企業と銀行の間では、商品を仕入れるためにお金を借りては返し、また借りる…という取引が繰り返されます。このたびに抵当権を設定・抹消するのは非常に面倒です。
そこで登場するのが、「一定の範囲に属する不特定の債権」を「極度額」までまとめて担保する「根抵当権」です。
根抵当権は、普通の抵当権とは全く異なる性質(付従性・随伴性の否定)を持っていますが、ある時点(元本確定)を境に普通の抵当権と同じ性質に変わります。
今回は、根抵当権の仕組みと、試験で最も重要な「元本確定前と後の違い」について、図解イメージを用いながら解説します。
1. 根抵当権の基本構造
根抵当権(398条の2)は、継続的な取引から生じる多数の債権を、将来にわたって担保する権利です。
(1) 3つの必須要素(登記事項)
根抵当権を設定する際には、以下の3つを必ず定めなければなりません。
- ① 極度額:担保される上限額(枠)。利息や損害金も含めて、この枠内なら全額担保されます。
- ② 被担保債権の範囲:「銀行取引」「売買取引」など、どの種類の取引を担保するかを決めます。
- ③ 債務者:誰の借金を担保するか。
普通の抵当権では、利息は「最後の2年分」しか優先弁済されません。しかし、根抵当権では、極度額の枠内であれば、何年分の利息でも全額優先弁済されます(398条の3)。
(2) 元本確定期日(398条の6)
「いつまで発生した借金を担保するか」という期限です。これを定めるかどうかは自由(任意)ですが、定める場合は「5年以内」でなければなりません。
2. 元本確定「前」の性質(最重要)
根抵当権の最大の特徴は、元本が確定するまでは「付従性」と「随伴性」がないことです。
(1) 付従性がない
普通の抵当権は、借金がゼロになれば消滅します(付従性)。
しかし、根抵当権は、一時的に借金がゼロになっても消滅しません。また次の借金が発生するかもしれないからです。
(2) 随伴性がない(398条の7)
普通の抵当権は、債権が譲渡されると抵当権も一緒についていきます(随伴性)。
しかし、根抵当権(元本確定前)は、債権が譲渡されてもついていきません。譲受人は無担保の債権を取得するだけです。
(3) 変更の自由度(398条の4)
元本確定前であれば、以下の事項を変更することができます(後順位抵当権者などの承諾は不要です)。
- 被担保債権の範囲
- 債務者
- 元本確定期日
※ただし、極度額の変更(増額)だけは、利害関係人(後順位抵当権者など)の承諾が必要です(取り分が減るからです)。
3. 根抵当権の処分(譲渡など)
元本確定前であれば、根抵当権そのものを動かすことができます。
(1) 全部譲渡(398条の12)
根抵当権を他人に丸ごと譲り渡すこと。設定者の承諾が必要です。
(2) 分割譲渡(398条の12第2項)
根抵当権を2つに割って、片方を譲り渡すこと。設定者の承諾が必要です。
(3) 一部譲渡(398条の13)
根抵当権を共有にする(準共有)こと。設定者の承諾が必要です。
根抵当権者が変わると、今後どの銀行から融資を受けられるか(担保価値の評価)が変わるため、設定者(不動産の持ち主)にとって重大な影響があるからです。
4. 元本の確定(普通の抵当権への変身)
元本が確定すると、その時点で存在する債権だけを担保するようになり、それ以降の新たな借金は担保されなくなります。つまり、普通の抵当権と同じ性質(付従性・随伴性あり)になります。
(1) 確定事由(398条の20など)
- 元本確定期日の到来。
- 債務者や設定者が破産したとき。
- 抵当不動産に対する競売手続の開始や滞納処分(差押え)があったとき。
※ただし、第三者による競売開始の場合は、根抵当権者がその事実を「知った時から2週間」経過後に確定します。 - 根抵当権者が自ら競売を申し立てたとき。
(2) 確定請求(398条の19)
確定期日を定めていない場合、当事者はいつでも確定を請求できます。
- 設定者からの請求:請求から2週間後に確定。
- 根抵当権者からの請求:請求した時に即確定。
5. 実戦問題にチャレンジ
1. 根抵当権者は、被担保債権の範囲に含まれる債権を第三者に譲渡した場合、その債権について根抵当権を行使することはできない。
2. 債務者が交替した場合(債務引受)、根抵当権者は、引受人の債務について根抵当権を行使することはできない。
3. 元本確定前であっても、現に存する債務が弁済によって消滅すれば、根抵当権も付従性により消滅する。
4. 根抵当権者は、根抵当権設定者の承諾を得て、その根抵当権を第三者に譲り渡すことができる(全部譲渡)。
5. 元本確定期日を定めた場合であっても、その期日が到来する前であれば、登記をすることにより、期日を変更することができる。
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正解 3
解説:
1. 正しい。随伴性がないため、債権を譲渡しても根抵当権はついていきません。
2. 正しい。随伴性がないため、債務引受があっても根抵当権は引受債務を担保しません。
3. 誤り。元本確定前の根抵当権には付従性がないため、債務が完済されてゼロになっても消滅しません(枠として残ります)。
4. 正しい。設定者の承諾があれば全部譲渡が可能です。
5. 正しい。確定期日の変更は可能ですが、変更前の期日より前に変更登記をする必要があります。
1. 被担保債権の範囲を変更する場合、元本確定前であれば、後順位抵当権者の承諾を得る必要はない。
2. 極度額を増額する場合、元本確定前であれば、後順位抵当権者の承諾を得る必要はない。
3. 債務者を変更する場合、元本確定後であっても、後順位抵当権者の承諾を得る必要はない。
4. 元本確定期日を変更する場合、新たに定める期日は、変更の日から5年以内でなければならない。
5. 被担保債権の範囲の変更は、当事者の合意のみで効力を生じ、登記をしなくても第三者に対抗することができる。
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正解 1
解説:
1. 正しい。被担保債権の範囲の変更は、利害関係人(後順位者)の承諾は不要です。
2. 誤り。極度額の増額は、後順位者の配当額を減らす可能性があるため、利害関係人の承諾が必要です。
3. 誤り。元本確定後は、債権の範囲や債務者の変更はできません(特定の債権を担保するものに固定されるため)。
4. 誤り。変更する期日は「変更前の期日」から5年以内でなければなりません(変更の日からではありません)。
5. 誤り。変更の登記は効力発生要件(または対抗要件)であり、登記しなければ変更したとみなされません。
1. 根抵当権者が抵当不動産について競売の申立てをしたときは、競売開始決定の時に元本が確定する。
2. 根抵当権者が抵当不動産に対する滞納処分による差押えがあったことを知ったときは、その時から2週間を経過した時に元本が確定する。
3. 債務者が破産手続開始の決定を受けたときは、元本が確定する。
4. 根抵当権設定者が破産手続開始の決定を受けたときは、元本が確定する。
5. 根抵当権者が死亡した場合、相続開始の時から6ヶ月以内に指定根抵当権者の合意の登記をしなければ、相続開始時に元本が確定したものとみなされる。
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正解 1
解説:
1. 誤り。根抵当権者自らが競売を申し立てた場合は、「申立ての時」に確定します(決定時ではありません)。
2. 正しい。第三者(税務署など)による差押えの場合は、知ってから2週間後です。
3. 正しい。債務者の破産は確定事由です。
4. 正しい。設定者の破産も確定事由です。
5. 正しい。相続による指定根抵当権者の合意登記がない場合、相続時に遡って確定します(398条の8)。
6. まとめ
今回は、根抵当権の仕組みについて解説しました。
- 元本確定前:付従性・随伴性なし。変更は自由(極度額増額を除く)。
- 元本確定後:普通の抵当権と同じ(付従性・随伴性あり)。
- 確定事由:「自ら競売申立て」は即確定、「破産」も即確定。
根抵当権は苦手とする受験生が多いですが、「元本確定の前後でキャラが変わる」という点を理解すれば整理しやすくなります。確定事由のひっかけ問題(申立て時か開始決定時かなど)に注意しましょう。
よくある質問(FAQ)
- Q. 極度額の変更だけ利害関係人の承諾が必要なのはなぜですか?
- A. 極度額が増えると、優先弁済される枠が広がるため、後順位抵当権者や一般債権者の取り分が減ってしまうからです。他の変更(債務者や債権の範囲)は、枠の中身が変わるだけなので、後順位者への直接的な影響はないとされています。
- Q. 根抵当権の譲渡に「設定者の承諾」が必要なのはなぜですか?
- A. 普通の債権譲渡・抵当権移転とは異なり、根抵当権は将来にわたって継続的な取引関係(融資枠)を維持するものです。設定者(オーナー)からすれば、「誰が銀行(根抵当権者)になるか」は、今後の融資条件に関わる重要な問題だからです。
- Q. 確定請求の「2週間」の意味は何ですか?
- A. 設定者が確定請求をした場合、即座に確定してしまうと、銀行(根抵当権者)が駆け込みで融資をするなどの混乱が生じる可能性があります。そこで、猶予期間(2週間)を設けて、その間に発生した債権までは担保されるように調整しています。
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