「処分の通知が届いてから1年以上経ってしまった! もう取消訴訟は起こせないの?」
「営業許可の申請をしたのに、役所がずっと無視している。どうすればいい?」
取消訴訟の出訴期間(6ヶ月・1年)を過ぎてしまった場合や、そもそも処分をしてくれない(不作為)場合には、取消訴訟以外の手段を使う必要があります。
それが「無効等確認の訴え」と「不作為の違法確認の訴え」です。
特に「無効等確認の訴え」は、「補充性(ほじゅうせい)」という独特の要件があり、他の訴訟(当事者訴訟など)で解決できる場合は提起できないというルールが試験のツボです。
今回の講義では、これらの訴訟類型の要件、原告適格、そして取消訴訟との違いについて、具体例を交えて解説します。
- 無効等確認の訴えの「予防訴訟」と「補充訴訟」の違い
- 「現在の法律関係に関する訴え」と無効確認の優先順位
- 不作為の違法確認の訴えができる条件(法令に基づく申請)
- 取消訴訟の規定で「準用されるもの・されないもの」の整理
- 本試験レベルの多肢選択式問題による実戦演習
1. 無効等確認の訴え(3条4項)
(1) 意義と目的
処分や裁決の「存否(あるかないか)」または「効力の有無(有効か無効か)」の確認を求める訴訟です。
実務上最も多いのは「処分の無効確認の訴え」です。
行政行為には「公定力」があるため、違法であっても取り消されるまでは有効ですが、「重大かつ明白な瑕疵(かし)」がある場合は、最初から無効です(公定力がない)。
無効な処分はいつでも誰に対しても無効を主張できるはずですが、争いがある場合に裁判所で確定させるのがこの訴訟です。
無効等確認の訴えには、「出訴期間」の制限がありません。
また、「審査請求前置主義」も適用されません。
したがって、取消訴訟の提訴期間(知って6ヶ月など)を過ぎてしまった場合の「最後の手段」として利用されます。
(2) 原告適格(36条)〜最重要論点〜
「無効だ!」と主張できるのは誰でもいいわけではありません。以下の2つのパターンのいずれかに該当する人に限られます。
① 予防訴訟(直接型)
「当該処分に続く処分により損害を受けるおそれがある者」
(例)違法な課税処分を受けたが、まだ滞納処分(差押え)はされていない人。
→ 差押えを受ける前に、課税処分の無効を確認してもらう。
② 補充訴訟(補充型)
「その他、無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者」
ただし、条件があります。
「現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができない場合」に限られます。
これを「無効確認の補充性」といいます。
(3) 「現在の法律関係に関する訴え」とは?
行政処分の効力を争う場合、その処分そのものを攻撃する(抗告訴訟)のではなく、その処分によって生じた「現在の権利関係」を争う(当事者訴訟・民事訴訟)ほうが、紛争解決として直接的で適切な場合があります。
判例・通説は、以下の順序で考えます。
- まず、「現在の法律関係に関する訴え」(実質的当事者訴訟や争点訴訟)ができるか検討する。
- それができるなら、そちらを提起すべき(無効確認訴訟はできない)。
- それができない場合に初めて、「無効等確認の訴え」を提起できる。
具体例で比較
| ケース | 現在の法律関係に関する訴え(優先) | 無効等確認の訴え(補充) |
|---|---|---|
| 公務員の免職処分 (クビになった) |
「公務員たる地位確認の訴え」 (実質的当事者訴訟) ※国を被告にする。 |
「免職処分の無効確認の訴え」 ※原則として提起できない。 |
| 土地収用裁決 (土地を取られた) |
「土地所有権確認の訴え」 (争点訴訟・民事訴訟) ※起業者を被告にする。 |
「収用裁決の無効確認の訴え」 ※原則として提起できない。 |
私法上の法律関係に関する訴訟(民事訴訟)の中で、行政処分の効力の有無が「前提問題(争点)」となっているものです。
(例)AがBに「この土地は俺のものだ」と所有権確認訴訟を起こした際、Bが「いや、収用裁決で俺のものになった」と反論し、Aが「その裁決は無効だ」と主張する場合。
(4) 取消訴訟の規定の準用(38条)
無効等確認の訴えには、取消訴訟のルールの多くが準用されますが、準用されないものを覚えるのが試験対策のコツです。
【準用されないもの(=無効確認にはないもの)】
- 出訴期間(14条):いつでも訴えられるから。
- 審査請求前置(8条):重大な違法があるのに、不服申立てを強制するのは酷だから。
- 事情判決(31条):無効な処分を維持する公益上の必要性はないから。
- 自己の法律上の利益に関係ない違法の主張制限(10条1項):無効原因は誰の利益に関係するか問わず主張できるから。
2. 不作為の違法確認の訴え(3条5項)
(1) 意義と目的
行政庁が、法令に基づく申請に対し、相当の期間内に何らかの処分(許可・不許可)をすべきなのに、「何もしないこと(不作為)」の違法確認を求める訴訟です。
「早く返事をしろ!」と促すための訴訟です。
(※実際に処分をさせるには、これとセットで「義務付け訴訟」を提起するのが一般的です。)
(2) 要件
以下の要件をすべて満たす必要があります。
- 法令に基づく申請をしたこと。
(単なる陳情や、根拠のない申出ではダメです。) - 相当の期間が経過したこと。
(標準処理期間は目安ですが、それを大幅に超えれば「相当の期間」経過とみなされやすくなります。) - 何らの処分もしないこと。
(拒否処分がされた場合は、不作為ではなくなるので「処分の取消訴訟」になります。)
(3) 原告適格(37条)
「申請をした者」に限られます。
第三者が「あの人の申請を早く処理してあげて」と訴えることはできません。
(4) 違法判断の基準時
不作為が違法かどうかは、「口頭弁論終結時(判決時)」を基準に判断します。
(※取消訴訟の「処分時」とは異なります。)
裁判の途中で処分がなされた場合、不作為状態は解消されるため、訴えは「訴えの利益なし」として却下されます。
(5) 取消訴訟の規定の準用
不作為の違法確認訴訟でも、準用されない規定があります。
【準用されないもの】
- 出訴期間:不作為が続いている限りいつでも訴えられるから。
- 処分性・原告適格(9条):専用の規定(37条)があるから。
- 執行停止:止めるべき処分が存在しないから。
- 事情判決:不作為を維持する理由はないから。
3. 実戦問題で確認!
1. 処分の無効確認を求める訴えは、当該処分の取消訴訟の出訴期間内であれば、法律上の利益を有する者であれば誰でも提起することができ、補充性の要件は問われない。
2. 公務員が免職処分の無効を主張して公務員の地位にあることの確認を求める場合、国または公共団体を被告として当事者訴訟(地位確認の訴え)を提起すべきであり、免職処分の無効確認の訴えを提起することはできない。
3. 土地収用裁決の無効を主張して土地の所有権を争う場合、土地所有者は収用委員会を被告として裁決無効確認の訴えを提起すべきであり、起業者を被告とする民事訴訟(所有権確認の訴え)を提起することはできない。
4. 無効等確認の訴えは、予防的な訴訟として提起することは認められておらず、常に現在の法律関係に関する訴えの補充としてのみ認められる。
5. 課税処分の無効確認を求める訴えは、すでに滞納処分による差押えがなされている場合には、差押えの解除を求める民事訴訟を提起すべきであるため、認められない。
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正解 2
解説:
1. 妥当でない。出訴期間内であっても、無効確認訴訟を提起するには補充性の要件(現在の法律関係に関する訴えで目的を達せないこと)が必要です。
2. 妥当である。公務員の地位確認訴訟(実質的当事者訴訟)が「現在の法律関係に関する訴え」として可能であるため、処分の無効確認訴訟は補充性により不可となります。
3. 妥当でない。争点訴訟(民事訴訟)が可能であれば、そちらが優先されます。
4. 妥当でない。処分に続く処分により損害を受けるおそれがある場合(予防訴訟)も認められています(36条)。
5. 妥当でない。差押えがされていても、課税処分の無効確認を求める利益は失われません(差押えの前提となる債務の存否を争うため)。
1. 不作為の違法確認の訴えは、行政庁に対し法令に基づく申請をした者に限らず、何人も提起することができる。
2. 申請に対し行政庁が拒否処分をした場合であっても、その処分に不服があるときは、不作為の違法確認の訴えを提起することができる。
3. 不作為の違法確認の訴えは、申請から相当の期間が経過したとしても、行政手続法上の標準処理期間を経過していなければ提起することができない。
4. 不作為の違法確認の訴えの係属中に、行政庁が申請に対する処分(拒否処分含む)をした場合、当該訴えは訴えの利益を失い、却下される。
5. 不作為の違法確認の訴えには、出訴期間の制限があり、申請から6ヶ月を経過したときは提起することができない。
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正解 4
解説:
1. 誤り。原告適格は「申請をした者」に限られます。
2. 誤り。処分がされた以上「不作為」ではないため、処分の取消訴訟等を提起すべきです。
3. 誤り。標準処理期間は目安であり、訴訟要件としての「相当の期間」とは必ずしも一致しません。
4. 正しい。処分がなされれば不作為状態は解消されるため、訴えの利益がなくなり却下されます。
5. 誤り。不作為が継続している限り、出訴期間の制限はありません。
1. 無効等確認の訴えには、出訴期間に関する規定が準用される。
2. 不作為の違法確認の訴えには、執行停止に関する規定が準用される。
3. 無効等確認の訴えには、事情判決に関する規定が準用される。
4. 不作為の違法確認の訴えには、釈明処分の特則に関する規定が準用される。
5. 無効等確認の訴えには、審査請求前置に関する規定が準用される。
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正解 4
解説:
1. 誤り。無効確認に出訴期間はありません。
2. 誤り。不作為には止めるべき処分がないため、執行停止は準用されません。
3. 誤り。無効な処分を維持する事情判決は準用されません。
4. 正しい。釈明処分の特則(資料提出要求など)は、抗告訴訟全般に準用されます。
5. 誤り。無効確認に審査請求前置は適用されません。
4. まとめと学習のアドバイス
今回のポイントは以下の通りです。
- 無効等確認の訴え:「補充性」がカギ。当事者訴訟や争点訴訟でやれるならそっちが優先。
- 不作為の違法確認の訴え:「申請した人」だけができる。処分が出たら却下。
- 準用関係:「出訴期間」「審査請求前置」「事情判決」は、どちらにも準用されない。
特に「無効確認の補充性」は、記述式試験で「誰を被告として、どのような訴訟を提起すべきか」と問われた際に、「処分の無効確認」と答えてしまうと不正解になる(正解は当事者訴訟など)という引っかけパターンが多いので、要注意です。
よくある質問(FAQ)
- Q1. 無効確認訴訟のメリットは何ですか?
- 最大のメリットは「出訴期間がない」ことです。取消訴訟は6ヶ月を過ぎると門前払いされますが、無効確認訴訟なら何年経っていても提起できます。ただし、「重大かつ明白な瑕疵(無効原因)」が必要なので、ハードルは非常に高いです。
- Q2. 「相当の期間」とは具体的に何日ですか?
- 法律で一律に決まっているわけではありません。個別の処分の性質や難易度、標準処理期間などを考慮して、裁判所がケースバイケースで判断します。標準処理期間を過ぎたら直ちに違法となるわけではありませんが、重要な判断要素にはなります。
- Q3. 争点訴訟と当事者訴訟の違いは何ですか?
- 実質的当事者訴訟は、公法上の法律関係そのもの(例:公務員の地位)を争う訴訟です。
争点訴訟は、私法上の法律関係(例:土地の所有権)を争う民事訴訟の中で、行政処分の効力が前提問題(争点)となっているものです。
どちらも「現在の法律関係」を争う点では共通しており、無効確認訴訟よりも優先されます。
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