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講義35:【国家賠償法】公権力の行使と公務員の責任を完全攻略!1条の要件と判例

「警察官の不当な取り調べで怪我をした」
「公立学校の先生が目を離した隙に、子供が事故に遭った」
「役所の申請手続きが遅すぎて、事業に失敗した」

公務員の活動によって損害を受けた場合、私たちは誰に、どのように賠償を求めればよいのでしょうか?
公務員個人を訴えるべきか、それとも国や自治体を訴えるべきか。そのルールを定めているのが「国家賠償法」です。

行政書士試験において、国家賠償法は条文数が少ない(たったの6条!)にもかかわらず、毎年必ず出題される得点源です。
しかし、条文がシンプルな分、膨大な量の「判例知識」が問われます。「このケースでは国賠法が適用されるか?」「この判断は違法か?」といった事例判断がカギとなります。

今回の講義では、国家賠償法1条(公権力の行使による賠償責任)の要件と、合否を分ける重要判例を、ストーリー仕立てで徹底解説します。

💡 この記事で学べること

  • 国家賠償法1条(人)と2条(物)の決定的な違い
  • 「公権力の行使」の範囲(行政指導や教育活動も含む?)
  • 非番の警察官の犯罪でも国が責任を負う理由(外形標準説)
  • 「規制権限不行使」が違法となる基準(水俣病・アスベスト訴訟など)
  • 公務員個人に賠償請求できるか?(代位責任説)
  • 本試験レベルの多肢選択式問題による実戦演習

1. 国家賠償法の全体像(1条と2条)

国家賠償法は、大きく分けて2つの責任タイプを規定しています。まずはこの区別を明確にしましょう。

条文 対象 責任の性質 具体例
1条 公権力の行使
(公務員の活動)
過失責任
(公務員の故意・過失が必要)
警察官の誤認逮捕、違法な課税処分、教師の監督ミス
2条 営造物の設置・管理
(モノの欠陥)
無過失責任
(担当者の過失は不要)
道路の陥没による事故、河川の氾濫、学校施設の欠陥

今回は、公務員の活動に焦点を当てた「1条」について深掘りします。

2. 国家賠償法1条の成立要件

国家賠償法1条1項は、以下の要件を満たした場合に、国または公共団体が賠償責任を負うと定めています。

国家賠償法1条1項
国又は公共団体の①公権力の行使に当る②公務員が、その③職務を行うについて④故意又は過失によって⑤違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。

それぞれの要件について、判例がどのように解釈しているかを見ていきましょう。

(1) 「公権力の行使」とは?

「公権力」というと、命令や強制などの強い力をイメージしますが、国家賠償法ではもっと広く解釈されています(広義説)。

  • 含まれるもの
    行政処分(営業停止命令など)、行政指導、警察官の職務執行、公立学校の教育活動、児童養護施設での養育監護など。
    ※権力的作用だけでなく、非権力的な作用も含まれます。
  • 含まれないもの
    純粋な私経済作用(国が備品を買う契約など)や、営造物の管理(2条の問題)。
    ※私経済作用の場合は、民法の不法行為責任(709条・715条)が適用されます。
💡 判例チェック

定期健康診断(最判昭57.4.1)
国が嘱託した医師による定期健康診断は、「公権力の行使」には当たらないとされました(単なる事実行為としての医療行為)。

(2) 「公務員」とは?

正規の公務員に限りません。「公権力の行使を委ねられた者」であれば、民間人でもここでの「公務員」に含まれます。

【公務員に含まれる例】
指定確認検査機関(民間の建築確認機関)の確認検査員(最判平17.6.24)。
児童養護施設(社会福祉法人)の職員(最判平19.1.25)。

つまり、国や自治体がやるべき仕事を民間に任せた場合、その民間人がミスをしたら、国や自治体が責任を負うということです。

(3) 「職務を行うについて」とは?

「仕事中」という意味ですが、判例は被害者保護のために広く解釈しています。

外形標準説(最判昭31.11.30)

【事案】
非番の警察官が、制服を着用して職務質問を装い、通行人から金品を奪おうとして射殺した事件。

【判旨】
実際には職務権限がない行為や、私利私欲のための行為であっても、「客観的に職務執行の外形を備えている」ように見えれば、「職務を行うについて」に該当する。
→ 県の損害賠償責任が認められました。

(4) 「故意・過失」と「違法性」

公務員が「わざと(故意)」または「うっかり(過失)」して、「違法」なことをした場合に責任を負います。

① 職務義務違反説

「違法」とは、単に結果が悪かったということではなく、「公務員が職務上尽くすべき注意義務を尽くさなかったこと」を指します。
(例)税務署長が所得税の更正処分をした場合、結果的に金額が間違っていたとしても直ちに違法とはならず、調査・判断の過程で「職務上通常尽くすべき注意義務」を怠った場合に初めて違法(過失あり)となります(最判平5.3.11)。

② 加害公務員の特定(最判昭57.4.1)

「誰がやったか」まで特定する必要はありません。
一連の職務行為の中で、誰かの故意・過失があったことが明らかであれば、具体的な公務員が特定できなくても国の責任は成立します。

3. 類型別・重要判例のロジック

試験で最も問われるのが、具体的な行政活動における違法性の判断基準です。

(1) 立法行為(国会議員の責任)

国会が違憲な法律を作ったり、必要な法律を作らなかったりした場合、賠償責任はあるでしょうか?

原則:責任を負わない
国会議員は国民全体に対して政治的責任を負うものであり、個別の国民に対して法的義務を負うものではないからです。

例外:責任を負う場合(最判昭60.11.21)
「憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず、あえて立法を行った」など、容易に想定し難いような例外的な場合に限り、違法となります。

💡 違法とされた例

在宅投票制度廃止事件(最判昭60.11.21):違憲だが賠償責任は否定。
在外邦人選挙権制限事件(最大判平17.9.14):長期間にわたり選挙権を制限し続けたことは、例外的に違法として賠償責任を肯定

(2) 規制権限の不行使(行政のサボり)

行政庁が監督権限(許認可の取消しや是正命令など)を行使しなかったせいで被害が拡大した場合です。

判断基準:
権限を行使するかどうかは行政の裁量ですが、その不行使が「著しく合理性を欠く」場合には、違法となります。

事件名 結論 理由
宅建業者監督事件
(最判平元.11.24)
適法 詐欺業者への免許取消をしなかったとしても、直ちに違法とはならない(裁量の範囲内)。
筑豊じん肺訴訟
(最判平16.4.27)
違法 鉱山保安法に基づき、大臣が防じんマスクの着用義務などを課さなかったことは、著しく合理性を欠く。
水俣病関西訴訟
(最判平16.10.15)
違法 水質二法に基づき、排水規制や指定水域の指定をしなかったことは、著しく合理性を欠く。
泉南アスベスト訴訟
(最判平26.10.9)
違法 労働大臣が、工場への局所排気装置の設置を義務付けなかったことは、著しく合理性を欠く。
💡 傾向

生命・身体に対する重大な被害(公害や労働災害)については、行政の責任が厳しく問われる傾向にあります。

(3) 警察官の権限行使

  • パトカー追跡(最判昭61.2.27)
    逃走車両が第三者をはねた場合、追跡行為が「不必要」または「不相当(方法が危険すぎる)」であれば違法となります。
  • ナイフの一時保管(最判昭57.1.19)
    警察官が、泥酔してナイフを持っていた男からナイフを取り上げずに帰宅させ、その後殺傷事件が起きた場合、保管措置をとらなかったことは違法とされました。

4. 責任の性質と求償権(誰が払う?)

(1) 代位責任説(だいいせきにんせつ)

公務員が職務で損害を与えた場合、被害者に対して賠償責任を負うのは「国または公共団体」です。
では、やった本人(公務員個人)は責任を負わないのでしょうか?

判例(最判昭30.4.19):公務員個人は責任を負わない。
被害者は、公務員個人に対して賠償請求することはできません。国が公務員の代わりに責任を負う(代位する)と考えられています。

💡 理由

公務員個人に責任を負わせると、公務員が萎縮して思い切った仕事ができなくなるからです。また、国が払ったほうが被害者にとっても確実です。

(2) 求償権(きゅうしょうけん)

国が被害者に賠償金を払った後、国から公務員個人に対して「お前のせいだから金返せ」と言えるでしょうか?

1条2項:
公務員に「故意又は重大な過失」があったときに限り、国は公務員に対して求償権を有します。

  • 軽過失の場合:求償できない(国が全額かぶる)。
  • 故意・重過失の場合:求償できる(ただし全額とは限らず、信義則上相当な額)。

5. 民法715条(使用者責任)との比較

民間企業の従業員がミスをした場合の「使用者責任(民法715条)」と、公務員の場合の「国家賠償責任(国賠法1条)」はよく似ていますが、違いがあります。

項目 国家賠償法1条(公務員) 民法715条(民間企業)
対象 公権力の行使 事業の執行
要件 公務員の故意・過失が必要 被用者の故意・過失が必要
+使用者の選任監督上の過失(※実質無過失責任に近い)
個人の責任 負わない(代位責任) 負う(被害者は従業員個人にも請求できる)
求償権 故意・重過失のみ 制限なし(ただし信義則で制限される)
💡 試験のツボ

「公務員個人は責任を負わない」という点と、「求償は故意・重過失限定」という点が、民法との最大の違いであり、頻出ポイントです。

6. 実戦問題で確認!

問1:国家賠償法1条の適用対象
国家賠償法1条に関する次の記述のうち、最高裁判所の判例に照らし妥当なものはどれか。
1. 国家賠償法1条にいう「公権力の行使」には、行政庁の処分などの権力的作用に限られ、行政指導などの非権力的作用や、公立学校における教育活動は含まれない。
2. 国または公共団体が、私人と対等な立場で物品購入契約を締結する場合などの私経済作用については、国家賠償法1条は適用されず、民法の不法行為規定が適用される。
3. 国家賠償法1条にいう「公務員」とは、国家公務員法や地方公務員法上の公務員の身分を有する者に限られ、公権力の行使を委託された民間人は含まれない。
4. 指定確認検査機関による建築確認は、民間の機関が行うものであるため、その確認業務に起因する損害については、国家賠償法ではなく民法が適用される。
5. 公立病院の医師が行う医療行為は、公務員による行為であるため、すべて「公権力の行使」に当たり、医療ミスについては国家賠償法1条が適用される。
正解・解説を見る

正解 2

解説:

1. 妥当でない。公権力の行使には、行政指導や教育活動などの非権力的作用も含まれます(広義説)。

2. 妥当である。私経済作用は民法が適用されます。

3. 妥当でない。公務員の身分がなくても、公権力の行使を委託された者(児童養護施設職員など)は含まれます。

4. 妥当でない。指定確認検査機関の確認事務は公権力の行使であり、国家賠償法が適用されます(最判平17.6.24)。

5. 妥当でない。公立病院の診療行為は、私立病院と同様の私法上の契約関係に基づくものであり、公権力の行使には当たりません(民法適用)。

問2:職務行為と違法性
国家賠償法1条の要件に関する次の記述のうち、判例の趣旨に照らし誤っているものはどれか。
1. 非番の警察官が、制服を着用して職務質問を装い、通行人から金品を奪おうとして殺害した場合、客観的に職務執行の外形を備えている以上、国または公共団体は賠償責任を負う。
2. 税務署長のした所得税の更正処分が、後の訴訟で過大であるとして取り消された場合、当該処分は直ちに国家賠償法上も違法となり、過失が推定される。
3. 警察官がパトカーで逃走車両を追跡する行為は、追跡の開始・継続・方法が不相当であり、予測される被害発生の危険性と比較して不均衡である場合には、違法となる。
4. 国会議員の立法行為は、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらずあえて立法を行ったなど、例外的な場合でない限り、国家賠償法上の違法の評価を受けない。
5. 規制権限不行使が違法となるのは、その権限の不行使が著しく合理性を欠く場合に限られるが、水俣病やアスベスト被害などの重大な健康被害が生じた事案では、違法性が認められる傾向にある。
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正解 2

解説:

1. 正しい。外形標準説により責任が認められます。

2. 誤り。処分が取り消されたからといって、直ちに国賠法上の違法(職務上の注意義務違反)とはなりません。税務署長が調査・判断過程で通常尽くすべき注意義務を尽くしていたなら、適法(過失なし)とされます(最判平5.3.11)。

3. 正しい。パトカー追跡の違法性判断基準です。

4. 正しい。立法行為の違法性は極めて限定的に解釈されます。

5. 正しい。規制権限不行使の違法性判断基準です。

問3:公務員個人の責任と求償
国家賠償法に基づく責任と求償に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
1. 公務員が職務を行うについて違法に他人に損害を与えた場合、被害者は、国または公共団体に対して賠償を請求できるほか、加害公務員個人に対しても直接賠償を請求することができる。
2. 国または公共団体が被害者に損害賠償をした場合、加害公務員に軽過失があったときは、国または公共団体は当該公務員に対して求償権を行使することができる。
3. 公務員が職務を行うについて故意に他人に損害を与えた場合であっても、被害者は公務員個人に対して不法行為責任を追及することはできず、国または公共団体のみが責任を負う。
4. 民法715条の使用者責任においては、使用者が被用者に求償できるのは被用者に故意または重大な過失がある場合に限られるが、国家賠償法では軽過失でも求償できる。
5. 複数の公務員が共同して違法行為を行い損害を与えた場合、国が賠償した後に各公務員に対して求償を行うことは認められていない。
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正解 3

解説:

1. 誤り。公務員個人は直接責任を負いません(代位責任説)。

2. 誤り。求償できるのは「故意または重大な過失」がある場合のみです。軽過失では求償できません。

3. 正しい。たとえ故意であっても、職務上の行為であれば公務員個人は責任を負わず、国が責任を負います(その後、国から公務員へ求償されます)。

4. 誤り。逆です。民法では制限なし(解釈で制限)、国賠法では重過失以上に限定です。

5. 誤り。複数の公務員に故意・重過失があれば、それぞれに求償可能です(最判令2.7.14)。

7. まとめと学習のアドバイス

国家賠償法1条は、以下のポイントを整理して覚えましょう。

  • 要件:「公権力(広義)」「職務(外形)」「違法(義務違反)」「過失」。
  • 責任:「国が払う(代位責任)」「個人は払わない」。
  • 求償:「故意・重過失なら国から個人へ請求」。

特に「規制権限不行使」の判例(水俣病、アスベストなど)は、記述式で「どのような場合に違法となるか(著しく合理性を欠く場合)」を書かせる問題が出る可能性があります。キーワードを正確に記憶しておきましょう。

よくある質問(FAQ)

Q1. なぜ公務員個人は責任を負わないのですか?
公務員が「もしミスをしたら個人で何億円も賠償しなければならない」と恐れてしまうと、萎縮して公務が円滑に進まなくなるからです。また、資力のある国が責任を負うことで、被害者の救済を確実にするという目的もあります。
Q2. 「違法」と「過失」の違いは何ですか?
理論的には、「違法」は客観的に法規範に違反すること、「過失」は主観的に注意義務を怠ることですが、国家賠償法の実務(職務義務違反説)では、両者が重なり合っています。「職務上尽くすべき注意義務を尽くさなかったこと」をもって、違法かつ過失ありと判断されることが多いです。
Q3. 非番の警察官の犯罪がなぜ「職務」なのですか?
被害者から見れば、制服を着た警察官に呼び止められたら、それが勤務時間中か非番かなど分かりません。「警察官としての職務を行っているように見えた(外観)」という信頼を保護するために、国(県)に責任を負わせるのが「外形標準説」です。もちろん、後で国からその警察官個人に求償(全額請求)されます。

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