行政不服審査法(役所への文句)の学習が終わり、いよいよ行政法のクライマックスである「行政事件訴訟法(裁判所への訴え)」に入ります。
「行政訴訟」と一口に言っても、実は様々な種類があります。
「営業停止処分を取り消してほしい!」という訴えと、「私は日本国籍を持っていることを確認したい!」という訴え、あるいは「選挙の結果はおかしい!」という訴えでは、使うべき訴訟の種類(メニュー)が異なります。
本試験では、事例を見て「これはどの訴訟類型を使うべきか?」を判断させる問題が頻出です。
今回の講義では、行政事件訴訟法の全体像(4つの訴訟類型)と、その中心となる「抗告訴訟」の基本ルールについて解説します。
- 行政事件訴訟の4類型(抗告・当事者・民衆・機関)の違い
- 「主観訴訟」と「客観訴訟」の決定的な違い
- 抗告訴訟の6種類(法定抗告訴訟)の概要
- 「原処分主義」と「裁決主義」の仕組み
1. 行政事件訴訟法の全体像(4つの類型)
行政事件訴訟法は、行政に関する裁判のルールを定めた一般法です。
この法律では、訴訟を以下の4つのタイプに分類しています。まずはこの全体像を頭に入れましょう。
| 大分類 | 小分類 | 内容 | 具体例 |
|---|---|---|---|
| 主観訴訟 (個人の権利救済が目的) |
抗告訴訟 (こうこくそしょう) |
行政庁の公権力の行使(処分など)に対する不服の訴訟。 | 営業停止処分の取消訴訟 |
| 当事者訴訟 | 対等な当事者間の法律関係に関する訴訟。 | 日本国籍の確認の訴え 土地収用の補償額増額訴訟 |
|
| 客観訴訟 (法秩序の維持が目的) |
民衆訴訟 | 国や公共団体の法規に適合しない行為の是正を求める訴訟。 (自分の権利とは無関係) |
選挙無効訴訟 住民訴訟 |
| 機関訴訟 | 国や公共団体の機関同士の権限争い。 | 知事 vs 議会の争い 国 vs 県の争い |
主観訴訟と客観訴訟の違い
ここが最初の重要ポイントです。
- 主観訴訟(抗告・当事者):
「私の権利が侵害されたから助けてくれ!」という訴えです。これは裁判所法3条1項の「法律上の争訟」に当たるため、当然に裁判所が扱います。 - 客観訴訟(民衆・機関):
「私の権利は関係ないけど、行政が間違っているから直してくれ」という訴えです。これは個人の権利救済ではないため、本来の司法権の役割(法律上の争訟)からは外れます。
したがって、「法律に特別の定めがある場合」に限り提起できます(42条)。
客観訴訟(民衆訴訟・機関訴訟)は、法律の根拠がないと起こせません。
「税金の無駄遣いが許せない!」と思っても、地方自治法に「住民訴訟」という規定があるから訴えられるのであって、規定がなければ門前払いです。
2. 抗告訴訟(こうこくそしょう)
行政事件訴訟の中で最も重要なのが、この「抗告訴訟」です。
行政庁という権力者に対して、「その処分はおかしい!」と楯突く(抗う)訴訟です。
(1) 法定抗告訴訟(6種類)
法律で名前が付けられている抗告訴訟は以下の6つです。
- 処分の取消しの訴え(メイン)
- 裁決の取消しの訴え
- 無効等確認の訴え
- 不作為の違法確認の訴え
- 義務付けの訴え
- 差止めの訴え
※これら以外にも、理論上は「法定外抗告訴訟(無名抗告訴訟)」が認められる余地がありますが、平成16年改正で義務付け・差止めが法定化されたため、実務上はほぼこの6つでカバーされます。
(2) 処分の取消しの訴え(3条2項)
行政庁の処分(営業停止や課税など)を取り消してもらう訴訟です。
ここでいう「処分」とは、以下の定義(判例)に基づきます。
「公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているもの」
つまり、国民に対して「~せよ」と命じたり、「~してはいけない」と禁止したりする、法的な効果を持つ行為のことです(行政行為とほぼ同義)。
(3) 審査請求との関係(自由選択主義)
違法な処分を受けたとき、不服審査法(審査請求)を使うか、事件訴訟法(取消訴訟)を使うか。
原則は「自由選択主義」です。いきなり裁判所に訴えてもOKです。
例外:審査請求前置主義(ぜんちしゅぎ)
個別の法律(国税通則法など)に「まずは審査請求をして、その裁決を経てからでないと訴訟はできない」と書いてある場合は、いきなり訴訟を起こせません。
ただし、前置主義の場合でも、以下のときは直ちに訴訟提起できます(8条2項)。
- 審査請求から3ヶ月経っても裁決がないとき。
- 著しい損害を避けるため緊急の必要があるとき。
- その他正当な理由があるとき。
3. 原処分主義と裁決主義
審査請求をしたけれど棄却され、それでも納得がいかない場合、裁判所に訴えることになります。
このとき、「最初の処分(原処分)」と「審査請求の裁決」のどちらを取り消せと訴えればいいのでしょうか?
(1) 原処分主義(原則)
原則として、「原処分の取消しの訴え」で争います(10条2項)。
なぜなら、国民が不満なのは最初の処分(営業停止など)だからです。
この場合、「裁決の取消しの訴え」も提起できますが、そこでは「裁決固有の瑕疵(手続ミスなど)」しか主張できません。
「原処分が違法だから、それを棄却した裁決も違法だ」という主張は、裁決取消訴訟ではできません(それは原処分取消訴訟で言え、ということです)。
(2) 裁決主義(例外)
個別の法律により、「裁決の取消しの訴え」でしか争えないとされている場合です。
(例)電波法の監理委員会の処分など。
この場合は、裁決取消訴訟の中で、原処分の違法性も主張することになります。
【原処分主義(原則)】
・原処分の違法 → 原処分の取消訴訟で争う。
・裁決の手続ミス → 裁決の取消訴訟で争う。
【裁決主義(例外)】
・原処分の違法も、裁決のミスも → 裁決の取消訴訟でまとめて争う。
4. 当事者訴訟(とうじしゃそしょう)
行政庁の処分(権力行使)ではなく、対等な関係や法律関係そのものを争う訴訟です。
(1) 形式的当事者訴訟
実質は処分の不服(抗告訴訟)なのですが、法律の規定により、当事者同士で争わせるものです。
代表例:土地収用の補償額増額訴訟
土地収用委員会(行政庁)が「補償額は1000万円」と裁決しました。
土地所有者が「安すぎる!もっとよこせ」と訴える場合、被告は収用委員会ではなく、「起業者(土地を買う人)」になります。
金額の争いは、金を払う人と貰う人でやったほうが手っ取り早いからです。
(2) 実質的当事者訴訟
公法上の法律関係そのものを争う訴訟です。
- 確認訴訟:日本国籍を有することの確認の訴え、公務員の地位確認の訴え。
- 給付訴訟:公務員の給与支払請求、損失補償の請求(憲法29条3項に基づくものなど)。
5. 客観訴訟(民衆訴訟・機関訴訟)
個人の権利救済ではなく、法秩序の維持を目的とする訴訟です。
(1) 民衆訴訟
国や公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める訴訟で、「選挙人たる資格その他自己の法律上の利益にかかわらない資格」で提起するものです。
代表例:
・公職選挙法上の選挙無効訴訟(一票の格差訴訟など)
・地方自治法上の住民訴訟(知事の無駄遣いを止めろ、など)
(2) 機関訴訟
国や公共団体の機関相互間の権限の存否や行使に関する紛争です。
代表例:
・国の関与(是正の指示など)に対する、地方公共団体の長による取消訴訟(国地方係争処理委員会を経たものなど)。
・地方議会の議決に対する、首長の取消訴訟。
6. 実戦問題で確認!
ア. 土地収用委員会の裁決における損失補償額に不服がある土地所有者が、起業者を被告として提起する増額請求の訴え
イ. 営業停止処分の取消しを求める訴え
ウ. 日本国籍を有することの確認を求める訴え
エ. 地方自治法に基づき、住民が地方公共団体の長の公金の違法な支出の差止めを求める訴え
オ. 建築確認がなされていないのに建築工事が行われている場合において、周辺住民が行政庁に対して是正命令を発することを求める訴え
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正解 3
解説:
ア:形式的当事者訴訟(当事者訴訟)。
イ:処分の取消しの訴え(抗告訴訟)。
ウ:実質的当事者訴訟(当事者訴訟)。
エ:住民訴訟(民衆訴訟=客観訴訟)。
オ:義務付けの訴え(抗告訴訟)。
したがって、イとオが抗告訴訟です。
1. 行政事件訴訟法は、原処分主義を採用しているため、審査請求に対する裁決を経た場合であっても、原則として原処分の取消しの訴えを提起しなければならない。
2. 原処分主義の下では、裁決の取消しの訴えを提起することは一切認められず、すべての違法事由は原処分の取消しの訴えにおいて主張しなければならない。
3. 裁決の取消しの訴えにおいては、裁決固有の瑕疵のみならず、原処分の違法性についても主張することができる。
4. 個別の法律において、原処分の取消しを求めることができず、裁決の取消しの訴えのみを提起できるとされている場合(裁決主義)には、当該訴訟において原処分の違法性を主張することはできない。
5. 審査請求が不適法として却下された場合において、その却下裁決が誤りであると主張して争うときは、原処分の取消しの訴えを提起しなければならない。
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正解 1
解説:
1. 正しい。これが原処分主義の原則です。
2. 誤り。裁決自体に固有の瑕疵(手続ミスなど)がある場合は、裁決の取消しの訴えを提起できます。
3. 誤り。原処分主義の下では、裁決取消訴訟で原処分の違法を主張することはできません(10条2項)。
4. 誤り。裁決主義の場合、裁決取消訴訟の中で原処分の違法性も主張することになります(そうしないと原処分の違法を争う場がなくなってしまうため)。
5. 誤り。却下裁決が誤り(本当は適法だった)という主張は「裁決固有の瑕疵」に当たるため、裁決の取消しの訴えを提起します。
1. 行政事件訴訟法は、原則として自由選択主義を採用しており、審査請求をすることができる場合であっても、直ちに処分の取消しの訴えを提起することができる。
2. 法律に審査請求に対する裁決を経た後でなければ処分の取消しの訴えを提起することができない旨の定めがある場合(審査請求前置主義)であっても、審査請求があった日から3ヶ月を経過しても裁決がないときは、直ちに訴えを提起できる。
3. 審査請求前置主義が適用される場合において、処分により生ずる著しい損害を避けるため緊急の必要があるときは、裁決を経ないで訴えを提起することができる。
4. 処分の取消しの訴えとその処分についての審査請求が同時に係属しているときは、裁判所は、必要があると認めるときは、職権で、審査請求に対する裁決があるまで訴訟手続を中止することができる。
5. 審査請求前置主義が採られている場合、審査請求に対する裁決を経ずに提起された処分の取消しの訴えは、いかなる場合も不適法として却下される。
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正解 5
解説:
1, 2, 3, 4はすべて正しい記述です。
5. 妥当でない。審査請求前置主義であっても、3ヶ月経過や緊急の必要などの例外事由(8条2項)があれば、裁決を経ずに訴えを提起することが認められます。「いかなる場合も」とする点が誤りです。
7. まとめと学習のアドバイス
今回は行政事件訴訟法の「入り口」となる部分を解説しました。
- 4つの類型:抗告、当事者、民衆、機関。それぞれの具体例を覚える。
- 原処分主義:原則は「元の処分」を訴える。「裁決」を訴えるのは裁決固有のミスがある時だけ。
- 自由選択主義:原則はいきなり裁判OK。前置主義は例外。
特に「形式的当事者訴訟(土地収用)」と「民衆訴訟(選挙無効・住民訴訟)」は、多肢選択式で具体例を問われることが多いので、必ずセットで覚えておきましょう。
次回は、抗告訴訟の中でも最も重要な「取消訴訟」の要件(処分性、原告適格など)を深掘りします。
よくある質問(FAQ)
- Q1. 「法律上の争訟」とはどういう意味ですか?
- 裁判所が扱うことができる事件のことです。具体的には、①当事者間の具体的な権利義務に関する紛争であり、かつ、②法律を適用することで終局的に解決できるものを指します。単なる抽象的な疑問(この法律は憲法違反ではないか?など)や、宗教上の教義に関する争いなどは、法律上の争訟に当たらず、裁判所は判断しません。
- Q2. 形式的当事者訴訟の被告はなぜ行政庁ではないのですか?
- 土地収用の補償額争いの場合、実質的に対立しているのは「土地を奪う人(起業者)」と「土地を奪われる人(土地所有者)」だからです。収用委員会(行政庁)はあくまで中立な立場で裁定したに過ぎません。当事者同士で直接争わせたほうが、紛争の実態に合っており、解決も早いため、このような形式がとられています。
- Q3. 住民訴訟はなぜ「民衆訴訟」なのですか?
- 住民訴訟は、自分の権利が侵害されたから訴えるのではなく、「自治体のお金の使い方を正したい」という公益的な目的で訴えるものだからです。納税者としての立場(選挙人たる資格その他自己の法律上の利益にかかわらない資格)で、行政の適法性を監視するために認められた制度なので、客観訴訟である民衆訴訟に分類されます。
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