者」の要件

「善意」であれば足り、「無過失」までは不要とするのが判例です。
また、第三者が悪意でも、その後の転得者が善意であれば保護されます(絶対的構成)。

4. 94条2項の「第三者」とは?

ここが試験の最重要ポイントです。条文上の「第三者」とは、単なる関係者ではなく、「虚偽表示の当事者・一般承継人以外で、その表示の目的につき新たに法律上の利害関係を有するに至った者」を指します。

(1) 第三者に「当たる」例(保護される)

  • 仮装譲受人から不動産を買い受けた者
  • 仮装譲受人から抵当権の設定を受けた者
  • 仮装譲受人の不動産を差し押さえた債権者
  • 仮装債権の譲受人

(2) 第三者に「当たらない」例(保護されない)

  • 仮装譲受人の一般債権者(差押えをしていない人)
  • 土地の賃借人が建物を仮装譲渡した場合の「土地賃貸人(地主)」
  • 土地の仮装譲受人から、その土地上の建物を借りた人(土地自体の利害関係人ではない)
💡 覚え方のコツ

「嘘の外観(登記など)」を信じて取引に入った人かどうかで判断します。単なる債権者や、土地と建物を取り違えているような人は、嘘の外観を直接の前提としていないため「第三者」には当たりません。

5. 94条2項の類推適用(権利外観法理)

94条2項は本来「相手方と通じて」嘘をついた場合の規定ですが、判例はこれを似たような状況にも応用(類推適用)しています。

要件(権利外観法理)

  1. 虚偽の外観が存在する(外観)
  2. 本人がその外観を作出した(帰責性)
  3. 第三者がその外観を信頼した(信頼)

例えば、本人が勝手に名義変更されたことを知りながら放置していた場合などがこれに当たります。この場合、110条(表見代理)の法理と組み合わせて処理されることもあります。


6. 実戦問題にチャレンジ

問1:心裡留保と虚偽表示
意思表示に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らして妥当なものはどれか。

1. 心裡留保による意思表示は、表意者が真意でないことを知って行ったものであるから、相手方の善意悪意にかかわらず常に無効である。
2. AがBと通謀してA所有の土地をBに売却したかのように仮装し、Bがその土地をCに転売した場合、Cが善意であっても過失があるときは、AはCに対して所有権を主張することができる。
3. AがBと通謀してA所有の土地をBに仮装譲渡した後、Bの債権者Cがその土地を差し押さえた場合、Cは善意であれば、民法94条2項の「第三者」として保護される。
4. 虚偽表示による契約は当事者間では無効であるが、当事者の一方が相手方に対して履行を請求した場合、相手方は信義則上、無効を主張して履行を拒絶することはできない。
5. 心裡留保による意思表示が無効となる場合、その無効は善意の第三者に対しても対抗することができる。
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正解 3

解説:

1. 誤り。心裡留保は原則有効です。相手方が悪意または有過失の場合に無効となります。

2. 誤り。94条2項の第三者は「善意」であれば足り、無過失までは要求されません。

3. 正しい。虚偽の外観(B名義)を信頼して差押えをした債権者は、新たに利害関係を持った「第三者」に該当します。

4. 誤り。虚偽表示は当事者間では常に無効であり、履行を拒絶できます。

5. 誤り。心裡留保の無効は「善意の第三者に対抗することができない」と規定されています(93条2項)。

問2:94条2項の第三者
Aは、Bと通謀してA所有の甲土地をBに仮装譲渡した。この場合における民法94条2項の「第三者」に関する次の記述のうち、判例に照らして第三者に該当するものはいくつあるか。

ア. Bから甲土地を譲り受けたC
イ. Bに対して金銭を貸し付けているが、甲土地について差押え等をしていない債権者D
ウ. Bが甲土地上に乙建物を建築して、その乙建物をBから借り受けたE
エ. 甲土地の仮装譲渡前に、Bに対して貸金債権を有していたF
オ. Bから甲土地に抵当権の設定を受けたG
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正解 2つ(ア・オ)

解説:

ア. 該当する。仮装譲受人からの譲受人は第三者の典型です。

イ. 該当しない。単なる一般債権者は、虚偽の外観について法的な利害関係を持っていません。

ウ. 該当しない。土地と建物は別個の不動産であり、土地の仮装譲受人から建物を借りた者は、土地についての法律上の利害関係人には当たりません。

エ. 該当しない。仮装譲渡「前」からの債権者は、虚偽の外観を信頼して取引に入ったわけではないため、第三者に当たりません。

オ. 該当する。抵当権設定を受けた者は、その不動産に担保価値という利害を持つため第三者に当たります。

7. まとめ

今回は「心裡留保」と「虚偽表示」について解説しました。

  • 心裡留保:原則有効。相手方が悪意・有過失なら無効。
  • 虚偽表示:当事者間は無効。善意の第三者には対抗できない。
  • 第三者の要件:善意であればOK(無過失不要)。差押債権者は〇、一般債権者は×。

特に94条2項の第三者論点は、記述式問題で「誰が保護されるか?」を問われる可能性があります。「差押えをしたか?」「土地と建物は別か?」といった視点で事例を分析できるようにしておきましょう。

よくある質問(FAQ)

Q. 心裡留保で相手方が「善意・有過失」の場合はどうなりますか?
A. 無効になります。心裡留保が無効になる条件は「悪意(知っていた)」または「有過失(知ることができた)」だからです。
Q. 転得者が悪意でも、前の人が善意なら保護されますか?
A. はい、保護されます(絶対的構成)。一度「善意の第三者」の手に渡れば、その時点で権利関係が確定し、その後の転得者が悪意であっても権利を取得できます。
Q. 94条2項類推適用とは何ですか?
A. 「通謀(グル)」がなくても、本人が虚偽の外観を作り出したり放置したりした場合に、94条2項を応用して善意の第三者を保護する考え方です。例えば、勝手に登記を移されたのを知りながら放置していた場合などがこれに当たります。

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