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講義23:【行政不服審査法】審査請求の手続(2)審理の進行と執行停止を完全攻略

審査請求書を提出した後、役所の中ではどのように手続きが進んでいくのでしょうか?
「提出したら、あとは結果を待つだけ」ではありません。審査請求人(あなた)には、処分庁の言い分(弁明書)に対して反論したり、証拠書類を見せろと言ったり、口頭で意見を言ったりする権利が与えられています。

また、審査の結果が出るまでの間、処分が執行されてしまっては意味がない場合があります(例:営業停止処分で店が潰れてしまうなど)。
そんな時に使うのが「執行停止」の申立てです。

今回の講義では、審査請求の審理プロセス(攻撃防御の方法)と、受験生が苦手としがちな「執行停止」の要件・種類について、図解イメージを交えてわかりやすく解説します。

💡 この記事で学べること

  • 審査請求書の「補正命令」は義務か裁量か?
  • 「弁明書」と「反論書」のキャッチボールの流れ
  • 口頭意見陳述権と証拠書類閲覧請求権のポイント
  • 「執行不停止の原則」と例外的な「執行停止」の要件

1. 審査請求のスタート(提出と補正)

(1) 審査請求書の提出(19条)

審査請求は、原則として「書面(審査請求書)」を提出して行います。
口頭でできるのは、他の法律や条例に特別の定めがある場合に限られます。

【記載事項】
処分の内容、処分があったことを知った日、審査請求の趣旨・理由などを記載します。

(2) 処分庁経由の提出(21条)

審査請求書は、審査庁(最上級行政庁など)に直接出すのが原則ですが、処分をした行政庁(処分庁)を経由して提出することも「できます」(義務ではありません)。

💡 期間計算の特例

処分庁を経由して提出した場合、「処分庁に提出した時」に審査請求があったとみなされます。
審査庁に届くのが期限を過ぎてしまっても、処分庁に期限内に出していればセーフです。

(3) 補正命令(23条)〜重要〜

提出された審査請求書に不備(ハンコ漏れや記載事項の欠落など)があった場合、審査庁はどうすべきでしょうか?
いきなり「不適法だから却下!」と門前払いすることは許されません。

審査庁は、相当の期間を定めて、「補正を命じなければなりません」(法的義務)。
却下できるのは、補正命令を出したのに無視された場合や、そもそも補正不能なほど不適法な場合に限られます。

(4) 審査請求の取下げ(27条)

審査請求人は、「裁決があるまでは」、いつでも審査請求を取り下げることができます。
取下げは、必ず「書面」で行わなければなりません(口頭での取下げは不可)。

2. 審理員による審理(攻撃防御のプロセス)

審査請求が適法に受理されると、審査庁によって「審理員」が指名され、審理がスタートします。
ここからは、審査請求人(国民)と処分庁(役所)の論戦です。

(1) 弁明書と反論書の提出(29条・30条)

審理は、原則として書面のやり取りで進みます。

  1. 弁明書の提出
    審理員は、処分庁に対して「弁明書(処分の正当性を主張する書面)」の提出を求めます。処分庁はこれに応じる義務があります。
  2. 送付
    提出された弁明書は、審理員から審査請求人に送付されます。
  3. 反論書の提出
    審査請求人は、弁明書を見て「それは違う!」と思えば、「反論書」を提出することができます(任意)。

(2) 口頭意見陳述権(31条)

「書面だけじゃ言いたいことが伝わらない!」という場合、審査請求人は「口頭で意見を述べたい」と申し立てることができます。

この申立てがあった場合、審理員は、原則として「その機会を与えなければなりません」(法的義務)。
※ただし、所在不明などで困難な場合は除きます。

💡 補佐人の同伴

口頭意見陳述の際、専門家などの「補佐人(ほさにん)」と一緒に来たい場合は、「審理員の許可」が必要です。
(※代理人の選任には許可は不要でしたね。比較して覚えましょう。)

(3) 証拠書類等の閲覧・交付請求権(38条)

審査請求人は、処分庁が提出した証拠書類などをチェックする権利があります。

  • 請求できる期間審理手続が終結するまでの間
  • 内容:閲覧(見るだけ)だけでなく、写しの交付(コピーをもらう)も請求できます。
  • 拒否事由:第三者の利益を害するおそれがある場合など、正当な理由があるときは拒否されます。

3. 審理の終結と意見書(41条・42条)

必要な審理(主張や証拠が出尽くした状態)が終わると、審理員は審理手続を終結させます。

その後、審理員は遅滞なく「審理員意見書」を作成します。
これは、「私の考えでは、この処分は違法(または適法)だと思います」という審理員の判断をまとめたものです。
この意見書は、事件記録とともに審査庁に提出されます。

4. 教示制度(82条)

行政庁が処分をする際、「不服があるなら審査請求できますよ」と教えてあげる制度を「教示(きょうじ)」といいます。

(1) 教示すべき場合

  • 書面で処分をする場合:必ず書面で教示しなければなりません。
  • 利害関係人から求められた場合:教示しなければなりません(書面を求められたら書面で)。

※口頭で処分をする場合は、教示義務はありません。

(2) 教示の内容

  1. 不服申立てができる旨
  2. 不服申立てをすべき行政庁(審査庁)
  3. 不服申立てができる期間

(3) 教示を怠った場合・間違った場合の救済

  • 教示しなかった場合:処分庁に不服申立書を出せば、正当な審査庁に送付してくれます。
  • 間違った審査庁を教えた場合:そこに提出すれば、正当な審査庁に送付され、最初から正当な審査庁に出されたものとみなされます。

5. 執行停止(しっこうていし)〜最重要〜

審査請求をしても、処分の効力は止まりません。これを「執行不停止の原則」といいます(25条1項)。
しかし、それでは手遅れになる場合があるため、例外的に効力を止める「執行停止」の制度があります。

(1) 執行停止の種類

執行停止には、以下の3つのパターンがあります。

種類 主体 要件
職権執行停止 審査庁 必要があると認めるとき。(自発的に止める)
申立てによる裁量的停止 審査庁 申立てがあり、必要があると認めるとき。
申立てによる義務的停止 審査庁 申立てがあり、「重大な損害を避けるために緊急の必要がある」と認めるとき。
(原則として止めなければならない)

(2) 義務的執行停止の除外事由

「重大な損害・緊急の必要」があっても、以下の場合は執行停止をしなくてよい(してはいけない)とされています。

  1. 公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき
  2. 本案について理由がないとみえるとき(明らかに負け筋の場合)

(3) 執行停止の内容(補充性)

執行停止には、「処分の効力の停止」「処分の執行の停止」「手続の続行の停止」がありますが、「処分の効力の停止」は最後の手段です。
他の措置(執行の停止など)で目的を達することができるなら、効力の停止はできません(25条6項)。

💡 審査庁の区別

処分庁の上級行政庁である審査庁:職権でも申立てでも、自由に執行停止できます。
それ以外の審査庁(処分庁自身など):職権停止はできますが、申立てによる場合は「処分庁の意見」を聞く必要があります。また、「効力の停止」以外の措置(積極的な指示など)はとれません。

6. 実戦問題で確認!

問1:審理員による審理手続
行政不服審査法における審理手続に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
1. 審査請求人が口頭で意見を述べる機会を申し立てた場合、審理員は、当該審査請求人にその機会を与えなければならないが、補佐人を同伴することは認められない。
2. 審査請求人は、審理手続が終結するまでの間、審理員に対し、提出書類等の閲覧を求めることができるが、その写しの交付を求めることはできない。
3. 審理員は、必要があると認めるときは、職権で、参考人の陳述を聞き、または鑑定を求めることができる。
4. 審査請求人は、処分庁から提出された弁明書に対する反論書を提出することができるが、これには提出期限の定めはなく、裁決がされるまでいつでも提出できる。
5. 審理員は、審査請求人の申立てがなければ、数個の審査請求に係る審理手続を併合することはできない。
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正解 3

解説:

1. 誤り。審理員の許可を得れば、補佐人とともに出頭できます(31条3項)。

2. 誤り。閲覧だけでなく、写しの交付も請求できます(38条1項)。

3. 正しい。審理員は職権で証拠調べ(参考人陳述、鑑定、検証など)ができます(34条)。

4. 誤り。審理員が相当の期間を定めたときは、その期間内に提出しなければなりません(30条1項)。

5. 誤り。審理員は必要があると認めるときは、職権で併合・分離ができます(39条)。

問2:執行停止の要件
行政不服審査法に基づく執行停止に関する次の記述のうち、妥当でないものはどれか。
1. 審査請求がなされたとしても、処分の効力、処分の執行または手続の続行は妨げられないのが原則である。
2. 審査庁は、必要があると認めるときは、審査請求人の申立てがなくても、職権で執行停止をすることができる。
3. 審査請求人の申立てがあった場合において、処分により生ずる重大な損害を避けるために緊急の必要があると認めるときは、審査庁は原則として執行停止をしなければならない。
4. 執行停止の申立てがあった場合でも、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるときは、審査庁は執行停止をしないことができる。
5. 処分の効力の停止は、処分の執行の停止または手続の続行の停止によって目的を達することができる場合であっても、審査請求人の選択により行うことができる。
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正解 5

解説:

1, 2, 3, 4はすべて正しい記述です。
5. 妥当でない。処分の効力の停止は、他の措置(執行の停止など)によって目的を達することができるときは、することができません(25条6項)。効力の停止は最も強力な措置なので、補充性が求められます。

問3:教示義務
行政庁の教示義務に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
1. 行政庁は、不服申立てをすることができる処分を口頭でする場合であっても、相手方に対し、不服申立てができる旨等を教示しなければならない。
2. 行政庁が、処分を書面でする際に教示を怠った場合、当該処分は手続上の瑕疵があるものとして違法となり、取り消される。
3. 行政庁が誤って審査請求をすべき行政庁でない行政庁を教示し、審査請求人がその教示に従って書面を提出した場合、当該行政庁は速やかに審査請求書を正当な審査庁に送付しなければならない。
4. 利害関係人から教示を求められた場合、行政庁は当該処分が不服申立てできるものであるか否かにかかわらず、教示をする必要はない。
5. 教示をすべき事項には、不服申立てをすべき行政庁および不服申立て期間が含まれるが、不服申立てができる旨までは含まれない。
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正解 3

解説:

1. 誤り。口頭での処分には教示義務はありません(82条1項)。

2. 誤り。教示を怠っても処分自体は違法になりません。不服申立期間の延長などの救済措置がとられるだけです。

3. 正しい。誤った教示に従った場合の救済規定です(22条)。

4. 誤り。利害関係人からの求めがあれば教示義務が生じます(82条2項)。

5. 誤り。「不服申立てができる旨」も教示事項です。

7. まとめと学習のアドバイス

今回の範囲は、細かい手続き規定が多いですが、以下のポイントを整理して覚えましょう。

  • 補正命令:義務である(いきなり却下はダメ)。
  • 口頭意見陳述:申立てがあれば原則マスト。補佐人は許可制。
  • 閲覧請求:コピーもOK。審理終結まで。
  • 執行停止:原則不停止。重大な損害があれば義務的停止。

特に「執行停止」の要件(重大な損害、公共の福祉など)は、行政事件訴訟法との比較でも重要になります。まずは行政不服審査法のルールをしっかり固めておきましょう。

よくある質問(FAQ)

Q1. 審査請求書の「補正」と「訂正」は何が違うのですか?
法律用語としての「補正」は、不適法な部分を直して適法にすることを指します。審査請求書に必須事項が抜けている場合などは、審査庁が「補正命令」を出して直させます。これに従わないと却下されます。単なる誤字脱字の訂正とはレベルが違う、法的な手続きです。
Q2. 執行停止の「重大な損害」とは具体的にどんなものですか?
例えば、営業停止処分によって倒産してしまうおそれがある場合や、氏名の公表によって名誉が回復不能なほど傷つく場合などが考えられます。単に「お金を払うのが嫌だ」という程度では認められにくいですが、事業の継続が不可能になるような場合は認められる可能性があります。
Q3. 審理員意見書は審査請求人に見せてもらえますか?
はい、見せてもらえます。審理員意見書が審査庁に提出された後、審査庁はそれを踏まえて行政不服審査会に諮問しますが、その際、審査請求人等にも意見書の写しが送付されたり、閲覧できたりする仕組みになっています(行政不服審査会への諮問の通知など)。

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