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講義12:【行政作用法】行政契約と行政調査を完全攻略!重要判例を網羅

行政法を学んでいると、「行政庁が一方的に命令する(行政行為)」場面ばかりが目立ちますが、実際には行政も私たちと同じように「契約」を結んだり、情報を集めるために「調査」を行ったりしています。

「水道を引くのは契約?それとも許可?」「警察官の職務質問はどこまで許されるの?」
こうした疑問は、行政法の「行政契約」「行政調査」という分野で扱われます。

この分野は、条文知識よりも「判例のロジック」が非常に重要です。特に、行政契約における「契約自由の原則の修正」や、行政調査における「任意調査の限界」は、記述式や多肢選択式でも狙われやすいポイントです。

今回の講義では、行政契約と行政調査の基本概念から、試験で頻出の重要判例まで、ストーリー仕立てでわかりやすく解説します。

💡 この記事で学べること

  • 行政契約の定義と具体例(水道供給は契約か処分か?)
  • 違法な「随意契約」の私法上の効力に関する判例
  • 公害防止協定の法的拘束力
  • 行政調査(任意・強制)の違いと限界
  • 所持品検査や自動車検問が適法とされる基準

1. 行政契約とは?(対等な関係での活動)

(1) 行政契約の意味と種類

行政契約とは、「行政主体が行政目的を達成するために、対等な立場で締結する契約」のことです。
行政行為(処分)が「上から目線の一方的な命令」であるのに対し、行政契約は「合意」に基づきます。

行政契約には、大きく分けて2つのタイプがあります。

タイプ 具体例 特徴
準備・調達行政に関する契約
  • 市役所の庁舎建設工事の請負契約
  • 事務用品の購入契約
  • 国有地の売却
行政が活動するための準備段階の契約。基本的には民間の契約と同じ性質を持ちます。
給付行政・規制行政に関する契約
  • 水道の供給契約
  • 公害防止協定
  • 建築協定の認可
国民にサービスを提供したり、公益のために規制を行ったりする契約。公法的な規律を受けることが多いです。
💡 試験のポイント:水道供給

私たちが水道を使うとき、役所に申し込みをしますが、これは「水道の使用許可処分」をもらっているわけではありません。
行政主体(水道事業者)との間で「給水契約(行政契約)」を結んでいるのです。したがって、原則として民法の契約のルールが適用されますが、次のような修正があります。

(2) 契約自由の原則の修正(水道法15条1項)

民間の契約なら「誰と契約するか」「契約するかしないか」は自由です(契約自由の原則)。
しかし、水道のようなライフラインを行政が提供する場合、好き勝手に「お前には売らない」とは言えません。

水道法15条1項:
「水道事業者は、正当な理由がなければ、給水契約の申込みを拒んではならない(契約締結強制)。」

重要判例:給水拒否の「正当な理由」(最判平11.1.21)

【事案】
マンション建設業者が給水申し込みをしましたが、市は「水不足が深刻化する恐れがある」として拒否しました。

【判旨】
このままでは近い将来、深刻な水不足が生じることが予測される場合、急激な需要増加を抑制するために契約を拒むことは、水道法15条1項の「正当な理由」に当たる
(※単なる事務処理の都合などでは拒否できませんが、物理的な水不足の懸念があれば拒否できるとしました。)

(3) 公共事業と入札制度

役所が工事を発注する場合、税金を使うため「公正さ」と「経済性(安く済ませること)」が求められます。
そのため、地方自治法などは契約方法について以下のルールを定めています。

  • 一般競争入札(原則):誰でも参加でき、一番有利な条件(安い価格など)を出した人と契約する。
  • 指名競争入札:役所が選んだ業者だけで競争させる。
  • 随意契約(ずいいけいやく):競争させず、役所が特定の業者を選んで契約する(例外)。

重要判例:違法な随意契約の効力(最判昭62.5.19)

【論点】
本来は「一般競争入札」でやるべきなのに、違法に「随意契約」で特定の業者と契約してしまった場合、その契約は無効になるか?

【判旨】
法令に違反して締結された契約であっても、私法上当然に無効になるわけではない(原則有効)
ただし、業者が違法であることを知っていたり、癒着があったりするなど、「法令の趣旨を没却するような特段の事情」がある場合に限り、無効となる。

(理由:契約がいちいち無効になると、取引の安全が害されるからです。)

(4) 公害防止協定の法的拘束力

地方公共団体が企業と結ぶ「公害防止協定」は、法律よりも厳しい基準を定めることがあります。これは単なる紳士協定(努力目標)なのでしょうか?

重要判例:公害防止協定の効力(最判平21.7.10)

【判旨】
公害防止協定は、法的拘束力のある契約である。
したがって、協定に違反した場合、自治体は協定に基づいて操業停止などを求めることができる。

2. 行政調査とは?(情報の収集活動)

(1) 行政調査の意味と分類

行政調査とは、行政機関が決定(処分など)を行うために必要な情報を集める活動のことです。
(例)税務調査、保健所の立ち入り検査、警察官の職務質問など。

行政調査は、相手方の協力義務の程度によって2つに分類されます。

分類 定義 法的根拠 具体例
任意調査 相手方の任意の協力のみによって行われる調査。強制力はない。 不要
(組織法上の権限があればできる)
アンケート調査、任意の事情聴取、職務質問(原則)
強制調査 相手方に受忍義務(我慢する義務)を課し、拒否すると罰則があったり、実力行使ができたりする調査。 必要
(法律の留保)
税務調査(質問検査権)、立入検査
💡 間接強制

税務調査などは、拒否すると「罰金」などが科される場合があります。これを「間接強制」といいます。手錠をかけて無理やり調べるような「直接強制」ではありませんが、法的には強制調査の一種(広義の強制)として扱われ、法律の根拠が必要です。

(2) 任意調査の限界(職務質問・所持品検査)

警察官職務執行法に基づく職務質問は、あくまで「任意」の手段です。しかし、相手が怪しい場合、どこまで踏み込んでいいのでしょうか?

重要判例:米子銀行強盗事件(最判昭53.9.7)

【事案】
警察官が、挙動不審な男のポケットに手を入れ、承諾なしに所持品を取り出して検査した。

【判旨】
所持品検査は、原則として承諾を得て行うべきである。
しかし、捜索(令状が必要な強制処分)に至らない程度の行為であれば、以下の要件を満たす場合、承諾がなくても許容される
① 必要性・緊急性があること。
② 個人の法益侵害と公共の利益とのバランス(権衡)がとれていること。
③ 具体的状況のもとで「相当」と認められる限度であること。

※本件では、強盗の容疑が濃厚であり、凶器を持っている可能性があったため、ポケットの外から触ったり、手を入れて取り出したりした行為は「適法」とされました。

(3) 自動車検問の適法性

警察が道路で一斉に行う検問は、何もしていないドライバーも止めるため、移動の自由を侵害しないかが問題となります。

重要判例:自動車一斉検問(最決昭55.9.22)

【判旨】
自動車検問は、国民の自由への干渉が及ぶため、無制限には許されない。
しかし、以下の要件を満たす限り、「任意手段」として適法である。
① 交通違反の多発地域などで行うこと。
② 短時間の停止を求めるものであること。
③ 相手方の任意の協力を求める形で行われること。
④ 運転者の自由を不当に制約しない方法・態様であること。

(4) 犯罪捜査と行政調査の区別

行政調査(税務調査など)の権限を、犯罪捜査(刑事訴追)のために使ってはいけません。目的が違うからです。

重要判例:川崎民商事件(最判昭47.11.22)

【判旨】
所得税法上の質問検査権(税務調査)は、脱税などの犯罪捜査のために行使することは許されない。
しかし、税務調査の結果として得られた資料が、後に犯罪の証拠として利用されることがあっても、直ちに違法とはならない

(※最初から犯罪捜査目的で税務調査をするのはダメですが、純粋な税務調査の結果、脱税の証拠が見つかって警察に渡すのはOKということです。)

(5) 行政調査の手続(事前通知など)

税務調査に来る前に、「〇月〇日に行きます」という事前通知は憲法上必須なのでしょうか?

重要判例:荒川民商事件(最決昭48.7.10)

【判旨】
税務調査において、事前通知や理由の告知を行うことは、法律上の一律の要件ではない。
(※抜き打ち調査をしないと、証拠隠滅される恐れがあるからです。憲法31条や35条の令状主義は、行政手続にはそのまま適用されないと解されています。)

3. 実戦問題で確認!

問1:行政契約と判例
行政契約に関する次の記述のうち、最高裁判所の判例の趣旨に照らし妥当なものはどれか。
1. 水道法は、水道事業者に対し正当な理由がない限り給水契約の申込みを拒んではならないと定めているが、マンション建設に伴う急激な水需要の増加により水不足が予測される場合であっても、これを理由に給水契約を拒むことは許されない。
2. 地方自治法が随意契約を制限し、一般競争入札を原則としている趣旨に鑑みれば、法令に違反して随意契約の方法により締結された契約は、私法上も当然に無効となる。
3. 地方公共団体が産業廃棄物処理業者との間で締結した公害防止協定において、法令の定めよりも厳しい規制や操業停止義務を課すことは、法律の留保の原則に反し、法的拘束力を持たない紳士協定にとどまる。
4. 地方公共団体が、その出資する第三セクターの金融機関からの借入れについて損失補償契約を締結することは、当該契約の締結が公益上の必要性に欠け、裁量権の逸脱・濫用に当たる場合には、私法上無効となる場合がある。
5. 建築基準法に基づく建築協定は、土地所有者等の合意により成立するものであるが、行政庁の認可を受けることによって初めて効力を生じるため、その法的性質は行政契約ではなく行政処分(認可)に分類される。
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正解 4

解説:

1. 妥当でない。水不足が予測される場合の給水拒否は「正当な理由」に該当し、適法です(最判平11.1.21)。

2. 妥当でない。違法な随意契約も、原則として私法上は有効です(最判昭62.5.19)。

3. 妥当でない。公害防止協定は法的拘束力を持つ契約として有効です(最判平21.7.10)。

4. 妥当である。損失補償契約の有効性は、執行機関の裁量権の逸脱・濫用の有無によって判断されます(最判平23.10.27)。

5. 妥当でない。建築協定は、私人間で結ばれる契約的性質を持ちますが、行政庁の認可が要件となっています。しかし、本問の文脈では「行政契約」の項目で扱われることが多く、選択肢4が明確に正しい判例知識であるため、消去法でも4を選びます。

問2:行政調査と判例
行政調査に関する次の記述のうち、最高裁判所の判例の趣旨に照らし妥当でないものはどれか。
1. 警察官職務執行法に基づく職務質問に付随して行う所持品検査は、相手方の承諾を得て行うのが原則であるが、承諾がない場合であっても、捜索に至らない程度の行為であれば、必要性、緊急性等を考慮して許容される場合がある。
2. 警察官による自動車の一斉検問は、相手方の任意の協力を求める形で行われ、運転者の自由を不当に制約しない方法で行われる限り、適法な職務執行として許容される。
3. 税務調査(質問検査権)は、犯罪の証拠資料を収集することを目的として行われることは許されないが、調査の結果取得された資料が後に犯則事件の証拠として利用されたとしても、遡って違法となるわけではない。
4. 所得税法に基づく税務調査を行うにあたっては、憲法35条の令状主義の趣旨が及ぶため、裁判官の発する令状がなければ、罰則による間接強制を伴う調査を行うことはできない。
5. 税務調査の実施にあたり、日時や場所を事前通知することなく行うことは、直ちに違法となるものではなく、法律上一律の要件とはされていない。
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正解 4

解説:

1, 2, 3, 5はすべて判例の趣旨通りで正しい記述です。

4. 妥当でない。行政調査(税務調査など)には、原則として憲法35条の令状主義は適用されません(川崎民商事件)。したがって、令状なしで間接強制を伴う調査を行うことは可能です。

問3:所持品検査の適法性
警察官による所持品検査の適法性について、判例(最判昭53.9.7)が示した基準に含まれない要素はどれか。
1. 所持品検査の必要性
2. 事態の緊急性
3. 個人の法益と公共の利益との権衡(バランス)
4. 裁判官の令状の有無
5. 具体的状況下での相当性
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正解 4

解説:

判例は、所持品検査が許容される要件として「必要性」「緊急性」「法益権衡」「相当性」を挙げています。職務質問に伴う所持品検査は行政警察活動(または捜査の端緒)であり、令状(4)は要件とされていません(令状が必要なのは強制処分である捜索・差押えの場合です)。

4. まとめと学習のアドバイス

今回の分野は、判例の結論を知っているかどうかが勝負です。

  • 行政契約:「水道拒否=正当な理由あればOK」「違法な随意契約=原則有効」。
  • 行政調査:「所持品検査=承諾なしでも限界内でOK」「一斉検問=適法」「税務調査=令状不要・事前通知不要」。

特に「行政調査」は、憲法(人権)や刑事訴訟法とも関連する分野ですが、行政法では「行政目的達成のための必要最小限の実力行使なら許される」という緩やかな基準が採用されている点を理解しておきましょう。

よくある質問(FAQ)

Q1. 「随意契約」とは何ですか?
役所が競争入札を行わずに、特定の業者を任意に選んで契約することです。緊急時や少額の場合などには認められますが、原則は公平性を保つために競争入札が必要です。違法に随意契約を行った場合でも、契約自体は原則有効ですが、担当職員の懲戒処分や住民訴訟の対象になることがあります。
Q2. 職務質問でポケットに手を入れるのは強制処分ではないのですか?
刑事訴訟法上は、相手の意思に反して身体に触れる行為は「捜索」などの強制処分に当たり、令状が必要です。しかし、判例(米子銀行強盗事件)は、職務質問に伴う所持品検査について、捜索に至らない程度の軽微な実力行使であれば、必要性や緊急性を考慮して「任意手段の限界内」として許容しました。非常に微妙なラインの判断です。
Q3. 税務調査を拒否したらどうなりますか?
税務調査には受忍義務があり、正当な理由なく拒否したり嘘をついたりすると、罰則(1年以下の懲役または50万円以下の罰金など)が科される可能性があります。これを「間接強制」といいます。無理やり金庫を開けるような直接的な実力行使はできませんが、罰則を背景に心理的な強制力を働かせています。

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