審査請求の審理が終わると、いよいよ最終的な判断である「裁決(さいけつ)」が下されます。
「却下」と「棄却」の違いは大丈夫でしょうか? また、違法なのに処分を取り消さない「事情裁決」という特殊なケースも試験では頻出です。
さらに、行政不服審査法には、審査請求以外にも「再調査の請求」と「再審査請求」という2つの制度があります。
これらは「原則は審査請求一本」というルールの例外であり、どのような場合に使えるのかを正確に理解しておく必要があります。
今回の講義では、審査請求のゴールである「裁決の種類・効力」と、例外的な不服申立て制度、そして第三者機関である「行政不服審査会」の役割について解説します。
- 裁決の4種類(却下・棄却・認容・事情裁決)の違い
- 「義務付け裁決」ができる審査庁とできない審査庁
- 「再調査の請求」と「再審査請求」ができる条件と期間
- 教示を忘れた場合や間違えた場合の救済措置
1. 裁決の種類(却下・棄却・認容・事情裁決)
審査庁が下す最終判断を「裁決」といいます。内容は以下の4つに分類されます。
(1) 却下(きゃっか)裁決
「門前払い」です。
審査請求が不適法である場合(期間を過ぎている、処分性がない、補正命令に従わないなど)に下されます。
中身の審理(違法かどうかのチェック)は行われません。
(2) 棄却(ききゃく)裁決
「訴えを退ける」判断です。
審理した結果、「処分は適法・妥当であり、審査請求人の言い分には理由がない」と判断された場合に下されます。
処分はそのまま維持されます。
(3) 認容(にんよう)裁決
「訴えを認める」判断です。
「処分は違法・不当である」と認め、審査請求人の言い分を通す裁決です。
認容裁決の内容(誰が審査庁かによって違う!)
認容裁決で何ができるかは、審査庁の権限によって異なります。
| 審査庁の種類 | できること | できないこと |
|---|---|---|
| 処分庁の上級行政庁 (大臣や知事など) |
・処分の取消し ・処分の変更 ・変更の命令(処分庁にやり直させる) ・義務付け(申請に対する処分を命じる) |
特になし |
| 処分庁自身 |
・処分の取消し ・処分の変更 ・義務付け(自ら処分する) |
特になし |
| 上記以外の審査庁 (第三者機関など) |
・処分の取消し |
・処分の変更(自ら変更はできない) ・変更命令・義務付け命令 |
認容裁決で処分を変更する場合でも、「審査請求人の不利益になるような変更」はできません。
(例)「10日の営業停止はおかしい」と訴えたのに、「じゃあ30日に増やす」とするのは禁止です。
(4) 事情裁決(じじょうさいけつ)
「違法だけど、取り消さない」という特殊な裁決です(45条3項)。
処分は確かに違法・不当だけれども、それを取り消すと「公の利益に著しい障害を生ずる」場合(例:選挙の当選無効で大混乱になるなど)に、例外的に請求を「棄却」します。
ただし、主文で「処分が違法(不当)であること」を宣言しなければなりません。
事情裁決は「棄却」の一種です。「却下」ではありません。
また、審査請求人は、この裁決を使って国家賠償請求(損害賠償)を行うことができます。
2. 裁決の効力
裁決は、書面(裁決書)で行われ、審査請求人に「送達」された時に効力を生じます(51条)。
拘束力(52条)
裁決は、関係行政庁を拘束します。
処分庁は、裁決の内容に従わなければなりません。例えば「処分を取り消す」という裁決が出たら、処分庁はそれに従い、同じ理由で同じ処分を蒸し返すことはできません。
3. 再調査の請求(例外的な制度)
原則は「審査請求」ですが、例外的に「処分庁」に対して再考を求める制度です。
(1) 要件(5条)
- 法律に定めがあること(条例ではダメ)。
- 処分庁以外の審査庁(上級庁など)がある場合。
※処分庁に上級庁がない場合は、そもそも処分庁への審査請求になるため、再調査の請求という制度は使いません。
(2) 審査請求との関係
- 自由選択:再調査の請求をするか、いきなり審査請求をするかは自由です。
- 前置主義:再調査の請求をした場合、その決定が出るまでは審査請求できません。
(例外:3ヶ月経っても決定がない場合などは、審査請求に移行できます。)
(3) 期間制限(54条)
審査請求と同じく、「知った翌日から3ヶ月」「あった翌日から1年」です。
(4) 手続きの簡略化
再調査の請求は、処分庁自身が簡易に見直す手続きなので、「審理員」や「行政不服審査会への諮問」は不要です。
4. 再審査請求(さらに文句がある場合)
審査請求の裁決に不服がある場合に、さらに別の行政庁に訴える制度です。
(1) 要件(6条)
- 法律に定めがあること(条例ではダメ)。
- 原裁決(最初の裁決)または原処分を対象とする。
(2) 期間制限(62条)
「裁決を知った翌日から1ヶ月」「裁決があった翌日から1年」です。
※審査請求(3ヶ月)よりも期間が短い点に注意!
(3) 手続き
行政不服審査会への諮問は不要です(最初の審査請求でやっているはずだから)。
5. 行政不服審査会等への諮問(43条)
審査請求の公正さを担保するため、審査庁の判断(裁決)の前に、第三者機関である「行政不服審査会(国)」や「地方の諮問機関」に意見を聞く(諮問する)仕組みがあります。
(1) 諮問の流れ
- 審理員が「意見書」を審査庁に提出。
- 審査庁が、意見書の内容を踏まえて審査会に諮問。
- 審査会が調査・審議し、「答申」を出す。
- 審査庁が答申を踏まえて「裁決」をする。
(2) 諮問しなくてよい場合(適用除外)
以下の場合、諮問は不要です。
- 審査請求人が「諮問しなくていい」と申し出た場合。
- 審理員を指名しなくてよい場合(委員会が審査庁の場合など)。
- 裁決で「認容(国民の勝ち)」とする場合で、公の利益に反しないとき。
- 不適法で「却下」する場合。
6. 教示制度(82条・再確認)
前回の講義でも触れましたが、教示(不服申立てができることを教えること)について、誤った場合の救済措置を整理しておきましょう。
(1) 教示をしなかった場合(83条)
処分庁に不服申立書を提出すれば、処分庁が速やかに正当な審査庁に送付してくれます。
この場合、「処分庁に提出した時」に審査請求があったとみなされます(期間徒過を防ぐため)。
(2) 間違った審査庁を教示した場合(22条)
教えられた間違った行政庁に提出すれば、そこから正当な審査庁に送付されます。
これも、「最初の行政庁に提出した時」に審査請求があったとみなされます。
(3) 再調査の請求ができると誤って教示した場合
本当はできないのに「再調査の請求ができます」と教えられ、再調査の請求をしてしまった場合、それは「審査請求」として扱われます(国民に不利にならないように)。
7. 実戦問題で確認!
1. 審査請求が法定の期間経過後にされたものである場合、審査庁は、棄却裁決をしなければならない。
2. 事情裁決とは、処分が違法または不当ではあるが、これを取り消すことで公の利益に著しい障害を生ずる場合に、請求を却下する裁決をいう。
3. 審査庁が処分庁の上級行政庁である場合、認容裁決において、処分の取消しだけでなく、処分の変更を命じること(変更裁決)もできるが、審査請求人の不利益に変更することはできない。
4. 裁決は、審査庁が記名押印した裁決書により行われ、その効力は、裁決書が審査庁から発送された時に生じる。
5. 裁決には拘束力があるため、関係行政庁は、裁決の趣旨に従い、同一の事情の下で同一の理由に基づいて同一の処分をすることは許されない。
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正解 5
解説:
1. 誤り。不適法な請求は「却下」裁決です。
2. 誤り。事情裁決は請求を「棄却」するものです(違法宣言付き)。
3. 誤り。上級行政庁は「変更」はできますが、「変更を命じること」はできません(自ら変更します)。また、不利益変更禁止は正しいです。
4. 誤り。効力発生は「送達された時」(到達主義)です。
5. 正しい。裁決の拘束力(52条)に関する正しい記述です。
1. 再調査の請求は、法律に特別の定めがある場合に限り、処分庁に対してすることができる。
2. 再調査の請求をした者は、当該再調査の請求についての決定を経た後でなければ、審査請求をすることができないのが原則である。
3. 再調査の請求期間は、処分があったことを知った日の翌日から起算して3ヶ月以内であり、審査請求期間と同じである。
4. 再調査の請求の審理においては、審理員を指名する必要はなく、また行政不服審査会等への諮問手続も適用されない。
5. 再調査の請求をしている間に、処分庁が3ヶ月を経過しても決定をしない場合、請求人は直ちに審査請求をすることができる。
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正解 5
解説:
1, 2, 3, 4はすべて正しい記述です。
5. 妥当でない。再調査の請求についての決定を経ずに審査請求ができるのは、「3ヶ月を経過しても決定がない場合」などです。しかし、問題文は「直ちに」としていますが、再調査の請求を取り下げる必要があるわけではなく、重ねて審査請求ができるようになるという意味です。少し微妙ですが、より明確な誤りとして、再調査の請求期間(選択肢3)は「3ヶ月」で正しいです。選択肢5は、条文上「決定を経ないで審査請求をすることができる」事由として正しいですが、文脈によっては「再調査の請求を維持したまま」できる点がポイントです。
※補足:選択肢5は、条文(5条2項1号)の要件を満たしており正しい記述に見えますが、本問の意図としては「直ちに」という表現が、他の要件(正当な理由など)を無視している点で不適切となる可能性があります。しかし、最も明確な誤りは見当たらないため、解説を修正します。
訂正:選択肢3について、再調査の請求期間は「知った日の翌日から3ヶ月」で正しいです。選択肢5も条文通りです。この問題はすべて正しい記述となってしまっています。失礼しました。
(修正問題)選択肢3を「再調査の請求期間は、知った日の翌日から1ヶ月以内である」に変更します。→ これなら3が誤り(正解)となります。
1. 行政庁が教示を怠ったために、不服申立期間を経過してしまった場合、当該処分は違法となり、取り消される。
2. 行政庁が誤って再調査の請求をすることができる旨を教示し、請求人が再調査の請求をした場合、処分庁はこれを却下しなければならない。
3. 行政庁が教示をしなかった場合、処分の相手方は、当該処分庁に不服申立書を提出することができ、これは正当な審査庁に対する審査請求とみなされる。
4. 行政庁が誤って審査請求先として別の行政庁を教示し、請求人がそこに審査請求書を提出した場合、その行政庁は審査請求を却下しなければならない。
5. 利害関係人が教示を求めたにもかかわらず、行政庁が教示をしなかった場合、当該利害関係人は、いつでも審査請求をすることができる。
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正解 3
解説:
1. 誤り。教示を怠っても処分自体は違法になりません(期間延長等の救済があるだけ)。
2. 誤り。誤った教示により再調査の請求がされた場合、それは審査請求とみなされ、処分庁は審査庁に送付しなければなりません(22条2項)。
3. 正しい。教示がない場合の救済規定です(83条)。
4. 誤り。誤った提出先に提出された場合、その行政庁は正当な審査庁に送付しなければなりません(22条1項)。
5. 誤り。「いつでも」できるわけではありません(正当な理由がある場合として期間が延長される可能性はありますが、無期限ではありません)。
8. まとめと学習のアドバイス
行政不服審査法は、今回で終了です。以下のポイントを総復習してください。
- 原則と例外:「審査請求」が原則。「再調査」「再審査」は法律がある時だけ。
- 期間:「3ヶ月・1年」。再審査は「1ヶ月・1年」。
- 審理員:処分関与者はNG。
- 諮問:原則必要。却下や認容なら不要。
次回からは、いよいよ行政法のクライマックス「行政事件訴訟法」に入ります。不服審査法との違い(被告適格、出訴期間など)を意識しながら学習すると効果的です。
よくある質問(FAQ)
- Q1. 事情裁決は「棄却」ですか「却下」ですか?
- 「棄却」です。請求自体は適法で、理由(違法性)もあるのですが、公益上の理由で「請求を退ける(棄却する)」という判断です。却下(門前払い)とは全く異なります。主文で「違法宣言」をすることを忘れないでください。
- Q2. 再調査の請求期間と審査請求期間は同じですか?
- はい、基本的には同じです。「知った翌日から3ヶ月、あった翌日から1年」です。ただし、再調査の請求を経てから審査請求をする場合の期間は、「決定を知った翌日から1ヶ月」と短くなる点に注意が必要です。
- Q3. 行政不服審査会への諮問はなぜ必要なのですか?
- 審査請求は、行政庁(身内)が審査する仕組みなので、どうしても「お手盛り(身内びいき)」になりがちです。そこで、外部の有識者からなる第三者機関(審査会)にチェックさせることで、審理の公正さと客観性を担保するためです。平成26年改正の目玉の一つです。
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