「訴訟要件(処分性や原告適格など)」をクリアして、いよいよ裁判所の中に入ることができました。
では、法廷では具体的にどのようなルールで審理が進められるのでしょうか?
「行政訴訟も裁判なんだから、民事裁判と同じでしょ?」
基本的にはその通りです。しかし、行政事件には「公益性」や「行政庁と国民の間の情報格差」といった特殊事情があるため、民事訴訟とは異なる独自のルール(特則)が設けられています。
例えば、裁判所が積極的に資料提出を求めたり(釈明処分の特則)、関係のない第三者を無理やり裁判に参加させたり(訴訟参加)することができます。
今回の講義では、取消訴訟の審理プロセスにおける「行政訴訟ならではのルール」を中心に、試験で問われるポイントを解説します。
- 要件審理と本案審理の違い
- 「職権証拠調べ」はできるが「職権探知」はできない?
- 釈明処分の特則(行政庁への資料提出要求など)
- 第三者の訴訟参加と再審の訴え
- 違法判断の基準時(処分時説)
- 関連請求の移送・併合・訴えの変更
- 本試験レベルの多肢選択式問題による実戦演習
1. 取消訴訟の審理の基本構造
取消訴訟の審理は、大きく2つの段階に分かれます。
(1) 要件審理と本案審理
- 要件審理:
「この訴えは裁判をするための条件(訴訟要件)を満たしているか?」をチェックします。
満たしていなければ「却下(門前払い)」となります。 - 本案審理:
「行政庁の処分は違法か、適法か?」という中身を審理します。
違法なら「認容(取消し)」、適法なら「棄却」となります。
(2) 民事訴訟の例による(7条)
行政事件訴訟法に規定がない事項については、「民事訴訟の例」によります。
つまり、基本的には原告と被告が対等な立場で主張・立証し合う「当事者主義」や「弁論主義(当事者が出した証拠だけで判断する)」が採用されています。
しかし、行政事件は公益に関わるため、裁判所が少しお節介を焼くことができる仕組み(職権証拠調べなど)が用意されています。
2. 審理における独自のルール(民訴法との違い)
(1) 職権証拠調べ(24条)
民事訴訟では、当事者が証拠を出さなければ負けるだけですが、行政訴訟では、裁判所が必要だと認めれば、職権で(当事者が頼まなくても)証拠調べをすることができます。
裁判所は「職権証拠調べ」はできますが、「職権探知(当事者が主張していない事実まで勝手に探してくること)」まではできません。
行政不服審査法(審査請求)では職権探知が認められていますが、行政事件訴訟法では認められていない点に注意してください。
(2) 釈明処分の特則(23条の2)
「釈明(しゃくめい)」とは、裁判所が当事者に対して「もっと詳しく説明して」「証拠を出して」と促すことです。
行政訴訟では、行政庁が資料を独占していて原告(国民)が不利になりがちなので、裁判所が行政庁に対して強力に資料提出を求める権限(特則)が認められています。
裁判所ができること:
・処分理由を明らかにする資料の提出を求める。
・具体的な事実について報告を求める。
・専門的な知見に基づく意見の陳述を求める。
(3) 違法判断の基準時
裁判所は「いつの時点」の法律や事実に基づいて、処分の違法性を判断するのでしょうか?
判例・通説:処分時説
原則として、「処分が行われた時点」の法令や事実を基準にします。
なぜなら、取消訴訟は「行政庁が行った処分が、その当時において正しかったか」を事後的にチェックするものだからです。
(※処分後に法律が改正されても、処分の違法性には影響しません。)
不作為の違法確認訴訟や義務付け訴訟の場合は、判決を出す時点で処分をすべきかを判断するため、「口頭弁論終結時(判決時)」が基準となります。
(4) 主張制限(10条1項)
取消訴訟においては、「自己の法律上の利益に関係のない違法」を理由として取消しを求めることはできません。
(例)Aさんが自分の営業停止処分の取消しを求めているのに、「Bさんに対する処分が違法だったから、私のも取り消せ」と主張することはできません。
3. 訴訟参加(第三者の巻き込み)
行政処分の取消判決は、第三者にも効力が及びます(第三者効)。
例えば、Aさんが「建築確認の取消訴訟」で勝訴して建築確認が取り消されると、建築主Bさんは建物を建てられなくなります。
このとき、Bさんが裁判に参加できずに負けてしまったら不公平です。
(1) 第三者の訴訟参加(22条)
裁判所は、訴訟の結果により権利を害される第三者(上記のBさんなど)がいるときは、「当事者等の申立て」または「職権」で、その第三者を訴訟に参加させることができます。
裁判所が「職権(自分の判断)」で参加させることもできる点が重要です。
(2) 行政庁の訴訟参加(23条)
処分をした行政庁以外の行政庁(関係行政庁)を参加させることもできます。
(3) 第三者の再審の訴え(34条)
もし、第三者(Bさん)が、「自分に責任がない理由(病気や海外出張など)」で訴訟に参加できず、そのせいで不利な判決が出てしまった場合はどうなるでしょうか?
この場合、Bさんは確定判決に対して「再審の訴え」を提起して、文句を言うチャンスが与えられます。
4. 関連請求の移送・併合・変更
行政事件は、一つのトラブルで複数の訴訟が関係することがよくあります。
(例)「農地買収処分の取消し」と「土地の明渡し請求」など。
これらをバラバラに裁判するのは非効率なので、まとめて面倒を見る仕組みがあります。
(1) 関連請求に係る訴訟の移送(13条)
取消訴訟と関連請求(損害賠償など)が別の裁判所に係属している場合、関連請求の方を「取消訴訟が係属している裁判所」に移送することができます。
(※取消訴訟の方を関連請求の裁判所に移すことはできません。取消訴訟がメインだからです。)
(2) 請求の併合(16条・19条)
最初からセットで訴える(客観的併合)ことや、後から追加すること(追加的併合)ができます。
(例)処分の取消訴訟を提起した後、さらに国家賠償請求を追加する。
取消訴訟が高等裁判所にある場合(被告が国の場合の特例など)、関連請求を併合するには「被告の同意」が必要です。
なぜなら、関連請求(損害賠償など)は本来地方裁判所からスタートすべきものなので、いきなり高裁でやると被告が「三審制の利益(地裁で審理してもらう権利)」を失うからです。
(3) 訴えの変更(21条)
裁判の途中で、「処分の取消し」を求めていたけれど、建物が取り壊されてしまって訴えの利益がなくなった場合などには、請求を「国家賠償請求」などに変更することができます。
※ただし、請求の基礎に変更がない場合に限られます。
5. 実戦問題で確認!
1. 取消訴訟の審理においては、民事訴訟と同様に弁論主義が適用されるため、裁判所は当事者が主張しない事実を認定することはできず、職権で証拠調べを行うことも認められない。
2. 裁判所は、必要があると認めるときは、職権で証拠調べをすることができるが、その結果について当事者の意見を聞く必要はない。
3. 取消訴訟における処分の違法性の判断基準時は、原則として判決時(口頭弁論終結時)であり、処分後に生じた事情や法令の改正も考慮して判断される。
4. 裁判所は、訴訟関係を明瞭にするため、必要があると認めるときは、被告である国または公共団体に所属する行政庁に対し、処分の理由を明らかにする資料の提出を求めることができる。
5. 取消訴訟においては、原告は自己の法律上の利益に関係のない違法であっても、行政の適法性確保の観点から、これを理由として処分の取消しを求めることができる。
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正解 4
解説:
1. 妥当でない。行政事件訴訟法24条により、裁判所は職権で証拠調べをすることができます。
2. 妥当でない。職権証拠調べの結果については、当事者に意見を述べる機会を与えなければなりません(24条)。
3. 妥当でない。違法判断の基準時は、原則として「処分時」です(最判昭27.1.25)。
4. 妥当である。釈明処分の特則(23条の2)に関する正しい記述です。
5. 妥当でない。自己の法律上の利益に関係のない違法を主張することはできません(10条1項)。
1. 裁判所は、訴訟の結果により権利を害される第三者があるときは、当事者の申立てがある場合に限り、決定をもって、その第三者を訴訟に参加させることができる。
2. 訴訟に参加した第三者は、当事者の一方が上訴(控訴・上告)を放棄した場合であっても、独自に上訴することはできない。
3. 処分を取り消す判決により権利を害された第三者は、自己の責めに帰することができない理由により訴訟に参加できなかった場合に限り、確定判決に対して再審の訴えを提起することができる。
4. 第三者の再審の訴えは、判決が確定した日から30日以内に提起しなければならない。
5. 行政庁以外の者がした処分(指定確認検査機関の建築確認など)の取消訴訟において、当該処分をした者は、被告適格を有しないため、訴訟に参加することも認められない。
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正解 3
解説:
1. 誤り。当事者の申立てだけでなく、職権でも参加させることができます(22条1項)。
2. 誤り。参加人は当事者(共同訴訟人)に準じた地位を持つため、独自に上訴することができます。
3. 正しい。第三者の再審の訴え(34条)の要件です。
4. 誤り。再審の訴えは、判決確定を知った日から30日、判決確定の日から1年です(34条2項)。
5. 誤り。処分をした行政庁(またはそれに準ずる者)は、訴訟参加することができます(23条)。
1. 取消訴訟と関連請求に係る訴訟がそれぞれ別の裁判所に係属している場合、関連請求に係る訴訟が係属する裁判所は、相当と認めるときは、取消訴訟が係属する裁判所に当該訴訟を移送することができる。
2. 取消訴訟の口頭弁論の終結に至るまでであれば、原告は、関連請求に係る訴えを取消訴訟に併合して提起することができる。
3. 取消訴訟が高等裁判所に係属している場合、原告が関連請求に係る訴えを併合して提起するには、被告の同意を得る必要がある。
4. 裁判所は、取消訴訟の目的たる請求を、当該処分に係る事務の帰属する国または公共団体に対する損害賠償請求に変更することが相当であると認めるときは、原告の申立てにより、決定をもって訴えの変更を許すことができる。
5. 関連請求に係る訴訟の移送は、当事者の申立てがあった場合に限り行うことができ、裁判所が職権で行うことはできない。
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正解 5
解説:
1, 2, 3, 4はすべて正しい記述です。
5. 妥当でない。関連請求の移送は、当事者の申立てまたは職権で行うことができます(13条)。
6. まとめと学習のアドバイス
取消訴訟の審理は、民事訴訟との「違い」を意識することが重要です。
- 職権証拠調べ:できる(民訴はできない)。でも職権探知はできない。
- 釈明処分の特則:行政庁に資料を出させる強力な権限。
- 訴訟参加:第三者を職権で巻き込める。
また、「違法判断の基準時=処分時」という原則は、記述式で理由を書かせる問題(なぜ後の事情変更を考慮しないのか?)で使える知識ですので、しっかり定着させておきましょう。
よくある質問(FAQ)
- Q1. 「職権探知主義」と「職権証拠調べ」の違いが分かりません。
- 「職権探知主義」は、当事者が主張していない事実まで裁判所が勝手に探してきて判決の基礎にできることです(行政不服審査法などで採用)。一方、「職権証拠調べ」は、当事者が主張している事実について、証拠が足りない場合に裁判所が補充的に証拠を集めることです。行政事件訴訟法は後者であり、当事者が主張していない事実を勝手に認定することは原則できません(弁論主義の維持)。
- Q2. 違法判断の基準時が「判決時」になる例外はありますか?
- はい、あります。「不作為の違法確認訴訟」や「義務付け訴訟」です。これらは「今、処分をすべきかどうか」を判断する訴訟なので、判決時の法令や事実に基づいて判断されます。また、継続的な処分(営業停止期間の更新など)についても、最新の事情を考慮すべき場合があります。
- Q3. 関連請求の併合で「被告の同意」が必要なのはなぜですか?
- 関連請求(損害賠償など)は通常、地方裁判所からスタートする事件です。しかし、取消訴訟が高裁にある場合(被告が国の場合の特例など)にそこで併合してしまうと、本来地裁で審理されるはずの機会(一審)が飛ばされてしまいます。これを「審級の利益」といいます。被告が「それでもいいよ」と同意した場合に限り、高裁での併合が許されます。
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