行政法の中でも、条文数が多く、出題数も多い(例年3問程度)のが「地方自治法」です。
「都道府県や市町村のことは何となく分かるけど、中核市とか特別区とか、細かい分類になると自信がない…」という方も多いのではないでしょうか。
また、地方公共団体がこなしている仕事には「自治事務」と「法定受託事務」という2つの種類があり、この区別は行政不服審査法や行政事件訴訟法(関与の仕組み)ともリンクする超重要テーマです。
今回の講義では、地方自治法の入り口である「地方公共団体の種類」と「事務の区分」について、図解や比較表を使ってスッキリ整理します。
- 指定都市・中核市の人口要件と権限の違い
- 「特別区(東京23区)」と「行政区(横浜市の区など)」の決定的な違い
- 「一部事務組合」と「広域連合」の使い分け
- 「法定受託事務」と「自治事務」の定義と具体例
- 本試験レベルの多肢選択式問題による実戦演習
1. 地方自治法の目的(1条)
地方自治法は、日本国憲法第92条の「地方自治の本旨」に基づいて制定された法律です。
その目的は、地方公共団体の区分や組織・運営の大綱を定め、「民主的にして能率的な行政の確保」と「地方公共団体の健全な発達」を図ることです。
憲法で学ぶ「住民自治」や「団体自治」という言葉そのものは、地方自治法の目的規定(1条)には出てきません。選択肢で「住民自治の実現を目的とする」とあったら、条文の文言としては誤りになる可能性があるので注意しましょう。
2. 地方公共団体の分類
地方公共団体は、大きく「普通地方公共団体」と「特別地方公共団体」に分かれます。
| 大分類 | 小分類 | 具体例 |
|---|---|---|
| 普通地方公共団体 (全国どこにでもある) |
都道府県 | 東京都、北海道、大阪府、京都府など(47都道府県) |
| 市町村 | 横浜市、〇〇町、〇〇村など | |
| 特別地方公共団体 (特定の目的や地域にある) |
特別区 | 東京23区(新宿区、渋谷区など) |
| 地方公共団体の組合 | 一部事務組合、広域連合 | |
| 財産区 | 〇〇財産区(山林や温泉などを管理) |
(1) 市の分類(指定都市・中核市)
「市」は、その規模や能力に応じてランク分けされており、都道府県から移譲される権限の多さが異なります。
| 種類 | 人口要件 | 指定手続 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 指定都市 (政令指定都市) |
50万人以上 | 政令で指定 | ・都道府県並みの権限を持つ。 ・必ず「区(行政区)」を置く。 (例:横浜市、大阪市、名古屋市) |
| 中核市 | 20万人以上 | 政令で指定 | ・保健所の設置など、多くの権限が移譲される。 ・指定には市議会と県議会の議決、県の同意が必要。 (例:船橋市、金沢市) |
| その他の市 | 5万人以上 | – | ・原則的な市。 ・市になるには人口5万人以上+中心市街地の戸数6割以上などの要件が必要。 |
一度「市」になった後に人口が減って5万人を割っても、自動的に「町」や「村」に戻るわけではありません。
(2) 「特別区」と「行政区」の違い(最重要)
東京都の「新宿区」と、横浜市の「中区」。同じ「区」ですが、法的性質は全く異なります。
| 項目 | 特別区(東京23区) | 行政区(指定都市の区) |
|---|---|---|
| 法的性質 | 特別地方公共団体 (法人格あり) |
単なる行政区画 (法人格なし) |
| 長(区長) | 公選(選挙で選ぶ) | 市長が選任(職員から選ぶ) |
| 議会 | あり(区議会) | なし |
| 権限 | 市に準ずる権限を持つ。 (都との間で調整あり) |
市長の権限の一部を分掌するだけ。 |
※なお、指定都市には、行政区の機能を強化した「総合区」を置くことも可能です(総合区長は特別職)。
(3) 地方公共団体の組合
複数の自治体が協力して事務を行うための組織です。
- 一部事務組合:
ゴミ処理や消防など、特定の事務を共同処理する組織。最も一般的。
(例:〇〇清掃組合) - 広域連合:
広域的な計画作成や連絡調整を行う、より強力な組織。
国や県から直接権限の委譲を受けることができる。
(例:関西広域連合、後期高齢者医療広域連合)
(4) 財産区
市町村合併の際、旧村の財産(山林や温泉など)を新市町村に渡さず、旧村民だけで管理・処分するために残された特別な法人です。
3. 地方公共団体の事務(自治事務と法定受託事務)
かつては「機関委任事務」という、国が地方を部下として使う仕組みがありましたが、平成12年の地方分権一括法で廃止されました。
現在は、国と地方は「対等・協力」の関係となり、事務は以下の2つに整理されています。
(1) 法定受託事務(ほうていじゅたくじむ)
本来は国などが果たすべき役割だけど、適正な処理を確保するために、「法律(または政令)」で特に定めて、地方にやってもらっている事務です。
- 第1号法定受託事務(国 → 都道府県・市町村):
国政選挙、パスポート交付、生活保護の決定、戸籍事務など。 - 第2号法定受託事務(都道府県 → 市町村):
県知事選挙、県道の管理など。
法定受託事務は、国(大臣)の関与が強くなりますが、あくまで地方公共団体の事務として処理されます。
「法律又は政令」で定められたものに限られます(省令や通知で勝手に増やすことはできません)。
(2) 自治事務(じちじむ)
法定受託事務以外のすべての事務です。
地方公共団体が本来の役割として自主的に行う事務です。
(例)小中学校の設置管理、病院・薬局の開設許可、飲食店の営業許可、都市計画の決定、住民票の発行など。
「住民票」や「飲食店営業許可」は、全国統一のルールで行われるので国の仕事っぽく見えますが、これらは「自治事務」です。
一方、「戸籍」や「パスポート」は国との結びつきが強いため「法定受託事務」です。
この区別は試験でよく問われます。
(3) 条例による事務処理の特例
都道府県の権限(パスポート交付など)を、「都道府県の条例」で市町村に移譲することができます。
これにより、身近な市役所でパスポートが取れるようになったりします。
4. 廃置分合と境界変更
市町村合併や境界線の変更についての手続きです。
| 用語 | 意味 | 手続(市町村の場合) |
|---|---|---|
| 廃置分合 (はいちぶんごう) |
合体して新設したり、編入したりすること。 (法人格の変動あり) |
1. 関係市町村の申請 2. 都道府県議会の議決 3. 知事の決定 4. 総務大臣への届出 |
| 境界変更 | 隣り合う自治体の境界線を動かすこと。 (法人格の変動なし) |
※都道府県の廃置分合・境界変更は、法律(地方自治特別法)で行う必要があります。
5. 実戦問題で確認!
1. 指定都市は、人口50万以上の市のうち政令で指定されたものをいい、市長の権限に属する事務を分掌させるため、条例で、その区域を分けて区(行政区)を設けなければならない。
2. 中核市は、人口20万以上の市のうち政令で指定されたものをいい、指定都市と同様に、条例で区(行政区)を設けることができる。
3. 特別区は、東京都の区域内にのみ存する特別地方公共団体であり、市町村と同様に法人格を有するが、区長は都知事が任命する。
4. 財産区は、市町村合併の際に旧市町村の財産を管理するために設けられる特別地方公共団体であるが、法人格は有しない。
5. 広域連合は、普通地方公共団体及び特別区が事務を共同処理するために設ける組織であるが、特別地方公共団体には分類されない。
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正解 1
解説:
1. 正しい。指定都市には区(行政区)の設置義務があります。
2. 誤り。中核市には区を設置する権限はありません。
3. 誤り。特別区の区長は公選(選挙で選ぶ)です。
4. 誤り。財産区は法人格を有します(特別地方公共団体の一種)。
5. 誤り。広域連合は「地方公共団体の組合」の一種であり、特別地方公共団体です。
1. 法定受託事務とは、法律またはこれに基づく政令により地方公共団体が処理することとされる事務のうち、国が本来果たすべき役割に係るものであって、国においてその適正な処理を特に確保する必要があるものをいう。
2. 自治事務とは、地方公共団体が処理する事務のうち、法定受託事務以外のものをいい、これには法律の根拠に基づかない任意の事務のみが含まれる。
3. 戸籍事務、旅券(パスポート)の発給事務、および飲食店の営業許可事務は、いずれも第1号法定受託事務に該当する。
4. 生活保護の決定事務は、国の社会保障責任に基づくものであるため、第1号法定受託事務とされるが、児童手当の支給事務は自治事務とされる。
5. 都道府県知事の選挙に関する事務は、国政選挙ではないため、市町村にとっては自治事務に該当する。
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正解 1
解説:
1. 妥当である。第1号法定受託事務の定義として正確です。
2. 妥当でない。自治事務には、法律の根拠に基づく事務(飲食店営業許可など)も多く含まれます。
3. 妥当でない。飲食店営業許可は自治事務です。
4. 妥当でない。児童手当の支給事務も第1号法定受託事務です。
5. 妥当でない。都道府県知事選挙の事務は、市町村にとっては第2号法定受託事務(都道府県から受託)です。
1. 市町村の廃置分合を行おうとするときは、関係市町村の議会の議決を経た上で、総務大臣に届け出なければならない。
2. 市町村の廃置分合は、関係市町村の申請に基づき、都道府県知事が当該都道府県の議会の議決を経て定め、直ちにその旨を総務大臣に届け出なければならない。
3. 市町村の境界変更を行おうとするときは、関係市町村の申請に基づき、総務大臣がこれを定める。
4. 市町村の廃置分合により新たに設置された市町村が「市」となるためには、人口5万人以上などの要件を満たす必要があり、特例は認められない。
5. 都道府県の境界にわたる市町村の境界変更は、関係市町村の申請に基づき、関係都道府県知事が協議して定める。
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正解 2
解説:
1. 誤り。決定権者は都道府県知事(議会の議決経由)です。市町村だけで決めて大臣に届け出るわけではありません。
2. 正しい。市町村の廃置分合の手続き規定(7条1項)通りです。
3. 誤り。境界変更も都道府県知事が定めます。
4. 誤り。市町村合併の特例法により、人口要件の緩和(3万人以上など)が認められる場合があります。
5. 誤り。都道府県の境界にわたる変更は、法律(地方自治特別法)が必要です。
6. まとめと学習のアドバイス
地方自治法の基礎は、以下の分類を正確に覚えることから始まります。
- 団体の分類:「指定都市は区がある」「特別区は法人格あり」。
- 事務の分類:「戸籍・パスポート・生保=法定受託」「飲食店・農地転用・病院=自治」。
特に「事務の区分」は、後で学ぶ「国等の関与(是正の指示など)」や「不服申立ての審査庁」を判断する際の前提知識となります。「国が本来やるべきことか?(法定受託)」それとも「地域で完結することか?(自治)」という視点でイメージを持っておくと覚えやすいです。
よくある質問(FAQ)
- Q1. 指定都市の「区」と東京の「特別区」の違いは何ですか?
- 最大の違いは「法人格の有無」です。特別区(新宿区など)は市町村と同じく独立した法人で、区長を選挙で選び、区議会があります。一方、指定都市の区(横浜市中区など)は単なる行政区画(市役所の出張所のようなもの)で、法人格はなく、区長は市長が職員から選び、区議会もありません。
- Q2. 機関委任事務とは何ですか?
- かつて存在した制度で、国の事務を地方公共団体の長(知事や市長)に「国の機関」として委任して行わせていたものです。この制度下では、国と地方は「上下・主従」の関係にありましたが、地方分権改革で廃止され、現在は「対等・協力」の関係に基づく「法定受託事務」と「自治事務」に再編されました。
- Q3. 市になるための要件(人口5万人)を割り込んだらどうなりますか?
- 一度「市」になった後に人口が5万人を下回っても、自動的に「町」や「村」に降格することはありません。市としての地位は維持されます(例:北海道の歌志内市など)。ただし、法律上は「市」として存続しますが、実態に合わせた組織の見直しなどが求められることはあります。
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