契約を結んでも、それが「公序良俗」に反していたり、未成年者が勝手に行ったりした場合は、効力が否定されます。
このとき、「最初から無効(なかったこと)」になるのか、「一応有効だが後から取り消せる」のか、その区別は非常に重要です。
さらに、取り消せる行為をあえて有効にする「追認」や、特定の行動をとると自動的に追認したとみなされる「法定追認」は、記述式問題でも狙われやすいポイントです。
今回は、無効と取消しの違い、公序良俗違反の判例、そして法定追認の要件について、整理して解説します。
1. 公序良俗(90条)と無効
「公の秩序又は善良の風俗」に反する法律行為は無効です。
例えば、愛人契約や賭博契約などは無効となります。これは当事者が合意していても、社会的に許されないため、最初から効力を認めないということです。
公序良俗違反の重要判例
| 判例名 | 事案 | 結論 |
|---|---|---|
| 男女別定年制事件 (最判昭56.3.24) |
女子の定年を男子より低く設定した就業規則。 | 合理的理由がなく、公序良俗に反し無効。 |
| 毒入り食品販売 (最判昭39.1.23) |
有毒物質を含む食品であることを知りながら製造販売した。 | 食品衛生法違反であり、公序良俗に反し無効。 |
| 譲り受けた債権の訴訟 (最決平21.8.12) |
弁護士が訴訟を行うために債権を譲り受けた(弁護士法違反の疑い)。 | 直ちに私法上の効力が否定されるわけではなく、不当な利益追求などの事情がない限り有効。 |
法律に違反する契約がすべて「公序良俗違反で無効」になるわけではありません。単なる行政上の取締法規(例:営業許可がない)に違反しただけでは、私法上の契約自体は有効とされることが多いです。
2. 「無効」と「取消し」の違い
両者は「契約の効力がなくなる」という点は同じですが、プロセスと効果に決定的な違いがあります。
| 項目 | 無効 | 取消し |
|---|---|---|
| 効力 | 最初から効力なし | 一応有効 → 取り消すと「初めから無効」とみなされる |
| 主張できる人 | 誰でも主張可能(原則) | 取消権者のみ(制限行為能力者、瑕疵ある意思表示をした者など) |
| 時間の経過 | いつまでも無効 | 期間制限(時効)あり (追認できる時から5年、行為の時から20年) |
| 追認の効果 | 追認しても有効にならない (新たな行為とみなされる) |
追認すると確定的に有効になる |
原状回復義務(121条の2)
無効・取消しとなった場合、受け取った物は返さなければなりません(原状回復)。
ただし、以下の者は「現に利益を受けている限度(現存利益)」を返還すれば足ります。
- 意思無能力者
- 制限行為能力者(未成年者など)
- 無償行為(贈与など)の善意の受領者(121条の2第2項)
「生活費に使った」場合は、本来の支出を免れたので利益は現存しているとされ、返還が必要です。「ギャンブルで浪費した」場合は、利益は残っていないとされ、返還不要となります。
3. 追認(ついにん)
追認とは、「取り消せる行為だけど、やっぱり有効と認めます」という意思表示です。追認すると、以後取り消すことができなくなり、契約は確定的に有効になります。
追認の要件(124条)
追認は、「取消しの原因となっていた状況が消滅した後」にしなければ効力がありません。
- 未成年者 → 成年に達した後
- 成年被後見人 → 能力を回復した後
- 詐欺・強迫 → 騙されたことに気づいた後、脅迫を脱した後
※ただし、法定代理人や保佐人・補助人は、本人が制限能力の状態であっても、いつでも追認できます。
4. 法定追認(125条)
「口では追認すると言っていないけれど、そんな行動をとったなら追認したのと同じでしょ」とみなされる制度です。
追認できる状態になった後に、以下の行為をすると、法律上当然に追認したものとみなされます。
法定追認事由(6つ)
- 全部又は一部の履行(代金を払った、品物を渡した)
- 履行の請求(「金払え」と言った) ※取消権者が請求した場合のみ
- 更改(契約内容を作り変えた)
- 担保の供与(担保を差し出した、受け取った)
- 権利の譲渡(権利を他人に売った) ※取消権者が譲渡した場合のみ
- 強制執行(差押えをした)
「履行の請求」と「権利の譲渡」は、取消権者が行った場合のみ法定追認となります。相手方から請求されただけでは追認になりません。
一方、「履行」は、取消権者が払った場合だけでなく、相手方からの履行を受領した場合も法定追認になります。
5. 実戦問題にチャレンジ
1. 法律行為が無効である場合、当事者がその無効であることを知って追認したときは、その行為は当初に遡って有効なものとみなされる。
2. 制限行為能力者が契約を取り消した場合、その行為によって受け取った給付については、現に利益を受けている限度において返還すれば足りるが、この保護は意思無能力者には適用されない。
3. 詐欺による取消権は、追認をすることができる時から5年間行使しないときは時効によって消滅するが、行為の時から20年を経過した場合も同様に消滅する。
4. 公序良俗に反する法律行為は無効であるが、当事者が追認した場合には、信義則上、有効な行為として扱われる。
5. 取り消すことができる行為の追認は、取消しの原因となっていた状況が消滅する前であっても、法定代理人または制限行為能力者本人が行えば有効である。
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正解 3
解説:
1. 誤り。無効な行為の追認は「新たな行為をしたもの」とみなされ、将来に向かって有効になるだけで、遡及効はありません(119条)。
2. 誤り。現存利益返還の特則は、意思無能力者にも適用されます(121条の2第3項)。
3. 正しい。取消権の消滅時効(期間制限)の規定通りです(126条)。
4. 誤り。公序良俗違反による無効は絶対的であり、追認によっても有効にはなりません。
5. 誤り。本人が追認するには「状況が消滅した後」でなければなりません(法定代理人は前でも可)。
1. BがAに対して、代金の支払いを請求し、Aがこれに対して何も答えなかった場合。
2. AがBに対して、詐欺による損害賠償を請求した場合。
3. BがAに対して代金を持参し、Aがこれを受領した場合。
4. AがC(Bの債権者)による絵画の差押えに対して、異議を申し立てた場合。
5. Bが、Aに引き渡されるはずの絵画を第三者Dに転売(譲渡)した場合。
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正解 3
解説:
1. 該当しない。相手方からの「請求」は法定追認事由ではありません。
2. 該当しない(※)。損害賠償請求は、契約の効力を前提とする履行請求とは異なり、法定追認には当たらないとされるのが一般的解釈です。
3. 該当する。相手方の履行を「受領」することは、契約を認めたことになるため法定追認(全部又は一部の履行)に当たります。
4. 該当しない。強制執行(差押え)は、取消権者が申立てをした場合に限ります。
5. 該当しない。権利の譲渡は、取消権者が譲渡した場合に限ります。
6. まとめ
今回は、無効・取消しと追認について解説しました。
- 無効と取消し:取消しは「一応有効→遡及的無効」。現存利益返還の特則(制限能力者等)を忘れない。
- 追認:「原因消滅後」にする必要がある(法定代理人はいつでも可)。
- 法定追認:「請求」と「譲渡」は取消権者がやった時だけ。「履行」は受け取った時も含む。
特に法定追認は、誰が何をしたかを正確に読み取る必要があります。「相手からの請求=追認じゃない」「相手からの履行受領=追認」というひっかけパターンに注意してください。
よくある質問(FAQ)
- Q. 無効行為の追認で「新たな行為」とみなされるとはどういう意味ですか?
- A. 過去に遡って有効になるのではなく、追認したその時点から、新しい契約を結んだのと同じ扱いになるという意味です。
- Q. 制限行為能力者の取消しと、詐欺の取消しで、返還義務に違いはありますか?
- A. はい。制限行為能力者は常に「現存利益」のみの返還で済みますが、詐欺取消しの場合、悪意の詐欺師は全額返還+利息+損害賠償義務を負います。騙された被害者(善意)であれば現存利益の返還で済みます。
- Q. 未成年者が就職して稼いだ給料は、自由に処分できますか?
- A. 親権者が「処分を許した財産」として、目的に関わらず自由に使えるのが通常ですが、労働契約(アルバイト等)を結ぶこと自体には親権者の同意が必要です。
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