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講義55:【民法相続法】遺言と遺贈を完全攻略!遺言の方式・撤回・遺言執行者

「自分が死んだ後、財産を誰にどう分けてほしいか」——これを生前に決めておくのが「遺言(いごん・ゆいごん)」です。行政書士試験の民法において、遺言は相続法の中でも独立した大きなテーマであり、毎年必ずと言っていいほど出題されます。

遺言は、本人が亡くなった後に効力を生じるため、「本当に本人が書いたのか?」「誰かに脅されて書かされたのではないか?」を本人の口から直接確認することができません。そのため、民法は遺言の書き方(方式)について非常に厳格なルールを定めており、ルールを少しでも破ると遺言全体が無効になってしまいます。

また、「遺贈(いぞう)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。相続人以外の人に財産を譲る仕組みですが、特定遺贈と包括遺贈ではルールが大きく異なります。この記事では、Aさんという架空の人物のストーリーを通じて、遺言の作成から執行、そして撤回に至るまでのルールを、制度趣旨(なぜそのルールがあるのか)とともに分かりやすく解説します。

💡 この記事で学べること

  • 普通方式の遺言(自筆証書、公正証書、秘密証書)の要件と違い
  • 自筆証書遺言における「財産目録」の特例ルール
  • 未成年者(15歳以上)や成年被後見人の遺言能力
  • 特定遺贈と包括遺贈の違いと、放棄のルールの違い
  • 遺言書の検認手続きと、遺言執行者の役割・欠格事由
  • 遺言の撤回(前の遺言と後の遺言が矛盾する場合の扱い)
  • 本試験レベルの多肢選択式問題による実戦演習

1. 遺言の方式(3つの普通方式)

(1) 遺言は「要式行為」である

遺言とは、生前に自身の死亡後の法律関係を定めておく単独行為です。遺言は、民法が定める方式に従わなければ、することができません(民法960条)。これを「要式行為」と呼びます。

なぜ厳格な方式が求められるのでしょうか?それは、遺言が効力を生じる時には本人はすでに死亡しており、真意を確認できないからです。偽造や変造を防ぎ、本人の真意を確実に実現するために、法律でガチガチにルールが決められているのです。

遺言の方式には「普通方式」と「特別方式」があり、通常は以下の3つの普通方式のいずれかを用います。

(2) 自筆証書遺言

自筆証書遺言は、本人のみで最も手軽に作成できる遺言です。遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書(手書き)し、これに押印しなければなりません(民法968条1項)。

例えば、Aさんが「令和〇年〇月吉日」と書いた場合、日付が特定できないため無効となります(最判昭54.5.31)。また、パソコンで本文を打って署名押印しただけでは「全文の自書」を満たさず無効です(※カーボン紙を用いた複写は自書と認められます)。

① 財産目録の特例

以前は財産目録(預金口座や不動産のリスト)もすべて手書きする必要がありましたが、法改正により負担が軽減されました。
自筆証書に一体のものとして添付する「財産目録」については、自書することを要しません(パソコン作成や通帳のコピーでも可)。ただし、偽造を防ぐため、遺言者はその目録の毎葉(すべてのページ)に署名し、印を押さなければなりません(民法968条2項)。

② 共同遺言の禁止

Aさんと妻Bさんが、「私たちが死んだら、全財産を長男に譲る」と1枚の紙に連名で遺言を書くことは禁止されています(民法975条)。
なぜなら、遺言はいつでも自由に撤回できるべきですが、2人で1つの遺言を作ってしまうと、「夫は撤回したいが妻は撤回したくない」という場合に処理が複雑になり、撤回の自由が奪われてしまうからです。

(3) 公正証書遺言

公正証書遺言は、公証役場で公証人に作成してもらう、最も確実で安全な遺言です。

  • 証人2人以上の立会いが必要。
  • 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授(口頭で伝える)する。
  • 公証人が筆記し、読み聞かせ、遺言者と証人が署名・押印する。

原本は公証役場で保管されるため、紛失や偽造のリスクがありません。

(4) 秘密証書遺言

秘密証書遺言は、「遺言の内容は誰にも秘密にしたいが、遺言書が存在することだけは公証人に証明してほしい」という場合に使われます。

  • 遺言者が証書に署名・押印し、封筒に入れて同じ印章で封印する。
  • 公証人及び証人2人以上の前に提出し、自分の遺言書であることを申述する。

※秘密証書遺言は、内容を秘密にするため、本文はパソコンで作成したり、他人に代筆させたりしても構いません(署名だけは自書が必要)。

■ 普通方式の遺言の比較

種類 自書(手書き)の要否 証人の要否 検認の要否(後述)
自筆証書遺言 必要(全文。※目録は例外) 不要 必要(※法務局保管制度を利用した場合は不要)
公正証書遺言 不要(公証人が作成) 2人以上必要 不要
秘密証書遺言 不要(署名のみ自書) 2人以上必要 必要
💡 補足:証人になれない者(欠格事由)

未成年者、推定相続人、受遺者(遺産をもらう人)、及びその配偶者や直系血族は、遺言の証人になることができません(民法974条)。利害関係がある人が証人になると、遺言者に圧力をかけるおそれがあるからです。

2. 未成年者・成年被後見人の遺言と特別方式

(1) 遺言能力(15歳以上)

通常の契約(売買など)は、未成年者が単独で行うと取り消すことができます。しかし、遺言については、15歳に達した者は、単独で遺言をすることができます(民法961条)。法定代理人(親)の同意は一切不要です。

なぜ15歳なのでしょうか?遺言は、自分の死後の財産の行方を決める「身分行為」であり、本人の意思が最大限尊重されるべきだからです。15歳になれば、自分の死後のことを判断する意思能力(事理弁識能力)は十分に備わっていると考えられています。

(2) 成年被後見人の遺言

成年被後見人(重度の認知症などで判断能力を欠く人)であっても、事理弁識能力を一時回復した状況にあるときは、遺言をすることができます。ただし、後で「本当に正気だったのか?」と争いになるのを防ぐため、医師2人以上の立会いが必要です(民法973条1項)。

(3) 特別方式の遺言

病気で死が目前に迫っている場合や、船が沈没しそうな場合など、普通方式の遺言を作成する余裕がないときのために、「特別方式の遺言」が用意されています。

  • 死亡危急者の遺言:証人3人以上の立会いが必要。
  • 伝染病隔離者の遺言:警察官1人及び証人1人以上の立会いが必要。
  • 在船者の遺言:船長又は事務員1人及び証人2人以上の立会いが必要。
  • 船舶遭難者の遺言:証人2人以上の立会いが必要。

※特別方式の遺言は、あくまで緊急事態の例外です。そのため、遺言者が奇跡的に回復し、普通の方式で遺言ができるようになった時から6ヶ月間生存したときは、無効となります(民法983条)。

3. 遺贈(特定遺贈と包括遺贈)

(1) 遺贈とは?

遺贈(いぞう)とは、遺言によって財産を無償で与えることです。財産をもらう人を「受遺者(じゅいしゃ)」と呼びます。受遺者は、法定相続人であっても、全くの第三者(愛人や友人、お世話になった施設などの法人)であっても構いません。

生前贈与が「お互いの合意(契約)」で成立するのに対し、遺贈は遺言者の単独行為であるため、受遺者の承諾がなくても、遺言者の死亡によって自動的に効力が生じます

(2) 特定遺贈と包括遺贈の違い

遺贈には、財産の指定方法によって2つの種類があり、ルールが大きく異なります。

種類 意味・具体例 権利義務の性質 放棄のルール
特定遺贈 特定の財産を指定して譲ること。
(例:「甲土地をAに遺贈する」)
指定されたプラスの財産だけをもらう。借金は引き継がない。 遺言者の死亡後、いつでも放棄できる。
包括遺贈 財産の全部又は一定割合を譲ること。
(例:「全財産の3分の1をBに遺贈する」)
相続人と同一の権利義務を有する。つまり、割合に応じて借金も引き継ぐ 知った時から3ヶ月以内に、家庭裁判所に申述して放棄する。
💡 学習のポイント:なぜ包括遺贈の放棄は厳しいのか?

包括受遺者は「相続人と同一の権利義務」を有するため、プラスの財産だけでなく、マイナスの財産(借金)も背負うリスクがあります。そのため、相続人による「相続放棄」と全く同じ厳格なルール(3ヶ月以内に家庭裁判所へ申述)が適用されるのです。

(3) 受遺者の死亡による遺贈の失効

Aさんが「友人Cに甲土地を遺贈する」という遺言を書いていたとします。しかし、Aさんが死亡するより前に、友人Cが事故で死亡してしまいました。この場合、甲土地はCの子供が「代襲相続」のように受け取れるのでしょうか?

結論として、遺贈は効力を生じません(失効します)(民法994条1項)。
遺言はあくまで「C本人」に財産をあげたいというAさんの意思に基づくものです。Cがいないなら、Cの子供にあげる義理はないと考えられるため、代襲相続のような制度は適用されません。失効した財産は、原則としてAさんの相続人に帰属します。

4. 遺言の執行と撤回

(1) 遺言書の検認

公正証書遺言以外の遺言書(自筆証書遺言や秘密証書遺言)を保管している者、または発見した相続人は、相続開始後遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して「検認」を請求しなければなりません(民法1004条1項)。
また、封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人等の立会いがなければ開封してはなりません。

💡 注意:検認=有効の証明ではない!

検認とは、遺言書の形状や状態(日付や署名の有無など)を記録し、その後の偽造や変造を防ぐための「証拠保全手続き」にすぎません。遺言書が有効か無効かを判定するものではない点に注意してください(大決大4.1.16)。

(2) 遺言執行者

遺言の内容(認知、遺贈、不動産の登記移転など)を実際に手続きして実現する人を「遺言執行者」と呼びます。遺言者は、遺言の中で遺言執行者を指定することができます。

遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有します。遺言執行者がいる場合、相続人は、遺言の執行を妨げるような財産の処分をしてはなりません(処分しても無効となります)。

未成年者及び破産者は、遺言執行者となることができません(民法1009条)。財産管理を任せるには不適格だからです。

(3) 遺言の撤回(気が変わった場合)

遺言は、本人が死亡するまでは効力を生じません。したがって、遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、遺言の全部又は一部を撤回することができます(民法1022条)。
「この遺言は絶対に撤回しない」と遺言書に書いたとしても、その撤回権を放棄することはできません(民法1026条)。

① 前の遺言と後の遺言が抵触する場合

Aさんが、令和3年に「甲土地を長男に相続させる」という遺言を書きました。しかし気が変わり、令和5年に「甲土地を次男に相続させる」という新しい遺言を書きました。Aさんが死亡した後、2通の遺言書が発見されました。

このように、前の遺言と後の遺言の内容が矛盾(抵触)する場合、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなされます(民法1023条1項)。したがって、甲土地は次男が相続します。

② 遺言書や目的物の破棄

遺言者が、故意に「遺言書」をビリビリに破り捨てた場合や、遺贈する予定だった「目的物(例:壺)」を故意に叩き割った場合も、その破棄した部分について遺言を撤回したものとみなされます(民法1024条)。

5. 実戦問題で確認!

問1:遺言の方式と遺言能力
遺言に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例に照らし、正しいものはどれか。
1. 自筆証書遺言をする場合、遺言者はその全文、日付及び氏名を自書し、これに押印しなければならないが、自筆証書に一体のものとして添付する財産目録についても、すべて自書しなければならない。
2. 夫婦が同一の証書で共同して遺言をした場合、その遺言は無効となる。
3. 15歳に達した未成年者が遺言をする場合、法定代理人の同意を得なければ、その遺言は取り消すことができる。
4. 秘密証書遺言は、遺言の内容を秘密にするためのものであるから、遺言書に署名・押印する必要はなく、他人に代筆させたものであっても有効である。
5. 成年被後見人は、事理を弁識する能力を一時回復した状況にあっても、遺言をすることは一切認められていない。
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正解 2

解説:

1. 誤り。法改正により、自筆証書遺言に添付する「財産目録」については、自書することを要しません(パソコン作成や通帳コピーでも可)。ただし、毎葉に署名押印が必要です(民法968条2項)。

2. 正しい。共同遺言は禁止されており、違反すると無効となります(民法975条)。

3. 誤り。15歳に達した者は、法定代理人の同意なく単独で遺言をすることができます(民法961条、962条)。

4. 誤り。秘密証書遺言は本文を代筆やパソコンで作成することは可能ですが、遺言者本人の「署名・押印」は必ず必要です(民法970条1項1号)。

5. 誤り。成年被後見人であっても、事理弁識能力を一時回復しているときは、医師2人以上の立会いの下で遺言をすることができます(民法973条1項)。

問2:遺贈と遺言の執行
遺贈及び遺言の執行に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例に照らし、誤っているものはどれか。
1. 特定遺贈の受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも遺贈の放棄をすることができる。
2. 包括遺贈の受遺者は、相続人と同一の権利義務を有するため、遺贈の放棄をするには、自己のために遺贈が効力を生じたことを知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所に申述しなければならない。
3. 遺言者が「甲土地をAに遺贈する」旨の遺言をしていたが、遺言者の死亡以前にAが死亡していた場合、Aの子が代襲して甲土地の遺贈を受ける。
4. 自筆証書遺言の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なくこれを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。
5. 未成年者及び破産者は、遺言執行者となることができない。
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正解 3

解説:

1. 正しい。特定遺贈はいつでも放棄できます(民法986条1項)。

2. 正しい。包括遺贈は借金も引き継ぐため、相続放棄と同様の厳格な手続き(3ヶ月以内の家裁への申述)が必要です(民法990条、938条)。

3. 誤り。受遺者が遺言者より先に死亡した場合、遺贈は効力を生じません(失効します)。代襲相続のような制度は適用されません(民法994条1項)。

4. 正しい。公正証書遺言以外の遺言書は、家庭裁判所での検認が必要です(民法1004条1項)。

5. 正しい。未成年者と破産者は遺言執行者の欠格事由に該当します(民法1009条)。

問3:遺言の撤回
遺言の撤回に関する次の記述のうち、民法の規定に照らし、正しいものはどれか。
1. 遺言者は、遺言書の中に「この遺言は将来いかなる理由があっても撤回しない」と記載した場合、その遺言を撤回することができなくなる。
2. 遺言者が、作成時期の異なる2通の遺言書を残して死亡した場合において、前の遺言と後の遺言の内容が抵触するときは、2通の遺言書はすべて無効となる。
3. 前の遺言と後の遺言が抵触するときは、その抵触する部分についてのみ、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなされる。
4. 遺言者が、遺言書を誤って(過失により)破棄してしまった場合、その破棄した部分については遺言を撤回したものとみなされる。
5. 遺言者が、遺贈の目的物である建物を故意に取り壊した場合であっても、遺言書自体が残っていれば、遺言は撤回されたものとはみなされない。
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正解 3

解説:

1. 誤り。遺言者は、遺言を撤回する権利を放棄することができません(民法1026条)。

2. 誤り。すべて無効になるわけではありません。抵触する部分についてのみ、後の遺言が優先されます(民法1023条1項)。

3. 正しい。前の遺言と後の遺言が抵触する場合、抵触する部分については後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなされます(民法1023条1項)。

4. 誤り。遺言書の破棄によって撤回とみなされるのは、「故意に」破棄した場合に限られます(民法1024条)。過失による場合は撤回とはみなされません。

5. 誤り。遺言者が故意に「遺贈の目的物」を破棄した場合も、その部分について遺言を撤回したものとみなされます(民法1024条後段)。

6. まとめと学習のアドバイス

遺言と遺贈の分野は、ルールが細かく設定されていますが、すべて「本人の真意を確実に実現するため」「トラブルを防ぐため」という理由があります。

  • 遺言の方式:自筆証書遺言の「財産目録の特例(自書不要だが毎葉に署名押印)」は近年の法改正ポイントであり頻出です。
  • 遺言能力:15歳以上なら単独で可能。成年被後見人でも一時回復+医師2名で可能。
  • 特定遺贈と包括遺贈の比較:包括遺贈は「借金も背負う」ため、放棄のルールが相続放棄と同じ(3ヶ月以内・家裁へ申述)になる点を理解しましょう。
  • 遺言の撤回:前の遺言と後の遺言が矛盾したら「後の遺言が勝つ(撤回とみなす)」。故意に破り捨てても撤回とみなす。

本試験では、事例問題として「Aが〇〇という遺言を書いたが〜」という形で出題されます。誰が何をできるのか、期間制限はどうなっているのかを正確に整理しておきましょう。

よくある質問(FAQ)

Q1. 夫婦で一緒に1枚の紙に遺言を書くことはできますか?
できません。民法は「共同遺言」を禁止しています。遺言はいつでも自由に撤回できるべきですが、2人で1つの遺言を作ってしまうと、片方が撤回したいと思ったときに処理が複雑になり、撤回の自由が奪われてしまうからです。必ず別々の紙に作成する必要があります。
Q2. 遺言で財産をもらう予定だった人が、遺言者より先に死んでしまったらどうなりますか?
その遺贈は効力を生じず、失効します。相続の場合の「代襲相続(孫が代わりに相続する)」のような制度は、遺贈には適用されません。遺言はあくまで「その人本人」に財産をあげたいという意思に基づくものだからです。
Q3. 遺言書を家庭裁判所で「検認」してもらえば、その遺言は有効だと認められたことになりますか?
いいえ、検認は遺言が有効であることを証明するものではありません。検認は、遺言書が発見された時点での形状や状態(日付や署名があるかなど)を記録し、その後の偽造や変造を防ぐための「証拠保全」の手続きにすぎません。有効か無効かは、別途裁判などで争われる可能性があります。

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