行政書士試験の行政法において、最も出題頻度が高く、かつ最も重要なテーマが「行政行為(ぎょうせいこうい)」です。
しかし、テキストを開くと「公定力」「不可争力」といった難解な用語や、「許可」「認可」「特許」といった似たような言葉が並び、混乱してしまう受験生が後を絶ちません。
「なぜ違法な処分でも、勝手に無視してはいけないのか?」
「農地の売買にはなぜ許可が必要で、勝手に行うとどうなるのか?」
これらの疑問は、行政行為の「効力」と「分類」を正しく理解することで、すっきりと解消します。本講義では、行政作用法の核となるこれらの概念を、具体的なストーリーを交えて徹底的に解説します。
- 行政作用の全体像(行政行為・指導・契約の違い)
- 行政行為の4つの効力(公定力・不可争力・不可変更力・自力執行力)
- 試験に出る3つの分類(許可・特許・認可)の決定的な違い
- 建築確認の法的性質(確認)に関する重要判例
1. 行政作用法とは?(全体像をつかむ)
行政機関が国民に対して行う活動を「行政作用」といいます。
昔の行政はシンプルで、「法律を作る」→「命令する(行政行為)」→「従わなければ強制する」という流れが基本でした。
しかし、現代の行政活動は複雑化しており、命令だけでなく「お願い(行政指導)」や「契約(行政契約)」など、多様な手法が使われています。まずはそれぞれの違いを整理しましょう。
| 種類 | 内容 | 特徴 |
|---|---|---|
| 行政行為 (処分) |
行政庁が一方的に国民の権利義務を決める行為。 (例:営業許可、課税処分、違法建築の除却命令) |
権力的・一方的 国民の同意は不要。 |
| 行政立法 | 法律を実施するための細かいルール作り。 (例:政令、省令) |
一般的・抽象的 不特定多数に向けられたルール。 |
| 行政指導 | 行政目的実現のための協力要請。 (例:指導、勧告、助言) |
非権力的 相手方の任意の協力が必要(強制力なし)。 |
| 行政契約 | 対等な立場で結ぶ合意。 (例:公共工事の請負契約、用地買収) |
対等・合意 民法上の契約に近いが、公益性が考慮される。 |
2. 行政行為の意味と5つの要素
行政法学において「行政行為」とは、以下の5つの要素を満たすものを指します。
具体例として、Aさんが自分の土地に違法な建物を建て、市役所から「撤去命令」を受けたケースで考えてみましょう。
- 行政庁の行為であること
国や地方公共団体の機関(市長など)が行う行為です。 - 外部に対する行為であること
役所の内部での打ち合わせや上司への報告ではなく、国民(Aさん)に向けられた行為です。 - 具体性があること
「Aさんのこの建物を壊せ」という具体的な命令です(「国民全員」に向けた法律とは違います)。 - 一方的であること(権力性)
Aさんが「壊したくない」と言っても関係なく、行政側が一方的に命じます。 - 法的な効果が発生すること
命令によって、Aさんには「建物を撤去する義務」という法的な義務が発生します。
東京都がごみ焼却場を設置しようとした際、住民が反対して取消訴訟を起こしました。
しかし、最高裁は「焼却場の設置決定は、都の内部的な意思決定に過ぎず、直接国民の権利義務を形成するものではない」として、行政処分(行政行為)性を否定しました。
つまり、単なる内部手続きや計画段階では、まだ行政行為とは呼べず、訴訟で争うことはできないということです。
3. 行政行為の4つの効力(最重要テーマ)
行政行為には、民法上の行為(一般人の契約など)にはない、特殊な4つのパワー(効力)が認められています。
なぜこのような強い力が認められているかというと、行政活動を円滑に進め、公共の利益を守るためです。
(1) 公定力(こうていりょく)
「たとえ違法な処分であっても、権限ある機関によって取り消されるまでは、一応有効なものとして扱われる効力」です。
具体例:
税務署長が間違って、課税されるはずのないBさんに「100万円納税しろ」という処分を下しました(違法な処分)。
しかし、公定力があるため、Bさんは「これは間違いだから無効だ!」と勝手に無視することはできません。放っておくと滞納処分を受けます。
Bさんがこの効力を消すためには、正式な手続き(審査請求や取消訴訟)で取り消してもらう必要があります。
処分の違法性が誰の目から見ても明らかで、かつ重大である場合(例:死んだ人に課税したなど)は、その処分は最初から「無効」です。この場合、公定力は働きません。
(2) 不可争力(ふかそうりょく)
「一定の期間(出訴期間)が過ぎると、もはや国民側から処分の効力を争うことができなくなる効力」です。
理由:
いつまでも「あの処分は違法だ」と蒸し返されると、行政関係が安定しないからです。
原則として、処分を知った日から3ヶ月(審査請求)または6ヶ月(取消訴訟)が経過すると、もう争えなくなります。
(3) 不可変更力(ふかへんこうりょく)
「処分をした行政庁自身も、自ら処分を変更・取消しできなくなる効力」です。
注意点:
これは全ての行政行為にあるわけではありません。審査請求に対する「裁決」のような、裁判に近い手続きを経て行われる行為(紛争解決的な行為)にのみ認められる例外的な効力です。
通常の処分(営業許可など)には不可変更力はないので、行政庁は間違いに気づけば自分で取り消すことができます。
(4) 自力執行力(じりきしっこうりょく)
「相手方が義務を果たさない場合、裁判所の判決を得ることなく、行政庁自らの力で強制執行できる効力」です。
民事との違い:
民法では、借金を返さない人がいても、いきなり家に押し入って差し押さえることは禁止されています(自力救済の禁止)。必ず裁判をして勝つ必要があります。
しかし、行政(例えば税金の滞納)では、裁判なしで差押えが可能です。
4. 行政行為の分類(許可・特許・認可)
行政行為は、その内容によって分類されます。試験対策上、以下の3つの違い(特に裁量の広さと無許可行為の効力)を明確に区別することが合格のカギです。
(1) 許可(きょか)
定義:
公共の安全などのために一般的な禁止をかけ、特定の場合にその禁止を解除して、本来の自由を回復させる行為。
- 具体例:飲食店の営業許可、運転免許、医師免許、建築確認(※後述)。
- 裁量:狭い(または無い)。
要件を満たせば必ず許可しなければなりません(国民には本来自由があるからです)。 - 違反の効果:
行政上の処罰(営業停止など)は受けますが、私法上の行為(飲食店で客に料理を出して代金をもらう契約)は有効です。
(2) 特許(とっきょ)
定義:
本来国民が持っていない新たな権利や地位を設定し、与える行為(「設権行為」とも言います)。
- 具体例:電気事業の許可(実質は特許)、公有水面埋立免許、鉱業権の設定。
- 裁量:広い。
公益性が高いため、誰に特権を与えるかは行政が広く判断できます。 - 違反の効果:
特許を受けずに行った行為は無効です。
(3) 認可(にんか)
定義:
私人間の法律行為(契約など)を補充して、その法的な効力を完成させる行為。
- 具体例:農地の売買許可(農地法3条)、銀行の合併の認可、公共料金の認可。
- 仕組み:
例えば農地を売る場合、売主と買主が「売ります・買います」と契約しただけでは効力が発生しません。農業委員会の「許可(実質は認可)」があって初めて所有権が移転します。 - 違反の効果:
認可を受けずに行った契約は無効となります。
法律の条文では「許可」と書いてあっても、学問上(試験上)の分類は異なる場合があります。
(例)
・農地法の「許可」 → 性質は「認可」
・電気事業法の「許可」 → 性質は「特許」
試験では「条文上の言葉」ではなく「法的性質」を問われます。
(4) 確認(かくにん)
特定の事実や法律関係の存否を公に判断・確定する行為です。
- 具体例:建築確認、当選人の決定、発明の特許(実質は確認)。
- 重要判例(最判昭60.7.16):
建築主事が建築計画が法律に適合しているかをチェックする「建築確認」は、裁量の余地のない確認的行為です。
したがって、要件を満たしているのに「近所の反対があるから」などの理由で確認を留保することは許されません。
5. 実戦問題で確認!
1. 行政行為の公定力とは、行政行為が違法であっても、直ちに無効となるわけではなく、権限ある行政庁または裁判所によって取り消されるまでは一応有効なものとして扱われる効力をいう。
2. 行政行為に重大かつ明白な瑕疵がある場合であっても、公定力が働くため、相手方は当該処分の無効確認訴訟を提起することはできず、取消訴訟を提起しなければならない。
3. 不可争力とは、行政行為に対する不服申立て期間が経過した後は、行政庁自身も当該行政行為を職権で取り消すことができなくなる効力をいう。
4. 不可変更力は、すべての行政行為に認められる効力であり、一度処分を行った行政庁は、たとえ過誤があったとしても自らその処分を変更することはできない。
5. 自力執行力は、法律の根拠がなくとも、行政権の特質として当然にすべての行政行為に認められる効力であり、義務の不履行があれば直ちに強制執行が可能である。
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正解 1
解説:
1. 妥当である。公定力の定義そのものです。
2. 妥当でない。「重大かつ明白な瑕疵」がある処分は当然に無効であり、公定力は働きません。したがって、無効確認訴訟等で争うことができます。
3. 妥当でない。不可争力は「国民側」が争えなくなる効力です。行政庁側を拘束するものではないため、行政庁は期間経過後でも職権取消しが可能です。
4. 妥当でない。不可変更力は、裁決などの紛争解決的な行為にのみ認められる例外的効力です。通常の処分には認められません。
5. 妥当でない。自力執行力が認められるには、必ず法律の根拠が必要です(法律の留保)。すべての行政行為に認められるわけではありません。
1. 食品衛生法に基づく飲食店の営業許可は、講学上の「許可」にあたり、本来国民が有する営業の自由を回復させる性質を持つため、行政庁の裁量は一般的に狭い。
2. 電気事業法に基づく電気事業の許可は、公益性が高く、特定の者に独占的な権利を与えるものであるため、講学上の「特許」にあたる。
3. 農地法に基づく農地の権利移転の許可は、私人間の売買契約の効力を完成させる要件となるものであり、講学上の「認可」にあたる。
4. 講学上の「許可」を受けずに営まれた営業行為は、行政上の取締りの対象となるが、私法上の契約の効力までは否定されず、有効とされるのが原則である。
5. 講学上の「認可」を受けずになされた私法上の契約は、行政上の取締りの対象となるにとどまり、私法上の効力は有効に成立する。
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正解 5
解説:
1, 2, 3, 4はすべて妥当な記述です。
5. 妥当でない。認可は、法律行為の効力を完成させる「効力要件」です。したがって、認可を受けないで行った契約は無効となります(例:農地の売買契約は無効)。
1. 建築確認は、建築主の申請に係る計画が建築基準関係規定に適合するか否かを確認する行政処分であり、その性質は講学上の「許可」に分類される。
2. 建築主事による確認処分は、基本的に裁量の余地のない確認的行為の性格を有するものであるから、法定の要件を具備している場合には、速やかに確認処分を行わなければならない。
3. 建築確認は、建築計画が法令に適合することを確認する事実行為に過ぎず、これによって法的効果が生じるわけではないため、取消訴訟の対象となる行政処分には該当しない。
4. 建築主事は、周辺住民との紛争が生じている場合には、行政指導の一環として、建築確認の申請に対する処分を無期限に留保することが認められている。
5. 建築確認を受けた建物であっても、後に建築基準法違反が判明した場合には、違反建築物として是正命令の対象となるが、確認処分自体には公定力が働くため、是正命令を発することはできない。
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正解 2
解説:
1. 妥当でない。建築確認の性質は講学上の「確認」です。
2. 妥当である。最判昭60.7.16の趣旨通りです。確認は裁量の余地のない行為です。
3. 妥当でない。建築確認を受けないと工事に着手できないという法的効果があるため、行政処分に該当します。
4. 妥当でない。行政指導を理由に処分を不当に遅らせることは違法となります(最判昭60.7.16)。
5. 妥当でない。確認処分に公定力があっても、実体法違反(違法建築)があれば、別途、違反是正命令を発することは可能です。
6. まとめと学習のアドバイス
今回の範囲は、行政法の基礎にして最重要パートです。
- 効力の定義:「公定力=取り消されるまで有効」「不可争力=期間過ぎたら争えない」を即答できるように。
- 分類の比較:「許可(自由回復・私法上有効)」と「認可(効力要件・私法上無効)」の違いを表で整理する。
特に「無許可営業の売買契約は有効か?」「無認可の農地売買は有効か?」という問いは、記述式でも頻出の論点です。「許可は取締りだから契約は有効、認可は効力発生要件だから契約は無効」という理屈(リーガルマインド)をしっかり身につけておきましょう。
よくある質問(FAQ)
- Q1. 「公定力」と「自力執行力」の違いは何ですか?
- 公定力は「違法でもとりあえず有効として扱われる力」で、自力執行力は「言うことを聞かない相手に強制執行できる力」です。すべての行政行為に公定力はありますが、自力執行力は法律の根拠がある場合(例:税金の滞納処分)にしか認められません。
- Q2. 運転免許は「許可」ですか「特許」ですか?
- 運転免許は講学上の「許可」です。道路交通法で一般的に禁止されている運転行為を、技能がある人にだけ解除してあげるものだからです。一方、タクシー事業の免許などは、特定の権利を与えるものとして「特許(または許可だが裁量が広い)」と解されることが多いです。
- Q3. 行政指導に従わなかったら罰則はありますか?
- 原則としてありません。行政指導は相手方の任意の協力を前提とするものであり、強制力がないからです。ただし、従わないことを理由に不利益な取扱い(報復的な処分)をすることは、行政手続法で禁止されています。
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