「国会が法律を作る」というのは常識ですが、実際には、法律の細かい中身(政令や省令など)は行政機関が決めています。
しかし、役所の担当者が密室で勝手にルールを決めてしまったら、国民生活に合わない変な規制ができたり、特定の業界に有利なルールができたりする恐れがあります。
そこで登場するのが「意見公募手続(いけんこうぼてつづき)」、いわゆるパブリックコメント(パブコメ)です。
「これからこんなルールを作ろうと思うけど、みんなの意見はどう?」と広く国民に問いかけ、集まった意見を考慮して最終決定をする仕組みです。
行政書士試験において、この分野は「手続きの流れ(期間や公示事項)」と「適用除外(やらなくていい場合)」が頻出ポイントです。
今回の講義では、命令等を定める際の一般原則から、パブコメの具体的なフロー、そして例外規定までを網羅的に解説します。
- 命令等を定める際の2つの一般原則(適合性と適正確保)
- 意見公募手続の全体フロー(案の公示~結果の公示)
- 意見提出期間の「30日ルール」と短縮できるケース
- 試験で狙われる「適用除外」のパターン整理
1. 命令等を定める場合の一般原則(38条)
意見公募手続に入る前に、まず行政機関がルール(命令等)を作る際の心構えとして、2つの原則が定められています。
(1) 根拠法令の趣旨への適合(法的義務)
命令等制定機関は、命令等を定めるに当たっては、当該命令等がこれを定める根拠となる法令の趣旨に適合するものとなるようにしなければなりません(38条1項)。
これは当然のことです。法律が「A」と言っているのに、下位の命令で「B」と決めてはいけません(委任の範囲の逸脱禁止)。
(2) 内容の適正確保(努力義務)
命令等制定機関は、命令等を定めた後においても、実施状況や社会経済情勢の変化等を勘案し、必要に応じ、その内容について検討を加え、その適正を確保するよう努めなければなりません(38条2項)。
一度作ったルールも、時代遅れになったら見直しましょう、という努力義務です。
2. 意見公募手続(パブリックコメント)の概要
意見公募手続とは、行政機関が「命令等」を定めようとする場合に、あらかじめその案を公表し、広く一般から意見を募る手続きのことです。
1. 法律に基づく命令・規則(政令、省令など)
2. 審査基準(許認可の基準)
3. 処分基準(不利益処分の基準)
4. 行政指導指針(行政指導のマニュアル)
※これらを作る時は、原則としてパブコメが必要です。
手続きの全体フロー
手続きは以下の4ステップで進みます。
- 案の公示(こんなルールを作ります)
- 意見募集(意見をください)
- 意見の考慮(意見を参考に内容を検討します)
- 結果の公示(こんなルールに決めました&意見への回答)
3. Step1:命令等の案の公示(39条)
命令等制定機関は、意見公募手続を実施するときは、以下の事項をあらかじめ公示しなければなりません。
- 命令等の案(具体的かつ明確な内容)
- 関連資料
- 意見の提出先・提出期間
「広く一般の意見を求める」ため、日本国民だけでなく、外国人や法人も意見を提出できます。
4. Step2:意見提出期間(30日ルール)
意見を募集する期間は、原則として「公示の日から起算して30日以上」でなければなりません(40条1項)。
今日発表して「明日までに意見をくれ」と言われても無理だからです。
30日を下回ることができる例外
ただし、以下の場合は30日未満でも許されます。
- 緊急性がある場合(30日も待っていられない)
- 軽微な変更である場合
- 他の法令で手続が定められている場合
※この場合でも、案の公示の際に「期間を短縮する理由」を明らかにしなければなりません。
5. Step3:提出意見の考慮(42条)
集まった意見は、単に聞くだけでは意味がありません。
行政庁は、提出された意見を「十分に考慮」しなければなりません。
※あくまで「考慮」であり、意見に従う義務まではありませんが、無視することは許されません。
6. Step4:結果の公示(43条)
最終的に命令等を制定したときは、「公布(公表)と同時期」に、以下の事項を公示しなければなりません。
- 命令等の題名
- 案の公示の日
- 提出意見(意見がなかった場合は「なし」と公示)
- 提出意見を考慮した結果(意見に対する行政庁の考え方)
大量の意見が来た場合、すべてをそのまま載せるのは大変なので、「整理又は要約」して公示することができます。
ただし、その場合でも、原文は事務所に備え付けるなどして見られるようにしておかなければなりません。
制定しなかった場合の公示
意見公募をしたけれど、「やっぱりこのルールを作るのはやめた」という場合も、速やかにその旨(やめたこと)を公示しなければなりません。
7. 意見公募手続の適用除外(やらなくていい場合)
ここが試験の最重要ポイントです。原則はパブコメ必須ですが、例外的に「やらなくていいケース」が多数規定されています(39条4項)。
(1) 性質上なじまないもの
- 公益上、緊急に定める必要がある場合
(例:感染症対策で緊急に政令を作る場合など。実施困難なとき。) - 予算・決算に関すること
(例:予算で決まった給付金の支給要綱など。国会の議決を経ているため。) - 金銭の額・率の算定
(例:年金の改定率など、法律の計算式に従って機械的に決まるもの。) - 公務員の給与・勤務条件
(内部的なことなので。)
(2) 他の手続きを経ているもの
- 委員会等の議を経て定める場合
(例:審議会でパブコメに準じた手続きを行っている場合。二度手間になるから。)
※ただし、審議会等がパブコメをやっていないなら、行政庁がやる必要があります。 - 他の行政機関がパブコメを実施済みの場合
(実質的に同一の命令等であるとき。)
(3) 軽微な変更など
- 法律の施行期日を定める政令
(いつからスタートするか決めるだけ。) - 根拠法令の廃止に伴う廃止
(親亀(法律)がこけたら子亀(命令)もこけるのは当然だから。) - 用語の整理などの軽微な変更
適用除外に該当してパブコメを実施しなかった場合でも、命令等を公布する際には、「パブコメを実施しなかった旨」と「その理由」を公示しなければなりません(43条5項)。
(例:「緊急を要するため実施しなかった」と公表する。)
8. 実戦問題で確認!
1. 命令等制定機関は、命令等を定めようとする場合には、当該命令等の案を公示しなければならないが、関連資料まで公示する必要はない。
2. 意見提出期間は、原則として公示の日から起算して30日以上でなければならないが、やむを得ない理由があるときは30日を下回ることができる。
3. 意見公募手続は、日本国民から意見を聴取するための制度であるため、外国法人や外国人は意見を提出することができない。
4. 命令等制定機関は、提出された意見を十分に考慮しなければならないが、考慮した結果、意見を採用しなかった場合には、その理由を公示する義務はない。
5. 意見公募手続を実施した結果、命令等を定めないこととした場合には、その旨を公示する必要はなく、手続きはそのまま終了する。
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正解 2
解説:
1. 誤り。命令等の案だけでなく、関連資料も公示しなければなりません(39条1項)。
2. 正しい。原則30日以上ですが、理由を示せば短縮可能です(40条1項)。
3. 誤り。「広く一般の意見」を求めるため、外国人や法人も対象です。
4. 誤り。結果の公示において、提出意見と定めた命令等との差異(不採用の理由など)を公示しなければなりません(43条1項4号)。
5. 誤り。定めないこととした場合も、その旨を速やかに公示しなければなりません(43条4項)。
1. 法律の施行期日を定める政令を制定する場合
2. 公益上、緊急に命令等を定める必要があるため、手続を実施することが困難である場合
3. 予算の定めるところにより金銭の給付決定を行うために必要となる金額の算定方法を定める命令等を制定する場合
4. 申請に対する処分の審査基準を定める場合であって、行政上特別の支障があるとき
5. 他の行政機関が意見公募手続を実施して定めた命令等と実質的に同一の命令等を定める場合
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正解 4
解説:
1, 2, 3, 5はすべて適用除外事由に該当します(39条4項)。
4. 該当しない(実施が必要)。審査基準の設定は意見公募手続の対象です。「行政上特別の支障があるとき」に免除されるのは審査基準の「公表(5条3項)」であり、意見公募手続(制定プロセス)とは別の話です。審査基準を定めること自体が適用除外になるのは「法令の規定や慣行により公にされるもの以外のもの(=公表されない内部基準)」の場合などに限られますが、通常の審査基準は対象となります。
1. 命令等制定機関は、命令等の公布と同時期に、命令等の題名および案の公示の日を公示しなければならない。
2. 提出された意見がなかった場合には、その旨(意見なし)を公示しなければならない。
3. 提出された意見については、その整理または要約を公示することができるが、その場合は当該意見の原文を事務所に備え置くなどして公にしなければならない。
4. 提出された意見を公示することにより第三者の利益を害するおそれがあるときは、当該意見の全部または一部を除くことができる。
5. 適用除外事由に該当したため意見公募手続を実施せずに命令等を定めた場合には、結果の公示を行う必要は一切ない。
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正解 5
解説:
1, 2, 3, 4はすべて正しい記述です。
5. 妥当でない。適用除外により実施しなかった場合でも、命令等の公布と同時期に「命令等の題名・趣旨」および「実施しなかった旨とその理由」を公示しなければなりません(43条5項)。完全スルーは許されません。
9. まとめと学習のアドバイス
意見公募手続は、以下の数字とキーワードを押さえれば得点源になります。
- 期間:原則30日以上。短縮時は理由公表。
- 公示:「案+資料」→「結果+理由」。意見ゼロでも公示。
- 除外:緊急、予算・金銭、施行期日、委員会で実施済み。
- 義務:実施しなかった場合も「理由」を公示する義務がある。
特に「適用除外」は、選択肢の一つとして頻繁に登場します。「お金の計算(金銭算定)やスケジュールの決定(施行期日)にパブコメはいらない」といったイメージで記憶しておくと、現場での判断が早くなります。
よくある質問(FAQ)
- Q1. 意見公募手続は「法的義務」ですか?
- はい、原則として法的義務です(39条1項「求めなければならない」)。努力義務ではありません。ただし、適用除外に該当する場合は免除されます。
- Q2. 地方公共団体の条例制定にパブコメは必要ですか?
- 行政手続法上は適用除外です(3条3項)。地方公共団体の命令等(条例や規則)制定については、各自治体の「行政手続条例」で定めることになっています(努力義務)。したがって、国の法律に基づく命令等とは扱いが異なります。
- Q3. 提出された意見には必ず従わないといけませんか?
- いいえ、従う義務はありません。行政庁には「考慮義務」がありますが、最終的な決定権は行政庁にあります。ただし、なぜその意見を採用しなかったのかという「理由」を結果公示の際に説明する必要があります。
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