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講義09:【行政作用法】行政裁量とは?重要判例と統制基準を完全解説

行政法を勉強していると、「行政裁量(ぎょうせいさいりょう)」という言葉に必ずぶつかります。
「法律に基づいた行政」が原則のはずなのに、なぜ行政庁に自由な判断(裁量)が認められるのでしょうか?そして、その判断が間違っていた場合、裁判所はどこまで口出しできるのでしょうか?

実は、この「行政裁量」の分野は、条文の暗記ではなく「判例のロジック(裁判所の考え方)」を理解することが最大のカギとなります。
本試験では、「この事例において、最高裁は裁量の逸脱・濫用を認めたか?」という結論や、「どのような基準で判断したか?」という理由付けが繰り返し問われています。

今回の講義では、行政裁量の基本的な仕組みから、試験によく出る重要判例、そして記述式でも問われやすい「判断過程審査」まで、ストーリー仕立てでわかりやすく解説します。

💡 この記事で学べること

  • 覊束(きそく)行為と裁量行為の決定的な違い
  • 「要件裁量」と「効果裁量」の見分け方
  • 政治的・専門的判断における司法審査の限界(マクリーン事件、原発訴訟など)
  • 裁量権の逸脱・濫用となる具体的ケース(他事考慮、事実誤認など)

1. 行政裁量とは何か?

(1) なぜ「裁量」が必要なのか

行政活動は、すべて法律に基づいて行われなければなりません(法律による行政の原理)。
しかし、社会は複雑で変化し続けているため、法律ですべての事態を細かく決めておくことは不可能です。

例えば、「営業許可」について法律を作る際、要件をすべて数値化することは困難です。「衛生上支障がないと認めるとき」といった抽象的な表現を使わざるを得ません。
この「法律の枠内で、行政機関に任された独自の判断余地」のことを行政裁量といいます。

(2) 覊束行為と裁量行為

行政行為は、行政庁に判断の余地があるかどうかで2つに分類されます。

分類 意味 具体例
覊束行為
(きそくこうい)
法が要件と効果を一義的に定めており、行政庁に判断の余地がない行為。
「Aのときは、必ずBせよ」
  • 建築確認(要件を満たせば必ず確認しなければならない)
  • 飲食店の営業許可(要件を満たせば必ず許可しなければならない)
裁量行為
(さいりょうこうい)
法が行政庁に判断の余地(選択の自由)を認めている行為。
「Aのときは、Bすることができる」
  • 公務員の懲戒処分(処分するかどうか、どの処分にするか選べる)
  • 外国人の在留期間更新(更新を認めるかどうかの広い判断権がある)

(3) 司法審査との関係(行訴法30条)

かつては、「裁量行為=行政の自由だから、裁判所は口出しできない(司法審査不可)」と考えられていました。
しかし現在は、行政事件訴訟法30条により、裁量行為であっても「裁量権の範囲をこえ又はその濫用があった場合」には、違法として取り消すことができるとされています。

💡 逸脱・濫用とは?

  • 逸脱:法律が認めた枠の外に出てしまうこと。(例:営業停止しかできないのに免許取消をした)
  • 濫用:枠の中には収まっているが、使い方が不当であること。(例:個人的な恨みで処分をした)
現在では両者を厳密に区別せず、まとめて「裁量の逸脱・濫用」として違法性を判断します。

2. 裁量の種類(要件裁量と効果裁量)

裁量が「どの部分」に認められているかによって、以下の2つに分類されます。

(1) 要件裁量と効果裁量

国家公務員法82条を例に見てみましょう。

国家公務員法82条1項
職員が、次の各号のいずれかに該当する場合においては、これに対し懲戒処分として、免職、停職、減給又は戒告の処分をすることができる。
3号 国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合
  • 要件裁量:何が「ふさわしくない非行」なのか?(事実認定や要件の解釈についての裁量)
  • 効果裁量:懲戒処分を「するかしないか」(決定裁量)、「どの処分(免職~戒告)を選ぶか」(選択裁量)

この条文では、要件認定にも、効果の決定にも裁量が認められています。

(2) 裁量の広狭(広いか狭いか)

すべての裁量行為が同じように自由なわけではありません。その性質によって、裁量の広さが異なります。

性質 裁量の広さ 代表的な判例
政治的・政策的判断 極めて広い 外国人の在留期間更新(マクリーン事件)
再入国の許可
専門技術的判断 広い
(裁判所は専門家の判断を尊重)
原子炉設置許可(伊方原発訴訟)
教科書検定
事実認定に近い判断 狭い 水俣病の認定(医学的・客観的に判断すべき)

3. 判例で見る「行政裁量」の判断枠組み

試験対策上、最も重要なのが判例知識です。裁判所が「どの部分に裁量を認め、どのように審査したか」を押さえましょう。

(1) 政治的・政策的裁量

マクリーン事件(最大判昭53.10.4)

【事案】
アメリカ人マクリーン氏が、在留期間の更新を申請したが、政治活動を行っていたことを理由に不許可となった。

【判旨】
法務大臣には、外国人の在留を認めるかどうかについて「広範な裁量権」がある。政治活動をしたことを消極的な事情として考慮することも許される。
ただし、以下の場合は違法となる(統制基準)。
① 判断の基礎とされた重要な事実に誤認があること。
② 事実に対する評価が明白に合理性を欠くこと。

(2) 専門技術的裁量

伊方原発訴訟(最判平4.10.29)

【事案】
愛媛県の伊方原発の設置許可に対し、周辺住民が「安全性審査に問題がある」として取消しを求めた。

【判旨】
原発の安全性審査は、高度な科学的・専門技術的な判断が必要であり、行政庁(原子力委員会等)の「合理的裁量」に委ねられる。
裁判所は、自ら科学的な安全性を判断するのではなく、「判断の過程(プロセス)」に看過しがたい過誤・欠落がないかを審査する(判断過程審査)。

(3) 裁量が否定・縮小された例

水俣病認定申請棄却処分(最判平25.4.16)

【事案】
水俣病の認定申請に対し、県が「国の通知(判断基準)」に合致しないとして棄却した。

【判旨】
水俣病にかかっているかどうかの判定は、医学的な知見に基づく客観的なものであり、行政庁の政策的裁量の余地はない
行政庁が、最新の医学水準に照らして不合理な基準(通知)に依拠して判断した場合は違法となる。

4. 裁量統制の基準(逸脱・濫用となるケース)

行政庁に裁量があるといっても、好き勝手にしていいわけではありません。裁判所は、以下のようなポイントで「違法(逸脱・濫用)」と判断します。

(1) 事実誤認

処分の前提となる事実に間違いがある場合です。
(例)Aさんを処分しようとしたが、実は人違いでBさんだった場合など。

(2) 目的違反・動機の不正(他事考慮)

法律の目的とは無関係なこと(他事)を考慮して処分を行うことです。

個室付浴場事件(最判昭53.6.16)

【事案】
トルコ風呂(現ソープランド)の開業を阻止するためだけに、市が急遽、隣に「児童遊園」を設置する認可を出した(※児童遊園の近くでは営業できない規制を利用した)。

【判旨】
児童福祉法に基づく認可は、子供の福祉のために行われるべきである。
営業の規制を主たる動機・目的としてなされた本件認可処分は、「行政権の濫用」として違法である。

(3) 平等原則違反

合理的な理由なく、特定の個人を差別的に扱うことです。
(判例)食糧管理法による供出割当において、村長が個人的な感情で特定農家に過大な割当をしたケースなど。

(4) 比例原則違反

違反の程度に対して、重すぎる処分をすることです(スズメを撃つのに大砲を使うな)。

神戸税関事件(最判昭52.12.20)

【事案】
税関職員が、他人の物品を一時的に着服しようとした(事後返還済み)事案で、最も重い「懲戒免職」とされた。

【判旨】
懲戒権者には裁量があるが、社会観念上著しく妥当を欠く処分は、裁量権の濫用として違法となる。
本件では、行為の態様や動機、過去の勤務態度などを総合考慮すると、免職は重すぎて違法。

(5) 判断過程審査(手続的審査)

現代の行政法で最も重要な考え方です。
裁判所は、結論の妥当性を直接判断する代わりに、「結論に至るプロセス」に不合理な点がないかをチェックします。

💡 判断過程の欠落(考慮不尽)

行政庁が判断をする際に、
考慮すべき事項を考慮していない(考慮不尽)
考慮してはならない事項を考慮した(他事考慮)
事実の評価が明白に不合理である
これらの場合、その判断プロセスにミスがあるとして、処分は違法となります。

日光太郎杉事件(東京高判昭48.7.13)

【事案】
道路拡張のために、国の特別天然記念物である日光街道の並木(太郎杉)を伐採する土地収用認定が行われた。

【判旨】
建設大臣は、文化財保護という「本来最も重視すべき諸要素」を軽視し、道路の利便性ばかりを重視した。
これは、判断過程における考慮事項の評価を誤ったものであり、裁量権の濫用として違法である。

5. 実戦問題で確認!

問1:行政裁量と司法審査
行政裁量に関する次の記述のうち、判例および行政事件訴訟法の規定に照らし妥当なものはどれか。
1. 行政庁の裁量処分については、裁判所は、法令違反の有無のみならず、その処分が当不当の範囲にとどまる場合であっても、全面的に審理し、取り消すことができる。
2. 専門技術的な判断を要する行政処分については、裁判所は行政庁の判断を尊重すべきであり、判断過程に看過しがたい過誤・欠落がある場合を除き、独自の判断で処分を取り消すことはできない。
3. 外国人の在留期間の更新の許否については、法務大臣に広範な裁量権が認められているため、その判断が事実誤認に基づくものであったとしても、違法となることはない。
4. 公務員に対する懲戒処分において、どの種類の処分を選択するかは懲戒権者の裁量に委ねられているため、社会観念上著しく妥当を欠くほど過重な処分であっても、違法とはならない。
5. 行政事件訴訟法30条は、行政庁の裁量処分については、裁量権の逸脱があった場合に限り取り消すことができると定めており、裁量権の濫用があった場合については規定していない。
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正解 2

解説:

1. 妥当でない。裁判所は「違法性」を審査する機関であり、単なる「当不当」の判断(行政府の仕事)には踏み込めません(行政事件訴訟法30条参照)。

2. 妥当である。伊方原発訴訟などの判例にある「判断過程審査」の考え方です。

3. 妥当でない。広範な裁量があっても、その基礎となる重要な事実に誤認があれば、裁量権の逸脱・濫用として違法となります(マクリーン事件)。

4. 妥当でない。社会観念上著しく妥当を欠く処分は、比例原則違反(裁量権の濫用)として違法となります(神戸税関事件)。

5. 妥当でない。行政事件訴訟法30条は「裁量権の範囲をこえ(逸脱)又はその濫用があった場合」と規定しています。

問2:裁量に関する重要判例
次の行政裁量に関する判例の記述のうち、妥当でないものはどれか。
1. 個室付浴場の開業を阻止する目的で、近隣に児童遊園の設置認可を行った事案において、行政庁が法の目的外の動機に基づいて処分を行ったことは、行政権の濫用にあたり違法である。
2. 公立学校の施設使用許可において、教育委員会は、当該使用が学校教育に支障を及ぼすかどうかについて専門的・技術的な裁量権を有するが、事実の評価が合理性を欠く場合には違法となる。
3. 水俣病の認定申請に対する処分において、行政庁は、その認定について政策的な見地からの広範な裁量権を有しており、環境省の通知(基準)に従って判断した以上、最新の医学的知見に合致していなくとも適法である。
4. 教科書検定における合否の判定は、学術的・教育的な専門技術的判断を要するものであり、文部科学大臣の合理的な裁量に委ねられる。
5. 生活保護法に基づく老齢加算の廃止決定において、厚生労働大臣は、専門技術的かつ政策的な見地からの裁量権を有しており、その判断過程に過誤・欠落がない限り、裁判所は判断を尊重すべきである。
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正解 3

解説:

1, 2, 4, 5はすべて判例の趣旨通りで妥当です。

3. 妥当でない。水俣病の認定判決(最判平25.4.16)において、最高裁は「個々の症例について医学的・客観的に判断すべき」とし、行政庁の政策的裁量を否定(または極めて限定)しました。通知基準が最新の医学水準に合わなければ違法となります。

問3:判断過程審査の視点
行政庁の裁量処分が違法とされる「判断過程の瑕疵」の具体例として、判例上認められている事由の組み合わせとして、最も適切なものはどれか。
ア. 考慮すべき事項を考慮しなかったこと(考慮不尽)
イ. 考慮してはならない事項を考慮したこと(他事考慮)
ウ. 判断の前提となる事実に誤認があったこと(事実誤認)
エ. 処分により達成される公益よりも個人の損害の方がわずかに大きかったこと
1. ア・イのみ
2. ウ・エのみ
3. ア・イ・ウ
4. ア・ウ・エ
5. すべて
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正解 3

解説:

ア(考慮不尽)、イ(他事考慮)、ウ(事実誤認)は、すべて判断過程審査において裁量の逸脱・濫用を認める理由となります。
エについては、単に「個人の損害の方がわずかに大きい」程度では直ちに違法とはなりません(著しく均衡を失する場合などに限られる)。よって、3が正解です。

6. まとめと学習のアドバイス

行政裁量の分野は、暗記よりも「理解」が重要です。

  • 原則:行政には専門的・政策的な判断が必要なので裁量がある。
  • 例外(統制):しかし、事実誤認や他事考慮、著しい不当(比例原則違反)があれば、裁判所は「逸脱・濫用」として取り消せる。
  • 判例の傾向:
    • 原発や教科書など専門性が高いもの → 裁量広い(判断過程審査)
    • 水俣病認定など事実認定に近いもの → 裁量狭い(客観的判断)

判例を学習する際は、「どのような事案で」「裁判所はどういう理由で」「結論として裁量の濫用を認めたか(認めなかったか)」の3点をセットで押さえておきましょう。

よくある質問(FAQ)

Q1. 「判断代置(はんだんだいち)」とは何ですか?
裁判所が、行政庁の代わりに「自分ならこう判断する」と独自の判断を下すことです。原則として、裁判所はこれを行いません(行政の裁量を侵害するからです)。代わりに「行政庁の判断プロセスにミスがなかったか」をチェックする「判断過程審査」を行います。
Q2. 覊束行為と裁量行為はどうやって見分けますか?
条文の文言がヒントになります。「~しなければならない」とあれば覊束行為の可能性が高く、「~することができる」とあれば裁量行為の可能性が高いです。ただし、文言だけでなく、その法律の目的や性質(公益性、専門性)も考慮して総合的に判断されます。
Q3. マクリーン事件で外国人の政治活動が考慮されたのはなぜですか?
外国人の在留の許否は国の主権に関わる問題であり、法務大臣には極めて広い裁量が認められているからです。裁判所は、憲法で保障される政治活動であっても、在留期間の更新の際に「消極的な事情(マイナス評価)」として考慮することは、大臣の裁量の範囲内であると判断しました。

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