契約を結んだのに相手が約束を守ってくれない。そんなとき、私たちは法律の力で「強制的に実現させる」か、あるいは「損害賠償」を請求することができます。
これが民法の中心テーマの一つである「債務不履行」です。
試験では、「いつから遅滞になるか(履行遅滞の時期)」や、「どんな損害まで賠償請求できるか(因果関係の範囲)」、そして「金銭債務の特則」など、具体的かつ細かい知識が問われます。
今回は、債務不履行の類型と効果、そして損害賠償の計算ルールについて、重要条文と判例を整理して解説します。
1. 債務不履行の3類型
債務不履行とは、債務者が「債務の本旨に従った履行をしないこと」をいいます。大きく分けて3つのパターンがあります。
| 類型 | 内容 | 要件(帰責事由など) |
|---|---|---|
| 履行遅滞 (りこうちたい) |
やればできるのに、期日を過ぎてもしないこと。 | ①履行可能 ②履行期徒過 ③帰責事由あり ④違法性あり(同時履行の抗弁権などがない) |
| 履行不能 (りこうふのう) |
燃えてしまった等で、もはや履行できないこと。 | ①履行不能(物理的・社会的・法律的) ②帰責事由あり ③違法性あり |
| 不完全履行 (ふかんぜんりこう) |
一応履行したが、中身が不十分なこと(契約不適合)。 | ①不完全な給付 ②帰責事由あり ③違法性あり |
債務者の「責めに帰すべき事由(落ち度)」のことです。損害賠償請求をするためには、原則として債務者に故意・過失などの帰責事由が必要です。
※ただし、契約の解除をするだけなら、改正民法により帰責事由は不要となりました(これが大きな改正ポイントです)。
履行遅滞になる時期(412条)
「いつから遅れたことになるか」は、期限の種類によって異なります。
- 確定期限(○月○日):期限が到来した時から。
- 不確定期限(父が死んだら):期限到来後に「請求を受けた時」または「到来を知った時」のいずれか早い時から。
- 期限の定めのない債務:履行の請求を受けた時から。
2. 損害賠償の範囲(416条)
債務不履行によって生じた損害をどこまで賠償すべきかについては、以下の2段階で判断します。
- 通常損害(1項):その種類の債務不履行があれば、世間一般に通常発生する損害。
→ 当然に賠償請求できる。 - 特別損害(2項):特別な事情によって生じた損害。
→ 当事者(債務者)がその事情を予見し、または予見することができたときに限り、請求できる。
特別の事情を予見すべきだったかどうかの判断基準時は、「債務不履行の時」です(契約締結時ではありません)。
3. 過失相殺(かしつそうさい)
債権者(被害者)側にも落ち度(過失)があった場合、裁判所はこれを考慮して損害賠償額を減額することができます(418条)。
- 債務不履行の場合:裁判所は「必ず」考慮しなければならない(必要的減額・免除)。
- 不法行為の場合:裁判所は考慮「することができる」(裁量的減額)。※被害者の過失で免除(ゼロ)にすることはできません。
4. 金銭債務の特則(419条)
お金を払う債務(金銭債務)については、債権者保護のための強力な特則があります。
- 不可抗力を主張できない:地震で銀行に行けなかったとしても、遅延損害金は発生します。
- 損害の証明不要:損害が発生したことを証明しなくても、当然に遅延損害金を請求できます。
- 賠償額の固定:原則として法定利率(年3%)で計算します(約定利率が高ければそちらが優先)。
5. 損害賠償額の予定(420条)
あらかじめ「もし違反したら100万円払う」と決めておくことです。
- メリット:実際の損害額を証明しなくても、不履行の事実さえあれば予定額を請求できる。
- 効果:実際の損害が予定額より多くても少なくても、増減請求はできない(予定額で固定される)。
- 違約金:特約がなければ「賠償額の予定」と推定されます。
6. 実戦問題にチャレンジ
1. 確定期限のある債務については、債務者がその期限の到来を知った時から履行遅滞の責任を負う。
2. 不確定期限のある債務については、期限が到来した時から直ちに履行遅滞の責任を負う。
3. 期限の定めのない債務については、債務者が履行の請求を受けた時から履行遅滞の責任を負う。
4. 返還時期の定めのない消費貸借契約に基づく返還債務については、貸主が返還を請求した時から直ちに履行遅滞となる。
5. 不法行為に基づく損害賠償債務は、期限の定めのない債務であるため、被害者が請求した時から履行遅滞となる。
正解・解説を見る
正解 3
解説:
1. 誤り。確定期限は「期限が到来した時」から当然に遅滞になります(知らなくても)。
2. 誤り。不確定期限は「請求を受けた時」または「到来を知った時」の早い方からです。
3. 正しい。期限の定めのない債務の原則です(412条3項)。
4. 誤り。消費貸借(借金)の場合、期限がなくても「相当の期間」を定めて催告する必要があり、その期間経過後に遅滞となります(591条1項)。
5. 誤り。不法行為の損害賠償は、被害者保護のため「不法行為の時」から当然に遅滞となります(催告不要)。
1. 金銭債務の不履行による損害賠償については、債権者は、損害の証明をしなければ請求することができない。
2. 金銭債務の不履行について、債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができる。
3. 金銭債務の遅延損害金の額は、約定利率が法定利率を超える場合であっても、法定利率によって計算される。
4. 金銭債務の不履行により、債権者が法定利率を超える特別の損害を被ったことを立証した場合でも、その賠償を請求することはできない。
5. 金銭債務の不履行による損害賠償額は、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定めるが、約定利率が法定利率を超えるときは約定利率による。
正解・解説を見る
正解 5
解説:
1. 誤り。損害の証明は不要です(419条2項)。
2. 誤り。不可抗力でも免責されません(419条3項)。
3. 誤り。約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率によります。
4. 誤り。419条1項は「法定利率(または約定利率)で定める」としていますが、これは最低限を保障する趣旨とも解されますが、判例・通説は金銭債務の損害賠償は定型化されており、実損害がそれを超えても請求できない(逆に少なくても請求できる)としています。よって選択肢4は「正しい」ようにも見えますが、記述の「立証した場合でも…できない」という結論は判例(最判昭48.10.11など)の立場(制限説)に沿っています。しかし、選択肢5が条文通りでより明確に正しいため、相対的に5が正解となります。
5. 正しい。419条1項の条文通りの記述です。
1. 当事者が損害賠償の額を予定した場合、債権者は、債務不履行の事実があれば、実際の損害額を証明しなくても予定額を請求することができる。
2. 損害賠償額の予定をした場合でも、実際の損害額が予定額を超えていることを立証すれば、債権者はその超過額を請求することができる。
3. 賠償額の予定は、契約の解除をすることを妨げない。
4. 違約金は、特約がなければ、賠償額の予定と推定される。
5. 金銭消費貸借契約における不履行について賠償額の予定をしても、利息制限法を超える部分は無効となる。
正解・解説を見る
正解 2
解説:
1. 正しい。証明不要なのが予定のメリットです。
2. 誤り。予定をした以上、実際の損害がそれより多くても少なくても、増減額請求はできません(420条1項後段の解釈)。
3. 正しい。履行請求や解除権の行使は妨げられません。
4. 正しい。420条3項の規定通りです。
5. 正しい。利息制限法による制限は強行法規です。
7. まとめ
今回は、債務不履行の責任と損害賠償について解説しました。
- 履行遅滞の時期:「確定期限=到来時」「不確定期限=到来を知った時or請求時」「期限なし=請求時」。
- 金銭債務:不可抗力NG、証明不要、法定利率。
- 賠償額の予定:増減不可。
特に「履行遅滞の時期」は、時効の起算点とも絡む重要知識です。それぞれの期限タイプごとのスタート地点を確実に暗記しておきましょう。
よくある質問(FAQ)
- Q. 「履行遅滞」と「履行不能」の違いは何ですか?
- A. 「まだ可能だけど遅れている(遅滞)」か、「もう物理的・社会的に無理(不能)」かの違いです。遅滞なら履行を請求できますが、不能なら履行請求はできず、損害賠償請求(填補賠償)に切り替わります。
- Q. 過失相殺は必ず行われるのですか?
- A. 債務不履行の場合は「裁判所はこれを考慮しなければならない(必要的)」とされています。一方、不法行為の場合は「考慮することができる(裁量的)」とされ、扱いに違いがあります。
- Q. 特別損害の「予見可能性」は誰が証明するのですか?
- A. 「債権者(被害者)」が証明責任を負います。債権者は「あなたが予見できたはずの特別な事情で、こんなに大損害が出たんだ!」と主張・立証しなければなりません。
↓民法の全体像を確認する↓
民法【解説・問題】一覧ページへ戻る