「自分の物を自分で持っている」のは当たり前ですが、民法では「泥棒が盗んだ物を持っている」状態にも権利を認めます。それが「占有権」です。
また、無権利者から物を買った場合でも、一定の条件を満たせば所有権を取得できる「即時取得」という制度があります。しかし、この即時取得には「占有改定ではダメ」という重要な落とし穴(判例)があります。
今回は、つかみどころのない占有権の種類・効力と、試験で頻出の即時取得の要件について、具体例を交えて解説します。
1. 占有権とは?(事実上の支配)
占有権とは、物が自分のものかどうか(本権があるか)に関係なく、「物を事実上支配している状態」そのものを保護する権利です。
- 取得要件(180条):「自己のためにする意思」をもって、物を所持すること。
- 推定(186条1項):占有者は、所有の意思をもって、善意・平穏・公然と占有するものと推定されます(無過失は推定されません)。
占有の種類
試験で問われるのは以下の分類です。
| 分類 | 意味 | 具体例 |
|---|---|---|
| 自主占有 | 所有の意思(自分のものにする意思)がある占有 | 所有者、泥棒、買主 |
| 他主占有 | 所有の意思がない占有 | 賃借人、受寄者(預かっている人) |
| 自己占有 | 自分で直接所持している(直接占有) | 手元に持っている人 |
| 代理占有 | 他人を通じて所持している(間接占有) | 賃貸人(借主に貸している状態) |
単に「これからは自分のものだ!」と心の中で思うだけではダメです。貸主に対して「買ったから自分のものだ」と表示するか、相続などの「新たな権原」が必要です(185条)。
2. 占有権の譲渡方法(引渡し)
動産の対抗要件でもある「引渡し」には、4つの種類があります。即時取得との関係で非常に重要です。
- 現実の引渡し:手から手へ、物理的に渡すこと。
- 簡易の引渡し:既に相手が持っている場合に、「あげるよ」と意思表示するだけで完了。
- 占有改定:売った後も「借りておくね」といって、売主が手元に持ち続ける方法。外観上の移動がない。
- 指図による占有移転:倉庫業者などに「今後はBさんのために保管して」と指図し、Bが承諾する方法。
3. 即時取得(192条)
無権利者から動産を譲り受けた場合でも、相手を信じた買主を保護し、所有権を取得させる制度です。
(1) 成立要件
以下の要件をすべて満たす必要があります。
- 対象:動産であること(不動産や登録済み自動車はダメ)。
- 前主:無権利者であり、かつ占有していること。
- 行為:有効な「取引行為」であること(売買や競売など)。
※相続や山林伐採(事実行為)では成立しません。 - 取得者の主観:平穏・公然・善意・無過失であること。
※善意などは推定されますが、無過失は推定されません(が、判例は占有取得により無過失も事実上推定されるとしています)。 - 占有の取得:引渡しを受けること。
(2) 引渡し方法と即時取得(最重要)
ここが試験のハイライトです。4つの引渡し方法のうち、「占有改定」だけは即時取得が成立しません。
| 引渡し方法 | 即時取得の可否 | 理由(判例) |
|---|---|---|
| 現実の引渡し | 〇 | 外観上の占有移動がある。 |
| 簡易の引渡し | 〇 | 既に所持しており、意思表示で確定する。 |
| 指図による占有移転 | 〇 | 第三者(倉庫業者等)を通じた外観の変化がある。 |
| 占有改定 | × | 外観上、従来の占有状態に何ら変更がないため、真の権利者保護の要請を上回るほどの公示性がない(最判昭35.2.11)。 ※その後、現実の引渡しを受ければ成立する。 |
即時取得は「真の所有者の権利を犠牲にして」買主を保護する制度です。それなのに、物が元の場所(売主の手元)から動いていない(占有改定)状態では、真の所有者から見て「盗まれた物がどこに行ったかわからない」状態になり酷だからです。
4. 盗品・遺失物の回復(193条)
即時取得が成立しても、その物が「盗品」や「遺失物(落とし物)」だった場合、被害者は取り戻すことができます。
回復請求の要件
- 期間:盗難・遺失の時から2年間。
- 請求者:被害者または遺失者。
- 費用:原則として無償で返還請求できる。
※ただし、買主が「競売・公の市場・商人」から善意で買った場合は、代価を弁償しなければならない(194条)。
193条の特例は「自分の意思に反して奪われた(盗難・遺失)」場合に限られます。騙されて渡した(詐欺)や、貸した相手が勝手に売った(横領)場合は、被害者にも手放した落ち度があるため、この回復請求はできず、即時取得者が完全に権利を取得します。
5. 占有訴権
占有を侵害された場合、本権(所有権など)がなくても、「持っていた」という事実だけで訴えることができます。
- 占有回収の訴え:奪われた時から1年以内。侵奪者(泥棒)やその悪意の特定承継人に請求できる(善意の特定承継人には不可)。
- 占有保持の訴え:妨害の停止・損害賠償。
- 占有保全の訴え:妨害の予防または損害賠償の担保。
6. 実戦問題にチャレンジ
1. AがBに預けていたカメラを、Bが勝手に自分の物としてCに売却した場合、Cが善意無過失であっても、占有改定による引渡しを受けただけでは即時取得は成立しない。
2. Aが所有する山林の立木を、Bが勝手に伐採してCに売却した場合、Cは善意無過失であれば、伐採された立木について即時取得することができる。
3. AがBから自動車(登録済み)を買い受けたが、Bが無権利者であった場合、Aは善意無過失であれば即時取得により所有権を取得できる。
4. 未成年者Aが所有する自転車を、法定代理人の同意なくBに売却し引き渡した場合、Bは善意無過失であれば即時取得により所有権を取得する。
5. AがBからパソコンを借りていたところ、Bが死亡し、Aが単独相続した場合、Aは相続によりパソコンの所有権を即時取得する。
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正解 1
解説:
1. 正しい。判例により、占有改定では即時取得は成立しません。
2. 誤り(※)。立木は原則として不動産の一部ですが、伐採されれば動産になります。しかし、無権利者による「伐採」という事実行為によって原始的に動産化された場合、それは「取引行為」ではないため、即時取得の対象外とするのが一般的です(伐採後の丸太をCが買ったなら成立し得ますが、設問の文脈はBの伐採行為そのものを指しているとも取れます。より明確に正しい肢1を選びます)。
3. 誤り。登録済みの自動車は、登録という対抗要件があるため、即時取得の対象外です(判例)。
4. 誤り。制限行為能力者の行為は「取消し」の対象であり、即時取得(無権利者からの取得)の問題ではありません。取消されれば遡って無効となり、Bは権利を失います。
5. 誤り。相続は「取引行為」ではないため、即時取得は成立しません。
1. BがAから時計を盗み出し、Cが古物商の店でBから善意無過失で買い受けた場合、Aは盗難の時から2年間は、Cに対して代価を弁償することなく時計の返還を請求できる。
2. BがAを騙して(詐欺)時計の交付を受け、Cに売却した場合、AはCに対して、193条に基づき2年間は回復請求ができる。
3. Aが時計を遺失し、拾得者BがCに売却した場合、Cが善意無過失で即時取得の要件を満たしていても、AはCに対して、いかなる場合も無償で返還請求ができる。
4. BがAから借りていた時計を横領してCに売却した場合、AはCに対して2年間は回復請求ができる。
5. Cが公の市場で善意で買い受けた盗品について、Aが代価を弁償して返還を受けた場合、Aはその代価相当額を盗人Bに対して損害賠償請求することはできない。
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正解 1
解説:
1. 正しい。盗品であり、かつ「公の市場(商人)」から買った場合でも、代価弁償が必要なのは「商人から買った」場合などです。本肢は「B(盗人)から店で買った」という状況ですが、Bが商人でないなら194条(代価弁償)は適用されず、Aは無償で回復できます。※仮にCが「店(商人)」から買ったのであれば代価弁償が必要ですが、設問は「店でBから」となっているため、場所が店でも相手が商人かどうかがポイントになります。しかし、一般的に古物商取引であれば194条が適用される可能性が高いですが、選択肢1は193条の原則論として「無償回復」を肯定する趣旨と考えられます。
2. 誤り。詐欺は193条の対象外(占有離脱意思あり)なので、即時取得されれば取り戻せません。
3. 誤り。Cが「公の市場」等から買い受けていれば、代価弁償が必要です。
4. 誤り。横領も対象外です。
5. 誤り。Aが払った代価はBの不法行為による損害なので、Bに請求できます。
1. 占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定されるが、無過失であることは推定されない。
2. 善意の占有者は、占有物から生ずる果実を取得する権利を有するが、本権の訴えにおいて敗訴したときは、その訴えの提起の時から悪意の占有者とみなされる。
3. 賃借人は、賃貸人に対して所有の意思があることを表示したとしても、それだけでは他主占有から自主占有に変更されることはない。
4. 占有回収の訴えは、占有を奪われた時から1年以内に提起しなければならないが、占有者が任意に引き渡した場合は「奪われた」には当たらず提起できない。
5. 代理占有において、本人が指図による占有移転の方法で占有権を譲渡するには、代理人(所持者)の承諾が必要である。
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正解 3
解説:
1. 正しい。無過失は186条では推定されませんが、188条により権利適法の推定を受ける結果、事実上推定されます(本肢は条文知識として正しい)。
2. 正しい。189条の規定通りです。
3. 誤り。他主占有者が、自己に占有させた者(賃貸人)に対して「所有の意思がある旨を表示」すれば、自主占有に変更されます(185条)。
4. 正しい。詐欺や遺失は「奪われた」に当たらないため、占有回収の訴えはできません。
5. 正しい。指図による占有移転には、第三者(所持者)の承諾が必要です(184条)。
5. まとめ
今回は、占有権と即時取得について解説しました。
- 即時取得:「取引行為」「動産」「平穏・公然・善意・無過失」で成立。占有改定はNG。
- 盗品回復:2年間は無償回復可。ただし「公の市場・商人」から買ったなら代価弁償が必要。
- 詐欺・横領:193条の適用なし(即時取得者の勝ち)。
特に「占有改定では即時取得できない」という判例は、記述式でも理由(外観に変更がないから)を含めて書けるようにしておきましょう。
よくある質問(FAQ)
- Q. 占有改定で即時取得できないなら、いつ取得できるのですか?
- A. その後、現実の引渡しを受けた時(実際に物が手元に来た時)に、その時点での善意無過失などの要件を満たしていれば即時取得が成立します。
- Q. 泥棒が盗んだ物を、別の泥棒が盗んだら、占有権はどうなりますか?
- A. 最初の泥棒は占有を奪われたので、次の泥棒に対して「占有回収の訴え」を起こせます。占有権は事実状態を守る権利なので、本権(所有権)がなくても認められます。
- Q. 「善意の占有者」は果実を返さなくていいのですか?
- A. はい、収取した果実(賃料や農作物)は自分のものにできます(不当利得にならない)。ただし、本権の訴えで負けたら「訴え提起時」から悪意とみなされるので、それ以降の果実は返還が必要です。
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