行政書士試験の「個人情報保護法」対策、いよいよ大詰めです。前回の講義では、行政機関等が個人情報を集めて管理するまでの「入り口」のルールを解説しました。
今回は、集められた情報がどのように使われるのか(利用・提供)、そして私たち国民が自分の情報に対してどのようなアクションを起こせるのか(開示・訂正・利用停止)という「出口と権利」のルールを解説します。
この分野は、行政法(行政機関情報公開法)の知識とリンクする部分が多く、試験でも頻繁に問われる重要ポイントです。
「訂正請求はいつまでできる?」「利用停止請求ができる条件は?」といった細かい数字や要件が合否を分けることもあります。
この記事では、行政機関特有の厳格なルールと、私たちに認められた3つの請求権(開示・訂正・利用停止)について、具体的なストーリーを用いながら徹底解説します。最後まで読んで、どんな問題にも対応できる応用力を身につけましょう!
1. 保有個人情報の管理と利用制限(鉄壁の守り)
行政機関等が保有している個人情報(=保有個人情報)は、民間事業者が持っているデータ以上に厳格な管理が求められます。なぜなら、行政は公権力を使って強制的に情報を集めることができるため、その濫用を防ぐ必要があるからです。
(1) 正確性の確保と安全管理(65条・66条)
行政機関の長等は、利用目的の達成に必要な範囲内で、保有個人情報が過去または現在の事実と合致するように(正確に)努めなければなりません。
また、漏えい等を防ぐための安全管理措置を講じる義務があります。これは民間事業者(個人データ)のルールと同様です。
行政機関等においても、情報漏えいが発生した場合は、原則として以下の対応が義務付けられています。
1. 個人情報保護委員会への報告(速報+確報)
2. 本人への通知
要件は「個人の権利利益を害するおそれが大きい事態」など、民間事業者のルールとほぼ共通しています。
(2) 利用及び提供の制限(69条)~原則と例外~
ここが試験の最重要ポイントの一つです。行政機関等が保有個人情報を「使う」または「渡す」際のルールです。
原則:目的外の利用・提供の禁止
行政機関等は、法令に基づく場合を除き、利用目的以外の目的のために、保有個人情報を自ら利用したり、第三者に提供したりしてはなりません。
例外:利用・提供ができる場合
しかし、ガチガチに禁止してしまうと、行政運営に支障が出たり、公益を害したりする可能性があります。そこで、法69条2項は、以下の要件を満たす場合には、例外的に目的外利用・提供を認めています。
| 例外事由 | 具体例・ストーリー |
|---|---|
| ① 本人の同意があるとき | Aさんが「私の課税情報を、公営住宅の入居審査のために住宅課に渡してください」と同意した場合、税務課は住宅課に情報を提供できます。 |
| ② 法令の定める事務の遂行に必要な限度で内部利用するとき(相当の理由) | 同じ市役所の中で、福祉課が生活保護の支給決定をするために、税務課の所得情報を参照する場合など。(相当の理由が必要) |
| ③ 他の行政機関等への提供(相当の理由) | 国交省が統計調査のために、他の省庁からデータの提供を受ける場合など。(公益上の必要性など相当の理由が必要) |
| ④ 専ら統計・学術研究目的の提供 | 大学の研究機関に対して、匿名化した医療データ等を提供する場合。 |
| ⑤ その他特別の理由があるとき | 急病人の家族への連絡など、本人の利益になることが明らかな場合など。 |
民間事業者には、本人の同意なしに第三者提供ができる「オプトアウト制度(届出による例外)」がありましたが、行政機関等にはオプトアウト制度はありません。
また、行政機関の場合、原則禁止の例外として「内部利用」や「他の行政機関への提供」が規定されている点が特徴です。
2. 開示請求権(自分の情報を見る権利)
ここからは、国民側からのアプローチです。まずは「自分についてどんな情報が記録されているのか」を確認する開示請求権(76条)です。
(1) 請求できるのは誰?
「何人も」請求できます。ただし、請求対象は「自己を本人とする保有個人情報」に限られます。
つまり、「私の情報を出せ」とは言えますが、「隣のBさんの情報を出せ」とは言えません(それは情報公開法の範疇になります)。
- 未成年者・成年被後見人:法定代理人が本人に代わって請求できます。
- 任意代理人:本人が委任した代理人も請求できます(※情報公開法にはない規定です)。
(2) 開示・不開示の決定プロセス
Step 1: 開示請求書の提出
請求者は、行政機関の長等に対し、本人確認書類(免許証など)を提示して開示請求書を提出します。形式上の不備がある場合は、行政機関は補正を求めることができます(この際、補正の参考となる情報を提供する努力義務があります)。
Step 2: 開示義務と不開示情報(78条)
行政機関の長等は、原則として情報を開示しなければなりません。しかし、以下の「不開示情報」が含まれている場合は、開示しないことができます。
- 開示請求者の生命・健康等を害するおそれがある情報
- 開示請求者以外の個人情報(第三者のプライバシー)
- 法人の正当な利益を害する情報
- 国の安全、外交、犯罪捜査に支障を及ぼす情報 など
※これらは「行政機関情報公開法」の不開示事由とほぼ整合性が取られています。
Step 3: 特殊な開示・拒否のパターン
ここが試験でよく問われるポイントです。
- 部分開示(79条):不開示情報が含まれていても、その部分を容易に切り分けられるなら、残りの部分は開示しなければなりません。
- 裁量的開示(80条):不開示情報が含まれていても、個人の権利利益保護のために特に必要があると認めるときは、行政庁の裁量で開示「できる」場合があります。
- 存否応答拒否(81条):いわゆる「グローマー拒否」です。「あるか無いか」を答えるだけで不開示情報を開示するのと同じ結果になる場合(例:警察に「私が捜査対象になっているか」と聞く)、存否を明らかにせずに拒否できます。
(3) 開示決定等の期限(83条)
行政機関は、請求があった日から30日以内に開示・不開示の決定をしなければなりません。
正当な理由がある場合は30日以内に限り延長できます(合計60日)。
※民間事業者の場合は「遅滞なく」とされており、具体的な日数制限がない点と対比して覚えましょう。
(4) 第三者への意見聴取(86条)
開示しようとする情報の中に、第三者(国、自治体、他人、他社など)に関する情報が含まれている場合、行政機関は決定前にその第三者の意見を聴くことができます(原則任意)。
ただし、特定のケース(第三者の権利利益を害するおそれがある場合等)では、意見聴取が義務となることもあります。
(5) 開示の実施と手数料
開示決定が通知されたら、請求者は30日以内に「閲覧したい」「コピーが欲しい」「PDFを送ってほしい」といった申出を行います。
なお、開示請求には政令で定める手数料(実費の範囲内)の納付が必要です。
3. 訂正請求権(間違った情報を直す権利)
開示された情報を見て、「これ、事実と違う!」と気づいた場合に行うのが訂正請求(90条)です。
(1) 訂正請求の要件
- 前提:開示請求により開示された情報であること。
- 期間:開示を受けた日から90日以内。
- 対象:内容が「事実」でないと思料するとき。
訂正請求ができるのは「事実」に関する誤り(住所の間違い、生年月日の誤記など)に限られます。
「人事評価が低すぎる」「診断結果に納得がいかない」といった「評価」や「判断」については、事実の誤りではないため、訂正請求の対象になりません。
(2) 行政機関の対応
請求を受けた行政機関は、利用目的の達成に必要な範囲内で調査を行い、理由があれば訂正を行います。
決定の期限は、請求から30日以内です(※開示請求と同じ)。
4. 利用停止請求権(違法な扱いを止める権利)
自分の情報が違法に取り扱われている場合に行うのが利用停止請求(98条)です。
「利用停止」だけでなく「消去」や「提供の停止」も含まれます。
(1) 利用停止請求の要件
これも訂正請求と同様、開示を受けた日から90日以内に行う必要があります。
対象となるのは、以下の「法違反」がある場合です。
- 保有の制限(61条)に違反して保有している場合(不要な情報の保有)。
- 不適正な利用(63条)・適正な取得(64条)に違反している場合。
- 利用及び提供の制限(69条)に違反して目的外利用・提供している場合。
つまり、「適法に取得・利用されている情報」については、単に「気に入らないから消して」とは言えません。あくまで違法状態の是正を求める権利です。
(2) 行政機関の対応
請求に理由があると認めるときは、適正な取扱いを確保するために必要な限度で、利用停止等を行います。
決定の期限は、請求から30日以内です。
5. 救済制度(審査請求)と罰則
もし、開示請求が拒否されたり、訂正・利用停止をしてくれなかったりした場合、どうすればよいでしょうか?
(1) 審査請求と諮問(105条)
行政不服審査法に基づき、行政機関の長に対して審査請求を行うことができます。
審査請求を受けた行政機関の長は、原則として「情報公開・個人情報保護審査会」に諮問(意見を求めること)しなければなりません。
【審査会の役割】
第三者的な立場で、「その不開示決定は妥当か?」を調査審議します。行政機関の長は、この審査会の答申を尊重して、最終的な裁決を行います。
(2) 罰則(176条以下)
個人情報保護法には、違反者に対する罰則も設けられています。特に行政機関の職員等に対する罰則は重要です。
- 個人情報ファイル等の不正提供(176条):正当な理由なく、個人の秘密に属する事項が記録されたファイルを他人に提供した場合 ⇒ 2年以下の懲役または100万円以下の罰金。(最も重い罰則)
- 不正な目的での収集(181条):職権を濫用して、専ら職務以外に使う目的で秘密情報を収集した場合 ⇒ 1年以下の懲役または50万円以下の罰金。
これらは、公務員等の守秘義務を担保するための強力な規定です。
6. 【実戦演習】本試験レベル問題に挑戦
ここまでの知識を整理するために、行政機関等の特有のルールに焦点を当てた問題に挑戦しましょう。
1. 行政機関の長は、利用目的以外の目的のために保有個人情報を自ら利用し、又は提供することは一切禁止されており、本人の同意がある場合であっても認められない。
2. 行政機関の長は、法令の定める所掌事務の遂行に必要な限度で保有個人情報を内部で利用する場合であっても、利用目的以外の目的で利用するときは、利用することについて相当の理由が必要である。
3. 行政機関の長は、個人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であっても、本人の同意を得ることが困難であるときでなければ、利用目的以外の目的で保有個人情報を第三者に提供することはできない。
4. 行政機関の長は、保有個人情報を第三者に提供する場合、民間事業者と同様に、あらかじめ本人に通知し、個人情報保護委員会に届け出ることで、本人の同意なく提供できるオプトアウト制度を利用することができる。
5. 他の行政機関から保有個人情報の提供を求められた行政機関の長は、提供先に法令の定める事務の遂行に必要な限度で使用させる目的であっても、独自に公益上の必要性を判断して提供を拒否することはできない。
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正解 2
解説:
1. 妥当でない。本人の同意があるときや法令に基づく場合などは、例外として目的外利用・提供が認められます(69条2項)。
2. 妥当である。内部利用の例外要件として「法令の定める所掌事務の遂行に必要な限度」かつ「相当の理由」が必要です(69条2項2号)。
3. 妥当でない。行政機関等の場合、民間事業者(27条1項2号)のような「同意取得困難要件」は条文上明記されておらず、「特別の理由があるとき」(69条2項4号・現行法番号により変動あり、解説趣旨としては「公益上の必要性等」)に該当すれば提供可能です。ただし、厳密には条文構造が異なるため、選択肢としては民間ルールとの混同を誘う誤りです。
4. 妥当でない。行政機関等にはオプトアウト制度(第三者提供の特例)は存在しません。
5. 妥当でない。他の行政機関への提供(69条2項3号)は、「相当の理由があるとき」に認められるものであり、提供元の行政機関の長はその該当性を判断します。自動的に提供義務が生じるわけではありません。
1. 未成年者又は成年被後見人の法定代理人は、本人に代わって保有個人情報の開示請求をすることができるが、本人の委任による代理人は開示請求をすることができない。
2. 開示請求に係る保有個人情報に不開示情報が含まれている場合であっても、個人の権利利益を保護するため特に必要があると認めるときは、行政機関の長は、裁量により当該保有個人情報を開示することができる。
3. 開示請求に対し、当該開示請求に係る保有個人情報が存在しているか否かを答えるだけで不開示情報を開示することとなるときは、行政機関の長は、当該保有個人情報の存否を明らかにしないで、当該開示請求を拒否することができる。
4. 行政機関の長は、開示請求があった日から原則として30日以内に、開示決定等をしなければならないが、事務処理上の困難その他正当な理由があるときは、さらに30日以内に限り延長することができる。
5. 開示請求をする者は、政令で定めるところにより、実費の範囲内において政令で定める額の手数料を納めなければならない。
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正解 1
解説:
1. 妥当でない。個人情報保護法においては、法定代理人だけでなく、本人の委任による代理人(任意代理人)も開示請求を行うことができます(76条2項)。ここが情報公開法と異なる点(情報公開法は何人でも請求できるため代理人規定の重要性が低いが、個情法は本人限定のため重要)であり、かつての旧法からの改正点です。
2. 妥当である。裁量的開示(80条)に関する正しい記述です。
3. 妥当である。存否応答拒否(81条)に関する正しい記述です。
4. 妥当である。決定期限(83条)に関する正しい記述です。
5. 妥当である。手数料の納付義務(89条)に関する正しい記述です。
1. 訂正請求及び利用停止請求は、いずれも開示決定に基づき保有個人情報の開示を受けた日から90日以内にしなければならない。
2. 何人も、自己を本人とする保有個人情報の内容が事実でないと思料するときは、開示請求の手続きを経ることなく、直ちに訂正請求をすることができる。
3. 訂正請求の対象となる保有個人情報の内容には、事実だけでなく、行政機関による評価や判断も含まれるため、人事評価の結果についても訂正を請求することができる。
4. 利用停止請求は、保有個人情報が適法に取得されたものであっても、本人がその利用を望まない場合には、理由の如何を問わず請求することができる。
5. 行政機関の長は、訂正請求に理由があると認めるときは、利用目的の達成に必要な範囲内か否かにかかわらず、直ちに当該保有個人情報の訂正をしなければならない。
正解・解説を見る
正解 1
解説:
1. 妥当である。訂正請求(90条3項)も利用停止請求(98条3項)も、期間制限は「開示を受けた日から90日以内」で共通しています。
2. 妥当でない。訂正請求や利用停止請求を行うためには、原則として開示決定により保有個人情報の開示を受けていることが前提要件となります(90条1項、98条1項)。
3. 妥当でない。訂正請求の対象は「事実」に限られます。評価や判断は対象外です。
4. 妥当でない。利用停止請求ができるのは、保有制限違反、不適正な利用・取得、利用提供制限違反といった「法違反」がある場合に限られます。単に利用を望まないという理由では請求できません。
5. 妥当でない。訂正を行うのは「利用目的の達成に必要な範囲内」においてです(92条)。無制限にあらゆる訂正を行う義務はありません。
7. まとめ:3つの請求権を比較整理しよう
行政機関等に対するルールは、民間よりも厳しい「保有・利用の制限」と、国民の権利としての「開示・訂正・利用停止」の2本柱で構成されています。
最後に、3つの請求権の違いを表で整理しておきましょう。
| 項目 | 開示請求 | 訂正請求 | 利用停止請求 |
|---|---|---|---|
| 対象 | 自己を本人とする 保有個人情報 |
内容が事実でない場合 | 違法な保有・取得・利用・提供がある場合 |
| 期間制限 | なし | 開示から90日以内 | 開示から90日以内 |
| 決定期限 | 30日以内 (延長+30日) |
30日以内 (特例延長あり) |
30日以内 (特例延長あり) |
この表の内容を頭に入れておけば、多くのひっかけ問題に対応できます。
個人情報保護法はこれで完結です。次回からは、情報公開法や行政不服審査法との「横断的な知識」が問われる分野にも対応できるよう、関連法令の学習も進めていきましょう。
よくある質問(FAQ)
- Q1. 「存否応答拒否」とは具体的にどのようなケースですか?
- 例えば、ある個人が警察署長に対して「私が被疑者となっている捜査資料を開示せよ」と請求したとします。これに対し「ありません(不開示)」と答えると「捜査されていない」と分かりますし、「あります(不開示)」と答えると「捜査されている」と分かってしまいます。このように、あるか無いかを答えるだけで捜査の秘密(不開示情報)が漏れてしまう場合に、「あるか無いかは答えられない(拒否)」とする対応です。
- Q2. なぜ訂正請求の期間は90日以内なのですか?
- 開示を受けた後、いつまでも訂正請求ができる状態だと、行政機関側の管理負担が大きくなり、行政事務の安定性が損なわれるからです。開示を受けて内容を確認したら、誤りがあれば速やかに申し出てほしい、という趣旨で期間制限が設けられています。
- Q3. 行政機関にはオプトアウト制度がないとのことですが、名簿業者などはどうなるのですか?
- オプトアウト制度は、主に名簿業者などの「民間事業者」がビジネスとしてデータを第三者に提供するための仕組みです。行政機関はそもそも営利目的で名簿を販売することは想定されておらず(保有制限もあります)、法令等に基づかない第三者提供は原則禁止されているため、オプトアウトという仕組み自体がなじまないのです。
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