抵当権の付いた不動産を買うのは勇気がいります。いつ競売にかけられるかわからないからです。しかし、民法にはこの不安を解消し、抵当権を消滅させる制度(代価弁済・抵当権消滅請求)が用意されています。
また、一つの借金のために複数の不動産を担保にする「共同抵当」では、どの不動産からいくら回収するかが問題になります。特に「異時配当における代位」の計算問題は、苦手とする受験生が多い難所です。
今回は、抵当権を消すための手続きと、共同抵当の複雑な配当ルールについて、図解イメージを用いながら解説します。
1. 抵当権を消滅させる制度
抵当不動産を買い受けた第三者(第三取得者)が、抵当権を消滅させるための2つの方法を比較します。
(1) 代価弁済(378条)
- 主導権:抵当権者(銀行など)からの請求。
- 仕組み:抵当権者が「その代価を払ってくれれば抵当権を消してやるよ」と請求し、第三取得者がそれに応じて支払う。
- 効果:支払った代価が被担保債権額に満たなくても、抵当権は消滅します(残債務は無担保債権として残ります)。
(2) 抵当権消滅請求(379条〜)
- 主導権:第三取得者(買主)からの請求。
- 仕組み:第三取得者が「この金額で抵当権を消してくれませんか?」と提示(書面通知)する。
- 抵当権者が承諾(または2ヶ月以内に競売申立てをしない):提示額を払えば消滅。
- 抵当権者が拒否:抵当権者は競売を申し立てなければなりません(もっと高く売れる自信がある場合)。
「主たる債務者」「保証人」および「これらの承継人」は、自ら借金を返すべき立場にあるため、抵当権消滅請求はできません。あくまで「第三取得者」のための制度です。
2. 共同抵当(きょうどうていとう)
同一の債権を担保するために、複数の不動産に抵当権を設定することです(例:土地と建物、A地とB地など)。
(1) 同時配当(392条1項)
全ての不動産を同時に競売にかけて配当する場合のルールです。
- ルール:各不動産の価額に応じて、被担保債権の負担を按分(割り振る)します。
- 計算例:借金3000万円。
- A地(3000万円)とB地(2000万円)で同時配当。
- 比率は 3:2。
- A地からの負担:3000万 × 3/5 = 1800万円。
- B地からの負担:3000万 × 2/5 = 1200万円。
(2) 異時配当(392条2項)
ある不動産だけ先に競売にかけて配当する場合のルールです。ここが試験の山場です。
- 抵当権者(1番抵当):競売代金から全額の弁済を受けられます(按分による制限を受けません)。
- 後順位抵当権者の保護(代位):
- 先に競売された不動産の後順位抵当権者は、割を食ってしまいます(同時配当なら残ったはずの枠がなくなる)。
- そこで、「同時配当であったならば1番抵当権者が他の不動産から受け取ったはずの金額」を限度として、他の不動産の1番抵当権に代位(代わりに行使)できます。
具体例で理解する異時配当の代位
借金3000万円。A地(3000万)、B地(2000万)。
A地にC(2番抵当権者)がいる場合。
- A地のみ競売:1番抵当権者が3000万円全額回収。Cの取り分はゼロ。
- もし同時配当なら:1番抵当権者はA地から1800万円、B地から1200万円回収していたはず。A地の残枠(1200万円)をCが取れたはず。
- 代位:Cは、1番抵当権者がB地から取るはずだった1200万円分について、B地の1番抵当権に代位(移動)して回収できる。
共同抵当物件の所有者が「債務者」と「物上保証人」で分かれている場合、上記の代位のルールは修正されます(判例)。
物上保証人所有の不動産が先に競売された場合、物上保証人は債務者所有の不動産へ代位できます(弁済者代位)。しかし、債務者所有の不動産が先に競売された場合、後順位抵当権者は物上保証人の不動産へ代位できません(物上保証人はあくまで他人の借金の担保を提供しただけだから)。
3. 実戦問題にチャレンジ
1. 抵当不動産の第三取得者は、抵当権消滅請求をするときは、登記をした全抵当権者に対し、書面または口頭で通知しなければならない。
2. 主たる債務者の相続人が抵当不動産を取得した場合、その相続人は第三取得者として抵当権消滅請求をすることができる。
3. 抵当権者が抵当権消滅請求の通知を受けた後、2ヶ月以内に競売の申立てをしなかったときは、抵当権消滅請求を承諾したものとみなされる。
4. 抵当権消滅請求を受けた抵当権者が競売を申し立てた場合において、その競売による売却代金が、第三取得者が提示した価額を下回ったときは、抵当権者はその差額について損害賠償責任を負う。
5. 抵当不動産の停止条件付第三取得者は、その停止条件の成否が未定である間であっても、抵当権消滅請求をすることができる。
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正解 3
解説:
1. 誤り。通知は書面で行う必要があります(379条)。
2. 誤り。債務者の承継人(相続人)は、債務者自身と同様に消滅請求できません(380条)。
3. 正しい。2ヶ月以内の競売申立てがない場合、みなし承諾となります(384条1号)。
4. 誤り。競売の結果、提示額より安く売れても、抵当権者が差額を賠償する責任はありません(ただし、自ら買い受ける義務が生じるケースは旧法にはありましたが、現行法では単に競売費用負担などの問題になります)。
5. 誤り。停止条件付取得者は、条件成就までは消滅請求できません(381条)。
Aが甲土地の抵当権のみを実行して3000万円の配当を受けた場合、Cは乙土地からいくら代位して配当を受けられるか。
1. 0万円
2. 1000万円
3. 1200万円
4. 1800万円
5. 2000万円
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正解 3
解説:
Step1 同時配当の按分額を計算する
甲土地の負担額:3000万 × {3000万 / (3000万+2000万)} = 1800万円。
乙土地の負担額:3000万 × {2000万 / (3000万+2000万)} = 1200万円。
Step2 代位額を決定する
Aが同時配当であれば乙土地から回収したはずの金額(1200万円)について、Cは代位できる。
よって、正解は1200万円。
1. 債権者が甲土地と乙土地を同時に競売した場合、392条1項の規定に従い、各土地の価額に応じて被担保債権の負担を按分する。
2. 債権者が債務者所有の甲土地を先に競売した場合、甲土地の後順位抵当権者は、物上保証人所有の乙土地に対して代位することができる。
3. 債権者が物上保証人所有の乙土地を先に競売した場合、物上保証人は、債務者所有の甲土地の抵当権に代位することができる。
4. 物上保証人所有の乙土地を先に競売した場合、乙土地の後順位抵当権者は、当然に甲土地の抵当権に代位することができるが、物上保証人が代位の付記登記をする前であっても対抗できる。
5. 甲土地と乙土地の両方が物上保証人の所有である場合(別々の物上保証人)、異時配当における後順位抵当権者の代位は認められない。
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正解 3
解説:
1. 誤り。債務者と物上保証人の場合は「按分せず」、まず債務者所有地(甲)から全額充当すべきとされています(物上保証人保護のため)。
2. 誤り。債務者所有地が先の場合、債務が消滅するだけであり、後順位者は物上保証人の土地に代位できません(物上保証人は債務者の債務を負担する筋合いはないから)。
3. 正しい。物上保証人が弁済したことになるため、弁済者代位(501条)により債務者所有地の抵当権を行使できます。
4. 誤り。物上保証人が弁済者代位により取得した抵当権に、さらに後順位者が物上代位する形になりますが、これに対抗要件(付記登記)が必要かについては議論があります(※解説補足:判例上、物上保証人の代位には付記登記は不要ですが、そこからさらに後順位者が代位する場合の要件は複雑です。ただし、選択肢3が基本判例として明確に正しいため、正解は3です)。
5. 誤り。複数の物上保証人の間では、通常の共同抵当と同様に392条が適用され、代位も認められます。
5. まとめ
今回は、抵当権の消滅と共同抵当について解説しました。
- 抵当権消滅請求:第三取得者が主導。債務者は不可。
- 共同抵当(同時配当):価額に応じて按分。
- 共同抵当(異時配当):後順位者は「同時配当なら取れたはずの額」を限度によその土地へ代位。
特に共同抵当の計算は、「債務者所有×債務者所有」のパターンと、「債務者所有×物上保証人所有」のパターンで処理が全く異なります。試験で出たらまずは「誰の土地か?」を確認しましょう。
よくある質問(FAQ)
- Q. 代価弁済と抵当権消滅請求、どちらがよく使われますか?
- A. 実務上は、どちらもあまり使われません(通常は売買代金で抵当権を抹消する「同時決済」が行われます)。しかし、試験では条文知識として頻出ですので、主導権が誰にあるか(抵当権者か第三取得者か)を区別しておきましょう。
- Q. 共同抵当の計算で、1番抵当権者が全額回収できない場合はどうなりますか?
- A. 1番抵当権者が全額回収できない(残債務が残る)場合、後順位抵当権者は代位できません。代位はあくまで「1番抵当権者が満足を得た後」の話だからです。
- Q. 抵当権消滅請求の通知をしてから2ヶ月待たずに売却してもいいですか?
- A. いいえ。2ヶ月間は抵当権者からの競売申立てを待つ期間(熟慮期間)ですので、勝手に手続きを進めることはできません。
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