「営業許可の申請をしたのに、役所がずっと無視している。早く許可を出させたい!」
「違法な建築工事が始まりそうだ。完成してから取り消しても遅いから、事前に止めたい!」
これまでの講義で学んだ「取消訴訟」は、すでに出された処分を事後的に消すためのものでした。
しかし、私たちの悩みはそれだけではありません。「まだ出ていない処分を出させたい(義務付け)」とか、「出されそうな処分を事前に止めたい(差止め)」というニーズもあります。
平成16年の改正により、これらの訴訟(義務付けの訴え・差止めの訴え)が正式に法律で定められました(法定抗告訴訟)。
この分野は、「どの訴訟とセットで起こすべきか(併合提起)」や「要件の厳しさ」が試験のツボです。
今回の講義では、行政庁に積極的なアクションを求める「義務付け訴訟」と、ブレーキをかける「差止訴訟」、そして緊急時の「仮の救済」について、体系的に解説します。
- 義務付け訴訟の2つのタイプ(申請型・非申請型)の違い
- 「不作為型」と「拒否型」でセットにする訴訟の組み合わせ
- 差止訴訟の要件(補充性とは?)
- 「執行停止」よりも厳しい「仮の義務付け・仮の差止め」の要件
- 本試験レベルの多肢選択式問題による実戦演習
1. 義務付けの訴え(行政庁を動かす訴訟)
義務付けの訴えとは
行政庁が一定の処分や裁決をすべきなのに、それをしてくれない場合に、「処分(裁決)をせよ」と命じる判決を求める訴訟です(3条6項)。
この訴えは、国民が「申請」をしているかどうかによって、大きく2つのタイプに分かれます。
| 類型 | 状況 | 具体例 |
|---|---|---|
| 申請型 (1号義務付け) |
法令に基づく申請をしたのに、行政庁が動かない(不作為)か、拒否された場合。 | 営業許可の申請をしたのに無視されている。 申請したら不許可通知が来た。 |
| 非申請型 (2号義務付け) |
申請を前提とせず、行政庁が職権で処分すべき場合。 | 隣の家の違法建築に対して、是正命令を出してほしい。 (※第三者が行政権の発動を求めるケース) |
試験で圧倒的に出題されるのは「申請型」です。特に「併合提起」のルールは記述式でも問われる超重要ポイントです。
2. 「申請型」義務付けの訴え(最重要)
申請型は、さらに行政庁の対応によって「不作為型」と「拒否型」に分かれます。
重要なのは、義務付け訴訟は単独では提起できず、必ず他の訴訟とセット(併合)で提起しなければならないという点です。
(1) 不作為型(無視されている場合)
申請をしたのに、相当の期間内に何らの処分もされない場合です。
- 併合提起:「不作為の違法確認の訴え」と併合して提起します。
- ロジック:「不作為が違法であることを確認」してもらった上で、「だから処分をしろ」と命じてもらうわけです。
(2) 拒否型(拒否処分が来た場合)
申請に対して、拒否処分(却下や棄却)がされた場合です。
- 併合提起:「処分の取消訴訟」(または無効等確認訴訟)と併合して提起します。
- ロジック:邪魔な「拒否処分」を取り消して更地にした上で、「許可処分をしろ」と命じてもらうわけです。
(3) 原告適格と勝訴要件
- 原告適格:法令に基づく申請(審査請求)をした者に限られます。
- 勝訴要件:以下の2つを満たす必要があります。
- 併合提起した訴え(取消訴訟など)に理由があること(=不作為や拒否が違法であること)。
- その処分をすべきことが法令上明らかであるか、または裁量権の逸脱・濫用があること。
「Aは誰を被告として、どのような訴訟を提起すべきか?」と問われたら、
「市(行政主体)を被告として、拒否処分の取消訴訟と、許可の義務付け訴訟を併合して提起する。」
と答えられるようにしておきましょう。
3. 「非申請型」義務付けの訴え(ハードルが高い)
申請をしていない人(第三者など)が、「行政庁に処分をさせたい」と求める訴訟です。
(例)近隣住民が、行政庁に対して「あの工場に操業停止命令を出せ」と求める場合。
これは行政の裁量に深く介入するため、要件が非常に厳しくなっています。
訴訟要件(37条の2)
- 重大な損害を生ずるおそれがあること。
- その損害を避けるため他に適当な方法がないこと(補充性)。
- 法律上の利益を有する者であること(原告適格)。
※「他に適当な方法がない」とは、例えば民事訴訟や他の行政訴訟では救済されない場合を指します。
4. 差止めの訴え(事前のブレーキ)
(1) 差止めの訴えとは
行政庁が一定の処分を「すべきでない」のに、されようとしている場合に、その処分をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟です(3条7項)。
(例)自分に対して「営業停止処分」が出されそうな時に、事前に止める。
(2) 訴訟要件(37条の4)
処分がされてから「取消訴訟」で争うのが原則なので、事前に止めるこの訴訟も要件が厳格です。
- 処分がされることにより重大な損害を生ずるおそれがあること。
- その損害を避けるため他に適当な方法がないこと(補充性)。
「処分がされた後に、取消訴訟と執行停止を申し立てる方法では、救済が間に合わない」ような場合に限られます。
(例)氏名の公表など、一度されたら名誉が回復不可能な処分など。
5. 仮の義務付け・仮の差止め(仮の救済)
裁判には時間がかかります。判決を待っていたら手遅れになる場合のために、暫定的に処分を命じたり止めたりする制度です。
民事保全法の「仮処分」は使えないため、行政事件訴訟法独自の制度として用意されています。
(1) 要件(執行停止との比較)
「執行停止」よりも、行政への介入度合いが強いため、要件が厳しくなっています。
| 項目 | 執行停止(取消訴訟) | 仮の義務付け・仮の差止め |
|---|---|---|
| 損害の程度 | 重大な損害 | 償うことのできない損害 (※よりハードルが高い) |
| 勝訴の見込み | 本案について理由がないとみえるときでないこと (負け筋でなければOK) |
本案について理由があるとみえるとき (勝ち筋であること) |
| 公共の福祉 | 重大な影響を及ぼすおそれがないこと | 重大な影響を及ぼすおそれがないこと |
仮の義務付け・差止めは、裁判所が行政の代わりに処分をしたり止めたりする強力な措置なので、「償うことのできない損害」かつ「勝てそう(理由あり)」という厳しい条件が必要です。
(2) 準用される規定
執行停止と同様のルールが適用されます。
- 申立てのみ(職権不可)。
- 疎明で足りる。
- 口頭弁論不要(ただし意見聴取は必要)。
- 即時抗告可能(執行停止効なし)。
- 内閣総理大臣の異議あり。
6. 実戦問題で確認!
1. 申請に対する処分がなされない場合(不作為型)に提起する義務付けの訴えは、単独で提起することができ、不作為の違法確認の訴えを併合する必要はない。
2. 申請に対する拒否処分がなされた場合(拒否型)に提起する義務付けの訴えは、当該拒否処分の取消訴訟または無効等確認の訴えを併合して提起しなければならない。
3. 非申請型の義務付けの訴えは、行政庁が一定の処分をすべきであるにかかわらずこれがされない場合に提起するものであり、取消訴訟を併合して提起しなければならない。
4. 義務付けの訴えを併合して提起した場合、裁判所は、義務付けの訴えについて理由があると認めるときは、併合された取消訴訟等の審理を経ることなく、直ちに処分を命ずる判決をすることができる。
5. 申請型の義務付けの訴えは、法令に基づく申請をした者に限らず、当該処分を求めるにつき法律上の利益を有する者であれば誰でも提起することができる。
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正解 2
解説:
1. 誤り。不作為型は「不作為の違法確認の訴え」との併合が必須です(37条の3第3項1号)。
2. 正しい。拒否型は「取消訴訟等」との併合が必須です(37条の3第3項2号)。
3. 誤り。非申請型は、取り消すべき処分が存在しないため、単独で提起します。
4. 誤り。併合された訴え(取消訴訟等)に理由があること(違法であること)が、義務付け判決の前提条件です。
5. 誤り。申請型は「申請をした者」に限られます。
1. 差止めの訴えは、一定の処分がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合に限り、提起することができる。
2. 差止めの訴えは、その損害を避けるため他に適当な方法があるときは、提起することができない(補充性)。
3. 差止めの訴えの原告適格は、当該処分がされることにより自己の権利利益を侵害されるおそれのある者に認められるが、法律上の利益を有する者に限られる。
4. 差止めの訴えが提起された場合、裁判所は、必要があると認めるときは、職権で仮の差止めを決定することができる。
5. 差止めの訴えの本案勝訴要件として、行政庁がその処分をすべきでないことが法令の規定から明らかであるか、またはその処分をすることが裁量権の逸脱・濫用となることが認められなければならない。
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正解 4
解説:
1, 2, 3, 5はすべて正しい記述です。
4. 妥当でない。仮の差止めは、執行停止と同様に「申立て」が必要です。職権ではできません(37条の5第2項)。
1. 執行停止の要件は「重大な損害」であるが、仮の義務付けの要件は「償うことのできない損害」であり、後者の方が要件が厳しい。
2. 執行停止は、本案について理由がないとみえるときはすることができないが、仮の義務付けは、本案について理由があるかどうかにかかわらず決定することができる。
3. 執行停止の決定に対しては内閣総理大臣の異議が認められているが、仮の義務付けの決定に対しては認められていない。
4. 執行停止は、処分の効力の停止、執行の停止、手続の続行の停止のいずれかを選択できるが、仮の義務付けは、仮に処分を行わせる以外の措置をとることはできない。
5. 執行停止の申立ては、取消訴訟の提起前に行うことができるが、仮の義務付けの申立ては、義務付け訴訟の提起後でなければ行うことができない。
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正解 1
解説:
1. 正しい。仮の義務付け・仮の差止めは、現状を変更する強力な措置なので「償うことのできない損害」という厳しい要件になっています。
2. 誤り。仮の義務付けは「本案について理由があるとみえるとき(勝てそうなとき)」でなければ決定できません。
3. 誤り。内閣総理大臣の異議は、仮の義務付け・仮の差止めにも準用されています。
4. 誤り。仮の義務付けの内容は「仮に行政庁がその処分をすべき旨を命ずること」ですが、選択肢の記述は趣旨が不明瞭。しかし1が明確に正しいため正解は1。
5. 誤り。執行停止も仮の義務付けも、本案訴訟(取消訴訟や義務付け訴訟)の提起後(係属中)でなければ申し立てられません。
7. まとめと学習のアドバイス
今回の分野は、以下の「組み合わせ」と「要件の強弱」を整理することが重要です。
- 申請型義務付け:「不作為+不作為確認」「拒否+取消訴訟」。
- 要件の厳しさ:「執行停止(重大な損害)」<「仮の義務付け(償うことのできない損害)」。
- 補充性:差止めや非申請型義務付けは「他に適当な方法がない」ときだけ。
特に「申請型義務付けの訴え」は、記述式試験の超頻出テーマです。「誰を被告とし、どの訴訟と併合して、どのような訴えを提起すべきか」という問いに対して、条件反射的に答えられるようにしておきましょう。
よくある質問(FAQ)
- Q1. なぜ義務付け訴訟は単独で提起できないのですか?
- 行政庁の「一次的判断権」を尊重するためです。裁判所がいきなり「許可を出せ」と命じる前に、まずは行政庁が行った「拒否処分」や「不作為」が違法であることを確認・取消しする必要があります。その上で、障害物がなくなった状態で「許可を出せ」と命じるという論理構成をとっています。
- Q2. 「償うことのできない損害」とは具体的にどんな損害ですか?
- 金銭賠償では回復できないような損害です。例えば、生命・身体への危険、表現の自由などの精神的自由の侵害、回復不能な環境破壊などが当たります。単なる経済的損失(営業利益の減少など)は、後で国家賠償で解決できるため、当たりにくい傾向にあります。
- Q3. 差止めの訴えと執行停止の違いは何ですか?
- タイミングが違います。
・差止めの訴え:処分が「される前」に、処分をするなと求める本案訴訟。
・執行停止:処分が「された後」に、その効力を止める仮の救済。
原則は、処分がされてから取消訴訟&執行停止で争うべきですが、それでは間に合わない(名簿公表など)場合に限り、差止めの訴え(補充性あり)が認められます。
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