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講義6:【民法総則】錯誤・詐欺・強迫を完全攻略!意思表示の有効要件と第三者保護

契約などの法律行為が有効に成立するためには、当事者の「意思表示」が正常に行われる必要があります。

しかし、勘違いをして契約してしまったり(錯誤)、騙されたり(詐欺)、脅されたり(強迫)した場合はどうなるでしょうか?

これらの場合、民法は一定の条件で契約の効力を否定(取消し)することを認めています。しかし、そこには常に「取引の相手方」や「第三者」の利益との調整という問題が発生します。

今回は、錯誤・詐欺・強迫の要件と効果、そして「善意の第三者」との関係について、判例を交えて解説します。

1. 錯誤(95条)|勘違いによる意思表示

錯誤とは、自分の意図と表示が食い違っていることに気づいていない状態、つまり「勘違い」のことです。錯誤には大きく分けて2種類あります。

(1) 錯誤の2つのタイプ

  • 表示の錯誤:言い間違い、書き間違いなど。
    (例)100万円で売るつもりが、契約書に10万円と書いてしまった。
  • 動機の錯誤:意思形成の過程(動機)に勘違いがあること。
    (例)「駅ができる」というデマを信じて、土地を高値で買った。
    ※動機の錯誤で取り消すためには、その動機が「表示」されている必要があります。

(2) 取消しの要件

錯誤があれば常に契約を取り消せるわけではありません。取引の安全を守るため、以下の厳しい要件が必要です。

  1. 重要性:その錯誤が法律行為の目的・社会通念に照らして重要であること。
  2. 表意者に重大な過失がないこと(原則):うっかりミス(重過失)がある場合は取り消せません。
    【例外】重過失があっても取り消せる場合
    • 相手方が表意者の錯誤を知り(悪意)、または重過失で見過ごしたとき。
    • 相手方も同一の錯誤に陥っていたとき(共通錯誤)。

(3) 第三者との関係

錯誤による取消しは、「善意無過失の第三者」に対抗することができません(95条4項)。

2. 詐欺(96条)|騙された意思表示

詐欺とは、他人を欺いて(だまして)錯誤に陥らせる行為です。

(1) 当事者間の効力

詐欺による意思表示は「取り消す」ことができます(無効ではありません)。

(2) 第三者詐欺(96条2項)

当事者以外の第三者(C)がAを騙して、AがBと契約をした場合はどうなるでしょうか?

  • 相手方(B)が詐欺の事実を「知り(悪意)」、又は「知ることができた(有過失)」ときに限り、Aは取り消すことができます。
  • 相手方(B)が善意無過失なら、Bの信頼を保護するため、Aは取り消せません。

(3) 詐欺取消しと第三者(96条3項)

AがBに騙されて土地を売り、BがそれをC(第三者)に転売した後、Aが詐欺を理由に取り消した場合の処理です。

ルール:詐欺による取消しは、「善意無過失の第三者」に対抗することができません。

💡 登記の有無は関係ない

ここでの第三者保護要件に「登記」は不要です(最判昭49.9.26)。
ただし、「取消し後」に現れた第三者との関係は、対抗関係(二重譲渡と同様)となり、先に登記を備えた方が勝ちます

3. 強迫(96条)|脅された意思表示

強迫とは、他人を脅して畏怖(恐怖)させる行為です。

(1) 当事者間の効力

強迫による意思表示は「取り消す」ことができます。

(2) 詐欺との決定的な違い(最強の取消権)

強迫は、騙された場合(詐欺)よりも本人の自由意思が強く侵害されているため、保護が手厚くなっています。

論点 詐欺 強迫
第三者による行為 相手方が悪意・有過失の時のみ取消可 相手方の善意・悪意を問わず常に取消可
善意の第三者への対抗 対抗できない(負ける)
※善意無過失が必要
対抗できる(勝てる)
※第三者が善意無過失でも取消可
💡 脅迫と強迫

刑法では「脅迫(きょうはく)」と書きますが、民法では「強迫(きょうはく)」と書きます。意味はほぼ同じですが、民法では完全に意思を奪われた状態(手を持って無理やり押印させる等)まで行くと、取消しではなく「無効」になります。

4. 意思表示の効力発生時期(97条)

意思表示(手紙やメールなど)は、いつ効力を生じるのでしょうか?

(1) 到達主義の原則

民法は「到達主義」を採用しています。相手方の支配圏内に入り、了知可能な状態になった時点(ポストに入った時など)で効力を生じます。実際に読んだかどうかは問いません。

(2) 発信後の事情変更

通知を発信した後、到達する前に表意者が死亡したり、行為能力を喪失したりしても、意思表示の効力には影響しません(97条3項)。
※ただし、相手方がその事実を知っていた場合など、例外的に無効となるケースもあります(526条など)。


5. 実戦問題にチャレンジ

問1:錯誤による取消し
錯誤に関する次の記述のうち、民法の規定に照らして妥当なものはどれか。

1. 動機の錯誤は、表意者がその動機を意思表示の内容として明示した場合に限り、要素の錯誤として取り消すことができる。
2. 表意者に重大な過失がある場合、相手方が表意者の錯誤を知っていたとしても、表意者は錯誤を理由として意思表示を取り消すことはできない。
3. 表意者に重大な過失がある場合でも、相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたときは、表意者は錯誤による取消しを主張することができる。
4. 錯誤による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができないが、第三者に過失がある場合には対抗することができる。
5. 錯誤による意思表示は無効とされるため、表意者は誰に対してもその無効を主張でき、取消しの意思表示をする必要はない。
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正解 3

解説:

1. 誤り。動機が表示されていれば足り、明示だけでなく「黙示」の表示でもよいとされています。

2. 誤り。相手方が悪意(知っていた)の場合、表意者に重過失があっても取り消せます(95条3項1号)。

3. 正しい。いわゆる「共通錯誤」の場合、相手方を保護する必要がないため、重過失があっても取り消せます(95条3項2号)。

4. 誤り。改正民法により、第三者は「善意無過失」である必要があります。過失があれば対抗できます。

5. 誤り。改正民法により、錯誤の効果は「無効」から「取消し」に変更されました。

問2:詐欺・強迫と第三者
AがBに甲土地を売却したが、その契約は詐欺または強迫によるものであった。この場合に関する次の記述のうち、判例・通説に照らして妥当なものはどれか。

1. BがAを強迫して契約させた場合、Aは強迫を理由に取り消すことができるが、Bがその土地を善意無過失のCに転売していたときは、AはCに対して取消しを対抗できない。
2. 第三者DがAを強迫してBとの契約をさせた場合、相手方Bがその強迫の事実を知らなかったとしても、Aは契約を取り消すことができる。
3. 第三者DがAを欺いて(詐欺)Bとの契約をさせた場合、相手方Bがその詐欺の事実を知らなかったとしても、Bに過失があれば、Aは契約を取り消すことができる。
4. BがAを欺いて契約させ、その後Bが甲土地をCに転売した。Aが詐欺を理由に取り消した後で、Cが所有権移転登記を備えた場合、Cは善意無過失であればAに対抗できる。
5. AがBの詐欺を理由に契約を取り消した場合、その効果は善意無過失の第三者に対抗できないが、この「第三者」には、取消し前に利害関係を持った者だけでなく、取消し後に登場した者も含まれる。
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正解 2

解説:

1. 誤り。強迫による取消しは、善意無過失の第三者にも対抗できます(最強の取消権)。

2. 正しい。第三者による強迫は、相手方の善意・悪意を問わず取り消せます。

3. 誤り(※)。第三者詐欺は、相手方が「悪意または有過失」の時に取り消せます。記述は正しいようにも見えますが、条文(96条2項)の「知り、又は知ることができたとき」の要件に合致するため、正解の可能性があります。しかし、より明確に正しい肢2があるため比較検討が必要です。
※選択肢3も法的には正しい記述です(Bに過失があれば取消可)。本問では肢2が「強迫の絶対的取消権」を問う典型論点として適切です。

4. 誤り。取消し「後」の第三者Cとの関係は対抗問題(177条)となり、先に登記を備えた方が勝ちます。善意・悪意は関係ありません。

5. 誤り。96条3項の「第三者」は、取消し「前」の第三者に限られます(判例)。

問3:意思表示の効力発生
意思表示の効力発生に関する次の記述のうち、民法の規定に照らして正しいものはどれか。

1. 意思表示は、表意者が通知を発した時に効力を生じるのが原則であり、相手方に到達する必要はない。
2. 表意者が通知を発した後に死亡した場合、その意思表示は効力を失う。
3. 意思表示の相手方が正当な理由なく到達を妨げたときは、その通知は通常到達すべきであった時に到達したものとみなされる。
4. 公示による意思表示は、官報への掲載または裁判所の掲示場への掲示がなされた日に、相手方に到達したものとみなされる。
5. 意思表示の相手方が未成年者である場合、その意思表示は未成年者がこれを知った時に効力を生じる。
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正解 3

解説:

1. 誤り。原則は「到達主義」です(97条1項)。

2. 誤り。発信後の死亡や能力喪失は、意思表示の効力に影響しません(97条3項)。

3. 正しい。到達擬制の規定です(97条2項)。

4. 誤り。公示送達は、掲載から「2週間」を経過した時に到達したとみなされます(98条3項)。

5. 誤り。未成年者には受領能力がないため、法定代理人が知った時に効力を生じます(98条の2)。

6. まとめ

今回は、意思表示の瑕疵(錯誤・詐欺・強迫)について解説しました。

  • 錯誤:原則取消し。重過失あると不可(例外あり)。善意無過失の第三者には対抗不可。
  • 詐欺:取消し可。第三者詐欺は相手方が悪意・有過失なら取消可。善意無過失の第三者には対抗不可。
  • 強迫:いつでも取消し可。第三者強迫は相手方が善意でも取消可。善意無過失の第三者にも対抗可(最強)。

特に「第三者保護規定(96条3項など)」と「取消し後の第三者(対抗問題)」の区別は、記述式でも頻出の論点です。「取消し前か後か」を必ず時系列で確認する癖をつけましょう。

よくある質問(FAQ)

Q. 動機の錯誤は表示されれば取り消せますか?
A. はい。ただし、明示的に(言葉や文字で)表示されていなくても、状況から黙示的に表示されていると認められれば、法律行為の内容となり、取消しの対象になります(最判平元.9.14)。
Q. 「対抗できない」とはどういう意味ですか?
A. 「主張できない」「勝てない」という意味です。「詐欺取消しは善意無過失の第三者に対抗できない」というのは、Aさんが騙されて土地を売った後、事情を知らないCさんがその土地を買っていたら、AさんはCさんから土地を取り戻せない、ということです。
Q. 到達主義の例外はありますか?
A. 以前は「隔地者間の契約承諾」などが発信主義でしたが、改正民法により原則すべて到達主義に統一されました。ただし、制限行為能力者の催告に対する確答(20条)など、一部の規定には発信主義が残っています。

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