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講義12:【民法物権】物権とは?物権法定主義と物権的請求権を5分で理解

民法の学習は「総則」から「物権」へと進みます。ここからは、土地や建物といった具体的な「物」をめぐる権利関係を学びます。

「自分の土地に見知らぬ人が勝手に建物を建てた」「隣の家の木が倒れてきそうだ」
こうしたトラブルを解決するための武器となるのが「物権的請求権」です。

今回は、物権の基礎知識(債権との違い・種類の分類)と、試験で頻出の「物権的請求権の相手方は誰か?」という論点について、判例を整理して解説します。

1. 物権と債権の違い

民法の財産権は、大きく「物権」と「債権」に分かれます。この2つの違いを理解することが、民法学習の第一歩です。

項目 物権(Real Rights) 債権(Claims)
定義 物を直接・排他的に支配する権利 特定の人に特定の行為を請求する権利
対象 (土地、建物など) (債務者)
主張先 誰に対しても主張できる
(絶対性)
特定の相手方にしか主張できない
(相対性)
ルール 物権法定主義
(法律で決まったものしか作れない)
契約自由の原則
(当事者の合意で自由に作れる)
💡 一物一権主義

一つの物には一つの物権しか成立しないという原則です。例えば、一つの土地の一部だけに所有権を認めることは原則できません(分筆登記が必要です)。
ただし、例外として「一筆の土地の一部」でも時効取得が認められる場合があります(判例)。

2. 物権の種類(民法上の10種類)

民法が定めている物権は、大きく「本権」と「占有権」に分かれ、本権はさらに「所有権」と「制限物権」に分かれます。

物権の体系図

  • 占有権:物を事実上支配している状態そのものを守る権利(泥棒にも認められる)。
  • 本権:占有を法律上正当化する権利。
    • 所有権:全面的支配権(使用・収益・処分)。
    • 制限物権:一部だけの支配権。
      • 用益物権(使う権利):地上権、永小作権、地役権、入会権。
      • 担保物権(価値を把握する権利):留置権、先取特権、質権、抵当権。

3. 物権的請求権(重要論点)

「私の土地から出ていけ!」「私の自転車を返せ!」と言える権利のことです。民法に明文の規定はありませんが、物権の効力として当然に認められています。

(1) 3つの種類

  1. 物権的返還請求権:占有を奪われた場合に、返還を求める権利。
  2. 物権的妨害排除請求権:占有以外の方法で妨害されている場合に、除去を求める権利(不法投棄されたゴミの撤去など)。
  3. 物権的妨害予防請求権:妨害される「おそれ」がある場合に、予防措置を求める権利(倒れそうな木の補強など)。
💡 相手方の故意・過失は不要

不法行為による損害賠償請求とは異なり、物権的請求権を行使するのに、相手方の故意や過失は必要ありません。台風で隣の家の木が倒れてきた場合(不可抗力)でも、木の所有者に「撤去してくれ(妨害排除)」と言えます。

(2) 請求の相手方は誰か?(判例)

原則として、「現に妨害状態を生じさせている者(現在の占有者など)」が相手方となります。しかし、誰を被告にすべきか迷うケース(建物収去土地明渡請求)について、重要な判例があります。

ケース 相手方(被告)となる者 理由
建物所有権が移転した場合 現在の建物所有者(譲受人) 土地を不法占拠しているのは、建物を現に所有している者だから(最判昭35.6.17)。
登記名義人が既に建物を譲渡していた場合 登記名義人(譲渡人)
※自らの意思で登記を残していた場合に限る
登記名義人は建物の所有権を主張できる外観を持っているため、土地所有者はその名義人に対して処分権限(収去)を及ぼせると考えるべきだから(最判平6.2.8)。
未登記建物を譲渡した場合 譲渡人(元の所有者)は相手方とならない 未登記建物を譲渡した者は、確定的に所有権を失い、処分権限(壊す権限)を持たないため、請求の相手方にはなれません(最判平6.2.8)。
💡 「登記名義人=被告」のロジック

Aさんの土地にBさんが勝手に建物を建てて登記し、その後Cさんに建物を売りましたが、登記はBのままです。
この場合、Aさんは、現所有者Cだけでなく、登記名義人Bに対しても「建物をどかせ」と言えます。
なぜなら、Bは「自分の意思で登記を残している」以上、責任を負うべきだからです(意思に基づかない場合は別です)。


4. 実戦問題にチャレンジ

問1:物権の種類と性質
物権に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らして妥当なものはどれか。

1. 物権は、法律で定められたものに限られ、当事者が合意によって新しい種類の物権を創設することはできないが、慣習法上の物権についてはこの限りではない。
2. 一物一権主義の原則により、一つの物の一部に物権が成立することは認められないため、一筆の土地の一部を時効取得することはできない。
3. 占有権は、物を事実上支配する状態を保護する権利であり、盗人が盗品を所持している場合であっても、その盗人には占有権が認められる。
4. 抵当権は、債務者または第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に優先して弁済を受ける権利であり、用益物権の一種である。
5. 物権的請求権を行使するためには、相手方の故意または過失が必要であり、不可抗力によって他人の土地に物が置かれたような場合には、返還請求をすることはできない。
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正解 3

解説:

1. 誤り。物権法定主義(175条)により、慣習法上の物権(温泉権など)も原則として認められません。

2. 誤り。判例は、一筆の土地の一部についても時効取得を認めています。

3. 正しい。占有権は、本権(正当な権利)の有無を問わず、事実上の支配状態に対して認められます。

4. 誤り。抵当権は「担保物権」です(用益物権ではありません)。

5. 誤り。物権的請求権は、権利の円満な状態を回復するための権利であり、相手方の故意・過失は要件ではありません。

問2:物権的請求権の相手方
A所有の甲土地上に、Bが無権原で乙建物を築造し、所有権保存登記を行った。その後、Bは乙建物をCに売却し引き渡したが、所有権移転登記はまだ行われていない。この場合におけるAの物権的請求権に関する記述として、判例の趣旨に照らして妥当なものはどれか。

1. Aは、現在の建物所有者であるCに対してのみ、建物収去土地明渡請求をすることができ、登記名義人であるBに対しては請求することができない。
2. Aは、登記名義人であるBに対して建物収去土地明渡請求をすることができるが、Bが自らの意思に基づいて登記を残している場合に限られる。
3. Aは、Cに対して建物収去土地明渡請求をするためには、Cが乙建物の所有権移転登記を備えていることが必要である。
4. もしBが建物を未登記のままCに譲渡していた場合であっても、AはBに対して建物収去土地明渡請求をすることができる。
5. Aは、BとCのいずれに対しても建物収去土地明渡請求をすることができ、その選択はAの自由である。
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正解 2

解説:

1. 誤り。登記名義人Bに対しても請求可能です(2の解説参照)。

2. 正しい。他人の土地上の建物の所有権を取得した者が自らの意思に基づいて登記を経由した(残した)場合、その建物を譲渡しても登記名義を保有する限り、土地所有者からの収去請求を拒めないとするのが判例です。

3. 誤り。現在の実質的所有者であるCには、登記がなくても請求できます(Cは「自分の家じゃないから壊せない」とは言えません)。

4. 誤り。未登記建物を譲渡した者は、所有権を喪失し、処分権限も失うため、請求の相手方にはなりません。

5. 誤り。原則は現在の所有者Cが相手方ですが、例外的に登記名義人Bも相手方になり得るという関係であり、無条件にどちらでも選べるわけではありません(特にBが意思に基づかず登記されている場合など)。

問3:物権的請求権の内容
物権的請求権の内容に関する記述として、妥当でないものはどれか。

1. 所有者は、その所有する動産が第三者に奪われた場合、占有回収の訴えだけでなく、所有権に基づく返還請求権を行使することもできる。
2. 抵当権者は、抵当不動産が不法占拠された場合、抵当権に基づく妨害排除請求権を行使して、不法占拠者に退去を求めることができる。
3. 賃借人は、賃借権自体は債権であるが、対抗要件を備えている場合には、賃借権に基づいて第三者に対する妨害排除請求権を行使することができる。
4. 所有権に基づく返還請求権を行使する場合、相手方が占有する権原(正当な権利)を有していることを主張立証したときは、請求は棄却される。
5. 物権的請求権は、侵害者の故意・過失を要件としないため、天災により隣地から土砂が流入した場合、土地所有者は隣地所有者に対し、費用を請求して土砂を撤去させることができる。
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正解 5

解説:

1. 妥当。占有訴権と本権の訴えは併存します。

2. 妥当。抵当権も物権であり、占有を目的としませんが、侵害状態(不法占拠など)を排除するために物権的請求権が認められます。

3. 妥当。不動産賃借権は債権ですが、対抗要件(登記や引渡し)があれば物権的に保護され、妨害排除請求が可能です。

4. 妥当。相手方に「占有する権利(賃借権など)」があれば、返還請求は認められません。

5. 妥当でない。物権的請求権で「行為(撤去)」を求めることはできますが、その「費用」を誰が負担するかは別問題です。不可抗力による場合、相手方に費用負担義務まで負わせることはできないとする見解(行為請求権説の修正など)が一般的です。

5. まとめ

今回は、物権の全体像と物権的請求権について解説しました。

  • 物権と債権:「誰にでも言える(物権)」か「特定の人にしか言えない(債権)」か。
  • 物権的請求権:相手方の故意・過失は不要。
  • 請求の相手方:原則は「現在の所有者」。例外として「意思に基づく登記名義人」もOK。

特に「登記名義人を相手にできるか?」という論点は、記述式問題で「誰を被告として訴えるべきか」と問われる可能性があります。「自らの意思で登記を残した」というフレーズとともに覚えておきましょう。

よくある質問(FAQ)

Q. 占有権と所有権の違いがいまいち分かりません。
A. 「持っている事実(占有権)」と「持つ権利があるか(所有権)」の違いです。泥棒は時計を「持っている」ので占有権がありますが、「持つ権利」はないので所有権はありません。逆に、盗まれた被害者は、手元にないので占有権はありませんが、所有権は持っています。
Q. 物権的請求権は条文のどこにありますか?
A. 実は、民法に「物権的請求権」という名前の条文はありません。しかし、所有権(206条)などの性質から当然に認められる権利として、判例・実務で確立しています(占有訴権については条文があります)。
Q. 未登記建物の譲渡人に請求できないのはなぜですか?
A. 未登記の建物は、引き渡しによって所有権が完全移転します。譲渡人はもはや所有者ではなく、登記名義も残っていない(未登記だから)ため、法的に建物を壊す権限(処分権限)を一切持っていないからです。権限のない人に「壊せ」と命じる判決は出せません。

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