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講義11:【民法総則】時効制度の完全攻略|取得時効と消滅時効の要件・効果・更新

民法の世界では、「権利の上に眠る者は保護しない」という考え方があります。長期間放置された権利は消え(消滅時効)、逆に長期間続いた事実状態は権利として認められる(取得時効)のです。

しかし、時効が成立するためには「援用」が必要だったり、「更新(リセット)」されたり、さらに「善意無過失」が要件だったりと、覚えるべきルールが山積みです。

今回は、法改正で用語が大きく変わった「完成猶予と更新」の仕組みや、「取得時効と消滅時効」の要件について、体系的に解説します。

1. 時効制度の基礎知識

(1) 時効の効力(遡及効)

時効が完成すると、その効力は「起算日(最初の日)」にさかのぼります(144条)。

  • 取得時効:占有を開始した時から所有者だったことになる(他人の土地を使って得た利益=果実も自分のものになる)。
  • 消滅時効:最初から債務がなかったことになる(利息も払わなくてよくなる)。

(2) 時効の援用(えんよう)

時効期間が過ぎても、自動的に権利が変動するわけではありません。利益を受ける人が「時効を援用します(使います)」と意思表示して初めて確定します(145条)。

💡 誰が援用できる?

援用できるのは「当事者」(保証人、物上保証人、第三取得者を含む)に限られます。
逆に、一般債権者や後順位抵当権者は、他人の借金が消えても自分が直接得するわけではない(反射的利益しかない)ため、援用できません。

(3) 時効利益の放棄

時効の完成「前」に放棄することはできません(債権者に強要される恐れがあるため)。
完成「後」なら自由に放棄できますが、放棄の効果は相対的(その人だけ)です。主債務者が放棄しても、保証人は独自に時効を援用できます。

2. 時効の完成猶予と更新

法改正により、「中断・停止」という用語が「更新・完成猶予」に整理されました。

  • 完成猶予:とりあえず時効の完成をストップさせる(時計を一時停止)。事由がなくなればまた動き出す。
  • 更新:時効期間をリセットし、ゼロから再スタートさせる(時計を巻き戻す)。

主な事由と効果

事由 完成猶予 更新(リセット)
裁判上の請求 裁判が終わるまで 判決確定時
強制執行 手続終了まで 手続終了時
承認(債務を認める) 承認した時(即リセット)
催告(内容証明など) 6ヶ月間 なし(※)

※催告だけではリセットされません。6ヶ月以内に裁判などを起こす必要があります。

💡 協議を行う旨の合意(新設)

当事者が「話し合いで解決しよう」と書面で合意した場合、最大で5年間、時効の完成が猶予されます(リセットはされません)。

3. 取得時効(162条)

他人の物でも、長く占有していれば自分の物にできる制度です。

(1) 要件の比較

種類 占有期間 開始時の主観要件
長期取得時効 20年間 悪意・有過失でもOK
短期取得時効 10年間 善意・無過失が必要

※共通要件:「所有の意思(自主占有)」をもって、「平穏・公然」に占有すること。

⚠️ 賃借人は時効取得できない

アパートを借りて住んでいる人(賃借人)は、「借りている」という意識(他主占有)であり、「自分のものにする意思(所有の意思)」がないため、何年住んでも所有権を時効取得できません。

(2) 占有の承継(187条)

前の占有者の期間を合算できます。ただし、合算する場合は「前の人の瑕疵(悪意など)」も引き継ぎます
(例)悪意のA(8年)→善意のB(2年):
B独自の占有なら「善意」だが期間不足。合算すると「10年」になるがAの「悪意」を引き継ぐため、20年経つまで時効完成しない。

4. 消滅時効(166条)

権利を行使しない状態が続くと、権利が消滅します。

(1) 債権の消滅時効期間(改正法)

原則として、以下のいずれか早い方が来ると時効消滅します。

  1. 権利を行使できることを知った時から5年間(主観的起算点)
  2. 権利を行使できる時から10年間(客観的起算点)

(2) 特殊な時効期間

  • 不法行為による損害賠償(724条):
    知った時から3年、不法行為の時から20年。
    生命・身体の侵害の場合は、知った時から5年、行為の時から20年。
  • 判決で確定した権利(169条):
    もともとの時効期間に関わらず、判決確定から10年に伸長されます。

5. 実戦問題にチャレンジ

問1:時効の援用権者
時効の援用に関する次の記述のうち、判例に照らして時効を援用することができる者はどれか。

1. 抵当権が設定されている不動産の第三取得者は、被担保債権の消滅時効を援用することができる。
2. 詐害行為取消権を行使された受益者は、詐害行為の被保全債権の消滅時効を援用することはできない。
3. 後順位抵当権者は、先順位抵当権の被担保債権が消滅すれば順位が上昇する利益を有するが、先順位抵当権の被担保債権の消滅時効を援用することはできない。
4. 債務者の一般債権者は、債務者の財産が増加することにより配当額が増える可能性があるとしても、他の債権者の債権の消滅時効を援用することはできない。
5. 物上保証人は、被担保債権の消滅時効を援用することができる。
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正解 (複数正解肢あり) 1, 3, 4, 5

解説:

※本問は「援用できる者」を選ぶ問題ですが、選択肢の構成上、正解が複数あります。学習用としてご確認ください。

1. できる。抵当不動産の第三取得者は、債務が消えれば抵当権も消えるという直接の利益を受けるため援用権者です。

2. 誤り(援用できる)。詐害行為の受益者も、債権者の債権が消滅すれば取消しを免れる地位にあるため、援用権者とされています。

3. できない(正しい記述)。後順位抵当権者の利益は「反射的利益」にすぎず、援用権者には当たらないというのが判例です。

4. できない(正しい記述)。一般債権者も同様に反射的利益しか持たないため、他人の債権の時効援用はできません。

5. できる。物上保証人は、自分の不動産に担保をつけているため、被担保債権の消滅により直接利益を受けます。

問2:取得時効
A所有の土地をBが占有している場合の取得時効に関する記述として、民法の規定および判例に照らして妥当なものはどれか。

1. Bが賃借人として占有を開始した場合、長期間平穏かつ公然に占有を継続し、かつ固定資産税を負担していたとしても、所有権の取得時効は成立しない。
2. Bが所有の意思をもって平穏かつ公然に占有を開始したが、占有開始時に善意ではあるが過失があった場合、20年の経過を待たなければ時効取得できない。
3. Bが10年間占有した後、Cに占有を移転し、Cがさらに5年間占有した場合、Cは自己の占有期間のみを主張することはできるが、Bの占有期間を併せて主張することはできない。
4. Bが取得時効を援用して所有権を取得した場合、その効果は時効期間の満了時に生じ、占有開始時に遡ることはない。
5. 自己の所有物については、いかなる場合であっても取得時効は成立しない。
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正解 1

解説:

1. 正しい。賃借人としての占有は「他主占有」であり、所有の意思がないため、原則として取得時効は成立しません(他主占有事情)。

2. 誤り。文脈からは「正しい」ように見えますが、設問は「妥当なもの」を選ぶ形式です。選択肢1が明確に正しいため、比較検討します。※解説:記述内容は法的に正しいです(有過失なら20年必要)。

3. 誤り。占有の承継人は、前の占有者の期間を合算して主張することができます(187条)。

4. 誤り。時効の効力は「起算日(占有開始時)」に遡ります(144条)。

5. 誤り。自己の所有物であっても、登記がない場合などに取得時効を主張して立証手段とすることは認められています(最判昭42.7.21)。

問3:時効の更新と完成猶予
時効の更新および完成猶予に関する記述として、民法の規定に照らして誤っているものはどれか。

1. 裁判上の請求をした場合、その事由が終了するまでの間は時効の完成が猶予され、確定判決によって権利が確定したときは、時効が更新される。
2. 債務者が債務を承認した場合、時効は更新され、その時から新たに進行を始めるが、この承認には被保佐人が保佐人の同意を得ずに行うことも含まれる。
3. 催告があったときは、その時から6ヶ月を経過するまでの間は時効の完成が猶予されるが、催告によって時効が更新されることはない。
4. 催告によって時効の完成が猶予されている間に、再度の催告を行っても、時効の完成猶予の効力は生じない。
5. 権利についての協議を行う旨の合意が書面でされたときは、その合意があった時から1年を経過する時(当事者が合意で期間を定めたときはその期間を経過する時)まで時効の完成が猶予される。
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正解 2

解説:

1. 正しい。裁判上の請求は完成猶予事由であり、確定すれば更新事由となります。

2. 誤り。承認は管理能力(処分能力までは不要)が必要とされますが、被保佐人が単独で行った承認は取り消すことができるため、確定的な更新の効力は生じません(相手方の催告に対し、保佐人の同意を得ずに承認した場合は無効等の議論あり。ただし制限行為能力者の単独行為としての取消可能性を考慮すると「誤り」とするのが妥当)。※承認には行為能力は不要ですが、管理能力は必要です。

3. 正しい。催告は猶予効のみを持ち、更新効はありません。

4. 正しい。催告の延命(再催告による再猶予)は認められません(150条2項)。

5. 正しい。協議を行う旨の合意による完成猶予(新設規定)の内容です。

5. まとめ

今回は、時効制度について解説しました。

  • 取得時効:20年(悪意)または10年(善意無過失)。自主占有が必須。
  • 消滅時効:知った時から5年、行使できる時から10年。
  • 更新と猶予:承認は即更新。裁判は終了まで猶予→確定で更新。催告は6ヶ月猶予のみ。

特に「時効の援用権者」の範囲(後順位抵当権者はダメ)や、「占有の承継」(前の人の悪意も引き継ぐ)は、事例問題でよく出題されます。図を書いて関係性を整理する練習をしておきましょう。

よくある質問(FAQ)

Q. 「援用」しないとどうなりますか?
A. 裁判所は時効が完成していても、当事者が援用しない限り、時効を認める判決を出せません(弁論主義)。つまり、借金を何十年放置していても、裁判で「時効です」と言わなければ、支払い命令が出てしまいます。
Q. 悪意の占有者から買った人は、10年で時効取得できますか?
A. 自分の占有開始時に「善意無過失」であれば、前の人の悪意を引き継がずに、自分だけの占有期間(10年)で短期取得時効を主張できます(占有の分離)。ただし、期間が足りない場合は、前の人の期間(+悪意)を足して20年を主張することになります。
Q. 借金の一部を支払うとどうなりますか?
A. 一部弁済は「債務の承認」に当たるため、時効が更新(リセット)されます。時効期間が経過した後であっても、一部弁済すると「時効利益の放棄」とみなされたり、信義則上援用できなくなったりします。

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