「隣の空き家がボロボロで倒れそうだけど、持ち主が誰かわからない」「持ち主はわかっているけど放置されていて危険だ」
こうした「所有者不明土地」や「管理不全土地」の問題を解決するため、2023年の民法改正で新しい管理制度が創設されました。
これらは従来の「不在者財産管理人」制度などとは異なり、特定の土地・建物だけをピンポイントで管理できる使い勝手の良い制度です。試験でも新設規定として狙われる可能性が高いため、しっかり押さえておきましょう。
今回は、新設された「所有者不明土地・建物管理命令」と「管理不全土地・建物管理命令」について、その要件と管理人の権限を中心に解説します。
1. 所有者不明土地・建物管理命令(264条の2〜)
所有者が誰かわからない、あるいは所在が不明な土地・建物を、裁判所が選任した管理人に管理させる制度です。
(1) 要件と対象
- 対象:所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地・建物(共有持分も含む)。
- 申立権者:利害関係人(隣地の所有者など)。
- 要件:調査を尽くしても不明であり、管理の必要があると裁判所が認めること。
(2) 管理人の権限と義務
選任された「所有者不明土地管理人」は、対象財産の管理・処分権を持ちますが、以下のルールがあります。
| 行為の種類 | 権限の内容 |
|---|---|
| 保存行為 | 単独でできる(許可不要)。 |
| 利用・改良行為 | 単独でできる(許可不要)。 ※性質を変えない範囲内に限る。 |
| 処分行為 (売却など) |
裁判所の許可が必要。 ※許可がない場合、善意の第三者に対抗できない。 |
管理命令が出ると、対象財産の管理処分権は管理人に専属します。つまり、後からひょっこり現れた所有者であっても、勝手に売却したり管理したりすることはできなくなります。
2. 管理不全土地・建物管理命令(264条の9〜)
こちらは、所有者が判明していても、管理が不適切で他人に迷惑をかけている場合に使える制度です。
(1) 要件と特徴
- 対象:所有者による管理が不適当であることによって、他人の権利・利益が侵害され(又はそのおそれがあり)、必要があると認められる土地・建物。
- 相違点:所有者が判明しているため、管理処分権は管理人に専属しません。所有者自身も並行して管理処分が可能です。
(2) 処分行為の要件(重要)
管理不全土地管理人が、土地を売却するなどの処分行為(保存・利用・改良の範囲を超える行為)をするには、以下の2つの要件が必要です。
- 裁判所の許可を得ること。
- 所有者の同意を得ること。
※所有者がわかっている以上、勝手に売られては困るため、本人の同意が必須とされています。
3. 共有・総有・合有の違い
最後に、共同所有の形態である「共有・総有・合有」の違いを整理します。
| 形態 | 特徴 | 具体例 |
|---|---|---|
| 共有 | 持分権があり、自由に処分(譲渡)でき、分割請求もできる。 | 通常の共同所有 |
| 合有 | 潜在的な持分はあるが、自由に処分できず、分割請求も原則できない。 | 組合財産 |
| 総有 | 持分権そのものがなく、処分も分割請求もできない。使用収益権のみある。 | 権利能力なき社団 (入会権、町内会資産など) |
4. 実戦問題にチャレンジ
1. 裁判所は、利害関係人の請求がなくても、職権で所有者不明土地管理命令を発令することができる。
2. 所有者不明土地管理人が選任された場合であっても、当該土地の所有者は、自らその土地を売却する権限を失わない。
3. 所有者不明土地管理人が、当該土地を売却するには、裁判所の許可を得なければならず、この許可を得ずにした売却は無効であるが、善意の第三者には対抗できない。
4. 所有者不明土地管理命令の効力は、対象とされた土地のみに及び、その土地上にある所有者不明の動産には及ばない。
5. 所有者不明土地管理人は、善良な管理者の注意をもってその権限を行使しなければならないが、土地の所有者に対して報告義務を負うことはない。
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正解 3
解説:
1. 誤り。利害関係人の請求が必要です。
2. 誤り。管理処分権は管理人に専属するため、所有者は処分権限を失います。
3. 正しい。処分行為(範囲を超える行為)には裁判所の許可が必要です。違反した行為は無権限行為として無効ですが、取引の安全のため善意の第三者は保護されます。
4. 誤り。土地にある動産(所有者のものに限る)にも効力が及びます(一体として管理するため)。
5. 誤り。善管注意義務を負い、所有者(現れた場合)への報告義務なども負います。
1. 管理不全土地管理命令は、所有者による管理が不適当である場合に発令されるが、所有者自身の管理権限を制限するものではないため、管理人の権限は所有者に専属しない。
2. 管理不全土地管理人が選任された場合、所有者は当該土地の処分をすることができなくなる。
3. 管理不全土地管理人が土地を売却する場合、裁判所の許可があれば足り、所有者の同意を得る必要はない。
4. 管理不全土地管理命令は、所有者の所在が不明な場合にも利用することができる制度である。
5. 管理不全土地管理人は、管理対象土地の保存行為をする場合であっても、常に裁判所の許可を得なければならない。
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正解 1
解説:
1. 正しい。所有者が特定されているため、管理権限は専属せず、所有者と並存します。
2. 誤り。所有者も処分可能です。
3. 誤り。処分行為には裁判所の許可に加え、所有者の同意が必須です。
4. 誤り。所在不明の場合は「所有者不明土地管理命令」を利用すべきです(本制度は所有者が判明しているが管理がズサンな場合を想定)。
5. 誤り。保存行為や利用・改良行為は、管理人の判断(単独)で行うことができます。
1. 権利能力なき社団の財産は、構成員全員の合有に属すると解されている。
2. 組合契約に基づく組合財産は、組合員全員の総有に属すると解されている。
3. 総有においては、各構成員に持分権が認められておらず、分割請求も認められない。
4. 合有においては、各構成員に潜在的な持分権が認められているため、いつでも自由に持分を処分することができる。
5. 入会権(いりあいけん)は、常に民法上の共有の性質を有するものとされ、総有の性質を有することはない。
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正解 3
解説:
1. 誤り。権利能力なき社団の財産は「総有」です。
2. 誤り。民法上の組合財産は「合有」です。
3. 正しい。総有の特徴です(持分なし、分割なし)。
4. 誤り。合有では潜在的持分はありますが、組合契約の拘束を受けるため、自由な処分や分割請求は制限されます。
5. 誤り。入会権には「共有の性質を有するもの」と「有しないもの(総有的なもの)」の2種類があります(263条、294条)。
5. まとめ
今回は、所有者不明土地等の管理制度と共同所有形態について解説しました。
- 所有者不明土地管理命令:管理人に権限専属。処分には裁判所許可。
- 管理不全土地管理命令:権限は専属しない。処分には許可+所有者の同意。
- 総有:権利能力なき社団。持分なし、分割不可。
新設された管理命令制度は、空き家問題対策の切り札として実務的にも重要です。「誰の同意が必要か」「権限は専属するか」という違いを表で比較して覚えておきましょう。
よくある質問(FAQ)
- Q. 「所有者不明」とは、登記簿を見てもわからない場合だけですか?
- A. 登記簿上の所有者が死亡して相続人が不明な場合や、調査を尽くしても現在の所有者を特定できない場合を含みます。単に「連絡がつかない」だけでは足りません。
- Q. 管理不全土地の管理人は、雑草刈りも裁判所の許可が必要ですか?
- A. いいえ。雑草刈りや修繕などの「保存行為」は、管理人の判断で単独で行うことができます。許可が必要なのは、売却などの「処分行為」や、性質を変えるような行為です。
- Q. 共有と合有の違いは何ですか?
- A. 「個人主義(共有)」か「団体拘束(合有)」かの違いです。共有は「いつでも分割して抜けられる」のが原則ですが、合有(組合)は「事業目的のために結束している」ため、勝手な持分処分や分割が制限されます。
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