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講義19:【行政手続法】行政指導のルールと中止等の求めを完全攻略

「役所から『この書類を出してください』と言われたけど、これって義務なの? それとも単なるお願い?」
行政書士の実務でも、試験勉強でも、この「行政指導」の扱いは非常に重要かつ悩ましいテーマです。

行政指導は、法的には「単なるお願い(任意)」ですが、実態としては「従わないと許認可が下りないかも…」というプレッシャーを伴うことが多く、過去には行き過ぎた指導が裁判で争われることもありました(有名な「武蔵野市マンション事件」など)。

また、平成26年の法改正で導入された「行政指導の中止等の求め」「処分等の求め」は、国民が行政に対してアクションを起こす新しい仕組みとして、記述式試験でも狙われやすい超重要ポイントです。

今回の講義では、行政指導に関するルール(一般原則・方式)と、違法な指導への対抗手段について、具体例や判例を交えて徹底解説します。

💡 この記事で学べること

  • 行政指導の3原則(任務範囲内・任意性・不利益取扱禁止)
  • 「建築確認の留保」が違法となるライン(判例知識)
  • 口頭で指導されたときに「書面」を請求できるか?
  • 「行政指導の中止等の求め」と「処分等の求め」の要件比較

1. 行政指導とは?(基本と分類)

(1) 行政指導の定義(復習)

行政指導とは、行政機関がその任務・所掌事務の範囲内において、一定の行政目的を実現するために、特定の者に一定の作為(何かすること)または不作為(しないこと)を求める「指導、勧告、助言」などの行為をいいます(法2条6号)。

最大の特徴は、「処分に該当しない(=法的拘束力がない)」という点です。
あくまで相手方の「任意の協力」によって実現されるものです。

(2) 機能による分類

行政指導は、その目的によって大きく3つに分類されます。

分類 内容 具体例
規制的行政指導 国民の活動を制限・規制しようとするもの。 「騒音防止のため、夜間の工事は控えてください」
「違法建築物を是正してください」
助成的行政指導 国民の活動をサポートするもの。 中小企業への経営アドバイス、補助金申請の案内
調整的行政指導 私人間(住民と業者など)の対立を調整するもの。 マンション建設業者に対し、近隣住民との話し合いを求める指導

2. 行政指導の一般原則(32条)

行政指導を行う際、行政機関が絶対に守らなければならない3つの原則があります。これに違反すると違法となります。

(1) 任務・所掌事務の範囲内であること

行政機関は、自分の担当外のことに口を出してはいけません。
(例)文部科学省が、飲食店の衛生管理について指導することはできません(それは厚生労働省や保健所の仕事です)。

(2) 任意の協力によること(任意性の原則)

これが最も重要です。行政指導はあくまで「お願い」なので、相手方を無理やり従わせてはいけません。
相手方が「従いません」と明確に拒否した場合は、それ以上執拗に指導を続けることは許されません。

(3) 不利益取扱いの禁止

行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱い(報復措置)をしてはいけません。
(例)「指導に従わないなら、別の件での許可申請を不許可にするぞ」といった扱いは違法です。

重要判例:武蔵野市教育施設負担金事件(最判平5.2.18)

【事案】
武蔵野市には「マンションを建てる業者は、市に教育施設負担金(寄付金)を払ってください」という指導要綱(行政指導のルール)がありました。
ある業者が「寄付金は払いたくない」と拒否したところ、市は「それなら水道を使わせない」として給水契約を拒否しました。

【判旨】
寄付金を求めること自体は、任意の協力である限り適法である。
しかし、水道の供給拒否という「制裁措置」を背景に、事実上強制することは、行政指導の限度を超えており、違法な公権力の行使である。

💡 ポイント

形式が「指導」であっても、実質的に強制力を持たせている場合は、違法となります。

3. 申請・許認可に関連する行政指導(33条・34条)

行政指導の中でも特にトラブルになりやすいのが、「許認可権限」を背景にした指導です。
「言うことを聞かないと許可を出さないぞ」という圧力を防ぐために、特別なルールが設けられています。

(1) 申請取下げ・内容変更の指導(33条)

場面:
Aさんが建築確認の申請をしました。しかし役所は「近隣住民が反対しているから、申請を取り下げてくれませんか?」と指導しました。

ルール:
申請者が「指導には従いません(申請通り審査してください)」という意思を表明した場合、行政機関は指導を中止して、直ちに審査に入らなければなりません。
これを無視して指導を継続し、審査を遅らせることは、申請者の権利を妨害するものとして禁止されています。

重要判例:品川マンション事件(最判昭60.7.16)

【論点】
行政指導(住民との話し合い)が終わっていないことを理由に、建築確認処分を「留保(先送り)」することは許されるか?

【判旨】
原則として、確認処分を留保することは違法である。
ただし、建築主が行政指導に「任意に協力している」間は、留保も適法となる。
しかし、建築主が「もう協力しない、早く処分してくれ」と不服従の意思を明確にした後は、直ちに処分を行わなければならず、なおも留保し続けることは違法となる。

(2) 許認可権限の不行使をほのめかす指導(34条)

場面:
「この指導に従わないと、許可を取り消すぞ」と脅すケース。

ルール:
行政機関が、許認可をする権限や、許可を取り消す権限などを持っている場合でも、以下のケースでは、その権限を行使できると脅してはいけません。
① そもそも権限を行使できる要件を満たしていない場合。
② 権限を行使する意思がない場合。

つまり、「実際には処分できない(またはする気がない)のに、処分できるフリをして脅して従わせる」ことは禁止です。

4. 行政指導の方式(35条・36条)

行政指導を行う際の「手続き」についてのルールです。

(1) 明確化義務(35条1項)

行政指導をする者は、相手方に対して、以下の3点を明確に示さなければなりません。

  1. 趣旨(何のために)
  2. 内容(何をしてほしいのか)
  3. 責任者(誰が指導しているのか)

(2) 書面の交付義務(35条3項)

行政指導は口頭で行うことも可能ですが、言った言わないのトラブルになりがちです。
そこで、相手方から「書面をください」と求められたときは、原則として書面(行政指導書など)を交付しなければなりません。

例外(交付しなくてよい場合):
① その場で完了する行為を求める場合(例:警察官が「ここから下がってください」と言う場合)。
② 既に文書等で通知されている内容と同一の場合。

(3) 行政指導指針(36条)

同一の行政目的で、「複数の者」に対して行政指導をしようとする場合(例:業界全体への指導など)、あらかじめ「行政指導指針(マニュアル)」を定め、かつ、公表しなければなりません。

💡 処分基準との違い

処分基準(不利益処分):設定・公表は努力義務
行政指導指針(複数対象):設定・公表は法的義務
※行政指導は法律の根拠がなくてもできるため、せめて基準くらいは明確にしておけ、という趣旨です。

5. 行政指導の中止等の求め・処分等の求め(平成26年改正)

ここが近年の試験で最も熱い分野です。国民側から行政に対して「おかしいぞ!」と声を上げる仕組みです。

(1) 行政指導の中止等の求め(36条の2)

「法律違反だと言われて指導を受けているけど、自分は違反していないはずだ。この指導はやめてほしい」という場合に使います。

対象 法令違反の是正を求める行政指導
(※根拠が法律にあるものに限る。条例根拠や、根拠のない指導は対象外)
申出権者 その行政指導を受けている相手方
要件 その行政指導が、法律の要件に適合しない(違法だ)と思うとき
手続 申出書を提出する(口頭は不可)
行政の対応 必要な調査を行い、指導が要件に適合しないと認めたら、指導を中止しなければならない
💡 注意点

この制度は、「法律」に基づく指導が対象です。単なる助言や、条例に基づく指導には使えません。
また、すでに聴聞や弁明の手続きを経て行われた指導については、対象外となります(すでに反論の機会があったからです)。

(2) 処分等の求め(36条の3)

「あそこで違法な営業をしている店があるのに、役所は何もしていない。早く処分してくれ!」という場合に使います。

対象 是正のためにされるべき処分または行政指導
(※根拠が法律にあるものに限る)
申出権者 何人(なんぴと)も
(被害者だけでなく、誰でもOK)
要件 法令違反の事実があるのに、処分や指導がされていないと思うとき
手続 申出書を提出する(口頭は不可)
行政の対応 必要な調査を行い、必要があると認めたら、処分や指導をしなければならない
💡 比較のポイント

中止等の求め:自分が指導されているとき。「やめてくれ」と言う。
処分等の求め:他人が違反しているとき。「あいつを処分してくれ」と言う(自分への処分を求めることも理論上あり得ますが、主眼は是正要求です)。

6. 実戦問題で確認!

問1:行政指導の原則と判例
行政指導に関する次の記述のうち、判例および行政手続法の規定に照らし妥当なものはどれか。
1. 行政指導は、相手方の任意の協力によって実現されるものであるから、相手方がこれに従わなかったことを理由として不利益な取扱いをすることは、いかなる場合も許されない。
2. 地方公共団体が、要綱に基づく行政指導として教育施設負担金の納付を求めた場合において、これに応じない業者に対して水道の給水契約を拒否することは、違法な公権力の行使に当たる。
3. 建築主事が、建築確認の申請に対して、付近住民との話し合いを求める行政指導を行うことは許されるが、建築主が不服従の意思を表明した後であっても、紛争が解決するまでは確認処分を留保することができる。
4. 行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従う意思がない旨を表明したときは、行政目的を達成するために必要最小限度の範囲内であれば、執拗に説得を続けても権利侵害とはならない。
5. 行政指導は、行政機関の任務または所掌事務の範囲内で行われる必要があるが、法律の根拠がなければ行うことができず、組織法上の根拠のみでは足りない。
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正解 2

解説:

1. 妥当でない。「いかなる場合も」という点が誤り。行政指導に従わないことが、同時に法令違反を構成する場合などは、法令に基づく不利益処分(営業停止など)をすることは可能です。32条2項が禁止しているのは「指導に従わなかったこと『のみ』を理由とする」不利益取扱いです。

2. 妥当である。武蔵野市マンション事件(最判平5.2.18)の判旨通りです。実質的な強制にあたり違法です。

3. 妥当でない。品川マンション事件(最判昭60.7.16)により、不服従の意思を明確にした後の留保は違法となります。

4. 妥当でない。申請取下げ等の指導において、不服従の意思表明後の継続は、権利行使の妨害として禁止されます(33条)。

5. 妥当でない。行政指導は「処分」ではないため、法律の根拠(作用法上の根拠)は不要です。組織法上の根拠(所掌事務範囲内)があれば可能です。

問2:行政指導の方式
行政指導の方式に関する次の記述のうち、行政手続法の規定に照らし正しいものはどれか。
1. 行政指導に携わる者は、その相手方に対し、当該行政指導の趣旨及び内容を明確に示さなければならないが、責任者まで示す必要はない。
2. 行政指導が口頭でされた場合において、その相手方から当該行政指導の趣旨等を記載した書面の交付を求められたときは、行政上特別の支障がない限り、これを交付しなければならない。
3. 同一の行政目的を実現するため一定の条件に該当する複数の者に対し行政指導をしようとするときは、行政機関は、あらかじめ行政指導指針を定めなければならないが、これを公表するかどうかは行政機関の裁量に委ねられている。
4. 許認可等をする権限を行使し得る旨を示して行政指導をする場合、相手方に対してその根拠となる法令の条項を示す必要はあるが、要件や適合する理由まで示す必要はない。
5. 申請の取下げを求める行政指導を行う場合、申請者が当該指導に従う意思がない旨を表明したとしても、行政庁は申請に対する審査を開始する義務を負わない。
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正解 2

解説:

1. 誤り。趣旨、内容、責任者の3つを示す必要があります(35条1項)。

2. 正しい。書面交付義務の規定通りです(35条3項)。

3. 誤り。行政指導指針は、定めたら公表しなければなりません(36条)。

4. 誤り。根拠条項、要件、適合する理由のすべてを示す必要があります(35条2項)。

5. 誤り。不服従の意思表明後は、指導を中止し、審査を行わなければなりません(33条、7条)。

問3:中止等の求めと処分等の求め
行政手続法における「行政指導の中止等の求め」および「処分等の求め」に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
1. 「行政指導の中止等の求め」を行うことができるのは、法令に違反する行為の是正を求める行政指導を受けている相手方に限られ、その根拠が条例にある場合も対象となる。
2. 「処分等の求め」を行うことができるのは、法令違反の事実により自己の権利利益を侵害された者に限られ、何人も行うことができるわけではない。
3. 「行政指導の中止等の求め」および「処分等の求め」は、いずれも口頭で行うことが認められている。
4. 「行政指導の中止等の求め」があった場合、行政機関は必要な調査を行い、当該行政指導が法律の要件に適合しないと認めるときは、その中止その他必要な措置をとらなければならない。
5. 「処分等の求め」があった場合、行政庁は速やかに当該処分を行わなければならず、調査の結果、処分が必要ないと判断した場合でも、その理由を申出人に通知しなければならない。
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正解 4

解説:

1. 誤り。対象となるのは根拠が「法律」にある行政指導に限られます。条例根拠は対象外です。

2. 誤り。「処分等の求め」は「何人も」行うことができます。

3. 誤り。いずれも申出書の提出が必要です(口頭不可)。

4. 正しい。調査の結果、違法なら中止義務が生じます(36条の2第3項)。

5. 誤り。調査の結果、必要と認める時に処分をすれば足ります。また、処分をしない場合の理由通知義務までは法律上規定されていません(条例等で定めている場合は別ですが、行政手続法上は規定なし)。

7. まとめと学習のアドバイス

行政指導の分野は、以下のポイントを整理しておけば怖くありません。

  • 原則:「任意性」が命。無理強いはダメ。
  • 方式:「責任者」も明示。「書面」と言われたら出す。「指針」は公表義務。
  • 新制度:「中止等の求め(相手方・法律根拠)」と「処分等の求め(何人も・法律根拠)」の違い。

特に「中止等の求め」と「処分等の求め」は、記述式で「誰が、どのような場合に、何をすることができるか」と問われる可能性が高いです。「法律に根拠がある場合」という限定条件を書き漏らさないように注意しましょう。

よくある質問(FAQ)

Q1. 行政指導に「処分性」はありますか?
原則としてありません。行政指導は任意のものであり、法的拘束力がないからです。したがって、行政指導に対して取消訴訟を提起しても却下されます。ただし、病院開設中止勧告(最判平17.7.15)のように、それに従わないと事実上事業ができなくなるような特別な事情がある場合には、例外的に処分性が認められることがあります。
Q2. 「中止等の求め」は、条例に基づく行政指導には使えないのですか?
はい、使えません。行政手続法36条の2は「その根拠となる規定が法律に置かれているものに限る」と明記しています。条例に基づく行政指導に対して文句を言いたい場合は、その自治体の「行政手続条例」に同様の規定があるかを確認する必要があります。
Q3. 行政指導指針の公表は「努力義務」ですか?
いいえ、「法的義務」です(36条)。複数の者に行政指導をする場合、公平性を保つために基準(指針)をあらかじめ定め、公表しなければなりません。処分基準(努力義務)と混同しやすいので注意してください。

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